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【最終章】魔王城の決戦編
最終章.28【エルフの凶子】
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ウエイトレス姿の凶子が木刀を肩に背負いながら瓦礫の穴を潜って壊れた建物の室内に入った。自分で殴り飛ばしたグレーターデーモンの一体を追ってだ。
崩れた煉瓦を踏みしめてガラリと音が鳴る。室内は埃っぽい。窓から日の光が木漏れ日のように入ってくるが薄暗かった。
火が灯されていないランプが天井からぶら下がり、キィキィと音を立てて揺れている。
台所とリビングが一緒になった感じの部屋だった。暮らしの中では広い部屋のほうだが、戦うには狭いスペースである。
そして、部屋の中央に置かれたテーブルの向こうにグレーターデーモンが堂々と立っていた。瓦礫の室内に入ってきた凶子を穏やかな眼光で睨んでいる。
グレーターデーモンは、人間やエルフに比べて身長が高い。2メートルちょっと有る身長は、軽くジャンプしたら天井に付きそうである。
そのグレーターデーモンが赤く輝く瞳で凶子を睨み付けながら述べた。
「エルフの乙女にしては、力強い一撃であったな。人間でも、あのパワーは出ないぞ。いったい何故だ?」
凶子が肩に背負っていた木刀を前に突き出した。エルフのヤンキー娘は眉毛の薄い表情をクールに澄まして述べる。
「聖剣、風林火山よ」
「風林火山とな?」
言いながらグレーターデーモンは眼前の椅子に腰掛けた。椅子の背もたれに体重を掛けると木製の椅子が軋んで音を鳴らす。
「かつて切り倒された世界樹の枝から作られた木刀だと聞いているわ」
「この世界で世界樹が切り倒されたのは五千年前だと記憶しているが、そのころからの聖剣か」
「我が家の女系に伝わる聖剣なの。エルフの女しか扱えない剣だから、私が使っているのよ」
前に歩んだ凶子がグレーターデーモンが腰掛ける席の前に立つ。既に剣が届く間合いである。
「その剣が、貴様のステータスを底上げしているのだな」
「ええっ」
答えた凶子が長くて細い足を上げて、前方のテーブルを蹴り上げる。薄汚れたテーブルが勢いよくグレーターデーモンの眼前で跳ねた。
「それっ!」
しかし――。
「ふっ」
鼻で笑うグレーターデーモンが跳ね上がったテーブルの先端を上から叩いた。すると叩かれた衝撃でテーブルの前方が軋み後方が浮き上がった。立ち上がったテーブルが扉のようにグレーターデーモンの姿を隠す。だが、そのテーブルの腹に向かって凶子が木刀で突きを入れた。
「せいっ!」
木刀の先は音も無くテーブルの裏を貫通してグレーターデーモンの顔面を突く。
「ぐふっ!」
刹那、グレーターデーモンの顔面に鉄球でも撃ち込まれたかのような激しい衝撃が轟いた。グレーターデーモンは背筋を背後に反らして後方に吹き飛ぶ。それから壁を二枚ほと突き破り、大通りとは反対側に飛び出し転がった。
「ぬぬっ……、なんたる衝撃だ……。非力なエルフの一撃ではないぞ……」
突かれた頬を押さえながらグレーターデーモンが立ち上がると、自分が飛び出して来た穴から凶子が歩み出て来る。
長い金髪、妖精耳。シャープな輪郭に、切れ長の瞳。ウエイトレス姿以外は、どこにでも居そうなエルフのヤンキー娘だ。それが上位悪魔のグレーターデーモンを吹き飛ばしたのだ。
