スケルトン商人と獣人メイドの異世界転移繁盛記(インフィニティ)

ヒィッツカラルド

文字の大きさ
95 / 261

90【ゴブリン砦攻略】

しおりを挟む
 場所は異世界。ピエドゥラ村から1キロ離れたフラン・モンターニュの西側絶壁前の森。ゴブリンが砦を築いている陣地の目前である。

 森の手前、開けた草原にて陣地を築くのは、ヴァンピール男爵に仕える戦闘メイドの軍勢。戦闘メイド長のシアン、副メイド長のソフィア、そして虎娘ティグレス。それに五十騎のリビングアーマー兵士が控える。

 本陣の右翼には、百騎のリビングアーマー兵士と司令官のラパン。左翼にも同じく百騎のリビングアーマー兵士が配置されており、司令官役のルナールが指揮を執っていた。総勢二百五十騎のリビングアーマー兵士がこの討伐戦に投入されている。

 現在、メイドたちはゴブリンを包囲している状態だ。

「なあ、シアン。まだ突撃したらアカンのか?」

「もう少し待ちなさい。今、ラパンたちが配置に付いている最中だから」

 待ちくたびれた虎娘ティグレスを宥めたのは、ゴリラアームのソフィアだった。メイド長のシアンはテレパシーを使い、別働隊を指揮しているウサギ娘ラパンや狐娘ルナールの配置完了報告を待っていた。

 今回の討伐作戦は三部隊でゴブリン砦を包囲し、戦闘力に長けた本陣の兵士のみが砦に突入して掃討するという作戦である。左右の部隊は、砦から逃げ出したゴブリンたちを逃さぬように殲滅する予定だ。

 そのため、砦へ突撃する本陣の兵士たちは、数より質を優先されている。

 シアンとソフィアは、戦闘メイドの中でも一、二を争う実力者であり、二人ともレッサーバンパイアという種族である。夜になると戦闘力が上昇し、その力は人間の兵士百人分にも匹敵するだろう。

 レッサーバンパイアとは、純粋なバンパイアになりかけた中途半端な存在である。バンパイアでありながら、完全な存在ではない。

 主食は生き血という点では変わらないが、太陽の下でも活動が可能。ただし、その際の戦闘力は人間並みにまで落ちてしまう。

 また、バンパイア特有の弱点もほとんど効かない。十字架は苦手だが触れられる。ニンニクも嫌いだが食べられる。聖水も気分が悪くなるだけで、触れることができる。しかし、寿命は人間並み。そして、心臓に杭を刺されなくても死ぬ。銀の武器は、当然ながら有効である。

 レッサーバンパイアとは、そうした弱点が完全に機能し始めたとき、初めて一人前のヴァンパイアと認められる種族なのだ。

 そして、もう一人の戦闘メイド・ティグレスは、掃除・洗濯・家事手伝いのすべてが苦手な、戦闘に特化した特殊なメイドである。こういう時にしか役に立たないが、虎系の獣人であり、筋力は常人の数倍。パワーだけでなく、生命力や根性も桁外れという怪物である。まさに、戦うためだけに生まれてきたような存在だ。本来ならば、メイドである理由がない。

「よし、左翼も右翼も配置についたわ」

「ならば、始めてもいいよな~!!」

 血気盛んなティグレスがシアンに同意を求めた。シアンが一つ頷くと、ティグレスは叫びながら駆け出した。

「全員突撃だぁ! 我に続けぇ!!」

 スレッジハンマーを振り回しながら突撃するティグレスに、リビングアーマーたちが金属音を響かせながら続く。草原から森へと駆け出していく。

 その瞬間、森の中から無数の矢が放たれた。待ち受けていたゴブリンたちが迎撃してきたのだ。放たれた矢はリビングアーマーの甲冑に突き刺さる。

 だが、それで倒れるリビングアーマーは一騎もいなかった。彼らの急所は、甲冑の内側にある背中の中核部。そこを破壊されない限り、リビングアーマーにはダメージすら与えられない。

「小賢しい!」

 スレッジハンマーを振り回し、飛んでくる矢を弾き落としながらティグレスが先頭で森に突入する。そこへ、待ち受けていたゴブリンたちが一斉に飛びかかった。

「キョォエエエエエエ!!」

「洒落臭い!」

 スレッジハンマーの一振りで飛びかかってきたゴブリンを打ち返す。その衝撃で吹き飛ばされたゴブリンは、数メートル離れた立ち木に激突し、泡を吹いて昏倒した。

「カーカッカッカッ!」

 ティグレスのパワーは圧倒的だった。切り込み隊長として、これ以上ない適任だ。次々とゴブリンを蹴散らして行く。その勢いに続くように、リビングアーマーたちが突入し、次々とゴブリンたちを打ち取っていく。

