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聖女になった子豚ちゃん

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屋敷に戻ると馬車から降りたエレーナに、屋敷の誰もが息を飲んだ。5歳の頃のエレーナを知っている者は涙を流し口々に『お嬢様、呪いが解けたのですね』と喜んでくれた。

謁見の後そのまま成人のお祝いパーティーをする予定だったので、マーガレットの子供たちも招待されていた。ロナルドは真っ赤になってマーガレットの後ろに隠れてしまった。双子のハビーとビリーは説明しても「エレーナはどこに行ったの?」と不思議そうにきょろきょろしている。

お兄様はほらねと言わんばかりに「私が想像していた通りエレーナは美人だね」となぜか自慢げだ。

パーティーが始まると、もうお祭り騒ぎだった。

少し離れてふたりを見ていたお父様は、珍しく酔っているのか「ベンお前もここに座って、今日は娘の成人した姿を祝ってくれ」と忙しく働くベンの手を取った。
ベンが机に空いたグラスを置き静かに隣に座ると、新たにワインが入ったグラスを受け取った。

「ここまでお嬢様が美しく育ったのはご家族の愛情のお蔭ですね」

「本当にその通りだ。そして、お前たちの愛情もな」



お母様には、王宮での出来事を細かく話すと「そんなことが・・・馬鹿な貴族の価値観で育ったナタリーがとても気の毒だわ」と静かに涙を流した。
お父様はお母様が泣いているのに気づいたのだろう。お母様の横に座り手を優しく握りしめた。

そして思い出したかのようにお父様が「それと、レオン王子の正体がばれた」と言う。

「そうでしたか」

お母様が淡々と答えた。
私以外全員知っていたようだ。

「何故私だけ知らされていないのですか。私も調査のためにこの国に来たのなら協力したのに」

近くで見守っていた、カイルも私の横に座ると「エレーナ。それは私が頼んだのだ」と言って私を見つめた。

「どうして?」

「初めて会った時なぜか王子としてではなく、自分を知って欲しいと思ったのだ。正直に話そうと思えば、思うほど言えなくなってしまった。子豚ちゃんに嫌われたくなかったんだ、エレーナ愛しているよ。騙していたことを許して欲しい」

「////////」

先まで泣いていたお母様も涙が止まったようだ。
「まあ」と嬉しそうに「まあ、エレーナ。顔が真っ赤ね。子豚ちゃんも恋を知ったのね」と微笑んでいる。

「エレーナ、私と結婚してくれるか」

カイルが私に手を伸ばすと、お兄様が突然手を払いのけた。

「ちょっと待て、エレーナ。お兄ちゃんと今までどこも遊びに行けなかっただろう。一緒に出掛けよう。それに、友達を紹介するよ。お前は男性の免疫がない、この国の男性を知ってから結婚を判断した方がいいんじゃないか」

「アレン殿・・・それはどういう意味ですか」

カイルの眉間の皺が深くなっている。

「私はエレーナと離れるのは嫌なんだ!」

口をとがらせて拗ねるお兄様・・・貴方は何歳ですか。

「そうね。せっかく元に戻ったのですもの、私も娘とお買い物に行きたいわ」

「そうだな。だったら、この国を捨てて娘と一緒に引っ越すか」

「え?そんな簡単に宰相の職を辞めていいのですか、お父様」

「ああ、この国には十分尽くした。これからは隣国でゆっくり家族と過ごすのもいいだろう」

***

1カ月後、ブラウン侯爵家と使用人その家族が隣国に引っ越した。残りたいものには紹介状を書くとも説明したが、誰も残るとは言わなかった。何故か、移動する人々の中に使用人の家族以外に見たことがない人も混ざっているような・・・なんだか貴族も混ざっていない?

ギュリール王国に接していたブラウン領地もそのまま、ギュリール王国に組み込まれた。きな臭いことになるかとも警戒したが、これ以上聖女の気分を害したくなかったのだろう。あっさりとことは進んだ。

そして更に半年後。オーエン王子は廃嫡、王妃はクーデターを起こしたが、計画があまりにもずさんであっさり制圧され死刑となった。ナタリーの両親は爵位をはく奪、一般市民になったが今では消息が分からないらしい。
国王陛下は王位を弟へ譲り、静かに表舞台から消えた。

