転生少女の奴隷生活は主人が可愛くて割としあわせなようです

みのりすい

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強行突破

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~前回までのあらすじ~
 アマミヤ宗家の本拠地、呪術院へと踏み入ったボクたちは、敷地を囲む退魔結界の破壊を成功させる。混乱した院内を駆け、目指すはシノ様の奪還。
 しかし宗家の屋敷へ繋がる塀を破壊しようとして反撃に遭い、ボクは手痛いダメージを受ける。後方にゴドーさんほかの武人たち、横にはセリナさんほかの呪術師。そして前方もふさがれようとしている。
 やばい。なるべく戦いは避けたかったけど、やるしかない!

 ***

「行くぞ!」
 アズマはボクを抱えて崩れた塀の隙間に飛び込んだ。

「悪く思わないでくださいね。呪槍林界!」
 セリナさんの気合の声が聞こえると同時、櫓の上の呪術師団から感じる呪力が強くなった。アズマの踏みしめる足元に何か底冷えのする気配を感じる。
 ボクはさっきの反動からまだ回復できてない。

「イチセ……!」
 ボクが息も絶え絶えに言うと、分かってますよ!とイチセが怒鳴った。

「冷たき暗がりに眠るもの。そは砕けてこそ鋭く、数多の敵を打ち倒すものなり!」

 足下で、イチセの術とセリナさんの術とがぶつかり合うのが分かる。発動しようとする術を、イチセの金の気が根こそぎ刈り取っていく。

 相性がいいとは言え、セリナさんと三人の呪術師が展開する術を一人で食い止めている。流石、天才自称。
 しかしその水面下での激突は、背後の茂みから猛然と突進したゴドーさんが、イチセに一撃入れるための隙を生み出すのに十分だった。

 無防備なイチセの背中に、ゴドーさんの闇に紛れる黒槍の穂先が吸い込まれていく。

「イチセ!」
 ボクは思わず悲鳴を上げた。

 がつん、と何かが激しくぶつかる音がして、ゴドーさんの槍が止まった。
 追うように側面から別の男が槍を回転させて切り上げる。が、こちらも同様に何かにぶつかる音と共に中空でぴたりと動きを止める。

 ゴドーさんが僅かに眉をひそめた。

 まったく。大丈夫だと分かっていても肝が冷える。
 金の気を帯びたあらゆるものを制御する、イチセが常時体表面に展開している防御呪術だ。
 相手が金属を用いて攻撃してくる限り最強に見える。

 二つの槍は、イチセに突き立てられるほんの握りこぶし一つ分離れた中空で止まっていた。もう、イチセの許可なく動くことはない。
 以前アズマと戦った時は、うっかりノリで槍の穂先を切り落としてしまったのが敗因だったとついこの間種明かししてくれた時に語っていた。

「ここは任せて、先に行ってください」
 イチセが叫んだ。

「分かった」
 アズマはためらうことなく頷くと、前方から駆けてくる三人組の男に向かい、猛然と棒を振り回して突進した。
 ボクは小脇に抱えられたまま、ぶんぶん揺すぶられて目が回りそう。

 アズマの怒号が遠ざかっていくのを聞きながら、イチセはすらりと剣を抜いた。
 ゴドーと男が槍から手を離して一歩退くのを見て、突き立った槍を地面に払い落とす。

「また一人になってしまいましたか」
 イチセは小さく独り言つ。
 けれど、ここでゴドーたちを押さえなければ状況は悪くなる一方だ。イチセは一人残ったことを後悔していない。

「イチセ、一つ提案なんですけど」
 セリナの少し疲れた声が、睨み合うイチセとゴドーたちの張り詰めた空気に割って入る。

「わたしもゴドーも、あなた方を殺したくはありません。だから、ことが終わるまでここでお互いに釘付けというのはどうでしょう?」

 停戦の申し出だ。
 是非とも受けたいところだったが、イチセはできれば早くここを切り抜けて救援に向かう必要があった。
 イヅルは、才能はあるが未熟だし、アズマは人並み以上に強いかもしれないが、イチセの前に立つ四人の武人たち以上ではない。

「その手には乗りませんよ。あなた方は結界を破られ、先ほどの術も完成を防がれ、既にぼろぼろのはず。
 そしてゴドーさん。先ほど見せたようにあなた方も、わたしに傷ひとつ負わせることもできません。
 実質的にゼロの戦力に、どうしてわたしが釘付けにされなくてはならないのでしょう?」

「強がるな。どんな術にも穴がある。確かにお前の術は脅威だが、俺たち黒槍の武人は強大な妖異精怪を打ち倒し、敵対する呪術師を数多く潰してきたのだ。お前もその一人になる。
 そう言えば、お前はアズマとイヅルに一度負けていたな。確か、槍は防がれたが、棒による突き込みは有効だったはずだ。発動のキーは金属。そうだな?」

