箱庭の魔王様は最強無敵でバトル好きだけど配下の力で破滅の勇者を倒したい!

ヒィッツカラルド

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41・箱庭の魔王様

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 縦穴鉱山の底の底、丸く拓かれた中央広場にオークたちが並んで集まっていた。

 全裸の俺は岩に腰掛けながら偉そうに腕を組んで居る。その背後に魔王軍が並んで控えていた。

 オークたちとの戦いに勝利した魔王軍のキング、ローランド、ゴブロン、その他ゴブリンやホブゴブリンたち。それらが勝者の微笑みを浮かべていた。本来なら自分たちより強いはずのオークたちに勝利したことが誇り高いのだろう。

 腰掛岩で全裸のまま寛ぐ俺はキルルに指示する。

「キルル、聖杯をここに」

『はい、魔王様』

 オークたち180匹が全裸の俺の前に片膝をついて頭を下げているなかで、畏まったキルルが陶器のワインカップ改めて聖杯のカップをお盆に乗せて運んで来た。

 あのお盆はどこから持ってきたのだろう?

 まあ、とにかくだ。
 キルルが俺の前で片膝をついて聖杯を差し出すと、続いてゴブロンが自前のダガーを礼儀正しく両手で差し出した。

 そのダガーを受け取ると、俺は鮮血の儀式として手首を切って聖杯に鮮血を溜める。

「ルートリッヒ、この鮮血を口にしろ。俺に忠誠を誓わなければ石化するが、忠誠を誓い続ける限りステータスが向上する。腕力だけでなく、知力も向上するし、新たなメモリーにも芽生える。魔物として進化するのだ!」

「ありがたき幸せブヒ!」

 傷だらけの顔面を俯かせルートリッヒが忠義を誓う言葉を力強く語ると、それに合わせて他のオークたちも深々と頭を垂らす。

 総勢180匹のオークが俺に対して畏まっていた。壮観な景色である。

「では、頂きますブヒ!」

 ルートリッヒが聖杯を手に取ると、一気に飲みほそうとした。グビグビと行ってしまう。

「ちょちょちょちょっ、ちょっと待て!」

「ブヒ?」

「その一杯で全員分だから、少しずつ飲んでくれ……」

「は、はいブヒ……」

 返事をしたルートリッヒは聖杯を下げる。がぶ飲みでだいぶ飲んだからもう十分だろう。むしろ飲み過ぎだ。

 そして、聖杯をキルルが抱えるお盆の上に戻すとルートリッヒの変身が始まる。

「ブヒブヒブヒ!!」

 両腕を抱え込むように俯いたルートリッヒが震えだした。額に青筋を浮かべて全身が硬直する。

「ブヒブヒブヒ!!」

 ここまではいつも通りである。

 震えるルートリッヒの体が更に太くなる。青筋を複数浮かべた筋肉が大きく盛り上がった。

 そして、褌一丁のルートリッヒの体に茶色い体毛が生え始める。その体毛は剛毛だった。まるで針金のように太く鋭い。更に豚面の口元に二本の牙が延び出て来る。

「変化したでやんすね」

『猪かしら……』

 そう、ルートリッヒの外見は、豚から猪に変わって行った。その風貌と眼光は、以前よりも勇ましく変化している。獣が野獣に変化した感じであった。

「ブォォオオオオオオ!!!」

 ルートリッヒが天に向かって吠えた。その遠吠えが縦穴鉱山に広がると反響して音量を高める。

 かなり五月蝿い……。耳が痛くなる。

 そして、双眸を血走らせながらルートリッヒが歓喜の言葉を吠えていた。

「か、体に力が漲る! 脳裏に様々な知識が流れ込んでくるぞ!!」

 ルートリッヒは獣のようにワイルドに吠えていた。それでありながら未知の知識に震えている。感激にも似た驚愕の微笑みを浮かべていた。

「ブォォオオオオオ!!」

「よし、進化が完了したようだな」

 体の猛りが収まったのか、再びルートリッヒが俺の前で片膝をついた。

「魔王子バンデラス様の生まれ変わり、魔王エリク様!」

 頭を上げたルートリッヒが鋭い眼光で俺を睨み付けた。それは極道のような双眸だった。

「猪豚組組長ルートリッヒ、ここにエリク様に対して永久の忠誠を誓います!!」

 ルートリッヒは俺を睨んでいるわけではないのだろう。これがこいつの素の眼差しなのだろうさ。

 でも、かなり怖い……。

 更にヤクザ感が増したように見える。何せ豚よりも猪のほうが凶暴そうで怖いんだもの……。

「お、おう……。これから頼んだぜ。頼りにするからな」

「ははっ!!」

 ルートリッヒは深々と頭を下げた。その後に他のオークたちにも鮮血を与えて進化を促した。

 こうしてオークの軍勢と縦穴鉱山が我が軍の手に入ったことになる。これで鉱山が生きていて鉄鉱石が採掘できればパーフェクトなんだけれどね。それは今後の調査次第であろう。

 そして、縦穴鉱山での戦いが終わって早くも一ヶ月が過ぎさった。俺は墓城の霊安室を住処にしてダラダラと退屈な日々を暮らしている。

 墓城の下では、最近になって真っ当な家らしい家が増え始めていた。煉瓦職人の技術をメモリーとして開封した者たちが煉瓦の家を作り始めたからだ。

 前までは隙間風がピューピューと吹き込む藁葺きのボロ家ばかりだったのに、今は煉瓦の立派な家が多いのだ。

 それに縦穴鉱山から鉄などが採掘出来て大工道具などが製造できるようになった。これが何より大きい。

 大工道具だけでない。ツルハシやスコップも作れて煉瓦用の泥や、鉱山での採掘にも活躍している。森を切り拓くのに必要だった斧やノコギリなども揃ったのだ。しかも自前でだ。

