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【第四章】ショートシナリオ集パート①

4-4【見えない敵】

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俺は矢で撃たれた腕を確認する。

肩の少し下辺りに矢が刺さっているが、幸い貫通はしていない。

それと矢先には返しが付いていないようだな。

矢尻がないシンプルな矢である。

これなら気合いと根性で抜けそうだ。

「うぅらぁッ!!」

俺は力任せに矢を腕から引っこ抜いた。

「いてぇ~~……」

身体に刺さった物を抜いたんだ、当たり前か……。

うわっ!!

血が吹き出したー!!

プシュ~って飛び出てる~!!

こんなの初めてー!!

らーめーー!!

「くそ、畜生が!!」

転生してから初めて怪我らしい怪我をしたけど、こんなに痛いなんて聞いてないよ~!

この転生は、お気楽転生じゃあないの!?

痛いの怖いよ!!

ああー、血が止まらないよ!!

「とりあえずセルフヒールだ!」

俺は傷口に片手を添えると回復魔法を唱えた。

すると掌が緑色に輝くと矢で撃たれた傷口がジワジワと塞がって行く。

「ふぅ~……」

よし、血は止まったぞ。

まだ筋肉の動きに違和感が残っているけど痛みはほとんど消えたかな。

これなら戦えるだろう。

問題ない──。

ちっ、それにしても厄介な敵だな。

本当にアンデッドかよ?

あれから狙撃者は姿を微塵も見せないぞ。

人喰いアンデッドならばさ、新鮮な肉だ肉だって、ホイホイと飛び掛かって来るんじゃあないのかよ。

なんで、こそこそしやがる。

それでもアンデッドかよ。

ズルいぞ!

いくらなんでも賢すぎるだろ!

俺は木の陰から横に落ちているロングソードを見た。

矢で狙撃されたときに落としてしまったのだ。

しかし、手を伸ばせば届かない距離でもない。

「ちょっくら試しに取ってみるか」

俺は素早く動いてロングソードを手に取るとすぐさま木の陰に戻ろうとした。

そこに矢が飛んで来る。

森の中から再びの狙撃だった。

「あぶね!」

矢は僅かに狙いを外す。

俺の眼前を過ぎた矢が背後の木に突き刺さった。

「ひぃ~……」

俺は逃げるように木の陰に戻る。

あの野郎、狙ってやがったぞ!

ずっと弓矢を構えたまま待っていやがったんだ!

俺がロングソードを取りに出て来ると考えて、辛抱強く待っていやがったんだ!

やっぱりスナイパーだな。

マジで陰気な狙撃者だぜ。

俺は木を背にして考える。

「さて、どうするかな……」

まず相手の居場所が分からんことには手も足も出せないぞ。

敵は森の何処かに潜んでやがるが、何処に隠れているか分からない。

「潜伏スキル持ちなのかよ……」

こんな展開は、お気楽なラノベでは読んだことがないぞ。

スナイパーとかってさ、かなり渋い洋画ぐらいしか出てこないだろ。

しかもそれは戦場でライフルを持った現代ファンタジーが舞台じやね!?

こんな超ローテク世界の異世界ファンタジーじゃあ狙撃者なんて普通は居ませんよ!

やーべえは、参考にできる模範を知らねえぞ!

どう戦えば良いのですか!

まずは冷静になろう。

とりあえず俺はロングソードを異次元宝物庫に収めた。

代わりにショートスピアを取り出す。

剣でも弓矢でもないな。

ましてや斧なんて速度が出なくてリーチも短い武器なんかもってのほかかな。

ここは手槍だな。

俺が今持っている武器でリーチが一番長い武器は、このショートスピアだ。

突いて良し、投げて良しだもんね。

ショートボウって手もあるが、弓と弓で戦えばおそらく負けるだろう。

もしも初弾の矢を外してしまえば、俺のほうが圧倒的に不利になる。

そもそも狙撃の腕前で相手との差があるだろう。

だからショートスピアって選択はベストだろうさ。

逆に俺が相手の矢を防げば有利に立てるはずだ。

「よし、行くぞ!」

俺は胸元に盾代わりのバトルアックスを翳すとショートスピアを片手に走り出した。

敵が居ると思われる方角に向かってだ。

だが、数歩走ったがスナイパーは矢を撃ってこない。

「あの野郎~……」

この状況で初段を防がれたら自分の位置がばれると思って攻撃を避けやがったな!

