アポロ・ファーマシー

丸玉庭園

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6-1 百目鬼の呪文

「今日はマテリアルの天日干しをします」
 アポロファーマシーの裏庭は、薬草の菜園になっていた。二人は地面の上にゴザを広げ、そこにマテリアルを均等に並べていく。
(同じ色を三つつなげたら、ポコン、と音を立てて消えるんじゃないかな……)
 とても奇妙なピクニックをしている気分になる、モコだった。
「天日干し、しないといけないものなの?」
「太陽にさらすことによって、マテリアルのなかで突然変異する物質が出てきます。すると、新たな効能の薬が出来上がる可能性があるんですよ。あと、湿気対策ですね。マテリアルにも湿気は大敵ですから。太陽の恩恵さまさまです」
「太陽ってそんなにすごいんだ」
「人間だって太陽の光を浴びないと、生成されない栄養素があるんですよ。それといっしょです」
 まるで学校の授業見たいだ。玉野は、かぶりものを取ったら見た目同い年くらいなのに、物知りですごい。
 自分なんて苦手な算数でこの間、四十点だったのになあ、と苦々しく唇をへの字にするモコ。
 それにしても、今日は暑い。
 じりじりと照り付ける太陽に、モコのアゴのラインを汗が伝っていく。玉野は熱くないのだろうかと見上げると、彼の首筋にも汗の滴が浮かんでいるのが見えた。
「……玉野さん。さすがに今日は暑くない?」
「いえ、大丈夫です」
「でも今日の気温、真夏日らしいけど。そのカラスの頭、少しだけ取ったら」
「いえでも、お客さまが来るかも知れません」
「すぐにかぶったらいいじゃん」
「……そうですね。モコさんは僕の素顔を知っていますし。少々、風にあたりたい気分ですから」
 そう言うと、玉野はかぶりものを脱ぎ、そっとかたわらに置いた。
 ふいに涼しい風が、二人の間を吹き抜けていく。
「玉野さん。妖精って、本当にいるの? どこにいるの」
「えっ。以前、モコさんに妖精のリンプンのお茶をお出ししましたよね。」
「私は見たことないもん。だから、本当にいるのかなって」
「今もいますよ、ここに」
 玉野はそう言って、自分の目の高さの位置を指さす。
 モコは目を丸くして、玉野の指先に目を凝らした。
「ど、どこ」
「ここですよ。ここ。見えませんか」
「見えないよ……」
「そうなんですかあ」
 残念そうに息をつく、玉野。
「この町には、たくさん住んでるんですよ。妖精も、小人も、竜も」
「うそっ、小人や竜もいるのっ?」
「ええ。ここには、たくさんの生き物が住んでいるんです。だから、このイチョウ町にアポロファーマシーは建てられたんですよ」
 玉野が〝生き物〟と言ったのは、タヌキやキツネやイタチなどのことではなく、妖精や小人、竜のことをさしているんだろう。
 しかし、いくらモコがこの町に引っ越して来たばかりとはいえ、考えなくてもわかる。
 この町に妖精たちがたくさんいる、だなんて人々は夢にも思わないだろう。
 だって、見えないのだから。
 見えているのは、玉野だけだろう。
「玉野さんって、やっぱり人間じゃないんだよね?」
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