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111【強欲】
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俺は右足を眼前まで上げると片手で支えながら片脚立ちをして、切られた脛の傷を覗き込んだ。
パックリと切られた脛の傷は、鋭利な刃物で切られたような切り傷だった。傷口からピンク色の肉が伺えるが、流血が微塵も無い。しかも、俺が傷を確認していると、生傷は徐々に塞がり、傷跡も残さず消えてしまう。
「あらまぁ、傷が塞がった」
「やはりですね――」
俺は上げていた右足をおろすと、目の前で中段に刀を構え続けるクロエに視線を向けた。眼差しだけで問い掛ける。すると彼女が俺の疑問に答えてくれた。
「それは、擬態魔法の一種です」
「擬態魔法?」
「私の長耳を隠している幻術と同類の魔法です」
「なんで、幻術で傷が治るんだ?」
「治ったわけではありませんよ。治ったように見せているだけです」
「なんで?」
「それは、貴方がアンデッドだからですよ。そもそも傷は負っていない」
「ええ?」
クロエが構えを解いて刀を下ろす。自然体を取った。そして、説明を続ける。
「四郎様の身体は、一見生身の体に伺えますが、その実は肉の無い骸骨なのです」
「それは、異世界での話だろう?」
「違います。貴方は列記としたスケルトンです」
俺は拳を握り締めながら前に突き出すと言った。
「だが、肉はある」
「それが幻術の類だと言っているのです」
「ん~、訳がわからん……」
「おそらく魔術の心得が無い者たちには、四郎様が普通の人間に見えていることでしょう。ですが、それはウロボロスの書物が施した擬態。四郎様はすでに、ウロボロスの書物によって肉体がモンスターに変化しているのですよ。骨しかない体に、魔法の肉片を幻影で付け足している状態なのです」
俺は自分の手の平を見ながら話す。
「これが、幻って言うのか?」
肉もある。皮もある。爪もある。指紋もある。皺もある。毛穴から産毛も生えている。これが幻の類とは思えない。精密過ぎる。
「その肉が魔法の擬態って訳です。だから血が流れていない」
「でも、触ると感触があるぞ?」
「しかし、痛みは無いのでしょう?」
「無い……な……」
俺は短髪の黒髪を掻き毟りながら言う。
「つう、ことは……。今の俺はスケルトンだけど、ウロボロスの書物の力で、肉を有した人間に見せかけているってことか?」
「だから、先程から、そう言ってます……。頭が悪いんですか……」
「うるせい!」
俺が怒鳴るとクロエが構えを戻す。再び戦闘態勢に戻った。
「私はね。この五百年間、ずっと望んでいたのですよ。ウロボロスの書物の権利者に選ばれることを――」
「目的は、不老不死か?」
「いいえ、力です。ウロボロスの書物に選ばれれば、絶大な力が手に入ります。肉体的な力。社会的な権力。裕福な富。その形は様々。ですが、その力は圧倒的です」
「エルフなのに、貪欲だな」
「エルフとて、欲の一つや二つは御座います!」
「ならば、目指せばいいさ。お前もウロボロスの書物を手に入れればいい」
「それが、難しいからこそ、こうして四郎様に挑むのです!」
「俺からウロボロスの書物を奪い取ると?」
「如何にも!」
その一言の後にクロエの殺気が膨れ上がる。それは刀を構える彼女の周りを渦巻き始めた。刀の先から赤紫の怨念が揺らぎ始めると、彼女のオーラが肩から湯気のように登り始める。
怨念の上に重なる殺気。それは二重のオーラ。クロエの本気度が悟れた。
俺は再び構えを戻すと緊張感を引き締め直した。強く拳を握り締める。そして、エルフを睨んだ。
「上等。ならば、掛かって参れ!」
「そのつもり!」
ダンっと音を鳴らしてクロエが一歩だけ踏み込んだ。まだ、距離は程遠い。しかし、クロエの姿が横に霞んだ。空気がブレる。
途端である。
「ぬぬっ!」
風!?