「進め進め野郎ども。本番は砦の中だぞ!!」

 森を駆け進んでいると砦の壁が見えてくる。それは丸太で作られた3メートルほどの壁だった。否、壁と呼ぶよりも柵である。正門も築かれていたが手作り感満載で、ディグレスならばパワーだけで破壊して突破出来そうな造りに見えた。

「パワー全開、強行突破じゃぁあああ!!」

 鉄槌の一振りで門が軋む。

「おんどりゃ~~~あ!!」

 二撃目の鉄槌で、内側の閂が折れる音が聞こえた。流石はパワーしか自慢のない娘である。スレッチハンマーの二振りで木の門を破壊してしまう。

 しかし、門が破壊されるな否や砦内から大柄のホブゴブリンたちが雪崩出てきた。その数は五匹。手には大斧や混紡を装備している。

「よっしゃ~~。パワー対決だな。受けてやるぜ!!」

 言うや否やティグレスの横を微風が過ぎた。すると五匹のホブゴブリンたちが血飛沫を散らしながら倒れ込む。全員が喉や頭を裂かれている。

「あれれ……」

 呆然とするティグレス。その眼前には、死体の真ん中で立つシアンの姿があった。彼女の手には血に染まったレイピアが握られていた。

「ティグレス。これは遊びてはないのよ。もっと真面目に戦いなさい」

「戦ってるじゃんか、ブーブー……」

 さらに後ろからソフィアが声を掛ける。

「まだ、砦の中に大物が残っているかもしれないわ。油断は禁物よ」

 そうソフィアが述べた刹那だった。砦の中から鎖分銅が飛んできた。鉛の玉を鎖で繋いだ武器である。

「おっと――」

 シアンは軽く屈むと鎖分銅を躱してみせた。狙いを外した分銅が鎖に引かれて戻っていく。その先には三匹のゴブリンが立っていた。

 瓦礫の上に立ち尽くすは、異形なゴブリン三匹。

 一人は、鎖鎌を振り回すゴブリン。

 一人は、痩せて背の高いゴブリンで十字槍を付いている。

 一人は、大きな戦斧を背負っていた。

「これはこれは、少しは旨そうな敵が出てきたぞ。嬉しいね~!!」

 ディグレスが一人だけ笑っていた。完全に戦闘を楽しんでいるのだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

『【朗報】ボッチの僕、実は世界一の財閥の御曹司だった。〜18年の庶民修行を終えた瞬間、美少女11人が「専属秘書」として溺愛してくる件〜』

まさき
青春
「あんたみたいなボッチ、一生底辺のまま卒業ね」 ​学園の女王、高飛車な生徒会長、そして冷徹な美少女たち……。 天涯孤独でボッチな僕、佐藤(※苗字のみ使用)は、彼女たちからゴミを見るような目で見られ、虐げられる日々を送っていた。 ​だが、彼らには決して言えない秘密があった。 それは、僕が世界一の資産を誇る**『世界最強財閥』の唯一の跡継ぎであること。 そして、18歳になるまで一切の援助を受けずに生き抜く【庶民修行】**の最中であること。 ​そして運命の誕生日、午前0時。 修行終了を告げる通知がスマホに届いた瞬間、僕の世界は一変する。 ​「おめでとうございます、お坊ちゃま。これより『11人の専属秘書候補』による、真の主従関係を開始いたします」 ​昨日まで僕を蔑んでいた学園の美少女たちが、手のひらを返して膝をつく。 彼女たちの正体は、財閥が僕のために選りすぐった、愛が重すぎるエリート秘書たちだった――。 ​「ずっとおそばでお仕えしたかったんです……」 「昨日までの暴言は、修行を完遂させるための演技。今日からは全身全霊で甘やかさせていただきますね?」 ​24時間体制の過保護な奉仕、競い合うような求愛、そして財力による圧倒的なざまぁ。 ボッチだった僕の日常は、11人の美女たちに全肯定され、溺愛し尽くされる甘すぎる生活へと塗り替えられていく。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

処理中です...