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三章 溶けた氷の水

感謝

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「よしよし、シロンはいい子だねぇ~。」

「あう~あう♪」

 小さなベットの上で、のびのびと横になっているシロンを撫でると、シロンは小さな腕を二本俺に伸ばしてきて、「もっと、もっと」と言いたそうに、安定感のない手をぶらぶらとさせながら上に伸ばしてきた。

「シロンは、もっとお兄ちゃんに撫でて欲しいのか?」

「たう~」

 ダメ元で俺が言ってみると、シロンは小さな手で俺の手を掴み、髪がまだ生えていない頭へと、俺の手を乗せた。
 
 ……シ、シロンが俺に甘えてきた。

 俺は、シロンに“初めて“甘えられたことに、心が揺れるのを感じた。

 シロンが生まれてから、毎日のように俺はシロンの頭を撫でているのだが、今日のように甘えてくることは一度もなかった。
 ………何度か、シロンは甘えてくるような素振りを見せたことはあるのだが、トイレに行きたい時や、お腹が空いた時だった。

 俺は、妹に甘えられるのが夢だったので、シロンが甘えてくるような素振りを見せた時は、滅茶苦茶どきどきした。……でも、甘えてきた理由が、俺じゃないことを知った時は、滅茶苦茶に萎えた。

 ……だって、理由がトイレだぞ……

 その時の俺は、シロンがトイレに行きたかったことに気付かず、そのままシロンのことを撫で続けていたので、俺の体は温かい何かに包まれてしまった。

 ………いくら赤ちゃんとはいえ、臭いはしっかりとするようで、すぐに風呂場に行って体中を洗ったのだが、シオには3日間近づくことが出来なかった。

 だから、シロンには俺特製のオムツを穿いてもらっていて、二度目の悲劇は起こさないようにしている。
 
 ………だって、俺が父さんのことを「残酷のライト様~」とふざけて呼んでいたからなのか、あの悲劇が起きてからこの数週間、父さんが俺を呼ぶときは、「異臭いしゅうのハクトさん~?」と煽りながら、俺のことを呼んでいる。

 俺は、父さんに煽られるのは別にどうってことないのだが、俺の呼び名を聞いて、メイドであるカーナとグランが、口に手を当てて、笑いを必死に抑えているのが、深く心に刺さった。
 メイドとはいえ、二人ともかなりの美人なので、美人である二人に笑われるのは、ぼっちだった俺には結構傷つくものだ。

 一瞬、父親であるライトを亡き者にしてしまおうかと思ったが、シオが俺の心を慰めてくれたので、殺意を心の中に抑えることにした。

 ………ヤッパリ、ヒトゴロシハヨクナイヨ

 そんなことを思いながら、シロンの頭を優しく撫でてあげると、シロンはご機嫌そうな顔をしながら、「キャキャ♪」と嬉しそうな声を辺りに響かせた。
 
 ……こんなに可愛い妹が、あの親父の子供だとは思えないよ……

 ご機嫌そうなシロンを抱えて、高い高いをしてあげると、シロンは嬉しそうに足と腕をぶんぶん動かしていた。

「ほらほら、もっと高い高いしてあげるぞ。」

「たう~‼」

 俺は、自分の腕に身体強化魔法を唱えると、シロンに再び高い高いをした。

「やう~‼」

 すると、先程よりもシロンは笑顔が綺麗になって、激しく手足を動かした。

 ……こんな生活が続くといいな……

 ご機嫌そうなシロンを見ながら俺はそう思うと、シロンも「そうだ、そうだ‼」と言いたそうに、右手を横に激しく振った。

 俺は、この世界に転生できたことに、感謝と感動を心から感じた。
 
 
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