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王宮に戻ったカーターは、どこを見ているのか分からない目をしていた。
それを見た財務官の跡取りであるシャルルは『次は私が行ってまいります』と伝えて部屋を出て行った。
「まずは状況把握をするべきだな」
シャルルは婚約者に会うのではなく、先に実家の反応を見ることにしたのだ。
実家に戻ると執事に迎えられ、普段と変わりなく自室に戻った。
「これはどう判断する・・・」
自室で考えていると部屋にやってきたのはプール財務官、シャルルの父親だった。
「不味いことになったぞ。オーロラ商会が姿をくらましてから、王都に食品や生活用品が目に見えて枯渇してきた。このままでは暴動が起きるかもしれん。我々は領地に戻るがお前はこの屋敷を好きに使えばいい」
「そんな無責任な・・・」
「お前がしっかりオーロラ商会を監視していなかったせいではないか。レイシャルとかいう小娘を側室にして富を奪うなどと大ぼらを吹きおって。私の立場が台無しだ」
「それは・・・」
シャルルは幼い頃から神童と言われ学園の試験でも常に上位に入っていた。レイシャルには毎回負けていたが、神童と言われた自分が努力をしても1位になれないのは、学園側が裏で操っているせいだ。きっとレイシャルは次期王妃の立場を利用して、不正なことに手を染めていると思うようになっていた。
今回の計画も自分に自信があるからこそ、多くの人が集まる卒業パーティーを選んだのだ。レイシャルの不正を公にすれば、会場にいる誰もが王子に賛同してくれるはずだった。
「では、私も一緒に領地へ・・・」
「兄上、貴方がいるとこちらの身まで危なくなる。絶対に連れて行くことは許しません」
ノックもせずに入ってきたのは2歳年下の弟だ。弟は幼い頃から自分の後を付いて回り『兄上を尊敬している』と言っていた。そんな弟から凍るような冷たい目で睨み付けられている。
「その言い方は何だ、私は跡を継ぐ身だぞ」
「馬鹿を言ってはいけません。貴方は廃爵され今はただの平民です。家督は私が継ぐのでご心配なく」
「・・・お前の仕業か?」
シャルルが弟に掴みかかろうとするが、騎士を目指し身体を鍛えている弟からすれば弱弱しいほどの力だ。
「ぐっは・・・」
逆に殴られ壁に激突したシャルルはそのまま床に座り込んでしまった。
「兄上・・・なぜあのようなことを」
弟が憐れむようにシャルルを見つめていたが、シャルルを残して家族は逃げるように屋敷を離れた。残った使用人たちも、とばっちりを受けては命も危ないと慌ただしく逃げていく。シャルルが必死に止めても従う者はいなかった。
(なぜこのようなことに・・・私たちは図られたのか?)
誰もいなくなった部屋で茫然と座っていると、入口から人の足音が聞こえる。使用人が戻ってくれたのかと後ろを振り返ると、そこに現れたのは婚約者のリサだ。
「シャルル様・・・?」
「リサ!心配して来てくれたのか?」
「いいえ、貴方のお父様に用があって・・・」
「父上は私用で領地に戻ったが、話があれば私が聞こう」
「噂は本当だったのね。それが分かればここに用はないわ」
「リサ!」
シャルルは思わず、帰ろうとするリサの腕を掴んでしまった。
「平民が私に触れるなど失礼にもほどがあるわ」
「リサ・・・?」
普段から平民を見下げた発言をしていたのはシャルルの方だ。平民と言われた弟の言葉が蘇り、顔色が悪くなるのが分かった。
「貴方が昨日卒業パーティーに迎えに来なかった時点で、婚約白紙が成立しているのよ」
「はあ?」
(婚約白紙だと・・・そう言えば父上から何度も卒業パーティーには必ずお前の婚約者をエスコートするようにと言われた気がする。リサからも卒業パーティーのことで確認したいことがあると手紙が来ていた)
「そんなこと・・・俺は知らない」
「私からの手紙を受け取ったでしょう。見ていないなら所詮はその程度の婚約者だったということね」
「違う!俺は知らなかったんだ」
「ふっ。貴方は本当に愚かな人」
リサは父親が決めた婚約者だったが、シャルルはリサの爵位に満足をしても後ろ盾が弱いことに不満だった。入学したころリサに少しでも上位貴族の懐に入り、自分の役に立つようと伝えていた。
しかし、リサは貴族の者はもちろん商人の生徒にも優しいかった。誰とでも分け隔てなく接する姿は悪くがないが、なぜ平民にまで優しくするのかもやもやとしたものが心に残る。刺繍が得意なリサは、シャルルにもハンカチをよく贈ってくれた。
