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45・キング&クイーン夫妻、おめでとう!

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俺はキルルと一緒にキングとアンドレアに会いに行った。

キルルが町の名前を決めたから報告しに出向いたのだ。

魔王城での暮らしは暇なので、こんなことぐらいしかやることがないのである。

まあ、大工や土木の仕事なら山ほどあるんだけどね。

何せあっちこっちで開拓中だからさ。

でも、それらの仕事は暇でもやりたくない。

そんな仕事をするぐらいなら暇でも寝ていたほうがましである。

とにかく、俺は暇潰し程度に城下町に降りてきたのだ。

すると広場でキングとアンドレアを見付ける。

キングは若い兵士たちに剣の訓練を行っていて、アンドレアは子供たちにシャーマン魔法の指導を行っていた。

二人は次世代の育成に熱心である。

俺には他人の指導なんて無理なので、彼らのようなリーダー資質に長けた人物に任せるべきであるだろう。

これに関しては俺は一切口を挟まないようにしていた。

「よう、キング、アンドレア。ちょっといいか」

俺は二名を呼び寄せた。

「なんでありんすか?」

講義を中断して二名が俺の元にやって来る。

「キルルがここの城と町の名前を決めたから報告しに来たぞ」

キングが犬顎を撫でながら言う。

「ほほう、やっと決まりましたか」

俺はキルルの背中をポンっと叩いた。

「では、キルル自ら報告せよ!」

『はい、魔王様!』

キルルは少し畏まると次の瞬間には力強く言った。

『城の名前は、墓城を改めて魔王城ヴァルハラで、城下町はソドムと命名しました!』

キルルが報告すると二名が「おお~」っと唸りながら拍手した。

「キルル殿、なかなか素晴らしいネーミングですな!」

「わっちもナイスなネーミングだと思うでありんすよ!」

キングとアンドレアは本気で素晴らしいと思っているようだ。

「どうやらこいつらの脳味噌も厨二脳のようだな……」

俺の独り言は三名に届かない。

俺は青い空を見上げながら考える。

魔地域に長くすんでると厨二臭くなるのであろうか……。

それとも魔物の思考が厨二臭い構造をしているのだろうか……。

もしかしたら、両方かも知れないな。

更にキルルが報告する。

『それとオークさんたちの縦穴鉱山も命名しましたよ』

キングが問う。

「どのように名付けたのですか?」

キルルが胸を張りながらドヤ顔で言った。

『縦穴鉱山都市マチュピチュです!』

「「おお~、素晴らしい!」」

キングとアンドレアが歓喜な表情で褒め称えていた。

「マジか……」

目がマジだ……。

俺だけが脱力していた。

更にキングがキルルのネーミングセンスを讃える。

「流石はキルル殿です。素晴らしいネーミングですな。今度産まれる私の子供の名前もキルル殿に命名して貰いましょうか」

「えっ、子供?」

何を言い出したのかと俺が首を傾げた。

しかし、俺を無視してキルルもキングも話を進める。

『ええっ、いいのですか、キングさん!?』

「ああ、是非ともお願いいたしますぞ、キルル殿!」

「おい、キング。お前、子供が出来たのか?」

キングが照れ臭そうに言う。

「はい、先日分かったばかりなのですが、妻のクイーンが妊娠しまして」

「マジか!?」

俺は結構仰天していたが、キルルとアンドレアは驚いていない。

どうやら知っていたようだ。

『おめでとうございます、キングさん。お子さんの命名は任せてくださいね』

「おいおい、キルルに命名を任せていいのかよ!?」

「キルル殿ならば、きっと素晴らしい名前を我が子に名付けてくれるでしょうとも!」

「うわぁ~……。すげ~信頼されてますな~……」

キングの表情は本気だ。

マジで我が子の命名をキルルに任せるようである。

任されたキルルがドヤ顔で返す。

『僕的には当然ですね!』

「当然なのかよ……」

それよりもだ。

「じゃあ、クイーンのご飯がしばらく食べれなくなるんだな……」

そっちのほうが俺には心配だった。

キルルが自分の胸を叩きながら言う。

『魔王様、それも僕に任せてください!』

「それも……だと……」

俺の顔が不安に曇る。

キルルは鼻息を荒くしながら自信に満ちた表情で言う。

『ちゃんと調理の練習は積んでいますから!』

それが一番怖いのだ。

「ちゃんと、だと……。いや、あれはまだ食べ物ではないな……」

俺とキルルは呪縛のために普段から一緒なので、彼女が熱心に料理を練習しているのは俺も知っていた。

だが、その作品は黒焦げから下手物に変わった程度で、まだまだ食べ物と呼べる代物ではない。

そもそも黒焦げなのに、皿の上でたまにヒクッと動くのだ。

そんな物を料理と呼べないだろう。

あれは、食えない。

食い物ではないのだ。

キルルが眉間に皺を寄せながら言う。

『魔王様は、僕の料理を食べたくないのですか!?』

俺は独り言を聞こえるように言ってやった。

「新しいコックを探さないとならないな……」

キングが哀れむ眼差しで俺に言う。

「エリク様も大変ですね……」

「キング、お前も奥さんの手料理が食べれなくって大変だろ。なんなら俺と食事を共にするか?」

「えっ!!」

キングも一瞬で顔色を青ざめる。

キルルの料理は犬も食わないのだ。

するとタイミング良くゴブロンが俺を探しに来た。

よし、これで話が反らせるぞ!

「あ~、魔王様、こんなところに居たでやんすか~。キングさんも探したでやんすよ」

「どうした、ゴブロン?」

「リザードマンの集落を偵察に行っていたハートジャックさんが帰還したでやんすよ!」

俺は明るいテンションでゴブロンに受け応える。

「おお、やっと帰還したか。待っていたぜ!」

キングも俺に合わせてくれた。

「それで、今どこにいるのだ?」

「食堂で食事中でやんす」

「よし、じゃあ食堂に向かうか!」

「はい!!」

俺とキングが一早く踵を返したのだが、アンドレアが話を戻しやがった。

「魔王様、クイーン殿が産休中は───』

きぃーーー!!

話を戻すな、この野郎!!

アンドレアの言葉が続く。

『我々の食堂で食事を取ったら如何ですか?」

ナイス、アンドレア!

名案だぜ!

俺はうれしそうに返答する。

「そうだな、それでも構わんか!」

『ぶー、維持でも僕の手料理を食べたくないのですね……』

キルルが作った下手物料理を食うよりも、騒がしい食堂で皆と食事を共にしたほうが楽しそうである。

「しばらくは食堂で飯を食うことにするか」

『ぶー、ぶー!』

キルルがオークの真似をしてブーブー言っていた。

それはそれで可愛いな。

だが、今回ばかりは無視を決め込む。

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