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【第二章】最臭兵器スバル編

2-24【ギルガメッシュ】

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俺は冒険者ギルドの酒場で、一人ぽっちの昼食を取りながら考えていた。

俺の周りにはたくさんの冒険者たちが居たが、俺とテーブルを共にする者は一人もいない。

ほんのちょっとアマデウスの誘いを断っただけで、すべてのギルメンから俺はハブられてしまっている。

仲間外れなのだ。

パーティーすら組んでもらえない。

それにしてもだ。

そんなに他の冒険者から見て、あのアマデウスって男は怖い存在なのだろうか?

確かに眼光はめっちゃ怖いけれど、そこまでビビるほどだろうか?

だが、現状はヤバい。

現在俺は見事なまでにギルド内で仲間外れにされていた。

あいつに逆らったら、このソドムタウンでは冒険者としてやっていけないってことなのだろう。

今回の件は、俺に警告を出しているのに違いない。

分かりやすく子供の俺に、大人のルールを叩き込みに来たのだ。

だから、大人しくアマデウスの言うことを聞けば丸く収まるだろうさ。

アマデウスは次の誘いがあるかもと、意味ありげに臭わせていたからな。

次は断るなってことだ。

そこで断らなければ、とりあえずは丸く収まるだろう。

しかし、そこで大人しく言うことを聞いていたら詰まらない。

やっぱり抵抗してみたい。

むかつくしさ。

だが、今の俺では力不足だ。

戦闘力でも権力でもアマデウスより劣っているだろう。

ならば、どう対抗するかだ?

難しいよね。

簡単に答えはでないぜ。

そんなこんなで俺が飯を食べていると、突然声を掛けられた。

「同席してもいいかな?」

「えっ?」

俺が顔を上げると意外な人物が立っていた。

その男は、魚のようなモヒカン頭に上半身が裸のマッチョマンだった。

ズボンを吊るしているサスペンダーで器用に両乳首を隠している。

ギルドマスターだ!

変態ギルマスだよ!

名前は知らんけど。

「ど、どうぞ……」

突然だったために、俺は呆け顔で同席を許した。

ギルマスはウイスキーのボトルとグラスを二つ持って、俺と同じテーブルに着いた。

俺と向かい合って席を共にする。

そして、ギルマスは二つのグラスに酒をつぐと、二つ分のグラスの酒を、次々に一口で一気に飲みほした。

俺に一つ勧めるのかと思ったのに……。

俺の中では酒が飲めないと言って、断る準備が出来ていたのにさ。

社会人になってから「俺の酒が飲めねえのか」って上司に絡まれてもいいように、何通りかの言い訳をシミュレーションしてあったのにさ。

残念だわ~。

それにしても二つ分の酒を一気飲みしたはずなのに、ギルマスは顔色一つ変えていない。

かなり酒が強いのかな?

あれ、でも、ほのかに乳首がピンク色に染まってやがるぞ。

そのピンク色の乳首を、人差し指一本でポリポリと丹念にかいていやがる。

な、なんか、キモイ……。

そしてギルマスが、俺に話し掛けてきた。

「お前さん。アマデウスの誘いを断ったんだってな」

ギルマスは言いながらも乳首をかき続けていた。

「ああ、断ったよ」

「何故だい?」

それにしても話ながら乳首をかくのやめれよ……。

「あいつは、危なそうだったからだ」

「危なそうとは、如何に?」

だから、乳首をかくのやめれ!

「まだ、完全な悪人ってわけではなさそうだけど、いつ狂気に走るか分からない感じがしてね」

そう、いつ犯罪者になるか分からない感じがしたのだ。

そう言った筋書きが良く似合いそうなキャラだと思う。

このまま大きな権力を掴めば、残忍な暴君になるタイプだよね。

そしてギルマスのほうはこのまま乳首をかき続けているから変態丸出しだけれどね。

「お前さん、若いのに見る眼があるな」

見る眼は肥えている。

小さなころから多くの漫画やアニメ、それに映画やドラマを見てきている。

それが当たり前の世界で詰まらなくも贅沢に生きていたのだ。

まあ、死んだけどね……。

なので、この異世界人と比べたら、要らない知識だけは豊富だろうさ。

だから分かるんだ。

眼前で乳首をかいてる男はド変態だと……。

「んん?」

気が付けば、酒場から他のギルメンたちが居なくなっていた。

居るのは数人のウェイトレスさんと、バーテンダーだけである。

人払いされたのかな?