礼儀上お礼を言いながらも、そんな時間があるならもっと有意義に過ごして欲しいと不満が募った。
「今日も商人の娘と話をしていたな。そんな友人を作る暇があればやることがあるだろう」
「友人は狙って作るものではありません」
「リサは私と結婚する気があるのか・・・将来の夫が恥をかいてもいいと」
「そういう訳では・・・」
「では、平民など切り捨て上位貴族の令嬢と仲良くするのだな」
「・・・・」
優しいリサは私の言動に涙を流したこともあったが、それがリサの為にもなると信じていたのだ。しかし、今日のリサは奴隷でも見るように、冷ややかな瞳でシャルルを見下げている。
「平民と話すのは時間の無駄です。そこを退いてください」
リサの言動はシャルルの望んだものだった。
***
ウェスト王国で一番大きなボーロ商会と親睦を深め、オーロラ商会が市場を独占することを阻止しようとした。ボーロ商会のボーロ会長の話によれば、オーロラ商会は法を破ってあくどい仕事をしていると言う。
今回の計画は、すべて国のためを思ってやったことだ。
オッド卿が事故に遭い亡くなったと聞いたとき、オーロラ商会の実権が正しい者に移ればいいと期待した。しかし、巷から聞こえてきたのはレイシャル嬢が跡を継いだという。
女性進出が珍しい国で、それも学生がやることだ。貴族の誰もが『オーロラ商会もこれで終わりだ』と噂していたし、シャルルも廃業も時間の問題だ思っていた。
それが時間が経つにつれ『ミリュー王国の女傑』と貴族が称えだしたのだ。我々は益々オーロラ商会に危機感を覚えた。
そして、可愛いリリアンの言葉もあって王子は決断を下したのだ。悪役令嬢のレイシャルからオーロラ商会の実権を取り上げ、王族が正しい経営へ導くことを。
屋敷の窓ガラスが割れる音が聞こえると、怯えたシャルルは裏口から逃げるように王宮に走った。
それを見た財務官の跡取りであるシャルルは『次は私が行ってまいります』と伝えて部屋を出て行った。
「まずは状況把握をするべきだな」
シャルルは婚約者に会うのではなく、先に実家の反応を見ることにしたのだ。
実家に戻ると執事に迎えられ、普段と変わりなく自室に戻った。
「これはどう判断する・・・」
自室で考えていると部屋にやってきたのはプール財務官、シャルルの父親だった。
「不味いことになったぞ。オーロラ商会が姿をくらましてから、王都に食品や生活用品が目に見えて枯渇してきた。このままでは暴動が起きるかもしれん。我々は領地に戻るがお前はこの屋敷を好きに使えばいい」
「そんな無責任な・・・」
「お前がしっかりオーロラ商会を監視していなかったせいではないか。レイシャルとかいう小娘を側室にして富を奪うなどと大ぼらを吹きおって。私の立場が台無しだ」
「それは・・・」
シャルルは幼い頃から神童と言われ学園の試験でも常に上位に入っていた。レイシャルには毎回負けていたが、神童と言われた自分が努力をしても1位になれないのは、学園側が裏で操っているせいだ。きっとレイシャルは次期王妃の立場を利用して、不正なことに手を染めていると思うようになっていた。
今回の計画も自分に自信があるからこそ、多くの人が集まる卒業パーティーを選んだのだ。レイシャルの不正を公にすれば、会場にいる誰もが王子に賛同してくれるはずだった。
「では、私も一緒に領地へ・・・」
「兄上、貴方がいるとこちらの身まで危なくなる。絶対に連れて行くことは許しません」
ノックもせずに入ってきたのは2歳年下の弟だ。弟は幼い頃から自分の後を付いて回り『兄上を尊敬している』と言っていた。そんな弟から凍るような冷たい目で睨み付けられている。
「その言い方は何だ、私は跡を継ぐ身だぞ」
「馬鹿を言ってはいけません。貴方は廃爵され今はただの平民です。家督は私が継ぐのでご心配なく」
「・・・お前の仕業か?」
シャルルが弟に掴みかかろうとするが、騎士を目指し身体を鍛えている弟からすれば弱弱しいほどの力だ。
「ぐっは・・・」
逆に殴られ壁に激突したシャルルはそのまま床に座り込んでしまった。
「兄上・・・なぜあのようなことを」
弟が憐れむようにシャルルを見つめていたが、シャルルを残して家族は逃げるように屋敷を離れた。残った使用人たちも、とばっちりを受けては命も危ないと慌ただしく逃げていく。シャルルが必死に止めても従う者はいなかった。
(なぜこのようなことに・・・私たちは図られたのか?)