しかも、二回もだ。疑う余地はない。
「このエルフ娘、出来る!」
凶子の全身から緑色の魔力が揺らぎ出た。それは大自然の神秘と色が重なって見える。妖精のマナだろう。
「理解してもらえたかな、私の実力が?」
凶子がブルンっと木刀を横に振るうと突風が巻き起こる。周囲に風が吹き荒れた。真横にあった瓦礫の山を薙ぎ払い綺麗な空き地に変えてしまう。
「マジックアイテムに頼った力量なんぞ、紛い物だ!!」
グレーターデーモンが両手を前に突き出し呪文を唱え始めた。前方に二つの赤い魔法陣が渦巻くように並ぶ。その魔法陣から炎が漏れ出ていた。魔界の獄炎だ。
「食らえ、ダブルナパームボール!!」
発射される二つの火球はファイアーボールの上位魔法である。しかも、それが同時に二発。
だが、凶子は逆水平に木刀を振るうと、一文字に火球を同斬する。すると二つの火球が凶子の眼前で二連に爆発した。
しかし、爆炎が凶子を包む。そして、グレーターデーモンが自ら爆炎に飛び込んだ。
「どうせ、耐火にも優れているのだろう!」
爆炎に飛び込んだグレーターデーモンが人影に向かって中段回し蹴りを放った。力強い脚力に蹴られた人影が爆炎の中から蹴り飛ばされる。
「木刀で防いだか!」
爆炎から飛び出た凶子が10メートルほど先に着地した。ウエイトレスの制服は焦げているが綺麗な金髪は煤けてもいなかった。そのままグレーターデーモンを睨み付けている。
凶子が木刀を両手で前に構えて凛々しく爆炎を睨んでいると、そこからグレーターデーモンも飛び出して来た。
「火炎が効かぬなら冷気でどうだ!」
片手に氷の槍を作ったグレーターデーモンが投擲フォームでブリリアントジャペリンの魔法を繰り出した。凶子に氷の槍が飛び迫る。
「それっ!!」
凶子が頭上まで振り上げた木刀を真っ直ぐ下に振り下ろす。その切っ先がブリリアントジャベリンの先端を打ち殴った。するとパリーーンっと澄んだ音が鳴り響くと魔法の槍が氷の散りと化して砕け散る。その破片もすべて蒸発して消え去った。
「ならば、ライトニングキャノン!」
今度は上位の雷撃魔法だ。
その飛来する雷撃魔法を凶子は斜め下から掬い上げるように逆袈裟斬りに打つ。弾かれた雷撃魔法は、昇り龍のように天に向かって飛んで行った。そして空中で爆散して雷音を轟かせて消える。
「た~ま屋~♡」
「己れ、嘲るか!!」
グレーターデーモンが腰を落として両拳を強く握り絞めた。すると灰色だった両拳が鋼のような黒い色に変わる。鋼鉄化の強化魔法だ。
「魔法が効かぬなら、殴り殺してやろうぞ!!」
ダッシュ、からのストレートパンチ。
その鉄拳を凶子は木刀を盾に受け止めた。衝撃に力んだ身体が押し戻される。踏ん張った足が砂埃を立てながら後方に2メートルほと滑った。
グレーターデーモンがニヤリと微笑む。
「魔法に強いが、物理攻撃には絶対では無いようだな!」
凶子がつまらなそうに口を曲げて答えた。
「世の中、万能なんて無いのよ!」
「ならば、弱点を攻めるのみだ!!」
グレーターデーモンが拳の乱打で攻めて来た。左右の拳を激しく律動させて攻めて来る。アイアンフックの連打だった。
「ドラドラドラドラっ!!」
「ふふふふふふふふっ!!」
その乱打を凶子は木刀で受け流したり、体術で躱して見せる。だが、その防御に余裕は見て取れなかった。必死に乱打を耐えて躱している。