 言い当てられ、イチセは内心ちっと舌打ちする。しかし顔には出さない。

「一度突かれた弱点をわたしがいつまでも残していると思っているんだとしたら、なめられたものですね。
 わたしはイチセ・ツチミヤ。
 アマミヤの厄災、ミドウ・ツチミヤの弟子。

 仲間と引き離したと思って安心しているなら教えてあげます。
 わたしは、一人の方が強いですよ」

 かがり火の漏れた光に無数、白刃が閃いた。



 一方塀を越えた先、屋敷の内外には、すでに煌々と明かりが灯されていた。
 周囲が明るくなり走りやすくはなったが、ボクを抱えて走るアズマの姿は無防備にさらけ出されている。

 先ほどからひっきりなしに呪術がアズマを狙って飛んで来る。

 でも、ボクだって呪術師で、シノ様の弟子だ。
 抱えられたままのお荷物じゃいられない。

 地形変化、捕縛結界、式神。
 ほとんどひっきりなしに飛んで来るそれらの術を、ボクは必死でいなし、出を潰し、正面から叩き潰す。
 一人残ったイチセの心配をする暇もない。

 セリナさんが撃ってきた呪槍林界のように連携されていないのがせめてもの救いだった。
 個々ばらばらに思い思いの攻撃を仕掛けてくるだけだから、ボク一人でもなんとか対処しきれている。
 
 連携がないってことは、結界破りによる攪乱はまだ効いてるってことだ。
 だったら、速度が重要なのは変わらない。

 アズマ、頑張れ!
 ごめんね、ちょっと今夜は張り切って食べ過ぎちゃったからいつもより重いかも?

「宝物庫じゃない、狙いはイツツバの巫女だ。行かせるな!」
 誰かよく通る声が屋敷前の広場に響き渡る。

 マズイ、気づかれた。
 ボクらの進行方向へ人影が走る。

「どけぇえええ!」
 裂帛。アズマは立ち塞がった十人以上の術師たちに躍りかかった。

 彼らは武器など何も持っていない。
 シノ様とイチセを見ていると奇妙に思えるが、アマミヤの呪術師は前衛を専門の武人に任せ、後衛で戦う。
 前衛のいない呪術師は、アズマみたいな戦士にとってただのカモだ。

 棒をぶん回す筋肉男の襲来に半分が慌てて逃げ出し、半分の術者がそれでも踏みとどまって呪術で反撃を……でも、させない。アズマにはボクがついてる。

 ぶるんと風を切って回転した棒が、嵐のように呪術師たちを吹き飛ばす。
 しかし、一振りの分どうしても足は遅くなる。
 その僅かな時間で、別の術師がさらに先へと回り込んでいた。

 そして背後から、ぞわりとする強力な呪力の渦を感じる。

 逃げきれないと即座に思った。

「四方守護鬼神招来!」
「アズマ、放して。ボクがやる!」

 ボクはアズマの腕から転げるように降りると、両手を地面に突いた。地を流れる霊脈から借り受けた霊力を、即座に呪力へと練り上げる。

「炎は全てを拒絶し、全て消し去る。そは浄化の巫女。全て受け入れ、無をもって最上とするものなれば」

 ボクは何が危険なのかも分からないまま、ただ直感に従ってアズマごと絶炎を纏う。
 球形に形を成した烈火に、にわかに屋敷の庭が真昼のように明るく照らされる。

 絶炎の完成と同時、ごう、と何かが唸るような音を立ててボクらの頭上へと振り下ろされた。それはボクの背の三倍はあろうかという刃渡りの剣だ。
 刃は炎がぶつかり合い、せめぎ合った。

「ぐっ、うううああ!」
 ボクは絶炎を切り裂かれる痛みに、叫び声を上げて無理やり耐える。
 そうでもしなくちゃ意識を持って行かれそうだ。

 そして今やボクの目の前には、長大な剣を振るうに相応しい身の丈を誇る、憤怒の形相を浮かべた鎧の巨人が立っていた。

 それは無論、人間ではない。
 式神だ。
 それは赤金色に光を帯び、半ばまで溶け落ちた剣を構えてごおと威圧の声を上げる。

 そんなのが他に三体。
 気づけば四方からボクとアズマを囲んでいる。

 もうだめだ。
 ボクはそう諦めかけて……。
 でも、くじけない。

 ボクはシノ様にもう一度会うんだ。
 会って、本当はどうしたいのか、ちゃんとシノ様の口から聞かせてもらうんだ!

