スケルトン商人と獣人メイドの異世界転移繁盛記(インフィニティ)

ヒィッツカラルド

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最終話【新たなる旅へ】

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 俺がフランスル王国に足を運ぶようになってから五年が過ぎた。俺の不老不死生活も同じだけ過ぎたことになる。

『ふぅ~~……』

 そして、フラン・モンターニュの大使館建設も終わり、洋風の城と和風の旅館が合体したような、少し風変わりな施設が完成したのである。

 洋風の城では政治の話が進み、和風の旅館には客人を招いて寛いでもらう。そうして外交を廻していた。それと伴い、俺の黄金集めの商売も好調に繁盛していた。

 建物の規模的には立派な城塞だ。観光施設としてもお客たちには楽しんで行ってもらえるだけの規模だと思える。

 事実、オープン以来大繁盛していた。連日満員御礼なのだ。日々、あちらこちらの貴族たちが押し寄せては大金を落としていってくれている。

 それと共にピエドゥラ村も、片田舎の村から町へと変貌していた。

 あちらこちらに酒場や宿屋が建設されると、続いて貴族たちが土地を借り受け、別荘などを建て始めた。それに商人たちも続いたのだ。多くの店舗が増えた。

 見る見るうちにピエドゥラ村の土地相場は急上昇して、ヴァンピール男爵は富豪貴族の仲間入りを果たしていた。もう、ウッハウハだろう。

 村も豊かになった。それと同時にフランスル王国全土から獣人たちも集まってきて、ここでは獣人差別もなくなっていた。獣人たちにとっては平和な楽園と化している。

 俺は無人の露天風呂に浸かりながら月夜を見上げて呟く。

『あれから五年かぁ~……』

 七つの月光を眺めながら俺はいろいろと思い出していた。長くて短かった五年間――まあ、結構楽しかったと思う。

 現代では希望を見失い、ただ気ままに過ごしていた人生だったが、この異世界に来られるようになってからは戦いに商売にと、やることはたくさんあったと思う。率直に楽しかった。

 ウロボロスの書物――。

 まだまだ謎が多いが、この本には人生を救われたと思っている。

 だが、最近では不安も感じ始めていた。

 それは、旅の最初っから一緒だったチルチルのことである。

 俺がチルチルと知り合ったころ――チルチルはまだ十歳だった。それが今では十五歳である。

 彼女は立派に成長を遂げている。身長も伸びて150センチぐらいにはなっただろうか。ただ、胸のサイズはあまり成長を遂げていない。全身的にスレンダーな体型のままだ。

 だが、成長と共にチルチルは大人びていった。彼女も化粧を嗜むようになっていた。最近では、薄い胸にブラまで付けている。

 俺が苦手な商売に関しては、彼女がほとんど回してくれているし、俺の身の回りの面倒もほとんど彼女が見てくれている。俺は掃除洗濯が苦手だから本当に助かっているとしか言えない。

