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【第十三章】魔王城攻略編

13-4【巨漢のエルフ】

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破極道山はきょくどうざんが……」

若様エルフがポツリとデブエルフの名前を呟いた。

そのデブエルフは遠くの木の下で気絶している。

エルフとは思えない怠惰な体格がぐったりと沈み込んでいた。

それにしても、あのデブってばさ、破極道山って名前なのかよ……。

すげ~、かっこいいな……。

そんな四股名を聞いたことがないわ。

「畜生っ、だからどうした、あーー!!」

再び若様エルフがいきり立った。

額に無数の青筋を走らせながら苛立ちを叫んでやがる。

「凶子、お前の木刀でボコボコにしてやれ!!」

若様エルフがスケバン風エルフ女子に激を飛ばした。

しかし、スケバン風エルフ女子は、そっぽを向いてしまう。

「いやよ!」

「えっ、なんで……」

「なんでってなんでよ!!」

「いやいやいや、だからなんでだよ!!」

「なんであたいが喧嘩なんてしないとならないのよ!!」

スケバン風エルフ女子は、頭のアフロヘアーを引っこ抜くと地面に叩き付けた。

えっ、ズラなの……?

アフロのカツラの下は金髪のショートヘアーだった。

更に口元を隠していたマスクも剥いで地面に叩き付ける。

おてんば風だけど素顔はなかなか可愛いな。

ちゃんとした美形のエルフじゃんか。

それがなんでヤンキーみたいな格好をしていたんだろう?

妹エルフは頬を膨らませながら癇癪を起こしている。

「だいたいなんであたいまでおにーちゃんに付き合わなければならないのよ!!」

「ええ、だってほら……。俺たち入り口の森を守るエルフだぞ……」

「でもあたいは女の子なの!!」

「何を怒ってるんだよ、凶子……」

「あたいだって素敵な男子とトレンディーなラブロマンスに浸りたい年頃なのよ! 分かってるおにーちゃん!?」

「いや、言ってる意味が分かんない……」

「だからおにーちゃんは馬鹿なのよ! 頭の中まで特攻隊なのよ!!」

「いたたたっ……。木刀で俺の顔をグリグリすんなって……」

「だってちょっと素敵な人間の冒険者が森に来たのに、なんで追い返すのよ!!」

「あれが、ちょっと素敵か……?」

木刀で頬をグリグリされながら、若様エルフが俺を指差した。

するとスケバン風だったエルフ女子は目を細めて俺を見詰める。

じぃーーーーーー……。

しばらく目を細めて睨むように見ていたスケバン風だったエルフ女子は、ノシノシと俺に近付いて来た。

そのまま睨みながら俺に顔を近付けて来る。

もう鼻と鼻がぶつかり合いそうなぐらいの距離だ。

あー、もしかしてこの子、眉毛を描いたら結構可愛いんじゃあないのか?

アフロのカツラとマスクでスケバン風だったけど、本当はきゃぴきゃぴのJKキャラなんじゃあないのか?

そして、超接近で俺の顔を見ていたスケバン風だった女子エルフは、スタスタと元の位置に戻って行く。

そして先ほど投げ捨てたアフロのカツラとマスクの埃を払ってから再び丁寧に装着した。

それから言う。

「おにーちゃんゴメン……。あたいさ、目が悪くて見えなかったから、何か勘違いしていたわ。あの人は殺していいわよ」

なんで!?

何があったと言うのだ!?

俺が何をしたって言うのだ!!