俺の体がザクザクと刻まれる。体中に無数の傷が刻まれた。それは、横向きの小さな傷だった。それは、まるで微風が鎌鼬に化けたかのようだった。
「なんだ!?」
頬を切られた。肩を切られた。胸を数カ所切られた。腹も複数切られた。足も切られていた。傷の数は十を越えている。致命傷の傷ではないが数が多い。
俺が複数の切り傷に戸惑っていると、クロエがさらに斬りかかってくる。刀を翳して振り下ろしてきた。
「なんの!」
剣筋は縦に一振り。切っ先が俺の眼前を過ぎる。紙一重の回避だった。
「切り返し!」
空振った剣筋が降下の後に跳ね上がる。その一振りが、俺の胸元を切り裂いた。ウェアが裂けて大胸筋が晒される。
しかし、流血も無いし、傷みも皆無。
さらなる切り返し。宙で円を描いた剣筋が再び俺の顔面に迫る。その速度は今まで以上に速い。躱せない。
ガンっと頭蓋骨が鳴った。
直後、俺の頭部にクロエの振るった日本刀が深くめり込んでいた。頭を割られた。
俺の頭を割った刀身が、右眼の下まで切り裂いている。目の下あたりで刀身が止まっていた。後頭部からは、割り進んだ刀身が伸び出ている。
「討ち取ったり!!」
刹那の狭間――思考する。
斬られた。割られた。頭に日本刀が刺さっている。これは、不味いのか?
しかし、動ける。思考も止まっていない。
ああ、クロエが眼前に居る。手の届く間合いにクロエが居る。
ならば――。
「反撃!」
「きゃっ!!」
咄嗟に振るった俺の肘打ちがクロエのこめかみを打ち殴る。その一撃でクロエが吹き飛んだ。刀を俺の頭に残して吹っ飛んで行った。
「手応え有り!」
肘鉄の一撃に飛ばされたクロエが道場の床板に転がった。ワンバウンドしてから数度回転して止まる。
俺は、ヒットした感触からして、有効打と悟る。頭に刀を刺したまま立ち尽くしていた。
パックリと切られた脛の傷は、鋭利な刃物で切られたような切り傷だった。傷口からピンク色の肉が伺えるが、流血が微塵も無い。しかも、俺が傷を確認していると、生傷は徐々に塞がり、傷跡も残さず消えてしまう。
「あらまぁ、傷が塞がった」
「やはりですね――」
俺は上げていた右足をおろすと、目の前で中段に刀を構え続けるクロエに視線を向けた。眼差しだけで問い掛ける。すると彼女が俺の疑問に答えてくれた。
「それは、擬態魔法の一種です」
「擬態魔法?」
「私の長耳を隠している幻術と同類の魔法です」
「なんで、幻術で傷が治るんだ?」
「治ったわけではありませんよ。治ったように見せているだけです」
「なんで?」
「それは、貴方がアンデッドだからですよ。そもそも傷は負っていない」
「ええ?」
クロエが構えを解いて刀を下ろす。自然体を取った。そして、説明を続ける。
「四郎様の身体は、一見生身の体に伺えますが、その実は肉の無い骸骨なのです」
「それは、異世界での話だろう?」
「違います。貴方は列記としたスケルトンです」
俺は拳を握り締めながら前に突き出すと言った。
「だが、肉はある」
「それが幻術の類だと言っているのです」
「ん~、訳がわからん……」
「おそらく魔術の心得が無い者たちには、四郎様が普通の人間に見えていることでしょう。ですが、それはウロボロスの書物が施した擬態。四郎様はすでに、ウロボロスの書物によって肉体がモンスターに変化しているのですよ。骨しかない体に、魔法の肉片を幻影で付け足している状態なのです」
俺は自分の手の平を見ながら話す。
「これが、幻って言うのか?」
肉もある。皮もある。爪もある。指紋もある。皺もある。毛穴から産毛も生えている。これが幻の類とは思えない。精密過ぎる。
「その肉が魔法の擬態って訳です。だから血が流れていない」
