スケルトン商人と獣人メイドの異世界転移繁盛記(インフィニティ)

ヒィッツカラルド

文字の大きさ
244 / 261

236【変身シェイプアップ】

しおりを挟む
 鼻と口から血を流すアイアンバッファローの顔には痣ができていた。シローの攻撃で刻まれた痣である。

 アイアンバッファローは口元から流れる鮮血を太い毛むくじゃらの片腕で拭いながら立ち上がると、親指を鼻に当てて「ふっ!」っと手鼻を吹く。地面にねっとりとした血の塊が飛び散った。

 そして、首筋を解すように回すと、冷静な眼差しで髑髏の魔人を見つめながら言う。

「今、俺に足りていないのはスピードだな……」

 シローは腰に両拳を当てながら、チンピラのようにだらしない姿勢で立ち尽くして返した。

『ならば、どう対策する、とっちゃん坊や?』

 その問いかけを聞いたアイアンバッファローは、二丁斧を持った両腕を脱力させ、ダラリと下げた。そして、両足を揃えて垂直にステップを刻み始める。

『……?』

 垂直ジャンプのステップは、まるで準備運動。その上下運動に、アイアンバッファローのふくよかな贅肉がタプタプと弾んでいた。

『今さら、準備運動かい?』

「まさか――」

 アイアンバッファローのステップ運動は、段々と高さを増していく。爪先だけで跳ねているはずなのに、すでに1メートルほど跳ねていた。

 そして、唐突に大ジャンプで高く跳ね上がる。その高さは10メートルに達していた。シローや観客たちは、飛び上がったアイアンバッファローを見上げていた。

 すると、上空に舞ったアイアンバッファローがゆっくりと降りてきた。その速度は緩やかだった。まるで綿雪が降ってくるように穏やかな速度である。

『なんだ?』

 首を傾げるシロー。彼から見ても違和感のある動きに見えた。不自然だった。

 両腕を広げ、十字の姿勢で降ってきたアイアンバッファローが爪先だけで静かに着地する。その姿は、まるで別人のように変わっていた。もはや変身に近い。

『どうなってる……?』

 天から舞い降りたアイアンバッファローが、痩せているのだ。上空に舞い上がるまでは肥満体のオヤジのような体型だった男が、スマートな筋肉質の体型に痩せていた。まるで一瞬芸のトリックのように痩せ細ってしまっている。

「これで、よし――」

 アイアンバッファローは痩せたウエストに合わせてズボンのベルトを締め直す。

 ちゃんこ型の体型が、逆三角形のマッチョマンに変わっていた。タプタプだった腕も足元も引き締まっている。腹筋なんて八つに割れていた。まったくの別人の体型である。

『上空で、何があったんだ……』

「スピードを上げるために、少しシェイプアップしてきたぜ!」

『どういう体質をしてやがるんだよ……?』

「スケルトンに体質のことを言われたくないな!」

『御尤も……』

「では、第二ラウンド、参る!!」

 アイアンバッファローが前に跳ねた。足元の砂が爆発したように弾けて飛んだ。ダンっと音が鳴る。

「うらぁぁああああ!!!」

 低空飛行で迫るアイアンバッファローが、瞬時にシローの眼前まで接近する。その速度は瞬間的だった。

 そして、二連同時の水平斬りで髑髏の首筋を狙う。その太刀筋は、明らかにスピードアップしていた。痩せる前とは段違いである。

「ふっ!!」

 突風の二丁斧が猛スピードで迫ってきた。

『速いっ!?』

 シローは咄嗟に体を落として二連の斬撃を回避した。しかし、髑髏の顔面に膝蹴りが突き立てられる。シローは顔の前に両腕を並べて膝蹴りを受け止めた。

 だが、そのパワーにガードが弾かれた。背を反らしてバンザイするような体勢になってしまう。

『クソッ!』

 そこにアイアンバッファローの戦斧が縦斬りでシローの頭部を狙う。その一振りが髑髏の額を掠めて割った。頭蓋骨の額がパッカリと割れる。傷は深い。

 本来なら致命傷の一撃だったであろう。だが、アンデッドのシローには掠り傷である。シローは構うことなく、反撃の正拳突きを上段に放った。

『せいっ!』

「おっと!」

 アイアンバッファローは反撃の上段正拳突きをヘッドスピンで回避する。しかも、回避と同時に一步踏み込んで肘鉄を突き立てた。硬い肘でシローの剥き出しの肋骨を突き押す。メキメキっと肋骨に複数の罅が走った。これも普通ならば致命傷だろう。

『なぬっ!?』

 シローが驚愕していると、今度はアイアンバッファローがサイドキックで骸骨の背骨を腹部から蹴り飛ばす。その一撃でくの字に曲がったシローが吹っ飛んだ。闘技場の砂の上を骸骨が丸まって転がっていく。

「どうだい、骸骨野郎!」

『かはぁ……』

 地面に這いつくばりながら、シローは驚愕していた。おそらく瞼が残っていたのならば、見開いて驚いていただろう。

『おいおいおい……』

 この異世界に来て以来、久々だろう。否、初めてかもしれない。相手の攻撃を食らって、哀れにも四身を地につけるなんて初めてかもしれない。

 屈辱的――。

 だが、感激――。

 出会いに感謝した。

『素晴らしい……。これほどの相手は久々だぜ……』

 亡者が墓から這い出てくるようにゆっくりと立ち上がるシローは、幽鬼のごとく恨めしい眼差しでアイアンバッファローを見つめている。髑髏の眼窩の奥に青白い炎が静かに揺らめいて見えた。

 その眼差しに気づいたアイアンバッファローの背筋に冷たいものが走る。だがまだ彼は、それが恐怖心とは気づいていない。闘争に滲み出たアドレナリンが、恐怖心を麻痺させていたからだ。

「どうでい、威力を落として速度を上げた俺の攻撃はよ!」

『素晴らしいバランスだ。攻防に柔軟になったではないか』

「そうだろう!」

 アイアンバッファローが二丁斧を構える。

 体は斜め、大股を開いて腰を落とし、左手の戦斧は下段、右手の戦斧は上段に構える。天地二極の構えだ。

 方やシローは構えを見せない。肩を落として脱力している。その姿からは闘争心が欠けていた。まるで幽鬼が立ち尽くしているかのような姿である。

 しかし、アイアンバッファローはお構いなしに飛びかかる。闘争心を限界まで燃やして攻め立てた。

「うりゃぁあああ!!!」

 絶叫と共に二丁斧がシローの頭部と胸元を狙って打ち込まれる。その速度も極上。的確で精密な連撃だった。

 しかし――。

「えっ!?」

 アイアンバッファローの体が回っていた。空を見ている。

 それに気づいた時には、後頭部を地面に激突させていた。

「がはぁ!!??」

 謎の反撃である。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

処理中です...