て、ことはさ、ここに居る人たちはギルマスの派閥ってことになるよね。

顔だけでも覚えておこう。

それにしてもこのギルマスは、いつまで乳首をかいていやがるんだ……。

いいかげん止めれ……。

「なあ、お前さん。俺の下に付かないか?」

「現役ギルマスの?」

「そうだ」

ここからが本筋なのかな。

でも、ギルマスは乳首をかき続けている。

それにしても、なんか俺ってば、高く評価されてないか!

えーと、ラッキーなのかな?

「あんたの下に付いて、俺になんの得があるんだよ?」

「色々と利益はあるさ」

「具体的になんだよ?」

あっ、やっと乳首をかくのやめやがった。

「いま、お前は何がしたい?」

「アマデウスの野郎をぶん殴りたい」

ギルマスは乳首をかいていた人差し指の先を見詰めながら返答した。

「おう、叶えてやろう」

え、マジですか!

ちょっぴりかっこつけて言ってみたんだけど、すんなり通ったよ。

びっくりだわ。

そして、ギルマスは自分の指先を眺め続けながら言う。

「他に望みは?」

「ガンガンと冒険がしたい。そのために俺はこの町にやってきたんだ」

「じゃあ、それも叶えてやる」

マジか!

ついでにハーレムを作りたいとか言っちゃおうかな!

ぁぅぁぅあ!!

ちょっと胸が痛かったぞ……。

あぶねえ……。

「ただし、どちらの願いも直ぐには叶わないぞ」

「ですよねー……」

「あっ、いや。片方の願いは直ぐに叶うな」

そう言うとギルマスは、乳首をかいていた人差し指をペロリと舌で舐めた。

なーめーたーー!?

何故に舐めるんだ!!

さてはこいつドドドのド変態だな!!

「マ、マジでアマデウスを殴らせてくれるの……?」

「違う、冒険に出るほうだ」

「ああ、やっぱりそっちですよね~」

「俺がお前を鍛えてやる。アマデウスをぶん殴れるぐらいにな。戦闘力的にも、権力的にもだ」

あ、またエスパーがいるよ。

なんで俺の心を読めるヤツが多いんだ。不思議だな。

「その力を得るには、俺は何をしたらいいんだ?」

すると今度はギルマスが自分の人差し指を、ぱっくりと口に含むように咥え込む。

そして上下に動かしながら丁寧に舐めると、糸を引かせながら口から出した。

き、汚い……。

キモイ……。

気絶しそうなぐらいにキモくて汚いぞ……。

後にギルマスはクールに言った。

「簡単だ」

そうなの?

とても楽チンなの?

簡単に戦闘力がアップして、簡単に権力をゲットできるの?

それよりも吐きそうだからビニール袋とか無いかな……。

「それは、お前の願いを叶えていればいいだけだ」

わからん?

俺は首を傾げた。

今は気力が出なくて首が座らん……。

「冒険をして、ガンガン強くなればいいんだよ」

ああ、そっか。

冒険をしてれば自然と強くなるもんね。

「でも、俺とパーティーを組んでくれるギルメンは居ないぞ?」

それともギルマスが俺とパーティーを組んでくれるのかな?

ギルマスと二人っきりのパーティーになるの……?

夜に野宿とかしてたら、このおっさんに股間の凶器で襲われたりとかしないよね?

俺の貞操が目当てで言ってるんじゃあないよね?

