アポロ・ファーマシー

丸玉庭園

文字の大きさ
40 / 47

6-6 百目鬼の呪文

しおりを挟む
「そんなことできるワケ……!」
「それができるのよ。そおねえ、〝見えないものが見えるようになる、百目鬼の呪文。その副作用は、使用者が百目鬼になってしまう〟! どう、素敵でしょう。アハアハ!」
 子どものように笑い声をあげるミンティに、モコはハッとして自分の腕を見た。
 うっすらといくつもの目が浮かび上がってきている。足のすねも、ふくらはぎも同じような状態になっていた。
 このままでは、本当に百目鬼になってしまう。
「止めて、こんなこと! 何でアンタが副作用を決められるの? 玉野さんが作った薬なのに!」
「妖精にとっては、デコピン程度のイタズラよ。タマみたいに、チマチマ配合して、薬を作らなくたってイイの。マテリアルさえあれば、何でも出来ちゃうんだから」
「止めてよ。百目鬼なんかになりたくない!」
「じゃあ、かくれんぼね。アタシを見つけられたら、副作用を取り消してあげてもいいわよ」
 そう言って、ミンティはどこかへと飛んで行ってしまった。
「そんなあ……」
 この広い森で、あんなに小さな妖精を見つけるだなんて。
 
 
 
 やはり、いくら探してもミンティは見つからない。もう汗だくだ。広い広い森の中、マグカップサイズの妖精を見つけるだなんてムチャだ。
 モコはアゴに垂れる汗をぬぐいつつ、立ち止まる。
 早くしなければ。
 自分の姿がよくわからないものに、変わってしまう。
(もう足も疲れた……。玉野さん、いつ迎えに来てくれるの? 何時何分何秒? ああ、もう。こんなところに置き去りにして! あのカラスってば!)
 そうこうしている間にも、百目鬼の目が腕にくっきりとあらわれ始めていた。
「ああ、もう! 妖怪図鑑を見るのは好きだけどさ。自分がなるのとはワケが違うよ!」
 自分が妖怪になるかもしれないと言う恐怖をじわじわと実感してきていた。
 怖い。妖怪になんて、なりたくない。
「なんとか、なんとかしなきゃ……そうだ!」
 モコはポケットを漁り、あるものを取り出した。家のカギだ。
 それに結びつけてある、キーホルダーがきらりと光る。
 それは、去年のイチョウ祭りのフリーマーケットで購入した、金メッキが施されたイチョウモチーフのキーホルダーだった。銀杏モチーフの金色のビーズがじゃらりと音がし、三枚のイチョウの葉がひらひらと舞うようなデザイン。
 見た目も素敵なのに、フリマ価格で五百円くらいだったので、すぐにお小遣いで購入した。
「これなら……いけるかも……」
 モコはそれを木の根元に生えていた、ふかふかの苔の上に置いた。遠目から見てもピカピカと光るそれは、葉の間から差し込む陽光に照らされ一層きらびやかに輝いた。
 金色に光るイチョウのキーホルダー。
 それは、金色に目がない妖精をおびき寄せるのにぴったりだった。
「なによ、このキラキラはっ? 素敵な輝きねっ!」
 どこからともなく飛んできた、バラのワンピース。ミンティは十秒も立たずに羽を羽ばたかせ、飛んできた。
 モコはそんなミンティの頭にポコン、と人差し指を乗せた。
「はい、タッチ」
 ぼうぜんとするミンティの顔が面白くて、モコは思わず微笑んだ。
 かくれんぼは、モコの勝利に終わった。
「ほら、さっさとイタズラを止めて」
「あーあ。オモシロクナーイ。ツマンナーイ」
 なんて言うミンティの両手には、緑色の玉が浮かび上がっている。
「はい、ドーゾ」
 空中に浮かぶ水球のようなそれは、ふよふよとモコの口元に飛んでくる。
「これは?」
「アタシたちの妖精王・ギンコが育てた薬草と、竜があくびをするときに出た涙とマテリアルを混ぜて作った薬よ。これを飲めば百目鬼にならなくてすむの」
「ミンティが薬を作ってくれたの?」
「まさか。タマの作ったやつよ」
「なんで、ミンティが持ってるの?」
「さあね。アタシ、知らなーい。ほら、飲まないと。薬が乾燥しちゃうわよ」
 あわててモコは、飛んできたそれをぱくりと飲んだ。
 とたん、すうっと体中の目玉が消えていく。
 安心したモコは「ほっ。」と息をついた。
 その時、遠くから「モコさーん。」と名前を呼ぶ声がした。玉野だ。
「なあんだ。もう時間かあ。ツマンナイったら!」
 ミンティはそうつぶやくと、さっさとどこかへと飛んで行ってしまった。
 玉野がすぐに駆け寄って、不思議そうに首を傾げた。
「モコさん。汗だくですよ。何してたんですか」
「はあ……。かくれんぼ」
「かくれんぼ? そんなに全力でやったんですか」
「こちとら、命がけだったの!」
 モコの叫びが、妖精の森にとどろいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕《わたし》は誰でしょう

紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。 「自分はもともと男ではなかったか?」  事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。  見知らぬ思い出をめぐる青春SF。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...