 魔物の進化は早いようである。
 縦穴鉱山のオークたちにもメモリーが開封されて、オークの多くが鉱夫と変化していた。それで鉱山の掘削作業が開始され、鉱物が色々と採掘され始めたのてある。

 狙いだった鉄鉱石が取れただけでなく、少量だが金銀銅が取れたらしい。それもありがたかった。

 だからオークの鉱夫たちはフル回転で働いているとか。疲れ知らずのオークたちは24時間の交代勤務で採掘に性を出している。

 更に墓城と縦穴鉱山との間が切り開かれ、道を作り出したとか。

 まだ山道だが、道のりを平らにして鉱石の運搬がスムーズにできるように計画しているらしい。

 まあ、その辺の計画はキルルにお任せだ。キングやアンドレアと相談して上手くやってくれるだろう。

 そして、切り倒した木々を建築資材として使うだけでなく、その木片で炭まで作り出したらしいのだ。数引きのゴブリンに炭職人のメモリーを開封したものがいるらしい。

 更に更に、農夫のメモリーを開封したコボルトが先導して、家畜を育て始めたり、畑を耕し始めたりもしているらしいのだ。

 元々はモンスターなのに凄いよね。やれば何でも出来そうだった。メモリーの開封はとにかく便利である。

 鮮血でアップデートされたモンスターたちには、まだまだ可能性が秘めている。これからもどんどん進化して、どんどん暮らしを向上させて行くことだろう。

 そんな感じで、どんどん墓城の周りは開拓されていく。

 キングの話だと、今は近くの岩場から石のブロックを採取しようと計画しているらしい。どうやら建築家のペルシャが墓城の復興を計画しているらしいのだ。

 どうやらこの墓城も、そのうち復興するらしい。

 まあ、俺は、それまで霊安室で呑気に待っていようと考えている。ここの暮らしにも慣れてきたから問題はない。

 ご飯もコックのクィンが頑張ってくれているから問題もないし、最近では毛皮の布団も用意されたから睡眠も問題なかった。

 そして、最近キルルと二人で町を散歩していて分かったことがあった。

 大工が家を建てている。
 鍛冶屋がハンマーでトンテンカントンテンカンっとやっている。
 狩り班が動物やら野生のモンスターを狩ってくる。
 それをコックが調理して振る舞っている。
 残った毛皮で服も作りだした。
 それら魔物たちの暮らしを見ていて俺は気が付いた。

「なあ、キルル……」

『なんですか、魔王様?』

 巫女服の袴を風に靡かせながらキルルは笑顔で聞き返してきた。

「俺さ……」

『なんですか?』

「こいつらが働いているのに、俺は何もしてないよな?」

 そう、俺は労働の一つもしていない。それは無職と同様だ。

 キルルが優しい笑みを浮かべながら酷い事を述べる。

『そうですね。いつも魔王様は食っちゃ寝ばかりですね。穀潰しですね。それがどうかしましたか?』

「そこまで言うか……。穀潰しとかって酷くない」 

『ですが、事実だと思いますよ。それよりも、何もしていないと暇ですか?』

「暇とかじゃなくてさ。それよりも……」

『なんですか?』

「なんで、こいつらには仕事のメモリーが開封されるのに、俺には仕事が出来るようなメモリーが開封されないんだ?」

『はい~?』

 キルルが細い首を傾げる。不思議そうに眉を顰めていた。

『 魔王様が何を言いたいのか分かりませんよ?』

「なんで、俺が出来ないことを、こいつらは出来るんだ……?」

『ますます言っている意味が分かりません?』

「そ、そうか……。とにかく、俺は異世界転生してきてさ。チートで最強無敵なんだけれどさ。俺ってやっぱり社会不適合者なのは変わらないんだなって思ってよ……」

『社会不適合者?』

「だって仕事の一つも出来ないんだもの……」

 ふがいない――。

 なんか、情けないのだ。それがプレッシャーと成る。

「魔王なのに、何もすることがない……。ぐすん……」

『んん?』

 キルルは満面の微笑みを浮かべながら言う。

『気にしなくっても、良いんじゃないですか?』

「そうかな~……」

 キルルはそう言うが、何故か納得できない。喉に魚の骨が引っ掛かっているような思いである。

 まあ、可愛いキルルの顔を見れたからいいか~。

「ああ、でも、少し変わったことがあるや」

『なんですか?』

「もう俺は、ボッチじゃあないや」

『ボッチ?』

 そう、前世のように独りぼっちではない。
 それが大きな救いだった。

 コボルト、ゴブリン、ホブゴブリン、ヘルキャット、オーク。魔物ばかりだが、今は仲間に囲まれている。

 いや、こいつらは家族に近い。俺の鮮血を分け与えた家族なのだ。血と血が忠義の呪いで繋がっている。

 だから、もう俺は独りではないのだ。
 それが転生前と大きく違った。
 そう、変わったのだ。

「よしっ!」

 俺は青空を見上げる。
 雲と雲の隙間に広がる青空。その青空の果てに巨大な怪鳥が飛んでいた。それが異世界ファンタジーだと俺に知らしめる。

 俺は純粋な気持ちを輝かせながら述べた。

「明日から俺も頑張ろう!」

『はい、魔王様!』

 そう、この物語は始まったばかりなのだ。

 俺の目的は破滅の勇者を倒すことだ。その相手すらまだ知らない。顔も名前も不明である。何処に居るのかも知らないのだ。

 だから、頑張らなければならない。世界を救うためにだ。


【第一章、完】


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