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41【鬼頭二角】
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「社長って、そんなに強いんですか?」
「強いなんてもんじゃねえ。あの人は化け物だ」
真面目な表情の鬼頭は、爪楊枝でたこ焼きをつつきながら、ぼそりと呟いた。
「どれくらい強いんです?」
「……お前、格闘技のプロだったんだろ。お前の知る最強クラスの人間がいるとして、そいつが千人がかりで挑んでも、金徳寺社長には指一本触れられねえと思うぜ」
「千人がかりで指一本も触れられない……?」
「実際に見たことはねえが、昔、アイツがちょっと機嫌を損ねただけで、某国の政府が消し飛んだことがあるらしい」
「……消し飛んだ?」
「まあ、噂だがな。たしか、ローマとかって言う国だったっけな~」
鬼頭は、どこか達観したような表情で酒を煽る。
「でもよ、あの人は無闇に暴れたりはしねえよ。あくまで観測者だからな」
「観測者ねえ……」
たしかに、ゴールド商会は何千年も存在していると言っていた。そんな長い間、ただ見守ることを目的としていたのだとすれば、社長の力もそのために使われるのだろうか。
「じゃあ、鬼頭さん。社長以外にも強い人はいるんですか?」
「ああ、いるぜ。何人か、国落としクラスの奴がな」
「……マジですか」
ウロボロスの書を所有している人物は、俺を含めて二十二人いると聞かされている。やはり、その中には化け物が何匹かいるらしい。
「お前もそのうち知ることになるさ。ウロボロスの書を持つ者の中には、冗談抜きで神話級の化け物もいるからな」
「鏡野響子とかですか?」
「あれ以上だよ……」
鬼頭は苦笑しながら、また酒を注ぐ。
俺は思わず、こたつの中で拳を握った。心の奥で何かが燻り始める。
自分よりも明らかに強い存在。それは、目標。長らく超えるべき対象がいなかった俺にとって、手頃な目標である。それができたことが嬉しかった。
俺は、格闘技でチャンピオンだった。しかし、防衛するよりも挑むほうが楽しいものである。それを人生経験で知っているからこその意見であった。
何かにチャレンジする。それは生きがいになるのだ。
「神話級の化け物ですか……」
ウロボロスの書には、それほどの力があるということだ。俺が手に入れたのは、そのうちの一端に過ぎない。そして、ゴールド商会は、そんな化け物たちを抱える怪物の巣窟というわけである。
「お前も、どうせなら強くなれよ」
「どういう意味ですか?」
「お前の髑髏の書だって、使いこなせばとんでもない力を秘めてるんだぜ。それは、イチロー先輩が証明している」
「祖父が……」
「まあ、今はまだ研修中だし、焦るこったねえ。まずはじっくり異世界で稼いで、経験を積むことだな」
「はあ……」
鬼頭は満足そうにたこ焼きをつまみ、酒を飲み干す。
俺はこたつの上の酒瓶を見つめながら、ぼんやりと考えていた。
この組織に、俺はどこまで踏み込むことになるのか。
そして、金徳寺金剛という怪物と、いずれ向き合う日が来るのかもしれない。
しかし、まずは――。
「鬼頭さん」
「なんだい?」
「あなたも、強いんですよね?」
鬼頭の眼差しが鋭く変わった。闘志が宿る。俺の真意を察し取っていた。
「当然だ。千人力まではいかないが、百人力は固いだろうな」
「本当ですか?」
「疑うか、若いの?」
ピキッと音がなった。鬼頭が握るコップに亀裂が走る。
やはり、この人もこちら側の人間だ。俺と同類らしい。押されたら引けないのだろう。
「我が家には道場があるのですが、そこで話しませんか?」
もちろん話し合いではない。拳で語り合いたいのだ。
「道場ね。悪くない。じゃあ、少しばかり遊んでやろうか」
「ありがたい!」
俺たち二人は席を立つと、隣の道場に移動する。
そして、鬼頭が道場の建屋を見回しながら述べた。
「なかなか昔ながらの古風な作りだな。懐かしい匂いがしてくるぜ」
「押忍ッ!」
空手道場を開く際に建てた道場。その作りは木造建築。床も壁も天井もすべてが板張りだ。その分だけ、建てるのに資金はかかったが、自慢の道場である。
しかし、今は使われていない。道場は看板を下げた。その時の無念さが、今でも心に引っかかるように残っている。
「お邪魔するぜ」
靴を脱いで道場に上がった鬼頭は、靴下を脱いだあとに道場の中央に進んだ。案外と礼儀をわきまえているようだ。
鬼頭が道場中央で踵を返す。その顔はニヤけている。
「俺は、いつでもいいぜ。どこからでもかかってきな」
言う鬼頭は、ジーンズのポケットに両手を突っ込んでいた。完全に俺を舐めているのが態度からハッキリとわかる。
俺も道場に上がると上着を脱いだ。ウェアの下はTシャツ一枚。その袖を肩までまくると剛腕を晒す。
三十年鍛え上げた腕は太い。様々なトレーニングで苛め抜いた筋肉である。スケルトンの細腕とはわけが違う。