確実に俺を一撃で仕留めたいらしい。

隙を突いてしか、攻撃を仕掛けない積もりらしいな。

頭が良すぎね!?

俺は一旦バトルアックスを背中に背負うと異次元宝物庫から方位磁石を取り出した。

俺はヤツが居ると思われるほうを向いたまま方位磁石を見る。

目的地であるゲートの方向を確認したのだ。

俺が進むべき方向は右手である。

その先にゲートがあるはずだ。

俺はしばらくヤツが居ると思われる方向を向いたまま歩いた。

こうなったら意地だぜ。

絶対に隙を見せないからな。

しばらく歩くと幸運なことに錆びたカイトシールドを見つける。

拾ってみると、汚れてはいるが強度はまだまだ生きていた。

俺はカイトシールドを背中に背負って防御を強化する。

これで背中から撃たれても少しは安心だ。

背中にはバトルアックスと錆びたカイトシールドの二重装甲だもんね。

ガッチガチやで!

しかし───。

ヒューーン、ズブッ!

ギィァァアア!!

とかなんとか言ってる最中に脚を撃たれましたわ!!

「矢が脹ら脛に刺さってる!!」

俺はすぐさま近くの木に隠れた。

刺さった矢を引っこ抜いて傷口を手で押さえる。

「畜生ッ!」

もうセルフヒールは使えないのに負傷した。

でも、傷は浅い。

これなら我慢出来るかな……。

に、してもだ!

あーのーやーろーうーー!!

深追いせずに、時間を掛けて俺を狩るつもりだな!!

なぶるようにジワジワと狩る積りだよ!!

ネチネチと陰険な!!

マジでどうしてやろうかな!!

畜生、畜生、こん畜生が!

いやいやいや、落ち着け、俺!!

怒りとイラつきに任せて行動したら相手の思う壺だぞ!

ここは落ち着かなくては……。

俺は怒りを押さえながら包帯を取り出すと太股の傷を縛って止血した。

それでも包帯の表面には鮮血がジワリと滲み出す。

この野郎は、完全に俺を時間を掛けて仕留めるきだな。

どうしたらいいんだ!?

