俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。

ヒィッツカラルド

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【第四章】ショートシナリオ集パート①

4-29【全裸のおっさんたち】

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「わ、ワシは一体何を……?」

「ここはどこだ……?」

「俺は何をしてたんだ……?」

「あれれ……?」

猫たちが突然ながら人に変わった。

猫の群れがおっさんの群れに変わったのだ。

しかも全裸のおっさんたちにだ。

完全に変態の集まりである。

おそらく魔女キルケの呪いが解けたのだろう。

十匹ぐらい居た猫が、全匹すべて全裸のおっさんに変わっだのだ。

見ているこっちも驚いてしまう。

一人ぐらい可愛らしい乙女が居てもいいじゃあないかとも考えた。

なんとも読者サービスがなっていないと思う。

「はぁ! 何故にワシは全裸なのじゃあ!!」

「さ、寒い!?」

「何故に裸なのお!?」

「いやん、まいっちんぐ!」

なんだろう?

このおっさんたちは記憶がないのかな?

猫に変えられていたことを覚えていないようだ。

「寒いのか?」

「さ、寒いぞ……」

おっさんたちは両腕で胸元を隠すが股間は隠さずに震えていた。

「寒いならそこに燃えている家があるから暖まったらいいんじゃあないか」

「おお、これはありがたや!」

「暖まろうや!」

「あったか~~い」

おっさんたちは火に当たり、体が暖まったせいか、どうやら徐々に落ち付きを取り戻していった。

表情からも心が温まり落ち着いてきたのが分かる。

「ひい、ふう、みい──」

おっさんたちの人数を数えたら、全部で十一人居た。

中には若い兄ちゃんも三人ほど混ざっている。

おそらくこの内の一人がマヌカビーだろう。

それは徐々に探って行こうと思う。

もうドデカイババァ~は死んだのだ、焦ることもない。

「じゃあ、あんたらは自分が猫になってたことは覚えてないのかな?」

「俺たちが猫に……?」

「にゃんだと!?」

おっさんたちは顔を合わせた後に考え込む。

「そ~か~、猫か~」

「確かに猫をやってたような気がするにゃん」

「ゲホゲホっ、口の中に毛玉が……」

どうやらぼんやりと自覚はあるようだな。

「じゃあ、あんたらはここでドデカイババァ~にお茶を注がれて猫になったぐらいは覚えているんだな」

「ああ、俺は覚えているよ。確かに婆さんとお茶を飲んだぜ」

一番若い兄ちゃんが言った。

こいつかな、マヌカビーは?

「あんたの名前はマヌカビーか?」

「いや、違うが」

あれ、違った……。

「僕が、マヌカビーですが?」

あ、こっちの兄ちゃんのほうかよ!?