その必死さからグレーターデーモンにも悟れた。勝機、打撃を入れれば勝てる、と──。
故にグレーターデーモンは底無しの体力に物を言わせて拳の乱打を続けた。右左右左右左と攻撃の回転を速める。
「ドラドラドラドラドラドラドラドラドラっ!!」
拳の乱打は攻撃回数を重ねる程に速度を増していった。凶子の躱す回数が減り、木刀で受ける回数が増え始めている。
「チッ……」
押されている。凶子が押されて、グレーターデーモンが押している。
その戦況は躊躇に感じられた。
「勝てる。勝てる勝てる勝てる勝てる、勝ッ!!」
グレーターデーモンには、このまま押しきれると思えた。自分が有利だと感じられた。
刹那、瞬間の時の中でグレーターデーモンの瞳が強く輝く。
隙──。
防御に励む凶子の顎先に隙を察知する。ピンポイントで光って見えた。エルフ娘のシャープな顎先に隙が見えたのだ。
そこに拳を打ち込めばKO出来る。そして、今なら打ち込める絶好のタイミングだと悟れていた。
瞬時、グレーターデーモンの身体が自動で動いていた。好機に向かって全力のアッパーカットを打ち込む。
狙いは隙である顎先だ。
完璧なスピードで、完璧なパンチを打ち込んだ。タイミングも完璧だった。
フルスイングのアッパーカット。
そして、鉄腕がエルフの顎先にヒットする瞬間、勝利の言葉が脳裏にデカデカと浮かんだ。口からも言葉が漏れる。
「勝った!!」
確実な勝利。───の、筈だった。
だが、アッパーカットが外れた。凶子が背筋を反らして拳を躱す。その回避にアッパーカットを躱されたグレーターデーモンの背筋が真っ直ぐ天に向かって伸び切っていた。
そして、狙いを外した拳が凶子の眼前を下から上へと過ぎると同時に木刀がグレーターデーモンの顔面を叩いていた。
「ぬあっ!!??」
視界に火花が散った。鼻血が散る。すべてが揺れる。
躱された?
反撃された?
カウンター?
勝利は?
幾つもの疑問がグレーターデーモンの頭を過った。
更に──。
「えいっ!」
凶子が木刀でグレーターデーモンの脛を強打した。乾いた音が響いて聴こえる。
「かっ!?」
グレーターデーモンの全身に初めて感じるほどの激痛が駈け上がる。脛から激痛の電気が神経を走り昇り脳天から抜けて行く。
「ぐがぁぁあああ!!!」
悪魔の口から苦痛が吐き出された。グレーターデーモンは片足で立ったまま脛を引き寄せ両手で押さえる。木刀で打たれた脛は肉が割けて白い骨が見えていた。
「とうっ!」
続いてグレーターデーモンの喉仏を狙った木刀での突き。喉に木刀の先がズブリと突き刺さった。
「ぐはっ!?」
今度は疲れた喉を押さえながらグレーターデーモンが背筋を伸ばしながら後ろによろめいた。口から血と涎を吐き散らす。
そこに──。
「キーーンっ!」
木刀による救い上げの一振りを股間に打ち込む。金的だ。エグい。
「ぐはっ!!」
グレーターデーモンは両目を剥きながら大きく口を開くと前のめりに俯く。
今度は両手で股間を押さえていた。今までに感じたことがない激痛が新たな激痛に更新される。涙が出そうであった。
ヤンキーエルフ娘が舌を可愛らしく出しながらお茶目に言う。
「アスランが言ってたの、男は股間が弱いって」
「い、いらんことを教わるな……」
話ながら凶子がグレーターデーモンの背後に素早く回り込んだ。側面を取る。
「あと、ここも弱いって」
ズブリっ!!
