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騎士サイドⅧ 決意
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この記憶は、私が「騎士候補生」から「シュバリエ・ロゼルタ」になる前の、世俗的に見ればほんの些細なことだけれど、しかしとてつもなく重大な出来事のものである。
いつかの夜会から、暫くの時が過ぎた。
私は候補生ながら、少しずつ、陛下のお手伝いをさせていただけるようになった。
その日も、陛下が席を外しているうちに、執務机の上を片してしまおうとしていたところだった。
机上に散らばる書類にひとつひとつ、目を通し、案件ごとに纏めていく。
ひと通り書類を纏め終えたとき、ふと、執務机に設えられている抽斗が少し開いていることに気がついた。
その抽斗には、鍵がかけられているはずであった。
魔が差した、というのはこういう時のことを言うのだろうと、今なら思う。
好奇心に負けた私は、恐れ多くもその秘されているはずの抽斗の中を覗いてしまった。
そこには、一冊の本がひっそりとしまわれていた。
(本……?)
本にしてはタイトルも作者名も何もなかった。それに、陛下の蔵書にしては、随分と傷んでいた。布張りの表紙は、所々に染みが浮き出ており、四隅もほつれている。全体の色彩として、なんとも貧相であった。
表紙を開いて、遊び紙をぺらりと捲った先にも、タイトルはない。
もう一ページ捲ると、そこには手書きで、
『XXXX年〇月〇日 晴れ
今日から、僕も日記というものを書いてみようと思う。
勧められたままに書き始めたけど、日記に一体何を書くのかとか、そもそも書き方とかも何もわからない。とりあえず、始めてみる。』
と、記されていた。
文字を書くことに慣れていないのか、字は読みづらく、インクも滲んでいるところや、掠れているところもある。
一体誰の日記なのか。記された日付は、五年程前である。
続きを読み進めることに、なんの抵抗もなかった。
呆然とした。
そんな……。
人ひとりが背負う因縁として、こんなにも大きいことがあるのか。
渇いてヒリつく喉が痛む。上手く呼吸できずに、ひゅーひゅーと音を立てる。なかなか言うことを聞かない震える手で、それをそっと自分の懐へ忍ばせる。
日記を胸に抱きながら、内容をもう一度頭の中で反芻する。
起きた事実、過程、結果、予測、思惑、希望、祈り、喜び、痛み、約束、諦念、目的。
目的。そう、目的だ。
導き出されるその答えは。
ごくりと大きく喉が鳴る音を、他人事のように聞いていた。
あぁ、貴方がそう選ぶのなら。私は、私は。
何かを選ぶということは、選ばなかった何かを捨てること。
己の中の獣が、大きく咆哮する声を、聞いた気がした。それは、いつかの老婆の時にも似て。
『好奇心は猫をも殺す』
死んだ猫の後に生まれたのは。
眼を閉じて、深呼吸をひとつ。
次に眼を開いた時には、もう、迷う事など何ひとつなかった。
ならば、私は。
いつかの夜会から、暫くの時が過ぎた。
私は候補生ながら、少しずつ、陛下のお手伝いをさせていただけるようになった。
その日も、陛下が席を外しているうちに、執務机の上を片してしまおうとしていたところだった。
机上に散らばる書類にひとつひとつ、目を通し、案件ごとに纏めていく。
ひと通り書類を纏め終えたとき、ふと、執務机に設えられている抽斗が少し開いていることに気がついた。
その抽斗には、鍵がかけられているはずであった。
魔が差した、というのはこういう時のことを言うのだろうと、今なら思う。
好奇心に負けた私は、恐れ多くもその秘されているはずの抽斗の中を覗いてしまった。
そこには、一冊の本がひっそりとしまわれていた。
(本……?)
本にしてはタイトルも作者名も何もなかった。それに、陛下の蔵書にしては、随分と傷んでいた。布張りの表紙は、所々に染みが浮き出ており、四隅もほつれている。全体の色彩として、なんとも貧相であった。
表紙を開いて、遊び紙をぺらりと捲った先にも、タイトルはない。
もう一ページ捲ると、そこには手書きで、
『XXXX年〇月〇日 晴れ
今日から、僕も日記というものを書いてみようと思う。
勧められたままに書き始めたけど、日記に一体何を書くのかとか、そもそも書き方とかも何もわからない。とりあえず、始めてみる。』
と、記されていた。
文字を書くことに慣れていないのか、字は読みづらく、インクも滲んでいるところや、掠れているところもある。
一体誰の日記なのか。記された日付は、五年程前である。
続きを読み進めることに、なんの抵抗もなかった。
呆然とした。
そんな……。
人ひとりが背負う因縁として、こんなにも大きいことがあるのか。
渇いてヒリつく喉が痛む。上手く呼吸できずに、ひゅーひゅーと音を立てる。なかなか言うことを聞かない震える手で、それをそっと自分の懐へ忍ばせる。
日記を胸に抱きながら、内容をもう一度頭の中で反芻する。
起きた事実、過程、結果、予測、思惑、希望、祈り、喜び、痛み、約束、諦念、目的。
目的。そう、目的だ。
導き出されるその答えは。
ごくりと大きく喉が鳴る音を、他人事のように聞いていた。
あぁ、貴方がそう選ぶのなら。私は、私は。
何かを選ぶということは、選ばなかった何かを捨てること。
己の中の獣が、大きく咆哮する声を、聞いた気がした。それは、いつかの老婆の時にも似て。
『好奇心は猫をも殺す』
死んだ猫の後に生まれたのは。
眼を閉じて、深呼吸をひとつ。
次に眼を開いた時には、もう、迷う事など何ひとつなかった。
ならば、私は。
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