若様エルフがスケバン風エルフ女子に言う。

「だから、お前の木刀でボコボコにしろよ……」

「いや、無理。この人間は私より強いもん。魔力が全然違うから」

「そうなん!!」

一瞬ながら驚いた若様エルフだったが直ぐに俺を睨み付けた。

すると、ド太い声が割って入る。

「もう、いい。おでが、やるだ」

痺れを切らしたのか、若様エルフとスケバン風エルフ女子の間を割って、超巨漢のエルフが前に出て来た。

エルフとは思えないオーガ顔のエルフ。

体型も太くて大きい。

身長2メートル20はあるな。

体重は240キロはあるだろう。

もう、人間のサイズでもエルフのサイズでもない。

これは妖怪のサイズだ。

もうモンスターだよ。

「ア、アンドレア! お前がやってくれるのか!?」

若様エルフが奇怪な強面を見上げながら言った。

するとアンドレアと呼ばれた超巨漢エルフが答える。

「破極道山の、仇だ。おでが、スクラップに、して、やるぞ」

なんか口調がどもってる。

あー、、力は強そうだけど、頭は緩そうだな……。

でも、サイクロプスのミケランジェロより小さいし、ミノタウロスよりも小さいしな。

なんとかなるだろ。

スケバン風エルフ女子が黄色い声で声援を飛ばす。

「アンドレア、そんな不細工な人間、ぺしゃんこにしていいからね~」

なに、不細工だと!!

素顔がちょっと可愛いからって調子こくなよ、この偽物ヤンキー娘が!!

アンドレアが振り返って言う。

「凶子、おでが、こいつを、倒したら、デ、デート、してくれる、か?」

凶子が真顔で返す。

「やだ」

瞬殺!!

酷い!!

マジでこのスケバン風エルフ女子は男心を理解してねえぞ!!

ある意味で男の子の敵だわ!!

俺は落ち込むアンドレアに近付いた。

そして、大きな腹を拳で突っつきながら言った。

「俺は人間だが、お前の気持ちはよく分かるぞ……」

「うがぁっぁっあああつつ!!」

ジャイアントキック!!

唐突な攻撃だった。

俺の顔よりデカイ足の裏が俺の顔面を蹴り飛ばした。

顔が衝撃で潰れる!

「のぉわあああ!!!」

俺は5メートルぐらい飛ばされて背中から地面に落ちた。

野郎!!

人が慰めているのに顔を蹴りやがったな!!

俺の美顔が醜くなったらどうするんだ。

お前みたいなオーク顔に変形したら訴えてやるぞ!!

いや、違った。

なんて酷いエルフだ!!

「不意打ちなんて上等じゃあねえか!!」

「うがぁぁあああ!!!」

うわっ、吠えながら暴れてる。

超怖い顔してるぞ……。

失恋から悪鬼羅刹にクラスチェンジしてるじゃんか……。

もう完全にエルフに見えないわ。

ただでさえオーガやトロールみたいな怖い顔したエルフなのに、怒りでもっと怖くなっていやがるぞ。

もう本当にバーサーカーエルフだよ!!

「ふんがぁ!!」

巨大なパンチが振られた。

俺は身を屈めて躱す。

一振りがパワフルだがスピードは遅い。

そして、俺は代わりに拳を打ち込んだ。

反撃である。

俺の拳がアンドレアの脇腹を叩いたが、びくともしない。

硬い、重い、デカイな!!

なに、この体は!?

まるで御神木のようにドッシリとしてやがる。

やっぱりこいつはエルフじゃあないよね!?

あっ、膝が!!

屈んでいた俺の顔面にアンドレアが膝を突き上げて来た。

ド太いニーリフトだ。

これは躱せないわ。

俺は両腕でガードしたが、膝蹴りの重さに飛ばされる。

「のわぁぁああ~」

俺の体が1メートルほど浮く。

そこを掴まれた。

空中キャッチである。

そして巨大な手で頭を鷲掴みにされる。

「ぐふっ!!」

その掴みは普通の人がピンポン玉を包み掴む感じであった。

俺の頭とアンドレアの掌では、そのぐらいの比較なのだ。

そして、そのまま抱え上げられる。

「ぐほほほっ!!」

俺は手足をバタつかせた。

息が出来ないし、何も見えないぞ。

更に振り上げられた。

外が見えないから分からないが、たぶんアンドレアの頭の高さまで振り上げられてるよね。

だって振られて首がもげそうだもの……。

「ふんがぁーーー!!」

風圧の後に全身に轟く衝撃。

バシンっと体全身に衝撃からの痛みが走った。

叩き付けられたのだ。

頭を掴まれてのフルスイングで地面に叩き付けられたのだ。

俺の体がワンバウンドして跳ねる。

あー、またアンドレアが巨拳を振るったわ。

空中の俺をぶん殴る。

「くはっ……」

俺は飛んでるのか?