背の高い細身の兄ちゃんだった。

だが、体は細いが股間は太かった。

かなり立派である……。

少し羨ましい……。

そんなことよりもだ。

「あんた、ソドムタウンでマヌカハニーの姉ちゃんが待ってるぜ。俺はあんたの姉ちゃんに雇われて、あんたを探しに来たんだ」

「そ、そうだったのか!?」

背が高く凛々しい顔立ちのマヌカビーだったが、気は優しげである。

あそこは暴れん坊サイズだが……。

「じゃあ、帰ろうか」

「あの~、良かったら服を別けてもらえないか?」

俺は秒速で即答した。

「ない!」

「えっ、そうなの……」

異次元宝物庫に着替えが一着あるが、ここでは出せない。

見ている人が多すぎる。

それに異次元宝物庫の存在がバレてしまうじゃあないか。

どうせ服は一着しかないのだ、全員には行き渡らないから我慢してもらおう。

マヌカビーが訊いて来る。

「出口は分かるのかい。僕は迷ってから出入り口が分からなくなって、ここに行き着いたんだが……」

「ああ、安心しろ。目印は付けてきたからな」

「目印か。やるね、キミ」

お前さんとは違うのだよ。

入って来た出入り口を見失い、あんな怪しいドデカイババァ~に騙されて猫に変えられるほど俺は馬鹿ではないのだ。

くっくくく、っと心中で無意味に笑っていた。

俺は火に当たるおっさんどもに話し掛ける。

「おっさんたちよ、俺はこの兄ちゃんを連れてソドムタウンに帰るけれど、あんたらはどうする?」

「すまない、ワシらも外まで連れてってくれないか?」

「それは構わんが、服はやらないぞ。これ一着しかないんだから」

「ああ、分かったよ。とりあえず俺たちをソドムタウンまで連れてってくれないか。御礼はソドムタウンで払うから」

「御礼なんて要らないよ」

「いやいや、待ってくれないか。俺はゴモラタウンの商人なんだ。俺はゴモラタウンまで頼むよ!?」

あー、それぞれ出身が違うらしいな。

「すまないが俺はソドムタウンの人間なんだ。ソドムタウンまでは連れて行けるが、それ以上は無理だから。ソドムタウンからは個々で帰ってくれや」

「そ、そうなのか……。仕方ない。とりあえずソドムタウンまで一緒に行くよ。そこから続きを考えるわ……」

「悪いな、おっさん」

話は纏まった。

とりあえずこのままソドムタウンに帰ることとなる。

俺は全裸のおっさんを連ねて出口を目指す。

メルヘン溢れるお花畑を進んだ。

やがて目印のロングソードが見えて来る。

お花畑のド真ん中に刺さるロングソードを引き抜くと、俺は眼前の空間を探るように突き刺した。

するとロングソードの刀身が空中で消える。

「ここが出口だ」

「おお、凄いね。僕は帰れるのか!」

「「「おおおおおっ!!」」」

おっさんたちから歓声が上がった。

俺はその歓声に押されながら見えない扉を潜った。

そして、湿っぽいダンジョンの一室に移動する。

すると俺を追って次々に全裸のおっさんたちが出口を潜ってこちら側にやって来る。

俺はこの全裸の十一人を連れてソドムタウンに帰ることとなった。

俺は二日間もの間、全裸のおっさんたちと一緒に旅をする。

しかし、おっさんたちは逞しいものであった。

その辺の草や葉っぱを使って服を作り出す。

更には巧みなサバイバル術で水を集めたり、木の棒を槍に変えて獣を狩り出した。

それで旅路の生活をまかない始める。

案外と泣き言を垂れないで、帰宅の準備を無から作り出して行くのだ。

「すげーなー、おっさんたち」

「ああ、こう見えても冒険者だからな」

「奇遇だね、俺もだよ」

話を聞けば、十一人中六人が冒険者で、三人が旅商人で、二人が農夫だった。

そして、あの場所からお花畑に迷い込んだのはマヌカビーを含めた冒険者の三名だけだった。

他の八人は別の場所からお花畑に迷い込んだと述べている。

あれと同じような出入り口が他にもあるようだ。

そして二日後に俺はソドムタウンに到着する。

ここで原始人ルックのおっさんたちと別れた。

俺とマヌカビーは冒険者ギルドに向かう。

行き場所がない冒険者のおっさんたち五名も俺たちに続く。

そしてマヌカビーはギルドの宿屋に宿泊していた姉のマヌカハニーと感動の再会を果たしたのだ。

「ハニー姉さん……」

「ビー!?」

姉弟は再開と同時に、姉が弟を往復ビンタした。

パアパパパパーーン!っと派手な音を奏でたが、次ぎには姉が弟に泣きながら抱き付く。

感動のワンシーンである。

「けっ、俺の柄じゃあないぜ!」

ぐすん……。

ああ、鼻水が……。

すると俺たちを出迎えてくれたギルガメッシュと、おっさんの一人が急に歓喜の声を上げた。

「お前は、ギルガメッシュか!?」

「そう言うお前はサンジェルマンか!?」

二人のおっさんが抱き合った。

モヒカンマッチョと腹の出た原始人ルックのハグである。

しかも抱き合いながら互いのお尻を無茶苦茶に力強く撫で回していた。

どうやら二人は顔見知りのようだった。

いや、顔見知り以上の仲なのかも知れない。

そのまま二人は顔と顔を何度も何度も頬擦り合わせを繰り返す。

「キモイ……」

気を取り直して俺が問う。

「どういうことだ、ギルマス?」

「こいつは俺がまだ若いころに死んだ、冒険者仲間のサンジェルマンだ!」

「何を言ってやがるギルガメッシュ。俺は生きてるぜ!」

ギルガメッシュは事情が分かっていないから、このおっさんが死んだものだと思い込んでいたんだな。

その実は猫に変えられていたのだけれどね。

そして、ギルガメッシュが歓喜の声でサンジェルマンに問い掛けた。

「お前は今まで何をしてたんだ?」

「ああ、お前と別れた後に山脈に入ってな、そこで遭難してたのをこの若造に助けられたってわけよ」

「遭難?」

「お前と別れた後にな」

「別れた後にだと?」

「ああ」

「二十年間もか?」

「二十年?」

おっと話が合わなくなり始めたぞ。

「お前は二十年間も遭難してたのか?」

「二十年も!?」

あー、おっさんが慌て始めたわ。

たぶんさ、このおっさんは、あのドデカイ魔女の元で二十年間も猫をやってたんだろうな。

哀れだわ……。

まあ、そんな感じのことを俺が二人に説明してやる。

時が経っているのだよ、と。

「なるほど、俺は二十年間も猫をやってたのか……」

ギルガメッシュが言う。

「それじゃあ、サンジェルマンじゃなくて、ニャンジェルマンじゃあないか?」

「それ、いいな」

案外とサンジェルマンも納得していた。

こうしてマヌカハニーが持って来た冒険は終了する。

結局のところマヌカビーは姉の反対を押しきり冒険者を続けることにしたらしい。

しかも、あそこから帰って来たおっさん冒険者たちと組んでだ。

最近では『ニャンズパーティーズ』とか可愛らしく名乗っていやがる。

六名がおっさんや兄ちゃんなのにさ。

俺は『全裸おっさんパーティーズ』のほうが良いと思うのだが。

そっちのほうがしっくり来るよね。

まあ、とにかくだ。

やっぱり冒険者って生き物は、呑気な生き物なのだろう。

猫だった六人の冒険者を見ていると強く思うわ。

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