俺は、両手を開いて万歳をする。そして、伸ばした腕をゆっくりと下げながら拳を握った。ファイティングポーズを築く。
「強いなんてもんじゃねえ。あの人は化け物だ」
真面目な表情の鬼頭は、爪楊枝でたこ焼きをつつきながら、ぼそりと呟いた。
「どれくらい強いんです?」
「……お前、格闘技のプロだったんだろ。お前の知る最強クラスの人間がいるとして、そいつが千人がかりで挑んでも、金徳寺社長には指一本触れられねえと思うぜ」
「千人がかりで指一本も触れられない……?」
「実際に見たことはねえが、昔、アイツがちょっと機嫌を損ねただけで、某国の政府が消し飛んだことがあるらしい」
「……消し飛んだ?」
「まあ、噂だがな。たしか、ローマとかって言う国だったっけな~」
鬼頭は、どこか達観したような表情で酒を煽る。
「でもよ、あの人は無闇に暴れたりはしねえよ。あくまで観測者だからな」
「観測者ねえ……」
たしかに、ゴールド商会は何千年も存在していると言っていた。そんな長い間、ただ見守ることを目的としていたのだとすれば、社長の力もそのために使われるのだろうか。
「じゃあ、鬼頭さん。社長以外にも強い人はいるんですか?」
「ああ、いるぜ。何人か、国落としクラスの奴がな」
「……マジですか」
ウロボロスの書を所有している人物は、俺を含めて二十二人いると聞かされている。やはり、その中には化け物が何匹かいるらしい。
「お前もそのうち知ることになるさ。ウロボロスの書を持つ者の中には、冗談抜きで神話級の化け物もいるからな」
「鏡野響子とかですか?」
「あれ以上だよ……」
鬼頭は苦笑しながら、また酒を注ぐ。
俺は思わず、こたつの中で拳を握った。心の奥で何かが燻り始める。
自分よりも明らかに強い存在。それは、目標。長らく超えるべき対象がいなかった俺にとって、手頃な目標である。それができたことが嬉しかった。
俺は、格闘技でチャンピオンだった。しかし、防衛するよりも挑むほうが楽しいものである。それを人生経験で知っているからこその意見であった。
何かにチャレンジする。それは生きがいになるのだ。
「神話級の化け物ですか……」
ウロボロスの書には、それほどの力があるということだ。俺が手に入れたのは、そのうちの一端に過ぎない。そして、ゴールド商会は、そんな化け物たちを抱える怪物の巣窟というわけである。
「お前も、どうせなら強くなれよ」
「どういう意味ですか?」
「お前の髑髏の書だって、使いこなせばとんでもない力を秘めてるんだぜ。それは、イチロー先輩が証明している」
「祖父が……」
「まあ、今はまだ研修中だし、焦るこったねえ。まずはじっくり異世界で稼いで、経験を積むことだな」
「はあ……」
鬼頭は満足そうにたこ焼きをつまみ、酒を飲み干す。
俺はこたつの上の酒瓶を見つめながら、ぼんやりと考えていた。
この組織に、俺はどこまで踏み込むことになるのか。
そして、金徳寺金剛という怪物と、いずれ向き合う日が来るのかもしれない。
しかし、まずは――。
「鬼頭さん」
「なんだい?」
「あなたも、強いんですよね?」
鬼頭の眼差しが鋭く変わった。闘志が宿る。俺の真意を察し取っていた。
「当然だ。千人力まではいかないが、百人力は固いだろうな」
「本当ですか?」
「疑うか、若いの?」
ピキッと音がなった。鬼頭が握るコップに亀裂が走る。
やはり、この人もこちら側の人間だ。俺と同類らしい。押されたら引けないのだろう。
「我が家には道場があるのですが、そこで話しませんか?」
もちろん話し合いではない。拳で語り合いたいのだ。
「道場ね。悪くない。じゃあ、少しばかり遊んでやろうか」
「ありがたい!」
俺たち二人は席を立つと、隣の道場に移動する。
そして、鬼頭が道場の建屋を見回しながら述べた。
「なかなか昔ながらの古風な作りだな。懐かしい匂いがしてくるぜ」
「押忍ッ!」
空手道場を開く際に建てた道場。その作りは木造建築。床も壁も天井もすべてが板張りだ。その分だけ、建てるのに資金はかかったが、自慢の道場である。
しかし、今は使われていない。道場は看板を下げた。その時の無念さが、今でも心に引っかかるように残っている。
「お邪魔するぜ」
靴を脱いで道場に上がった鬼頭は、靴下を脱いだあとに道場の中央に進んだ。案外と礼儀をわきまえているようだ。
鬼頭が道場中央で踵を返す。その顔はニヤけている。
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言う鬼頭は、ジーンズのポケットに両手を突っ込んでいた。完全に俺を舐めているのが態度からハッキリとわかる。
俺も道場に上がると上着を脱いだ。ウェアの下はTシャツ一枚。その袖を肩までまくると剛腕を晒す。
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