誰もいなくなった部屋で茫然と座っていると、入口から人の足音が聞こえる。使用人が戻ってくれたのかと後ろを振り返ると、そこに現れたのは婚約者のリサだ。
「シャルル様・・・?」
「リサ!心配して来てくれたのか?」
「いいえ、貴方のお父様に用があって・・・」
「父上は私用で領地に戻ったが、話があれば私が聞こう」
「噂は本当だったのね。それが分かればここに用はないわ」
「リサ!」
シャルルは思わず、帰ろうとするリサの腕を掴んでしまった。
「平民が私に触れるなど失礼にもほどがあるわ」
「リサ・・・?」
普段から平民を見下げた発言をしていたのはシャルルの方だ。平民と言われた弟の言葉が蘇り、顔色が悪くなるのが分かった。
「貴方が昨日卒業パーティーに迎えに来なかった時点で、婚約白紙が成立しているのよ」
「はあ?」
(婚約白紙だと・・・そう言えば父上から何度も卒業パーティーには必ずお前の婚約者をエスコートするようにと言われた気がする。リサからも卒業パーティーのことで確認したいことがあると手紙が来ていた)
「そんなこと・・・俺は知らない」
「私からの手紙を受け取ったでしょう。見ていないなら所詮はその程度の婚約者だったということね」
「違う!俺は知らなかったんだ」
「ふっ。貴方は本当に愚かな人」
リサは父親が決めた婚約者だったが、シャルルはリサの爵位に満足をしても後ろ盾が弱いことに不満だった。入学したころリサに少しでも上位貴族の懐に入り、自分の役に立つようと伝えていた。
しかし、リサは貴族の者はもちろん商人の生徒にも優しいかった。誰とでも分け隔てなく接する姿は悪くがないが、なぜ平民にまで優しくするのかもやもやとしたものが心に残る。刺繍が得意なリサは、シャルルにもハンカチをよく贈ってくれた。
礼儀上お礼を言いながらも、そんな時間があるならもっと有意義に過ごして欲しいと不満が募った。
「今日も商人の娘と話をしていたな。そんな友人を作る暇があればやることがあるだろう」
「友人は狙って作るものではありません」
「リサは私と結婚する気があるのか・・・将来の夫が恥をかいてもいいと」
「そういう訳では・・・」
「では、平民など切り捨て上位貴族の令嬢と仲良くするのだな」
「・・・・」
優しいリサは私の言動に涙を流したこともあったが、それがリサの為にもなると信じていたのだ。しかし、今日のリサは奴隷でも見るように、冷ややかな瞳でシャルルを見下げている。
「平民と話すのは時間の無駄です。そこを退いてください」
リサの言動はシャルルの望んだものだった。
***
ウェスト王国で一番大きなボーロ商会と親睦を深め、オーロラ商会が市場を独占することを阻止しようとした。ボーロ商会のボーロ会長の話によれば、オーロラ商会は法を破ってあくどい仕事をしていると言う。
今回の計画は、すべて国のためを思ってやったことだ。
オッド卿が事故に遭い亡くなったと聞いたとき、オーロラ商会の実権が正しい者に移ればいいと期待した。しかし、巷から聞こえてきたのはレイシャル嬢が跡を継いだという。
女性進出が珍しい国で、それも学生がやることだ。貴族の誰もが『オーロラ商会もこれで終わりだ』と噂していたし、シャルルも廃業も時間の問題だ思っていた。
それが時間が経つにつれ『ミリュー王国の女傑』と貴族が称えだしたのだ。我々は益々オーロラ商会に危機感を覚えた。
そして、可愛いリリアンの言葉もあって王子は決断を下したのだ。悪役令嬢のレイシャルからオーロラ商会の実権を取り上げ、王族が正しい経営へ導くことを。
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