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【第九章】アンデッドなメイドたち編

9-4【悪霊の悲鳴】

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俺は左手にマジックトーチが掛かったショートソードを持ちながら鉱山の通路を進んでいた。

【霊体感知スキルLv2】
パッシブで霊体を感知する確率が向上する。

この鉱山トンネルに入ってからビンビンと来ますがな~。

いつぞやに覚えた霊体感知スキルの影響ですね。

トンネルの奥から複数の霊体を感知できていますよ。

この鉱山は幽霊亡霊の類いがわんさか居るようだ。

てか、感知しすぎてザワザワしますわ。

もう体全身の産毛がビクンビクンと立っちゃってますがな。

ここまで敏感だと邪魔なスキルに思えてきますぞ。

でも、これで緊張感が引き締まる思いになるぜ。

俺は現在5メートル幅の人工的なトンネルを進んでいた。

古びた鉱山通路である。

天井は2メートル30センチぐらいの高さがあるだろうか。

横幅は2メートルぐらいと若干狭い。

戦うには広すぎず狭すぎずって感じかな。

どちらかって言ったらソロの俺には少し通路の幅が広いかな。

これだと武器はロングソードよりもショートソードのほうが良いだろう。

いや、ロングソードでも行けるかな。

たぶん長刀でも振れるだろう。

「んん……」

俺が進む通路の前方から暗闇に紛れて冷たい冷気が流れてくる。

突如俺の背筋に強い悪寒が走った。

「あ、来るな……」

アンデッドがこっちに迫って来るぞ。

気配で分かるぜ。

前言撤回だな。

やっぱり霊体感知スキルは使えるのかな。

レーダーの代わりにはなっている。

迫り来るアンデッドの気配はさほど強くないな。

でも、数が多いぞ。

それでも、分かるぜ。

俺なら余裕で勝てるレベルだ。

そして、俺なら余裕で勝てる人数だな。

「よし、準備運動代わりに、一丁暴れちゃうぞ~」

俺は左手にマジックトーチが掛かったショートソードと、右手にロングソードを持って待ち構える。

【ショートソード+1】
攻撃力が向上する。

【ロングソード+2】
攻撃速度が向上する。アンデッドにダメージ特効が向上する。

更に左腕には小型盾のバックラーを付けているのでエンチャント魔法のディフェンスシールドを掛けて置こう。

更にディフェンスアーマーにフォーカスアイだ。

ついでにファイアーエンチャントウェポンもロングソードに掛けとくか。

今回はバフ全開だぜ。

よし、こいや!

いや、俺から行くぞ!!

俺が待ち構えているとトンネルの暗闇からガシャガシャと骨が鳴る音が聴こえて来る。

アンデッドの初級雑魚キャラでスケルトンだな。

なら、容易い。

スケルトンなら何匹群れようが敵にもならない。

「うし、行くぜ!!」

俺は闇の中に向かって走り出した。

やがてショートソードから放たれる明かりがスケルトンたちを映し出す。

「やったぜ、スケルトンファイターか!」

スケルトンの群れは様々な武器や防具で武装していた。

「ラッキーだぜ!」

今さら、ただの武器無しスケルトンじゃあゴミ過ぎる。

もうスケルトンファイタークラスじゃあないと、経験値にもならないものな。

それに武器を持っているってことは、その武器の中にマジックアイテムが紛れている可能性もあるからだ。

ここで俺のハクスラスキルが爆発するのを祈るのみである。

「うりゃぁぁあああ!!!」

俺は双剣を振り回しながらスケルトンファイターのド真ん中に飛び込んで行った。

そして飛び込み一番で数体のスケルトンファイターの首を跳ねる。

髑髏が数個、空を飛んだ。

気持ちいいぜぇ~!!

「そらそらそらそら!!」

俺は押し寄せるスケルトンファイターの波を押し戻す勢いで大暴れした。

次々とスケルトンファイターを撃破して行く。

緩い、緩い、緩いぞ!!

もう弱いぜ!!

スケルトンファイターが何体来ても敵ではないわ!!

無限に倒せるぞ!!

俺ってば、無敵だぜ!!

そして、五分ぐらい暴れただろうか。

やがて俺は、スケルトンファイターの群れを、すべて撃破する。

ザコの壊滅完了だぜ。

たぶん三十体ぐらいは倒しただろうか。

周りを見舞わせば、一面人骨と錆びれた装備が散らばっていた。

まるでゴミ屋敷のようである。

「マジックアイテムはあるかな~。ねーなー……。詰まらん!」

まあ準備運動程度にはなっただろう。

二日酔いで鈍った身体には、丁度いい運動だったぜ。

それにゴミも積もれば山となるって感じだしね。

これも経験値的には無駄にはならないだろうさ。

よし、先に進もうかな。

んん?

あれれ?

なんか強い気配がこっちに進んで来るぞ。

件のデスナイトバーサーカーかな?