***

<第305回 家族会>

「やっと落ち着いたわね」

「ああ、後はエレーナの結婚式までゆっくりしたいな」

「そう言えば、この前新しく隣に引越しされたご婦人が挨拶に来たのでお会いしたら、昔から貴方のファンだと言うのよ。ファンクラブがあることを知っていました?」

「いや知らないな。私は昔から君一筋だからね」

「ふっふっふ。そのご婦人からあなたの学生の時の絵姿を見せていただいたのよ。知り合った頃で懐かしかったわ。話が弾んで次はあなたが社交界デビューした時の絵姿を持ってきてくれるそうよ」

「そんな絵姿は知らないな。そういえば、君のストーカーたちが今年も使用人の試験を受けに来ているけど君は大丈夫かい」

「ええ・・・よく会うから近所の方とばかり思っていたわ。花や果物も売り込みに来ているとばかり・・・大丈夫よ。離れた場所でたまに見つめられるけど悪さはしないし」

「何故か面接のたびにナイフ投げや曲芸を見せられるけど。うちにそんなルールがあったかな?」

「良く分からないけど、ベンが今度はうさぎを屋敷で買っていいかと聞いてきたわ」

「うさぎね・・・」

「ところで、アレンはサビーヌ嬢と上手くいっているのかい」

「ええ、私の愛情は伝わっていると思います」

「お前も私の子だから文句は言わないが、ほどほどにな」

***

お兄様は最近出会ったギュリール王国初の女性宰相であるサビーヌ様に一目惚れしたようで、猛烈にアピールをしている。サビーヌ様と出会った際まん丸な顔を見て「貴方は呪いにかかっているのか」と聞いたことがきっかけだ。

サビーヌ様はもちろん激怒し、お兄様と会うことを拒否したが、兄の猛烈な愛のアピールは止まらなかった。
サビーヌ様もドン引きらしい。

たまりかねたサビーヌ様から私に相談があった。

サビーヌ様はこの顔のせいで婚約者も見つからず、ひとりで必死に勉強に打ち込み、やっと女性初の宰相の地位まで登り詰めたそうだ。

それなのに初めて告白されたと思ったら、この国でも令嬢から人気も高いお兄様だった。未婚の令嬢たちが目の色を変えて狙っているお兄様と、恋愛経験もない私が付き合うなんて命がいくつあっても足らないと嘆いでいた。

「どうにか、貴方のお兄様に諦めていただくことはできないでしょうか。毎日花やプレゼントを持って来られるのは迷惑なんです」

「サビーヌ様には大変申し訳ありません。兄にとっても初恋なのです。あの変人の拗らせた兄が諦めるとも思えません。諦めてくださいとしか・・・」

バタン

突然扉が開くとお兄様が立っていた。嬉しそうにサビーヌ様に近づくと、ひょいと横抱きにしてスタスタと歩き出した。

「ひぃ・・・・」とサビーヌ様の目は必死に、私に助けを求めて訴えてくるが私は何もできない。『ごめんなさい』と目を逸らすと、サビーヌ様は死んだ魚のような目になっていた。

「サビーヌ嬢!ここにいましたか。貴方が以前にソフトクリームを食べたことがないと言っていたので、騎士団の練習場に許可とり仮設のソフトクリーム店を作りました」

「そんな、許可は聞いていませんが」

「レオン王子に直接許可を頂きましたから」

「え?そ、そう・・・あの降ろしていただけませんか、自分で歩けます」

「忙しい宰相陛下のお役に立つのは騎士の役目です。私が連れて行って食べさせてあげるので、なにもしなくて結構です」

「食べさせるって・・・・」

王宮の廊下を大騒ぎして横抱きにされる宰相の姿は、一気に噂になった。

それを見た令嬢たちが「これからは外見ではなく知性の時代よ!」と強く頷いた。

令嬢たちの社会進出がさらに進んだというのは言う間でもいない。


そして私はというと、隣国に引越した後魔力を改めて調べた結果、呪いは美醜逆転だけで、太ったのは別問題だった。太っていたのは呪いのせいで体内に魔力が溜まっただけのようだ。
呪いが解かれた瞬間、身体をめぐる魔力を感じる。

レオンは無理をするなと言ってくれるけど、外に出かけられる楽しさと新鮮な出会いに感動して、今日も張り切って教会に向かう。ミゲルたちは本店をこの国に移し、子供や老人にソフトクリームやおにぎりを提供してくれる。

子供たちの将来の夢ランキング1位の騎士は、最近コックに負けたようだ。
ミゲルたちと子供たちの笑い声が教会に響いていた。

そして幸せに、穏やかな人生を送りましたとさ。

***

最後まで読んでくださりありがとうございます。
BLは激エロですので、お気を付けください。


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