「ひぃやん!!」
グレーターデーモンが可愛らしい声で悲鳴を上げた。今度は凶子がグレーターデーモンの肛門を木刀で突き刺したからだ。風林火山の聖剣がズブリと突き刺さっている。
「あ、ああ、ああああんん!!」
仰け反りながら天を仰ぐグレーターデーモンがピンク色な声で呻いていた。そのお尻には聖剣風林火山が10センチほと突き刺さっている。結構深い。
「どう?」
訊きながら凶子が木刀を持った手首をグリリと捻る。
「あああああんん~~ん♡」
更に呻くグレーターデーモン。でも、その声色は何だか幸せそうだった。甘美に溢れている。
「よっと……」
凶子が木刀をグレーターデーモンの肛門から引き抜くと、悪魔はうつ伏せに倒れこんだ。グレーターデーモンはお尻を高く上げながら痙攣している。それ以上は動く気配も戦意も感じられなかった。
グレーターデーモンの表情は力無く緩んでいたが、何故か幸せそうにも伺えた。恍惚にも戦意を失っている。
瞳をパチクリさせる凶子が首を傾げながら言う。
「これって、私の勝ちなのかな?」
グレーターデーモンvsエルフの凶子。
勝者、凶子。
グレーターデーモン、幸福なままに戦意喪失。そのまま魔界に一人で帰る。
崩れた煉瓦を踏みしめてガラリと音が鳴る。室内は埃っぽい。窓から日の光が木漏れ日のように入ってくるが薄暗かった。
火が灯されていないランプが天井からぶら下がり、キィキィと音を立てて揺れている。
台所とリビングが一緒になった感じの部屋だった。暮らしの中では広い部屋のほうだが、戦うには狭いスペースである。
そして、部屋の中央に置かれたテーブルの向こうにグレーターデーモンが堂々と立っていた。瓦礫の室内に入ってきた凶子を穏やかな眼光で睨んでいる。
グレーターデーモンは、人間やエルフに比べて身長が高い。2メートルちょっと有る身長は、軽くジャンプしたら天井に付きそうである。
そのグレーターデーモンが赤く輝く瞳で凶子を睨み付けながら述べた。
「エルフの乙女にしては、力強い一撃であったな。人間でも、あのパワーは出ないぞ。いったい何故だ?」
凶子が肩に背負っていた木刀を前に突き出した。エルフのヤンキー娘は眉毛の薄い表情をクールに澄まして述べる。
「聖剣、風林火山よ」
「風林火山とな?」
言いながらグレーターデーモンは眼前の椅子に腰掛けた。椅子の背もたれに体重を掛けると木製の椅子が軋んで音を鳴らす。
「かつて切り倒された世界樹の枝から作られた木刀だと聞いているわ」
「この世界で世界樹が切り倒されたのは五千年前だと記憶しているが、そのころからの聖剣か」
「我が家の女系に伝わる聖剣なの。エルフの女しか扱えない剣だから、私が使っているのよ」
前に歩んだ凶子がグレーターデーモンが腰掛ける席の前に立つ。既に剣が届く間合いである。
「その剣が、貴様のステータスを底上げしているのだな」
「ええっ」
答えた凶子が長くて細い足を上げて、前方のテーブルを蹴り上げる。薄汚れたテーブルが勢いよくグレーターデーモンの眼前で跳ねた。
「それっ!」
しかし――。
「ふっ」
鼻で笑うグレーターデーモンが跳ね上がったテーブルの先端を上から叩いた。すると叩かれた衝撃でテーブルの前方が軋み後方が浮き上がった。立ち上がったテーブルが扉のようにグレーターデーモンの姿を隠す。だが、そのテーブルの腹に向かって凶子が木刀で突きを入れた。
「せいっ!」
木刀の先は音も無くテーブルの裏を貫通してグレーターデーモンの顔面を突く。
「ぐふっ!」
刹那、グレーターデーモンの顔面に鉄球でも撃ち込まれたかのような激しい衝撃が轟いた。グレーターデーモンは背筋を背後に反らして後方に吹き飛ぶ。それから壁を二枚ほと突き破り、大通りとは反対側に飛び出し転がった。
「ぬぬっ……、なんたる衝撃だ……。非力なエルフの一撃ではないぞ……」
突かれた頬を押さえながらグレーターデーモンが立ち上がると、自分が飛び出して来た穴から凶子が歩み出て来る。
長い金髪、妖精耳。シャープな輪郭に、切れ長の瞳。ウエイトレス姿以外は、どこにでも居そうなエルフのヤンキー娘だ。それが上位悪魔のグレーターデーモンを吹き飛ばしたのだ。
しかも、二回もだ。疑う余地はない。
「このエルフ娘、出来る!」
凶子の全身から緑色の魔力が揺らぎ出た。それは大自然の神秘と色が重なって見える。妖精のマナだろう。
「理解してもらえたかな、私の実力が?」
凶子がブルンっと木刀を横に振るうと突風が巻き起こる。周囲に風が吹き荒れた。真横にあった瓦礫の山を薙ぎ払い綺麗な空き地に変えてしまう。
「マジックアイテムに頼った力量なんぞ、紛い物だ!!」
