特別

永井晴

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 またある日。翌日は何も予定が無く、私はかなり遅くまで夜更かしをしていた。音楽を聴いたり、外の景色を眺めてみたり等々。時間はすぐに過ぎていった。だが三時を過ぎた辺りから、私は急に眠気に襲われた。だらしなくリビングで寝てしまいそうな私であったが、歯磨きを済ましてしまったら、その勢いで寝室まで行くことができた。ベッドに飛び込んでからは、まさに眠りに落ちるといった感覚であった。そして私はそこで変な夢を見た。
 
 ーー私はとても広く大きな、マンションかホテルのエントランスにいた。目の前にカウンターがあったが誰もいない。カウンターの左には、やけに広い通路が続いていた。私はおもむろにその通路の方へ歩いた。左側の壁一面の硝子窓は、外の植物たちの緑を室内に通していた。通路は案外長くはなく、すぐに右側から三台のエレベーターが視界に入った。誰もいないのに、それらが勿体無く思えて、またその感覚が不気味にも思えた。
 
 エレベーターの方へ進もうとした時、何故か凄い勢いで友達の母が走ってきた。振り返ると知らない何人かがエントランスにいて、少し話し声も聞こえるようにもなった。するとその人は私を部屋へ行くようにと急かした。また振り返ると、さっきまでのエレベーターの扉が小さく、部屋の扉のようになっていて、その人は手前から一番奥の三つ目の扉へと慌ただしく走っていった。その扉を開けると友達もいて、二人は何やら喧嘩をし始めた。私はそっと後ずさりして、建物の外へと走った。エントランスの大きな扉を抜けると、石畳で出来た扇状の階段が緩やかな下りをつくっていた。その下には同じく石畳の広場があって、その周囲からは幾つも階段が伸びて、そこは小さな盆地のようになっていた。階段と階段の間には大きな岩が塀のように連なり、その囲いの中には豊かな木々が生い茂る。しかしそれらの階段の中に、唯一下へと続くものを私は認めた。そしてその先には背の高い硝子塀で隔たれた、大きな海があった。そしてまた、私の視界に人影は映らなかった。木々の葉は揺れず、風もないのがすぐに分かった。そして私は階段をどんどんと下り、海の方へと緩やかに下っていった。
 
 例の階段を下るとまた広場のような、しかし今度は砂利の平坦な地面が広がり、その正面には、むき出しの配管や機械が入り組んだ何かの施設が、硝子に囲まれて丸見えの状態になっていた。
 私はそれの横まで行き、海と向こうに見える海岸の山々を眺めた。晴れた空が海の青とよく似ていた。見たところ、ここは湾に面した岸の上のようだった。酷く穏やかな雰囲気が、どうも私の気持ちをふわふわとおぼつかないものにしていた。
 
 しばらく眺めていたのだろうか。満潮へとむかっているのかと思っていた海の流れは次第に著しくなり、私の視界にも飛沫を現した。沖から押し寄せる波は恐ろしいほど高いものに見え、私は咄嗟にポケットからスマホを取り出した。何か災害でも起きたのか?色々検索してもダメだった。すると隣の例の施設に大勢の人が現れた。皆大変忙しそうに中を動き回っている。私はその硝子を力いっぱいに叩いた。何度も何度も叩いた。しかし、彼らが応答する気配は皆無だった。遠くの波はまだまだ高くなっていった。振り返ると、大勢の人々が一段上の広場を行き交っていた。その様子に危険の匂いはなく、普通の日常を送っているように見える。とにかく私はさっきの部屋に戻ることにした。人波をかき分けて、階段を上る。建物に入ると、中はさっきと変わらず静かな感じで、外の様子とは正反対に感じられた。そして急いで部屋の扉を叩く。また何度も何度も叩いた。だが扉から応答はない。私はまた外へ出ようと思った。振り返ると、外の人々は混乱の中をさまよっていた。広場から押し寄せる人々の波がここよりも上の方へと絶え間なく流れていく。私は階段の手前で海の方を覗き見た。曇り空の下には淀んだ大きすぎる波紋が広がっていた。慌てふためく人々の凄まじい声はこの場所に響き続けた。私はただ何となくそれらを眺めているだけだったーー
 
 真っ暗な世界が私を迎えた。身体を起こすと窓から薄らに月明かりが差している。こめかみ辺りを一滴の汗が伝った。その時私は、まだあの世界を鮮明に覚えていることに気づいた。
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