いや、違う。なんだろう……。

バーサーカーって言う感じの荒々しさは感じられないぞ。

なんだか静かで物哀しい気配だ。

でも、儚さの中に不純な凶器も感じられるな。

間違いなく恨み辛みを持った悪霊の気配だぞ。

デスナイトバーサーカーって、スケルトン以外にも、別のアンデッドを召喚出来るのかな?

まあ、いいや。

とにかくだ。

ここからが本番かな。

気を引き締めて行こうかな。

さあ、蛇が出るか、鬼が出るか……。

あれ、鬼が先だっけ?

まあ、いいか~。

さあ、ドーーンとかかってきなさい!!

んん?

姿を現したぞ。

敵は一体だな。

レイスかな?

幽体っぽいぞ。

女か?

いや、ババアだな。

ババアのレイスかな?

手にはダガーを持ってやがる。

赤く光ってやがるからダガーはマジックアイテムだぞ。

『ァァア………』

ババアのレイスは上を向いて口を開いた。

何をする積もりだ?

『キィィァァアアアアアア!!!』

「んっぬっ!!!!!!」

悲鳴!?

俺は咄嗟に両手の剣を捨てて両耳を手でふさいだ。

「ぐっあ!!!」

『キィィァァアアアアアア!!!』

ひ、悲鳴!?

ひ、ひでえっ!!!

なんだ、この悲鳴は!?

叫び声や大声とは質が違う。

これは絶叫レベルの悲鳴だ。

しかも魔力を持ってやがるぞ。

悲鳴の中に悪意が混ざった強い魔力を感じる。

それが耳から入って俺の心を握り締めるように苦しめた。

耳から手が放せない。

鼓膜が破れるどころか、鼓膜が破裂しそうだ。

ババアの悲鳴が身体の奥まで届いて、脳味噌と脊髄をガタガタと揺すっているような衝撃だった。

身体の力が抜ける。

否、入らないが正しいか。

この悲鳴は……。

このババアのレイスは、レイスじゃあないぞ。

こいつはバンシーだ。

この悲鳴はバンシーの悲鳴だ。

俺の魂が、抜き取られそうなぐらい揺れている。

ババアのバンシーは、首を左右に振りながら悲鳴を上げて、少しずつ俺に向かって歩み寄って来る。

片手に持った赤いダガーが振りかぶられ、刀身が光って恐ろしく見えた。

動けない……。

バンシーの悲鳴に身体と魂が収縮して固まってしまっている。

そして、バンシーが片膝を付いている俺の前に到達した。

俺は悲鳴を上げ続けるババアに見下ろされる。

バンシーの瞳がギョロリと青白く輝いていやがった。

まるで生前の恨みを俺に向かって晴らさんとしているかのような悪意溢れる眼差しだった。

 『キィィァァアアアアアア!!!』

ババアはゆっくりと赤く光るダガーを振りかぶった。

このままでは、殺られる!!

「のぉぁああああ!!!」

俺は死力を振り絞って立ち上がった。

そのままの勢いで脳天をバンシーの顎に叩き付ける。

下から突き上げるような頭突きだ。

『はふんっ!!』

悲鳴が止んだ。

俺の頭突きでバンシーの口が閉じたからだろう。

そして、武器を落としてしまった俺は、武器を拾いなおすよりも素手での追撃を選択した。

右フックから左フックのコンビネーション。

ヒット。

『ふごっ!』

素早い二打にバンシーの頭が左右に揺れた。

更に上段前蹴りでバンシーの顎を蹴り上げる。

「それっ!」

ヒット。

『がはっ!!』

瞬時に打ち込んだマーシャルアーツの三打目にバンシーの前歯が数本飛んだ。

その三打でバンシーの双眸は別々のほうを見ていた。

首が座り、腰が砕けかけ、立っているのもやっとなのか、完全にフラフラしている。

「とどめだ!!」

俺はバンシーの腰に腕を回すと流れるような動きで背後に回り込む。

クラッチ!!

かーらーのー!!

「ジャーマンスープレックスだ!!」

俺は軽々とバンシーを持ち上げると反り投げで地面に後頭部を叩き付けた。

更に!!

俺はブリッチから跳ね飛ぶと、再びバンシーをジャーマンスーブレックスの体勢で持ち上げていた。

「ダブルジャーマンだぜ!!」

連続二発のジャーマンスープレックスが炸裂した。

俺がブリッチを築きながら投げ技の余韻に浸っていると、バンシーの体が浄化されたかのように消えて無くなっていく。

手にしていた深紅のダガーがチャリンと音を鳴らして床に落ちた。

「ふぅ~」

俺はブリッチをしたまま言った。

「スリーカウントを数える必要すらなかったか」

スケルトンファイターの群れ&ババアのバンシーを撃破完了。

残るはデスナイトバーサーカーだけかな?

他にもまだこの鉱山には別の悪霊が居るのかな?


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