グレーターデーモンが両手を前に突き出し呪文を唱え始めた。前方に二つの赤い魔法陣が渦巻くように並ぶ。その魔法陣から炎が漏れ出ていた。魔界の獄炎だ。
「食らえ、ダブルナパームボール!!」
発射される二つの火球はファイアーボールの上位魔法である。しかも、それが同時に二発。
だが、凶子は逆水平に木刀を振るうと、一文字に火球を同斬する。すると二つの火球が凶子の眼前で二連に爆発した。
しかし、爆炎が凶子を包む。そして、グレーターデーモンが自ら爆炎に飛び込んだ。
「どうせ、耐火にも優れているのだろう!」
爆炎に飛び込んだグレーターデーモンが人影に向かって中段回し蹴りを放った。力強い脚力に蹴られた人影が爆炎の中から蹴り飛ばされる。
「木刀で防いだか!」
爆炎から飛び出た凶子が10メートルほど先に着地した。ウエイトレスの制服は焦げているが綺麗な金髪は煤けてもいなかった。そのままグレーターデーモンを睨み付けている。
凶子が木刀を両手で前に構えて凛々しく爆炎を睨んでいると、そこからグレーターデーモンも飛び出して来た。
「火炎が効かぬなら冷気でどうだ!」
片手に氷の槍を作ったグレーターデーモンが投擲フォームでブリリアントジャペリンの魔法を繰り出した。凶子に氷の槍が飛び迫る。
「それっ!!」
凶子が頭上まで振り上げた木刀を真っ直ぐ下に振り下ろす。その切っ先がブリリアントジャベリンの先端を打ち殴った。するとパリーーンっと澄んだ音が鳴り響くと魔法の槍が氷の散りと化して砕け散る。その破片もすべて蒸発して消え去った。
「ならば、ライトニングキャノン!」
今度は上位の雷撃魔法だ。
その飛来する雷撃魔法を凶子は斜め下から掬い上げるように逆袈裟斬りに打つ。弾かれた雷撃魔法は、昇り龍のように天に向かって飛んで行った。そして空中で爆散して雷音を轟かせて消える。
「た~ま屋~♡」
「己れ、嘲るか!!」
グレーターデーモンが腰を落として両拳を強く握り絞めた。すると灰色だった両拳が鋼のような黒い色に変わる。鋼鉄化の強化魔法だ。
「魔法が効かぬなら、殴り殺してやろうぞ!!」
ダッシュ、からのストレートパンチ。
その鉄拳を凶子は木刀を盾に受け止めた。衝撃に力んだ身体が押し戻される。踏ん張った足が砂埃を立てながら後方に2メートルほと滑った。
グレーターデーモンがニヤリと微笑む。
「魔法に強いが、物理攻撃には絶対では無いようだな!」
凶子がつまらなそうに口を曲げて答えた。
「世の中、万能なんて無いのよ!」
「ならば、弱点を攻めるのみだ!!」
グレーターデーモンが拳の乱打で攻めて来た。左右の拳を激しく律動させて攻めて来る。アイアンフックの連打だった。
「ドラドラドラドラっ!!」
「ふふふふふふふふっ!!」
その乱打を凶子は木刀で受け流したり、体術で躱して見せる。だが、その防御に余裕は見て取れなかった。必死に乱打を耐えて躱している。
その必死さからグレーターデーモンにも悟れた。勝機、打撃を入れれば勝てる、と──。
故にグレーターデーモンは底無しの体力に物を言わせて拳の乱打を続けた。右左右左右左と攻撃の回転を速める。
「ドラドラドラドラドラドラドラドラドラっ!!」
拳の乱打は攻撃回数を重ねる程に速度を増していった。凶子の躱す回数が減り、木刀で受ける回数が増え始めている。
「チッ……」
押されている。凶子が押されて、グレーターデーモンが押している。
その戦況は躊躇に感じられた。
「勝てる。勝てる勝てる勝てる勝てる、勝ッ!!」
グレーターデーモンには、このまま押しきれると思えた。自分が有利だと感じられた。
刹那、瞬間の時の中でグレーターデーモンの瞳が強く輝く。
隙──。
防御に励む凶子の顎先に隙を察知する。ピンポイントで光って見えた。エルフ娘のシャープな顎先に隙が見えたのだ。
そこに拳を打ち込めばKO出来る。そして、今なら打ち込める絶好のタイミングだと悟れていた。
瞬時、グレーターデーモンの身体が自動で動いていた。好機に向かって全力のアッパーカットを打ち込む。
狙いは隙である顎先だ。
完璧なスピードで、完璧なパンチを打ち込んだ。タイミングも完璧だった。
フルスイングのアッパーカット。
そして、鉄腕がエルフの顎先にヒットする瞬間、勝利の言葉が脳裏にデカデカと浮かんだ。口からも言葉が漏れる。
「勝った!!」
確実な勝利。───の、筈だった。
だが、アッパーカットが外れた。凶子が背筋を反らして拳を躱す。その回避にアッパーカットを躱されたグレーターデーモンの背筋が真っ直ぐ天に向かって伸び切っていた。
そして、狙いを外した拳が凶子の眼前を下から上へと過ぎると同時に木刀がグレーターデーモンの顔面を叩いていた。
「ぬあっ!!??」
視界に火花が散った。鼻血が散る。すべてが揺れる。
躱された?