「でも、触ると感触があるぞ?」
「しかし、痛みは無いのでしょう?」
「無い……な……」
俺は短髪の黒髪を掻き毟りながら言う。
「つう、ことは……。今の俺はスケルトンだけど、ウロボロスの書物の力で、肉を有した人間に見せかけているってことか?」
「だから、先程から、そう言ってます……。頭が悪いんですか……」
「うるせい!」
俺が怒鳴るとクロエが構えを戻す。再び戦闘態勢に戻った。
「私はね。この五百年間、ずっと望んでいたのですよ。ウロボロスの書物の権利者に選ばれることを――」
「目的は、不老不死か?」
「いいえ、力です。ウロボロスの書物に選ばれれば、絶大な力が手に入ります。肉体的な力。社会的な権力。裕福な富。その形は様々。ですが、その力は圧倒的です」
「エルフなのに、貪欲だな」
「エルフとて、欲の一つや二つは御座います!」
「ならば、目指せばいいさ。お前もウロボロスの書物を手に入れればいい」
「それが、難しいからこそ、こうして四郎様に挑むのです!」
「俺からウロボロスの書物を奪い取ると?」
「如何にも!」
その一言の後にクロエの殺気が膨れ上がる。それは刀を構える彼女の周りを渦巻き始めた。刀の先から赤紫の怨念が揺らぎ始めると、彼女のオーラが肩から湯気のように登り始める。
怨念の上に重なる殺気。それは二重のオーラ。クロエの本気度が悟れた。
俺は再び構えを戻すと緊張感を引き締め直した。強く拳を握り締める。そして、エルフを睨んだ。
「上等。ならば、掛かって参れ!」
「そのつもり!」
ダンっと音を鳴らしてクロエが一歩だけ踏み込んだ。まだ、距離は程遠い。しかし、クロエの姿が横に霞んだ。空気がブレる。
途端である。
「ぬぬっ!」
風!?
俺の体がザクザクと刻まれる。体中に無数の傷が刻まれた。それは、横向きの小さな傷だった。それは、まるで微風が鎌鼬に化けたかのようだった。
「なんだ!?」
頬を切られた。肩を切られた。胸を数カ所切られた。腹も複数切られた。足も切られていた。傷の数は十を越えている。致命傷の傷ではないが数が多い。
俺が複数の切り傷に戸惑っていると、クロエがさらに斬りかかってくる。刀を翳して振り下ろしてきた。
「なんの!」
剣筋は縦に一振り。切っ先が俺の眼前を過ぎる。紙一重の回避だった。
「切り返し!」
空振った剣筋が降下の後に跳ね上がる。その一振りが、俺の胸元を切り裂いた。ウェアが裂けて大胸筋が晒される。
しかし、流血も無いし、傷みも皆無。
さらなる切り返し。宙で円を描いた剣筋が再び俺の顔面に迫る。その速度は今まで以上に速い。躱せない。
ガンっと頭蓋骨が鳴った。
直後、俺の頭部にクロエの振るった日本刀が深くめり込んでいた。頭を割られた。
俺の頭を割った刀身が、右眼の下まで切り裂いている。目の下あたりで刀身が止まっていた。後頭部からは、割り進んだ刀身が伸び出ている。
「討ち取ったり!!」
刹那の狭間――思考する。
斬られた。割られた。頭に日本刀が刺さっている。これは、不味いのか?
しかし、動ける。思考も止まっていない。
ああ、クロエが眼前に居る。手の届く間合いにクロエが居る。
ならば――。
「反撃!」
「きゃっ!!」
咄嗟に振るった俺の肘打ちがクロエのこめかみを打ち殴る。その一撃でクロエが吹き飛んだ。刀を俺の頭に残して吹っ飛んで行った。
「手応え有り!」
肘鉄の一撃に飛ばされたクロエが道場の床板に転がった。ワンバウンドしてから数度回転して止まる。
俺は、ヒットした感触からして、有効打と悟る。頭に刀を刺したまま立ち尽くしていた。
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