さっき矢が飛んで来た方向は左手側からだ。

ヤツは俺と平行して動いているのかよ。

このまま進んで他のゾンビと遭遇したら厄介だな。

他のゾンビを相手にしながら、あのスナイパーの攻撃は凌げないぞ。

やっぱり、正攻法で挑むしかないか……。

俺は錆び付いたカイトシールドを腕に嵌めるとバトルアックスを代わり背負った。

こっそりと隠れていた木から出るが、弓矢は撃ってこない。

盾に防がれると思って撃ってこないんだ。

確実に自分の位置が知られないタイミングでしか撃ってこない気だろう。

「仕方ねえか……」

俺は先を目指して歩き出す。

スナイパーは切っ掛けがなければ撃ってこないだろうさ。

ならば切っ掛けを作ってやるしかない。

矢を放つ切っ掛けをだ。

そして、その切っ掛けにふさわしいヤツらが現れた。

五体のゾンビたちだ。

俺は戦うしかないのだ。

スナイパーは最善のタイミングで撃ってくるだろう。

それで居場所が別れば良し。

分からなくても大体の場所ぐらいは分かるだろうさ。

どちらにしろ、こちらからアクションを起こしてやるしかないのだ。

俺はショートスピアとカイトシールドでゾンビ五体と戦闘を始めた。

一体目のゾンビの頭をショートスピアで串刺しにする。

更に二体目三体目と続けてショートスピアで頭を刺して行く。

しかし、まだ、スナイパーは撃って来ない。

四体目を串刺しにしたところで、五体目に飛び掛かられた。

それを何とか盾で食い止める。

四体目に刺さったショートスピアを抜いている暇がなかったので、代わりに腰からダガーを引き抜いてゾンビのこめかみに突き刺してやった。

その時である。

俺の背中に矢が刺さった。

スナイピングされた。

「うぎゃ!」

背負っていた斧の横からスブリと刺さった。

俺は倒したばかりのゾンビともつれ合うように倒れ込んでしまう。

しかし、上手い具合にゾンビの身体を矢が飛んできた方向に向けて倒して、俺の身体を陰に入れたぞ。

あとは死んだふりだ。

俺はピクリとも動かない。

ヤツが出て来るのを待つ。

ヤツが出てきたらダガーを投げて仕留めてやるぞ。

しかし……。

あーれー、出てきませんね~。

待てど暮らせど出てきませんね~。

死んだふりがバレてるのかな?

どっちだろう?

なんか、カサカサって音がしますね。

あれれ、もしかしてさ。

スナイパーの野郎、移動してますか?

今までとは反対側に移動してますか?

回り込んでるの?

それはヤバくね!?

俺が丸見えになるじゃんか!?

それはアカンだろ!!

音が止まったぞ……。

うぐっ!!!

撃たれた!!!

太股を撃たれたぞ!!!

だが、我慢だ!!!

死んだふりだ!!!

うぎゃ!!!

また、撃ちやがった!!!

今度は背中を撃ちやがったぞ!!!

死んじゃうじゃんか!!!

すげー痛いわ!!!

すげーピンチだぞ!!!

でも、バトルアックスに矢がカスったお陰でダメージが浅い。

しかし、これ以上確認しないでね!!

生死の確認狙撃は止めてね!!

撃たないでね!!

あ、近寄って来るな……。

地面に耳を当ててるお陰で、足音が僅かに聞こえるぞ。

あ、でも止まった。

また撃たれるな、こりゃあ……。

いっ、せー、のー、で!!

俺は身体を起こしてゾンビの死体を前に返した。

そのタイミングでスナイパーの狙撃も発射された。

放たれた矢がゾンビの頭に突き刺さる。

ナイスベストタイミングだぜ!

俺は最後の力を振り絞って立ち上がると、手にあるダガーを投擲ホームに振りかぶった。

この一撃で決めてやるぞ!

「食らえっ!」

しかし、俺はダガーを投げようとした際に、スナイパーの正体を見てしまう。

俺の動きが一瞬止まってしまった。

「な、なんじゃこりゃッ!?」

スナイパーグールの正体は、ビキニアーマーの若い女性の死体だったからだ!

ナイス、セクシーボディー!!

すげー、おっぱいが大きいのね!!

巨乳じゃんか!!

俺の中の呪いが反応してしまう。

「あだっだっだっぁだあああ!!!」

その隙にビキニアーマーグールは矢の再装填をすませていた。

「畜生!!」

俺が全身の痛みを耐えながらダガーを投擲するのと、ビキニアーマーグールが矢を放つのが同時になった。

俺の眼前に矢が迫る。

俺はベタなマトリックス風回避術で身体を反らせると矢をギリギリで躱した。

やーべ!

背中から倒れたら、背中に刺さっている矢が身体を貫通しちゃいますよ!!

だから俺は必死に倒れるのを堪えて身体を前に起こした。

セーフ!

倒れませんでしたよ!

そして前を見れば、ビキニアーマーグールが倒れていた。

「あれ……?」

俺の投げたダガーがビキニアーマーグールの額のド真ん中に突き刺さっている。

どうやらクリティカルヒットしたらしい。

「やったぜ……。当たったのね、ダガー……」

流石はダガー+1の投擲命中率向上だぜ。

助かったわ……。

こうして俺はスナイパービキニアーマーグールに勝った。

でも、矢を体に四本も食らったよ……。

マジ痛い……。

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