反撃された?
カウンター?
勝利は?
幾つもの疑問がグレーターデーモンの頭を過った。
更に──。
「えいっ!」
凶子が木刀でグレーターデーモンの脛を強打した。乾いた音が響いて聴こえる。
「かっ!?」
グレーターデーモンの全身に初めて感じるほどの激痛が駈け上がる。脛から激痛の電気が神経を走り昇り脳天から抜けて行く。
「ぐがぁぁあああ!!!」
悪魔の口から苦痛が吐き出された。グレーターデーモンは片足で立ったまま脛を引き寄せ両手で押さえる。木刀で打たれた脛は肉が割けて白い骨が見えていた。
「とうっ!」
続いてグレーターデーモンの喉仏を狙った木刀での突き。喉に木刀の先がズブリと突き刺さった。
「ぐはっ!?」
今度は疲れた喉を押さえながらグレーターデーモンが背筋を伸ばしながら後ろによろめいた。口から血と涎を吐き散らす。
そこに──。
「キーーンっ!」
木刀による救い上げの一振りを股間に打ち込む。金的だ。エグい。
「ぐはっ!!」
グレーターデーモンは両目を剥きながら大きく口を開くと前のめりに俯く。
今度は両手で股間を押さえていた。今までに感じたことがない激痛が新たな激痛に更新される。涙が出そうであった。
ヤンキーエルフ娘が舌を可愛らしく出しながらお茶目に言う。
「アスランが言ってたの、男は股間が弱いって」
「い、いらんことを教わるな……」
話ながら凶子がグレーターデーモンの背後に素早く回り込んだ。側面を取る。
「あと、ここも弱いって」
ズブリっ!!
「ひぃやん!!」
グレーターデーモンが可愛らしい声で悲鳴を上げた。今度は凶子がグレーターデーモンの肛門を木刀で突き刺したからだ。風林火山の聖剣がズブリと突き刺さっている。
「あ、ああ、ああああんん!!」
仰け反りながら天を仰ぐグレーターデーモンがピンク色な声で呻いていた。そのお尻には聖剣風林火山が10センチほと突き刺さっている。結構深い。
「どう?」
訊きながら凶子が木刀を持った手首をグリリと捻る。
「あああああんん~~ん♡」
更に呻くグレーターデーモン。でも、その声色は何だか幸せそうだった。甘美に溢れている。
「よっと……」
凶子が木刀をグレーターデーモンの肛門から引き抜くと、悪魔はうつ伏せに倒れこんだ。グレーターデーモンはお尻を高く上げながら痙攣している。それ以上は動く気配も戦意も感じられなかった。
グレーターデーモンの表情は力無く緩んでいたが、何故か幸せそうにも伺えた。恍惚にも戦意を失っている。
瞳をパチクリさせる凶子が首を傾げながら言う。
「これって、私の勝ちなのかな?」
グレーターデーモンvsエルフの凶子。
勝者、凶子。
グレーターデーモン、幸福なままに戦意喪失。そのまま魔界に一人で帰る。
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