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6-6 百目鬼の呪文
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「そんなことできるワケ……!」
「それができるのよ。そおねえ、〝見えないものが見えるようになる、百目鬼の呪文。その副作用は、使用者が百目鬼になってしまう〟! どう、素敵でしょう。アハアハ!」
子どものように笑い声をあげるミンティに、モコはハッとして自分の腕を見た。
うっすらといくつもの目が浮かび上がってきている。足のすねも、ふくらはぎも同じような状態になっていた。
このままでは、本当に百目鬼になってしまう。
「止めて、こんなこと! 何でアンタが副作用を決められるの? 玉野さんが作った薬なのに!」
「妖精にとっては、デコピン程度のイタズラよ。タマみたいに、チマチマ配合して、薬を作らなくたってイイの。マテリアルさえあれば、何でも出来ちゃうんだから」
「止めてよ。百目鬼なんかになりたくない!」
「じゃあ、かくれんぼね。アタシを見つけられたら、副作用を取り消してあげてもいいわよ」
そう言って、ミンティはどこかへと飛んで行ってしまった。
「そんなあ……」
この広い森で、あんなに小さな妖精を見つけるだなんて。
やはり、いくら探してもミンティは見つからない。もう汗だくだ。広い広い森の中、マグカップサイズの妖精を見つけるだなんてムチャだ。
モコはアゴに垂れる汗をぬぐいつつ、立ち止まる。
早くしなければ。
自分の姿がよくわからないものに、変わってしまう。
(もう足も疲れた……。玉野さん、いつ迎えに来てくれるの? 何時何分何秒? ああ、もう。こんなところに置き去りにして! あのカラスってば!)
そうこうしている間にも、百目鬼の目が腕にくっきりとあらわれ始めていた。
「ああ、もう! 妖怪図鑑を見るのは好きだけどさ。自分がなるのとはワケが違うよ!」
自分が妖怪になるかもしれないと言う恐怖をじわじわと実感してきていた。
怖い。妖怪になんて、なりたくない。
「なんとか、なんとかしなきゃ……そうだ!」
モコはポケットを漁り、あるものを取り出した。家のカギだ。
それに結びつけてある、キーホルダーがきらりと光る。
それは、去年のイチョウ祭りのフリーマーケットで購入した、金メッキが施されたイチョウモチーフのキーホルダーだった。銀杏モチーフの金色のビーズがじゃらりと音がし、三枚のイチョウの葉がひらひらと舞うようなデザイン。
見た目も素敵なのに、フリマ価格で五百円くらいだったので、すぐにお小遣いで購入した。
「これなら……いけるかも……」
モコはそれを木の根元に生えていた、ふかふかの苔の上に置いた。遠目から見てもピカピカと光るそれは、葉の間から差し込む陽光に照らされ一層きらびやかに輝いた。
金色に光るイチョウのキーホルダー。
それは、金色に目がない妖精をおびき寄せるのにぴったりだった。
「なによ、このキラキラはっ? 素敵な輝きねっ!」
どこからともなく飛んできた、バラのワンピース。ミンティは十秒も立たずに羽を羽ばたかせ、飛んできた。
モコはそんなミンティの頭にポコン、と人差し指を乗せた。
「はい、タッチ」
ぼうぜんとするミンティの顔が面白くて、モコは思わず微笑んだ。
かくれんぼは、モコの勝利に終わった。
「ほら、さっさとイタズラを止めて」
「あーあ。オモシロクナーイ。ツマンナーイ」
なんて言うミンティの両手には、緑色の玉が浮かび上がっている。
「はい、ドーゾ」
空中に浮かぶ水球のようなそれは、ふよふよとモコの口元に飛んでくる。
「これは?」
「アタシたちの妖精王・ギンコが育てた薬草と、竜があくびをするときに出た涙とマテリアルを混ぜて作った薬よ。これを飲めば百目鬼にならなくてすむの」
「ミンティが薬を作ってくれたの?」
「まさか。タマの作ったやつよ」
「なんで、ミンティが持ってるの?」
「さあね。アタシ、知らなーい。ほら、飲まないと。薬が乾燥しちゃうわよ」
あわててモコは、飛んできたそれをぱくりと飲んだ。
とたん、すうっと体中の目玉が消えていく。
安心したモコは「ほっ。」と息をついた。
その時、遠くから「モコさーん。」と名前を呼ぶ声がした。玉野だ。
「なあんだ。もう時間かあ。ツマンナイったら!」
ミンティはそうつぶやくと、さっさとどこかへと飛んで行ってしまった。
玉野がすぐに駆け寄って、不思議そうに首を傾げた。
「モコさん。汗だくですよ。何してたんですか」
「はあ……。かくれんぼ」
「かくれんぼ? そんなに全力でやったんですか」
