俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。

ヒィッツカラルド

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【第20章】喧嘩祭り編

20-27【リリィの酒場亭】

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俺がドズルルの町に到着したのは日が落ち始めた時刻だった。日が沈みかけた景色をアキレスの上から眺めている。

丘の上に立つ俺から見て200メートル先に町の明かりが揺らいでいた。山沿いに複数の建物が密集している。

だが、町の規模はガルマルよりも小さそうだ。それに周辺の土地も枯れていた。木々には葉が無く、まるで秋の景色のようだった。風も冷たいせいか、なんだか町の様子も寂しく見える。

「とりあえず、町に入るか……」

俺は乗っているアキレスを進めて町の中に入っていった。

町の中は静かだった。まだ日が落ちたばかりなのに、人影はほとんど見えない。これがソドムタウンなら、娼婦たちや酔っぱらい野郎どもで賑わっている時間帯のはずだ。大人の夜がスタートしたばかりの時間帯である。

いや、ソドムタウンが異常なのか?

あのピンク色な空気に慣れてしまって、俺の感覚も麻痺しているのかも知れない。

「とりあえず、寝床の確保だな」

俺は宿屋を見つけたのでアキレスから降りた。アキレスをトロフィーに戻す。

薄汚れた看板を見上げてみれば、店の名前は『リリィの酒場亭』だった。

なんかちょっとエロイ感じの名前だな。期待しちゃうぞ。いてててぇぇ……。

俺が店の中に入ると数人の客たちが静かに酒を飲んでいた。陰気な客たちが暗い顔でエール酒を煽っていやがる。

「暗いな……」

客だけじゃあない。店内の明かりも薄暗い。なんとも染みっ垂れた店である。店名とは裏腹にエロ差も何もない。

まあ、とにかく、腹も減ったから飯でも食うかな。

「すんません、何か食事を食わせて貰えないか~」

俺がカウンターの前に進むと黒髪でロン毛の女性が振り返った。髪がボサボサで顔がよく見えない。

「今晩の食事は、パンとナマズのスープだけどいいかい?」

俺は女性が振り返って、その顔を見てから驚いた。

「ナ、ナマズ……」

ナマズのスープよりも女性の顔がナマズ顔だったのに驚愕を覚える。

何がリリィの酒場だ……。ナマズの酒場じゃあねえか……。看板に偽りありだぞ。

「あ、ああ、それでいいよ……」

俺はナマズのスープを啜りながらパンを囓った。

「なかなか、ナマズのスープも淡白で旨いな」

ナマズ顔の女将さんが言う。

「この辺は、町の外に泥の沼地が多くてね。ナマズが良く取れるんだよ。まあ、この辺の名物って感じかね~」

「ナマズが名物なのか~」

町の女性は名物に良く似るって言うもんな……。

んん~、自分で言ってて初耳だぜ。

「ナマズのスープ、おかわり有るよ。要らないかい?」

「いや、もうお腹いっぱいだ」

俺と女将の話し声だけが店の中に響いていた。

あとは暖炉の薪がパチパチと燃える音だけが微かに聞こえて来る。やっぱり他の客たちは話もしないで酒をチビチビと飲んでいるだけだった。

俺は女将さんに訊いてみた。

「なんだい、この店は何時もこんなに静かなのかい?」

「ああ、この町の男たちは物静かな人が多くてね。酒を飲んでてもこれだよ」

「へぇ~」

収穫祭で騒いでいたガルマルとは大違いだな。ソドムタウンとは180度違う空気だ。こんなにテンションの低い町もあるんだな~。

「ところで女将さん、ギレンって呪術師の居場所を知らないか?」

「知ってるよ。町外れの森に住んでいる」

女将さんはナマズ顔の眉をしかめながら言った。

「あんたも、誰かを呪い殺したいのかい?」

「いや、違うよ。なんだ、アイツは殺しを引き受けているのか?」

「ああ、ギレンをたずねてくる奴は、金持ちで陰気な奴らばかりだ。金で誰かを呪い殺したい野郎ばかりだよ」

俺は両腕を広げながら笑顔で言う。

「俺がそんなに金持ちで陰気な野郎に見えるかい?」

俺はわざとらしくニコリと微笑んで見せる。詐欺師の微笑みだ。

「だね~。あんたは陽気で前向きな人間に見えるよ。でも、なんでそんなあんたがギレンなって糞野郎を訪ねてくるんだい?」

「あいつの親父に頼まれて、取っ捕まえに来た。逮捕だよ、逮捕」

「本当かい!?」

「ああ、本当だよ」

「それは嬉しい話だね。あのギレンが町外れに住み着いてから、薄気味悪くて仕方ないんだよ。それに──」

それに、何だろう?

「あいつが住んでる森の中は、鬼たちが徘徊していて恐ろしいんだよ」

「鬼だって?」

俺は巨鬼に変化したジオンググの姿を思い出していた。だとすれば、森に徘徊しているって言う鬼たちも、元は人間なのかな?

「そう、鬼だよ。あの森にはギレンの屋敷を護るために鬼たちが徘徊しているんだよ。まあ、森の中に入らなければ何もしてこないんだけどね。でも、やっぱり町の側に鬼が居るってのは怖い話だろ。それに町の評判だって悪くなる」

「確かに、怖い話だな」

なるほどね。ギレンは鬼を屋敷の警護に付けているのか。そうなると、力ずくでギレンを連れ出すのは難しいだろうな。

まあ、難しかろうとやらなきゃならないんだけれどね。それが今回のミッションだもんな。

「あと、女将さん。ペンスって男性を知らないか?」

「ペンス? この町の住人かい?」

「中肉中背の禿げたオッサンだ」

「知らないね~」

すると俺の背後で飲んでいた客が話し掛けて来た。赤い鼻の痩せた男性である。

「ペンスなら知ってるぞ……」

「マジか、オッサン!」

オッサンは酒をチビチビ飲みながら話し出す。

「ペンスは十年前までギレンの屋敷で使えていたコックだよ……」

「コックなのか。今はどこに住んでいるんだ?」

「十年前に死んだぜ……」

「死んだ?」

いやいや、俺はガルマルの町で出会っているぞ。死んでなんていなかった。

「ペンスは娘が居たんだが、その娘さんがガルマルの町に買い物に行った帰りに山賊に襲われて命を落としたんだ……」

唐突に可愛そうな話だな。

でも──。

「それだと、死んだのは娘であって親父じゃあないだろ?」

オッサンはエールを一口飲んでから言う。

「まあ、最後まで話を聞きなよ」

「ああ、分かったよ。話を続けてくれや」

「それで、娘が殺されたペンスは絶望にくれて、その怒りと悲しみをギレンに売ったんだ」

怒りと悲しみを売るだって。なんだ。それ?

「もしかして、その山賊をギレンが呪い殺したのか?」

「ああ、そうだ。その代償にペンスも死んだよ……」

「本当に死んだのか……」

「人を呪えば穴二つだ……」

「どう言う意味だ?」

「呪いは呪った相手に返ってくるってことさ」

じゃあ俺は、本当にガルマルの町で死人と話していたのか?

酔っぱらいのオッサンが述べる。

「ギレンは恨みや怒りをエネルギー源として呪術を操る。ペンスもそのエネルギー源に使われたんだ……」

「なるほどね……」

この話を聞いて分かったことは、ギレンが使う呪術ってやつは、人を不幸にするだけの術のようだな。禁術として封印されるのも分かるような気がしてきたわ。


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