 もう、チルチルは完璧なメイドさんなのだ。

 いや、メイドと呼ぶよりも、完全無欠の女房である。

 俺の月々のお小遣いですらチルチルが管理してくれていた。正直言って、微塵も頭が上がらない。完全に俺はチルチルの尻の下に敷かれていた。座布団亭主と代わらないのだ。

 でも、そのような生活に不満は何もない。それどころか、生活が安定していて心地良さすら感じられていた。

 たぶん、チルチルなしには私生活は送れないかもしれない。それだけチルチルが側にいることが普通になっていた。それが当然だと思えた。

 だから、怖いのだ――。

 今なら祖父である先代のウロボロスの権利者、鹿羽一郎が権利を捨てて自害した理由が分かってきた。

 ウロボロスの書物の不老不死は、呪いだろう。

 この呪いは切なくも辛い。哀れで残酷だ。

 すべての知人を――。

 すべての友を――。

 すべての家族を――。

 すべての恋人を――。

 ――見送らなければならないのだ。

 自分だけが時に留まり、自分だけが老いない。

 周りの人々が老いていくのを、ゆっくりと確実に眺めながら見送るしかできないのだ。

 そう、俺だけが死なないからだ。周りの人々だけが先に亡くなって行く。

 それが、ウロボロスの呪い。不老不死の呪いなのだ。

 おそらく祖父一郎は、それに耐えられなくなり自害を選んだのだと思う。

『俺は、時の流れに逆らい続けられるのだろうか……』

 俺が露天風呂に浸かりながら不安を抱いていると、誰かが浴室に入ってくる。

 湯煙に包まれていたのはチルチルだった。裸にタオルを巻いて小さな胸元を隠している。

 チルチルは少し恥ずかしげに言った。

「シロー様、ご一緒してもよろしいでしょうか?」

 俺は即答する。

『駄目だろ。ここは混浴じゃないぞ、男湯だ。出て行け!』

「ご無体な!?」

『道理には合っている!』

「大丈夫です。入口には貸し切りの看板を下げてきました!」

『やるな、チルチル……』

 俺が諦めたのを悟ると、チルチルは湯船に入ってきた。そして、俺の隣で寛ぎ始めた。

「ふう~。良い湯ですね――」

 俺は寛いで表情を緩めるチルチルの横顔を眺めながら訊いてみた。

『なあ、チルチル』

「なんですか、シロー様?」

『今の暮らしをどう思う?』

「暮らしですか?」

『そうだ』

 チルチルがこちらを向いた。俺と視線が合う。

 そしてチルチルは微笑みながら言った。

「楽しいですよ。もっと言うなら、幸せです」

『そうか……』

 しかし、この幸せはいつまでも続かない。いつかは終わる。それは確実だ……。

 彼女は、それを心得ているのだろうか……。

 前を向き直したチルチルが述べる。

「シロー様。でも、そろそろ私たちは次のステップに進まなければならないと思うのです」

『ギクッ!!』

 まさか、結婚か!?

 子供を作りたいとか、無茶を言い出すのではないだろうか!?

 少しビビりながら俺が問う。

『つ、次のステップって……?』

 チルチルは一呼吸置いてから言う。

「私も、不老不死を目指そうと思います」

『えっ……??』

 どういうこと?

「このままでは、いつか私だけが先に老いてなくなります。そうなるとシロー様の面倒が見られなくなってしまいます!」

『だ、だね~……』

「そんなのは、私は嫌です!」

『でも……』

「だから、私も不老不死を目指したいのです!」

 この娘は、頭が吹っ飛んでいるな……。

 いや、先々を読んでいると言うべきなのか?

「この数年間で、いろいろと調べていたのです!」

『なにを?』

「遥か南にある砂漠の王国、エシフトたる国には、不老不死のアンデッドになれる秘術が存在するとか!」

 それはミイラだろう。ちょっと不老不死とは違うような……。

「まず、不老不死計画の初手として、エシフトまで旅をして秘術の調査に参りましょう!」

『ええ、そこまで行くの?』

「二人で旅をして、不老不死を勝ち取るのです!」

 それは難儀な旅になりそうだ。一年二年の軽い旅ではないだろう。過酷な旅は確実だ。

「私が亡くなるまでに不老不死の秘術を手に入れれば、チルチルはシロー様のお側に一生お供できます!」

 この娘には、その覚悟があるのか……。

 たぶん、あるのだろう。

『その旅だと、俺はゲートマジックでいつでも帰ってこれるが、チルチルは旅先から簡単には戻ってこれないんだぞ?』

「旅には苦難が付き物です。そもそもが不老不死を求めた旅です。どんな苦難も覚悟の上ですわ!」

 チルチルの目は本気である。覚悟が決まった眼差しだった。強い目力を感じる。

『なるほどね……』

 俺は夜空を見上げた。

 あの晩に、墓場に舞い降りて、そしてチルチルにも出会った。それは強い運命だったのだろう。

 ウロボロスの呪い――。

 祖父は呪いに挫けたが、俺は負けない。たぶん、チルチルと二人ならば、どのような困難でも乗り越えられると思う。

『よし、チルチル。明日から旅の準備を始めるぞ!』

「はい、シロー様!」

 俺も次の目標に向かって覚悟を固める。

 こうして俺とチルチルの新しい旅が始まった。

 それは、不老不死を目指した苦難の旅である。

 でも、俺たちは諦めない。必ずチルチルを不老不死にしてみせる。

 俺たちの人生は、無限なのだから――。



【完結】


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