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原田巴について
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しおりを挟むいきなり他人をぱしりに使った咎で、元々低かった僕のクラス内での地位は更なる低下の一途をたどった。カースト最下位というより、あんま近づかんとこ……みたいな立ち位置か。気の弱そうな子からはちょっと怖がられている気配さえある。
まあ、別に構うまい。昔から僕はそんな感じのポジションだった。反対に三崎さんに対しての当たりは弱まった感じがする。自らを犠牲に他人を引き上げるなんて、本当にいいことをした。我ながら誇りに思うよ。
その三崎さんはなぜか、僕に忠誠を誓ったようだった。どうにも僕に対する態度がうやうやしいのだ。何かを恩義に感じて、とか、そういう感じでもない。何かしてあげたつもりもないし。たぶんだけど、面白がっているだけの気がする。
三崎さんはいつもお昼になると僕の方に身体ごと向いて、今日はいかがいたしましょうと問う。僕は無言で財布を取り出して彼女の手に三百円を落とす。自分は家からお弁当を持参してるくせに、文句も言わずに食堂まで駆けていく。
北条君は三崎さんが出て行った後、僕に小言をいくつか言い聞かせる。自分で買いに行け、だとか、こういう関係はお前のためにもよくない、だとか、きちんと感謝の気持ちは伝えるんだぞ、とか。
そんなこと、言われなくても全部僕も分かっている。分かった上で、でも自分で食堂に群がる人垣に挑む気概が持てないから三崎さんに頼んでいるのだ。ちゃんとお礼も言ってる。
僕だって悪いと思ってるんだ。だから毎朝、コンビニで食糧調達をしておこうとは思う。思うのだけれど、どうにも朝は苦手だ。あと五分、あと五分とやっている間にいつも遅刻ギリギリになってしまって、結局三崎さんに甘えることになっている。
僕が生返事ばかりしていると、北条君も三日目くらいで何も言わなくなった。諦めたのか、あきれ果てたのか。三崎さんがあんまり嫌そうな顔をしていないからかもしれない。
三崎さんはとても役に立った。今日、授業で誰が当るのかとか、次は移動教室で理科室に行く必要があるとか、頼みもしないのに教えてくれた。
僕があんまり本が読みた過ぎて移動を渋っていると、僕を背中に掴まらせて、立ち読みしながら移動させてくれたりもした。流石にちょっと、集中できなかったけど。
僕に甲斐甲斐しく仕える三崎さんはなんだかノリノリに見えた。ちょっと意味が分からなくて怖くもあったけれど、まあ、都合がいいのでよしとする。僕以外のクラスメイトと接する時には普通にしているので、あるいは僕への当てつけの可能性もあるが。
彼女は僕のことを様付けで呼ぶ。まあ、ロールプレイの一種だろう。初めは原田様だったのが、二週間も経つ頃には巴様と呼ばれるようになった。
なぜなのか問うと、三崎さんは真面目腐った表情で、原田様だとホテルマンっぽいからだと答えた。
変わった人だと思った。
「巴様、今日は失礼しま~す」
「うん、また明日」
三崎さんは一日の授業が終わると丁寧ながらも砕けた調子で手を振る。どうやら学校が終わると、彼女の僕に対する忠勤もまた終わるらしい。いわゆる定時というヤツだ。
三崎さんは隣のクラスの子といつも一緒に帰っている。教室を出てまだ隣のクラスが終わっていなければ待ち、そうでなければ待ってくれていた子に軽く手を振って一緒に歩き出す。
三崎さんはその子とは主従関係にないらしく、互いにかなり対応が雑な印象だ。
その子は僕にうやうやしく仕える三崎さんを見た瞬間に眉をひそめて、キショっ、と聞こえるように呟いていたし、三崎さんは急に声色を変えて、んだとコラ、とヤンキーみたいになっていた。
同じ中学校出身のようだし、もっと昔から気心の知れた仲なのかもしれない。
後をつけたわけではないのだが、学校帰り、たまたま彼女らの後ろを歩くことがあった。
二人は顔を寄せ合って何事か楽しそうに話し合っていた。切れ切れに、服従とか、被虐とか、羞恥とか、ネットのバナー広告でたまに見る日常生活ではあまり聞き馴染みのない単語が聞こえてくる。
盗み聞きなんてマナーが悪いとは思うけれど、聞こえてしまうのだから仕方ない。一体何の話をしているのだか。エロゲ同好の士か?
「あんた、ホント好きよね」
「今日、これからどうですか……あでっ!」
眼鏡の子があきれた声で言うと、三崎さんはでへへとだらしなく笑いながらその子の腰を引き寄せ、足を思い切り踏まれていた。
痛みにのけぞった拍子に僕がいるのに気が付いたらしい。三崎さんはちょっと突き飛ばすようにして身体を離し、僕の方に向き直った。狼狽えた顔をしている。なんだろう、浮気がバレた時の男の人ってこんな顔をするんだろうか。
まあ確かに、十八禁ゲームの話をしているのを聞かれれば狼狽えもするだろうか。隣の眼鏡の子は、冷たい目でその様子を眺めている。
僕と眼鏡の子、どちらが浮気された方か分からないけれど、とりあえずこういう時には機先を制することが大切だ。
「原田巴です」
少し頭を下げると、彼女もさっと柔らかい笑みをまとって会釈した。
「どうも。小佐田美沙です。大変ですね」
「ええ、お互いに」
どう大変なのかは分からなかった。でも流れで適当にパスを返すのは得意なのだ。それでうまくいくかどうかはともかくとして。
僕は固まっている三崎さんの横をすり抜けてさっさと歩いて行った。
これからお姉ちゃんのところに行くことになっている。あまり道草している時間はない。それに君がエロゲ好きだとて、僕に偏見はないよ。
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
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