甘い配達

犬山田朗

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疑問

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隆司は小さなわだかまりを抱えている。終わったことだし、あえて小さく抑えている。
どう考えても娘がプレゼントしてした時期より古い靴下があったのだ。捨て忘れたのか、隅に落ちていた。
配達で靴を脱ぐこともあったのだろう、使っている靴下はきれいに保たれていた。仕事熱心な印象を受けていた。
しかも、被疑者はそこそこきれい好きで、古いものはお気に入りの小説だけだった。
正紀が犯人ではない仮説が思い浮かんで寒気がした。
押さえようとするほど頻繁に考えるようになってしまっている。
最近は、当時は大して気にしていなかった、娘が着ていた服を処分した理由を探している。
怪我はしなかったものの、止めに入った娘の服が切れていたのではないか。
逃がしたのではなく、現場にいたくなくて逃げ出したのだ。
今もちょうど考えていたところ、大事件の連絡が入った。
あの時の娘が母親に刺されて運ばれたらしい。
隆司は自分の仮説を信じて捜査に挑む決意をした。
カンを信じろ。

ほとんど同じ刑事たちが、また同じ家に集まった。
隆司はみんなの目や行動を見て、言うまでもなく自分と同じ決意を持っていると確信した。
警察の面目は潰れるが、一人の人生を台無しにしていると考えたらいたたまれない。
正義感は強い。みんなそうだ、だから刑事をしている。
母親が被疑者に変わった捜査はすぐ終わった。いたって単純な事件だ。
正紀の再審の準備の方が難しい。
捜査のつじつまを合わせて無実にしなければいけない。
ずさんだったとは決してならないように、刑事たちのせめてのプライドだった。

ニュースには希の生い立ちと家庭環境を紹介して、心境を得意げに話す人が映っている。
新聞には女子高生誘拐・父親殺害事件の真犯人は母親だったと、知ってたかのように記された。
週刊誌には母親が娘を脅迫し、さらにいかにうまく人をだましたかを競い合って掲載した。
正紀の話も警察へのおとがめもほとんどなく、もちろん正紀への謝罪などはなかった。

母親の裁判が始まった。
今回はすべて円滑にすすむ。証拠などいくらでもあるからだ。DVの犯人は母親だった。
捜査では夫や娘が悪いんだなど、興奮して訳の分からないことを言っていた。
数日たって、母親は落ち着き観念してた。夫も殺したと証言を変えた。
判決は懲役18年、正紀の時より多くないとおかしい、妥当だろう。

隆司は正紀に面会に行き、頭を下げて謝り、心境を聞いたり雑談をした。
正紀が無実になることは誰の目にも確定している。
体裁上、残念ながらまだ数か月はかかりそうだ。
いじめが起きないよう、他の受刑者の耳には一切入れない注意がいる。
正紀は一番聞きたいことが聞けたので嬉しかった。
希は母親が怖くて正紀にとても悪いことをしたと後悔していると伝えられた。
怪我は浅く、もう治っている。しかし、おなかに傷は残ってしまうらしい。
正紀の面会は、本来はいないといけない職員もおらず、自由で何でも黙認状態だ。
正紀は隆司を親友かのように信頼して、今まで言えなかった秘密などそれとなく話した。
隆司は二回目のカンも外れていたと、正紀と話して気が付いたが言葉をのんだ。
一生誰にも言う気はない、これも正義感だ。
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