スケルトン商人と獣人メイドの異世界転移繁盛記(インフィニティ)

ヒィッツカラルド

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189【レスリング】

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 レスリング――。

 大きく分けてレスリングには、アマとプロが存在している。アマチュアレスリングことアマレスと、プロフェッショナルレスリングことプロレスだ。

 アマチュアレスリングは、五輪の種目にも選ばれている古代ローマから続く古いスポーツである。

 一方、プロレスは、アマレスとは完全にルールが異なるスポーツであった。アマレスを基礎にビジネス化したショースポーツである。

 アマレスは丸い円が引かれたマットの上でポイントを競い合うが、プロレスは四角いリングの上で勝敗だけを求めて戦われる。

 アマレスでは打撃技が反則なのだが、プロレスは殴る蹴るが許された格闘技なのだ。何よりお客を喜ばせるように台本が存在している。ショービジネスなのだ。これを格闘技と認めない者たちも少なくない。

 今回は、プロレスの話は置いといて、アマレスにスポットを当てて話を進めよう。

 そして、アマレスは二つの種目が存在している。それが、フリースタイルとグレコローマンスタイルである。

 一般的にフリースタイルは、軽量級の選手が選択する種目で、グレコローマンは重量級の選手が選択する場合が多い。

 男子フリースタイルの階級は、57kg級、65kg級、74kg級、86kg級、97kg級、125kg級である。

 女子フリースタイルの階級は、50kg級、53kg級、57kg級、62kg級、68kg級、76kg級――である。

 一方のグレコローマンは、60kg級、67kg級、77kg級、87kg級、97kg級、130kg級で、女子にはグレコローマンの種目すら無い。

 さらに、フリースタイルとグレコローマンでは、大きく異なるルールがある。それは、フリースタイルは対戦相手のどの部位を掴んでも良いのだが、グレコローマンのほうは、上半身しか掴んではならないというルールがあるのだ。

 このルールの違いから、フリースタイルはスピードを有するほうが有利に戦え、グレコローマンのほうは、パワーが強いほうが有利とされている。

 だから、フリースタイルの選手は軽量級が多く、グレコローマンは重量級が多いとされているのだ。

 そして、現在、四郎の眼前に立つアダム・ジョイたる白人男性は、大柄の巨漢である。おそらくはグレコローマンを選択するのが普通のような選手だった。体重も130キロには達しているだろう。

 なのに、彼の初動は片足タックルで攻めてきた。それは、グレコローマンには無いフリースタイルの技である。

 要するに、アダム・ジョイはフリースタイルの経験者だ。あの巨体にフリースタイルの技を使われて掴まれたら一溜りもない。かなり不利へと持っていかれるだろう。

「アマレスのフリースタイルかい?」

「五年前まで、五輪強化選手だった。しかし、五輪に出場機会は一度も回って来なかったがな」

「それで、地下プロレスに?」

「そっちのほうが、性に合っていた」

「対戦相手として、申し分ないな」

「元チャンピオンに、そう言われれば光栄だ――な!」

 唐突である。

 アダム・ジョイは、後ろ足の爪先を軸に前へと倒れ込むように姿勢を崩した。そのまま再び四郎の片足を掴みに挑む。その動きは流れるように自然でスムーズだった。

 ユックリと進む時の中で、四郎の右脚が目前に迫る。伸ばした両手が足首を捕まえようとした瞬間であった。

 四郎の爪先が前に跳ねる。シューズの先端がアダム・ジョイの顔面に迫った。

「ッ!!!」

 咄嗟のヘッドスピン。アダム・ジョイは全身を捻りながら首を反らした。間一髪のところで四郎の掬い爪先蹴りを紙一重で回避する。

 しかし、槍のような爪先が頬を掠めた。それで僅かに出血する。

「んんんぬ!!」

 リングを転がりながら間合いを築くアダム・ジョイは瞬時に立ち上がった。直ぐに四郎を睨んだが、四郎は棒立ちのまま微笑んでいる。

「いい反応だな、おい!」

「そちらこそ、ディフェンスではなく反撃で返してくるとは格が違いますな……」

「褒めるな。引退した、ただのオッサンだ」

 アダム・ジョイは疑った。これが引退して十年が過ぎた選手だとは思えなかった。絶対に、引退後も休まずトレーニングに励んでいたのは間違いないだろう。

「ならば――」

 三度、片足タックルを狙う。

 腰の高さの中腰で間合いを詰めると急降下して、地面と同じ高さで足元に滑り込む。

 しかし、今度は這う低さから跳ね上がり腰に掴みかかった。

 片足タックルに見せかけたフロントタックルだ。相手の腹を肩で押しながら両手を相手の膝関節の裏側に忍び込ませて強く弾いた。

 アマレスでは、両足タックルと呼ばれている基本技。だが、片足タックル同様に、決まれば汎用性が高い技である。次の技に繋がりやすいのだ。

 だが……。

「倒れない……。切られた……」

 四郎は完璧なディフェンスで両足タックルを防いでいた。

 体を真っ直ぐに伸ばして体を前方向に倒す。相手の背中に両手を添えていた。膝裏を掴まれ引かれた両足も伸ばして持って行かせない。その体勢で相手を真下に押し潰して動きを封じていた。

「フ、フリースタイルを学んでいるのか……?」

「柔道でも、同じような切り返しを教えている」

 そして、四郎は自分の胸を軸にアダム・ジョイの背中で回転すると身体の向きを揃えた。そこから首に両手を回して締め上げる。両足を使って胴も固定する。

「胴締めスリーパーだ!」

「ぐぬぬぬ!!!」

 締め上げる四郎は、アマレスに対してグランドで対抗していた。首を閉められているアダム・ジョイの顔が見る見る赤く染まっていく。そして、今度は青く変わり始めた。

 すると、アダム・ジョイの全身から力が抜け落ちる。白目を剥いて、口から泡を噴いていた。

 どうやら気絶したようだ。

「さて、残り二戦だな――」

 四郎はアダム・ジョイの首から腕を離した。絞め技から解放する。

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