「こちとら、命がけだったの!」
モコの叫びが、妖精の森にとどろいた。
「それができるのよ。そおねえ、〝見えないものが見えるようになる、百目鬼の呪文。その副作用は、使用者が百目鬼になってしまう〟! どう、素敵でしょう。アハアハ!」
子どものように笑い声をあげるミンティに、モコはハッとして自分の腕を見た。
うっすらといくつもの目が浮かび上がってきている。足のすねも、ふくらはぎも同じような状態になっていた。
このままでは、本当に百目鬼になってしまう。
「止めて、こんなこと! 何でアンタが副作用を決められるの? 玉野さんが作った薬なのに!」
「妖精にとっては、デコピン程度のイタズラよ。タマみたいに、チマチマ配合して、薬を作らなくたってイイの。マテリアルさえあれば、何でも出来ちゃうんだから」
「止めてよ。百目鬼なんかになりたくない!」
「じゃあ、かくれんぼね。アタシを見つけられたら、副作用を取り消してあげてもいいわよ」
そう言って、ミンティはどこかへと飛んで行ってしまった。
「そんなあ……」
この広い森で、あんなに小さな妖精を見つけるだなんて。
やはり、いくら探してもミンティは見つからない。もう汗だくだ。広い広い森の中、マグカップサイズの妖精を見つけるだなんてムチャだ。
モコはアゴに垂れる汗をぬぐいつつ、立ち止まる。
早くしなければ。
自分の姿がよくわからないものに、変わってしまう。
(もう足も疲れた……。玉野さん、いつ迎えに来てくれるの? 何時何分何秒? ああ、もう。こんなところに置き去りにして! あのカラスってば!)
そうこうしている間にも、百目鬼の目が腕にくっきりとあらわれ始めていた。
「ああ、もう! 妖怪図鑑を見るのは好きだけどさ。自分がなるのとはワケが違うよ!」
自分が妖怪になるかもしれないと言う恐怖をじわじわと実感してきていた。
怖い。妖怪になんて、なりたくない。
「なんとか、なんとかしなきゃ……そうだ!」
モコはポケットを漁り、あるものを取り出した。家のカギだ。
それに結びつけてある、キーホルダーがきらりと光る。
それは、去年のイチョウ祭りのフリーマーケットで購入した、金メッキが施されたイチョウモチーフのキーホルダーだった。銀杏モチーフの金色のビーズがじゃらりと音がし、三枚のイチョウの葉がひらひらと舞うようなデザイン。
見た目も素敵なのに、フリマ価格で五百円くらいだったので、すぐにお小遣いで購入した。
「これなら……いけるかも……」
モコはそれを木の根元に生えていた、ふかふかの苔の上に置いた。遠目から見てもピカピカと光るそれは、葉の間から差し込む陽光に照らされ一層きらびやかに輝いた。
金色に光るイチョウのキーホルダー。
それは、金色に目がない妖精をおびき寄せるのにぴったりだった。
「なによ、このキラキラはっ? 素敵な輝きねっ!」
どこからともなく飛んできた、バラのワンピース。ミンティは十秒も立たずに羽を羽ばたかせ、飛んできた。
モコはそんなミンティの頭にポコン、と人差し指を乗せた。
「はい、タッチ」
ぼうぜんとするミンティの顔が面白くて、モコは思わず微笑んだ。
かくれんぼは、モコの勝利に終わった。
「ほら、さっさとイタズラを止めて」
「あーあ。オモシロクナーイ。ツマンナーイ」
なんて言うミンティの両手には、緑色の玉が浮かび上がっている。
「はい、ドーゾ」
空中に浮かぶ水球のようなそれは、ふよふよとモコの口元に飛んでくる。
「これは?」
「アタシたちの妖精王・ギンコが育てた薬草と、竜があくびをするときに出た涙とマテリアルを混ぜて作った薬よ。これを飲めば百目鬼にならなくてすむの」
「ミンティが薬を作ってくれたの?」
「まさか。タマの作ったやつよ」
「なんで、ミンティが持ってるの?」
「さあね。アタシ、知らなーい。ほら、飲まないと。薬が乾燥しちゃうわよ」
あわててモコは、飛んできたそれをぱくりと飲んだ。
とたん、すうっと体中の目玉が消えていく。
安心したモコは「ほっ。」と息をついた。
その時、遠くから「モコさーん。」と名前を呼ぶ声がした。玉野だ。
「なあんだ。もう時間かあ。ツマンナイったら!」
ミンティはそうつぶやくと、さっさとどこかへと飛んで行ってしまった。
玉野がすぐに駆け寄って、不思議そうに首を傾げた。
「モコさん。汗だくですよ。何してたんですか」
「はあ……。かくれんぼ」
「かくれんぼ? そんなに全力でやったんですか」
「こちとら、命がけだったの!」
モコの叫びが、妖精の森にとどろいた。
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