ならば着地しないと。

うごっ!!

着地失敗だ……。

俺は後頭部から地面に叩き付けられた。

しかし、ゴロゴロと転がってから立ち上がる。

「まだ目が回っ──」

台詞を切られる。

すぐさまタックルで追撃。

アンドレアが肩から体当たりして来たのだ。

俺は車に跳ねられたように飛んでから転がった。

最近は、本当に飛ぶし転がるわ~。

だが、転がった先でスクリと立ち上がった。

ダメージが無いとアピールしたかったのだ。

「ふっ、きか──」

また台詞を言い切る前に攻撃された。

アンドレアが飛ばされていた俺をまた追ってきていたのだ。

ドゴンっ!!

あー、また殴られた!!

台詞ぐらい最後まで言わせてよ!!

あれ、捕まった。

今度はベアーハッグかよ!!

抱きつかないで、気持ち悪いから!!

「うごぉぉおおおおおごご!!」

「うぎゃーー!!」

背骨が軋む!!

肋骨が折れそうだ!!

肺が潰れるぞ!!

内臓が出ちゃうよ!!

俺の体が凄いパワーで締め上げられる。

「うがぁぁ、絞め、殺して、やる、ぞ!!」

「ざけんな!!」

俺は内側から締め上げる太い腕を押し退ける。

俺が力むとアンドレアの豪腕が広がって行く。

パワーで俺が勝ってるのだ。

「ばっ、ばか、な……」

そりゃあ信じられないよね。

だってこっちとら、一人でサイクロプスと戦えるほどの実力だよ。

パワーだって半端じゃあないぜ。

マジで舐めるなよ。

見ため通りじゃあないんだぜ。

「俺を普通の人間と一緒にするな!!」

俺は超巨漢の太腕を力任せに振り払う。

そして、着地と同時に拳を後方に振りかぶる。

そこからのボディーブロー!!

「おらっ!」

「ぐふっ………」

ドゴーーンと太鼓を叩いたような音が響いた。

腹を打たれたアンドレアが膝を崩して俯いてしまう。

そこに俺は腕を回すとアンドレアの首を両腕で締め上げた。

フロントネックロックを決める。

だって丁度良い高さにあったんだもん。

「うぐっ、ぐ、ぐぅ……」

俺が全身を力ませ太い首を締め上げる。

俺の絞め技はまるで万力。

アンドレアは必死に抵抗していたが逃げられない。

締め上げられる腕力に息が出来ずに苦しいようだ。

「から~のぉ~~!!」

俺は首を締め上げながらアンドレアの超巨漢を肩に乗せて持ち上げた。

240キロの体重を頭の高さまで持ち上げる。

いや、それ以上に持ち上げた。

逆さまに持ち上げられたアンドレアが呟いた。

「ブ、ブレン、バスター、か……」

「プロレス技を知ってるんかい?」

「うがぁがぁがぁぁああ!」

「でも、ちょっと違うんだよね!」

俺は肩の上で逆さまに持ち上げられていたアンドレアの頭を、垂直に地面へと落下させた。

「垂直落下式ブレンバスターだ!!」

地面にアンドレアの脳天が激突した。

大型爆弾が投下されたような衝撃が大地に広がる。

「どうだ、こんにゃろう!!」

アンドレアの超巨漢が逆さまになって、真っ直ぐ地面に突き刺さっている。

立ち上がった俺が覗き込めば、アンドレアの頭部が半分ほど地面にめり込んでいた。

アンドレアはピクリとも動かない。

しかし、そのままバランス良く逆立ちで気絶してやがる。

俺は額の汗を腕で拭ってから溜め息を吐いた。

「うし、動かないな。俺の勝ちだよな」


勝者、アスラン。

凶子、リタイア。

アンドレア、撃破。


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