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23【物々交換】

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俺が薬局から帰ってきてしばらくするとショスター伯爵から昼食に誘われる。まあ、俺は飯を食べないのだが食事の真似事程度ならば付き合ってやろうとご招待に同意した。

そして俺はメイドたちを引き連れて食堂に向かう。

食堂は一段と広い部屋だった。まさに貴族の家の食堂と言った大部屋である。

十人程度が座れる長テーブルには食器などが綺麗に整頓されて並べられていた。ナイフとフォーク、それにスプーンだけで何種類も並んでいるのだ。それを見ただけで俺は緊張してしまう。何せ俺は田舎育ちの平民だ。ナイフとフォークで食事なんてほとんどしたことがない。だから緊張してしまうのだ。

俺が食堂に到着すると、既にショスター家の面々が揃っていた。俺は一礼すると招かれた先に腰を下ろす。執事だと思われる男性が椅子を引いてくれたが、とっても違和感があった。なんか馴染めない。

それから食事が始まった。そして、メイドたちが食事を運んでくる間にショスター伯爵から家族の紹介をされる。

まずは金髪で初老の御夫人。ショスター伯爵の妻らしくエリナと名乗っていた。50歳ぐらいで貴族の奥様らしく気品に溢れている。

続いては30歳半ばの男性で、ショスター家の長男である。それは門前で既に出会っているショセフ氏であった。ワカバに顔面を蹴られて落馬したのに死にもしないし怪我も負わない丈夫な男である。流石は長男だ。強いね。

続いてはショセフの奥さんでスージーさんだった。大人しめで硬そうなエリナさんとは異なり笑顔を絶やさない明るいご夫人である。俺的にはこっちがタイプであった。人当たりが良さそうで好感度が高い。

そして続いてはショセフ氏の娘さんてㇱョリーンちゃんだ。まだ6歳か7歳ぐらいの可愛らしい乙女さんだった。チルチルより幼いし可愛らしい。

ショリーンちゃんは母のスージーさんに良く似て明るく微笑んでいる。彼女ならば将来は良いお嫁さんになるだろうと予想できた。俺がプレイボーイならば唾を付けたいところだが、俺はコミ病のヘタレだから無理である。ぐすん。

あと、ショリーンの兄でショルノと言う13歳の少年がもうひとり居るらしいのだが、現在は王都の学院に通っているがために別で暮らしているらしい。この街に居ないとのことである。

そして、家族全員の紹介が終わったころには昼食のメニューがすべてテーブルの上に並んでいた。だが、パッと見た目で食事に華やかさが足りない。盛り付けなどが地味なのだ。まあ、文明レベルの低い異世界貴族の昼食なんてこんなものなのかと俺は一人で納得した。

それから食事が賑やかに始まる――。

ショスター家の方々は俺が食事を取らないことは理解してくれているようだった。食事を取らないで座っているだけの俺に何も言わない。

そして食事が始まるとショスター家の面々が微笑ましく俺に質問を飛ばしてくる。スケルトンの客人なんて珍しいのだろう。食卓は俺への質問で盛り上がる。

歳や出身地などを訊かれたが俺は個人情報に関しては出来るだけはぐらかした。俺が祖父でないことがショスター伯爵にバレないようにだ。

そんな努力もあってか食事が終わるまでの間、俺は質問攻めを乗り切った。たぶんまだ俺の正体はバレていないだろう。

そして、食事が終わるとショスター伯爵の指示で女性たちが退室させられる。ショリーンちゃんが母親に続いて満面の笑顔で食堂を出て行った。この子は笑顔を絶やさないから可愛らしい。そのせいか俺も少し名残り惜しかった。

食堂に残ったのは俺とショスター伯爵親子の三人だった。それから声色を引き締めたショスター伯爵が本題を切り出した。

「骨の魔法使い様。早速でなんなのですが、秘薬の取引に付いて話し合いたいのですが。如何程でお譲り頂けますか」

やはりショスター伯爵は金銭で薬の取引を解決したいらしい。だが、今回ばかりは、それだと駄目なのだよ。俺はショスター伯爵と3回も物々交換に成功しなければならないのだから。そうしないとクエストを完了できないのだ。

俺は無言のままにジャージのポケットから薬局で買ってきたばかりの風邪薬を置いて見せる。紙の箱から出した薬瓶であった。中には錠剤が30錠詰まっている。それを見たショスター伯爵親子の瞳が輝いた。二人ともこの風邪薬の効果を知っているのだろう。だから喉から手が出そうなぐらい欲しいのであろうさ。

二人は知らないのだ。この一瓶が税込み986円で売られているただの風邪薬だと……。まことに無知って哀れなり。

まあ、騙す形になっているがこっちもこれを仕事にしていかないとならない身分なので甘いことも言ってられない。なので俺からも探りを入れる。俺はスマホの音読アプリで質問を飛ばした。

『幾ラまで出せマすか?』

俺の質問にショスター伯爵の渋い眉間に皺が寄る。そして、片手で指を3本立てながら述べた。

「金貨で、これだけて如何だろうか……」

金貨3枚か。悪くないだろう。

「以前と同じ価格で、金貨30枚でどうでしょう……」

うわ、一桁違ったわ……。

どうやら以前も祖父から金貨30枚で買い取っているらしい。まあ、これで風邪薬の値打ちも分かったぞ。有り難い。

でも、俺はこちらの世界の金貨が向こうの世界でいくらに換金出来るのかを知らない。それも知らなければ正しい取引は出来ないだろう。今度は金券ショップに金貨を持ち込んで鑑定してもらわなければなるまいて。

さて、それよりも今はショスター男爵との交渉が大切だ。話の流れを物々交換に持っていかねばならない。今は一旦お金の話は終了だ。

俺はスマホの音読アプリに新たなる提案を打ち込んで二人に聴かせる。その内容はこうだった。

『デは、今回ハこちらノ秘薬はショスター男爵に差シ上げましょウ。こちラは宿泊を許してモらっていますカらな。その代金ノ代わりト言っては如何でショうか』

「まことですか!」

ショスター伯爵はテーブルに両手を着いて立ち上がる。それ程までに歓喜している様子だった。金貨30枚程度を得した喜びよりも、秘薬が手に入った喜びのほうが大きそうに見えた。それだけ風邪薬のレアリティーが高いのだろう。

だが、俺はさらなる提案を持ちかける。

『デすが、もう少シ我儘を述べテも宜しいだろウか』

「ええ……」

俺の言葉にショスター伯爵の顔色が曇る。何を言われるのか心配そうな様子だった。しかし俺はショスター伯爵の心配とは裏腹に軽いお願い事を申し出た。

『私ノメイドの一人がサンダルなノできちんとしタ履物を用意してモらえないでしょうカ。革製の靴をひトつ頼みたイ』

「ええ、それだけですか……?」

俺は髑髏の頭で頷いて見せる。するとショスター伯爵が息子のショセフに声を張って指示を飛ばした。

「息子よ。直ちに町に行って靴屋の職人を連れて参れ。直ぐに仕立ててもらうぞ!」

「は、はい。父上!」

すると髭面中年が走って食堂を出ていった。まったく慌しいおっさんである。

まあ、こうして一回目の物々交換が成立した。あと二回でクエスト完了である。

でも、本当にこんな格安な案件で物々交換を行っていて良いのであろうか。これって俺にとって損じゃない?




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