「イヅル、倒せるか?」
「分かんない。けど、やるしかない。
 でもアズマのことだけは絶対逃がすから、きっとシノ様を助けて!」

 そして目前の式神の傍らに歩みを進めたのは一人の呪術師の男だった。
 長身痩躯に背中までの長い髪。歳はアズマよりも上、という程度だろう。まだ若いが堂々たる立ち居振る舞いで、余裕を感じさせる態度で軽く会釈する。

「私の風鬼の一撃を破りますか。
 さぞ名のある呪術師とお見受けしますが?」

「ボクはイヅル。イヅル・ツチミヤだ。シノ様を返してもらう!」
 ボクは荒い息を整えながら堂々、名乗りを上げた。
 例えこれからどんな結末になったって、シノ様の恥になるような態度はとりたくない。
 
「なるほど、ご来訪の要件は分かりました。
 しかし残念ながらご要望にお応えすることはできませんね。イツツバは我が家の至宝であり、それを持つシノ・ツチミヤは我々が保護いたします」

 保護、なんて勝手で見下したことを言う奴だ。
 ボクが睨むと、男は穏やかにほほ笑んだ。

「申し遅れましたが私はカヒナ。カヒナ・アマミヤです。アマミヤ当主オラフの孫で、一応、次期当主ということになっております。
 イヅルという名は聞いたことがありますね。確か、シノ・ツチミヤの弟子かつ恋人だとか」

 言われて一瞬、目まいがした。
 思わず、張り詰めていた気が緩む。

「えっええっ……、恋人?」
「はい。違いましたか?」

 えっ……、うへっ、恋人?
 畜生、こいつめ。上手いことを言いやがる。

 動揺を誘うための言葉だとしたら最適解だぞこら。
 びっくりして絶炎が揺らいだ。

「いや、まあ。違うって言うか、似たようなものって言うか……」

「なるほど、それは失礼しました。私も又聞きですから、何か聞き違えたのでしょうね」
 カヒナはくすくすと笑いながら頷いた。

 おい、とアズマの叱責にボクははっと唇を結び直した。
 そうだ、落ち着け。
 これで負けたら間抜けすぎる!

「おや、やるんですか。会話に応じていただけたのでもう観念されたのかと思いましたよ。でも正直、私の式神に囲まれた時点で詰んでいるように思いますがね」

「笑うのは、ボクの防御を突破してからにするんだな!」
 言いながら、ボクは必死で周囲を伺っている。

 正直、一撃で絶炎を破壊しかける攻撃をみんな耐えきる自信なんてない。
 こいつは次期当主だ。そんな奴の参戦に今は他の呪術師が手を出すことはなさそうだけど、戦況が傾けば即座に助勢に入るだろう。

 どうにか……、どうにか活路を探らなくちゃ!

 その時、唐突に頭の中にバチリと何か光が弾けるみたいな感覚がした。

『ピンチみたいだねぇ、イヅル君』
 この声は、ツチミヤか?

『そうだよ。助けが必要っぽいからね、君に憑いている分体を通して思念を送り込んでいる。
 さて、時間がなさそうだから早速助言だ。
 シノ君は後に回して、先に宝物庫へ向かいたまえ。何故か繋がりが希薄で確信が持てなかったが……。ボクの式は、そこに捕らわれている。呪本イツツバを探すんだ』

 急に出てきて訳知り顔で指図すんな!
 って言いたいとこだけど、助かる。
 それ、どこ。

『あれだ』
 ツチミヤの声と共に、急に視界の中の一点に意識が集中させられた。
 頭の中を勝手にいじくられるみたいで気分は良くないけど、今はボクの気分なんてどうでもいい。

 ツチミヤの示した先にあったのは細長い石造りの建物だった。
 屋敷の陰になっていて気づかなかったが、何か異様な呪力を発しているのが分かる。

 シノ様からは遠ざかる方向だが、既にそっちは呪術師たちに封鎖されている。カヒナの式神に対処しながら強引に蹴散らすのは難しい。
 一方で宝物庫への道は今は開かれ、そして正面に立つのは剣を失った風鬼とカヒナ、その付き添いが三名程度。
 なんとか突破できなくもないように思う。

 何とか宝物庫までたどり着き、ミドウさんと解放できるなら、ここで一旦仕切り直すのもありだ。

『宝物庫は結界で守られている。生身の人間なら入れるだろうが、当然鍵がかかっているだろうね。君程度の呪術では、この結界は破れない』

 なっ……、だったらどうしろと!

『ドアの前に着いたら僕を口寄せしなさい。君の呪力では一瞬しかもたないだろうが、その一瞬で十分だ。僕が結界を破壊しよう。その時は分体の霊力も枯渇し、消え去ることになるだろうから、最初で最後だ』

「信じるぞ」
 ボクは口に出して言った。
 信じるしかないんだろう?とツチミヤが腹の立つ返事を返してくる。

「……イヅル?」
 気づかわしげに言ったアズマに、ボクは一瞬笑みを向けた。

「付いてきて!」
 ボクは地面を蹴り、立ちふさがる風鬼へと突進した。
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