「パーティーを組んで貰えないのならば、ソロで冒険をしろ」

「ソロ──。一人で冒険を?」

「怖いか?」

お前のほうが怖いわ……。

「いや、今までずっとソロだったけれど、なにか?」

「ならば慣れているな。冒険の依頼は、俺がいくらでも用意してやる」

「それはありがたい」

ありがたいが、何が狙いだ?

このモヒカンおっさんは?

やっぱり俺の貞操かな……?

「まずはソロで経験と実績を積み上げろ。そして強くなれ。そしたらいくらでもアマデウスを殴れるぞ」

経験値とは自分自身の戦闘力だろう。

実績を積み上げろってのは権力だ。

お金を貯めて、人徳を築けってことかな。

でも、政治は苦手だな。

回りくどいのは詰まんないし。

頭を使うより、体を使っていたほうが、俺には合っている。

「で、アマデウスを殴れたあとは、どうなるの?」

「それはお前次第だ」

俺次第でネコにもタチにもなれるのね……。

どっちもお断りだけどさ。

「とりあえず、ガンガンと冒険が出きるんだな?」

「ああ、俺が直々に依頼を流してやるっていってるだろ。ただし、俺が生きている間だけだがな」

うわぁ……。

今度は重たい話になってきたよ。

死ぬとか死なないとかって重いよね。

もう、苦手だな……。

「まあ、俺がギルマスを続けている間は好きなだけ冒険が出来るだろう」

「あんた、何が狙いなのさ。なんで俺にそこまでしてくれるのさ?」

「後継者探しだ。このままではアマデウスにギルドが乗っ取られる。それを防ぎたい」

「俺が、ギルマス候補なの?」

やっぱり高く買われているな、俺!

ギルマス候補だよ!!

「どっちかって言ったら、幹部候補生かな。お前の他にも十数名の若者に目を掛けている。お前はその内の一人にしか過ぎない」

あー、ちょっと安心した。

そうなると、気楽に行けるわ。

プレッシャーとか苦手だもん。

それに俺の体が目的ではないようだ。

それが知れただけでも安心だぜ。

「とりあえず、この依頼をやってこい」

そう言うとギルマスはテーブルの上に一枚の羊皮紙を出した。

依頼書である。

「これが最初の試験であり、トレーニングだと思って励め」

試験であり、トレーニングか。

試して鍛えるってことね。

ギルマスが酒瓶と二つのグラスを持って席を立つ。

立ち姿は、やはり大きかった。

見下ろす顔も怖い。

「行ってこい、アスラン!」

変態のくせに決まってるな!

そう言うとギルマスは俺に背を向けて歩き出す。

流石はギルマスだ。

最後の決め台詞から威厳が感じられたぞ。

俺は去り行くギルマスの背中に声を掛ける。

「最後に聞いてもいいかな?」

ギルマスが立ち止まった。

「なんだい?」

「ギルマスって、名前をなんて言うのさ。知らないから教えてくれないか?」

「えっ、お前さんは俺の名前を知らないのか……」

「知らん」

「俺は、結構有名人なんだけどよ……」

「知らんものは知らん」

はぁ~っとギルマスが溜め息を吐いた。

「おまえ、俺はギルマスだよ。ギルマスの名前ぐらい知っとけよ!」

「だ、か、らぁ、何て名前、な、ん、で、す、か?」

「ギルガメッシュだ! 覚えておけ、忘れるなよ!」

「うい、分かったよ。キルラメッシュ!」

「ちがーーう! もう、速攻で間違えてるから!!」

「えっ、チルラリッシュでしたっけ?」

「ちょっと腕でも出せや。忘れないように魔法の刺青を刻み込んでやるからよ!」

「やめて、ダサイカップルみたいなの!」

「まあ、とにかくだ──」

するとギルマスは親指を立てながら凛々しく気取りながら言った。

「俺の名前は冒険者ギルドのマスター、ギルガメッシュだ。何かあったら頼って来い!」

あ~……。

この人が見るからに変態じゃなければ、心置きなく頼れたんだけどな~。

そこが残念である。

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