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助けて
三森のお地蔵様
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「さっそく地蔵を動かしましょう。手押し車はありますか?」
「すみません、残念ながら」
「そうですよね。なら、なるべく小さいものにしましょう。大きめのリュックサックとゴミ袋はありますか?」
「あります。今持ってきますね」
以前、登山用に購入したリュックサックをクローゼットから取り出して玄関に戻った。一度使用しただけですっかりクローゼットの住人となっていたが、予想外なところで出番がやってきた。
「あら、もうお昼。ごめんなさい、時間がかかってしまって」
「お気になさらずに」
あと十分で十二時を刻もうとする時計を見て由里子が謝る。先に昼食にするか聞かれたが、片山はそれを断り山へと足を踏み入れた。
相変わらず人の気配は無い。引っ越してきた頃は登山の習慣が無いだけかと思っていたが、三森神社と倉のことを知り、誰も入らない理由を理解した。
リュックサックを背負う片山の後ろで由里子が無言のままついていく。片山が振り返った。
「何も怖くないですよ。この山は宮下さんに危険なモノはいません」
「そうですか。石のことがあって、山全体が少し怖くなってしまって……ああ、そう。それと、三森さんの幽霊を見かけたことがあるんです」
由里子が後ろを一瞬振り返って言った。
「それは、家の中ですか?」
「いえ、お庭です。指を差されて、私に何かあるのかと思っていましたが、どうやら家を指していたみたいです。知らせたかったんですね」
「なるほど、家を……」
片山がちらりと目線を横に映す。三森が背中を向けて立っていた。由里子の言う通り、彼は家を見つめていることが多い。しかし、たまに向きを変えることもある。そちらには何があるのか、何も知らない今の状況では片山にも分からない。
「ここですね」
目的の洞穴に着いた。覗くと地蔵たちと目が合った。あれから人の手が加えられた痕跡は無い。
「この辺りなら持てるかな」
いくつか地蔵の体を揺らし、小ぶりなものを選んで両手で手前に転がす。ごろんと地蔵の頭が洞穴から顔を出した。由里子が顔を逸らす。
「いちおう軍手を持ってきたんですけど」
「有難う御座います。使います」
軍手を受け取り、改めて地蔵を持ち上げる。由里子がゴミ袋を広げ、そこへ地蔵を入れた。
「なんだかお地蔵様をゴミ袋に入れるのは気が引けます」
「土がリュックに付いてしまいますから。気持ちの問題なだけですので大丈夫です」
由里子は頷き、二人掛かりでリュックに地蔵を仕舞い込んだ。ファスナーをきっちり閉め、片山がそれを背負った。
「歩けそうですか?」
「平気です。じゃあ、戻りましょう」
すたすた歩き出したので、由里子もそれについていった。途中で木々の間に三森が立っていたが、気付いたのは片山だけだった。
山を下り、宮下家の庭で地蔵をリュックから取り出した。
「置くのはどこでも大丈夫ですか?」
「外から目立たないところでしたら」
「それなら──」
庭の奥側の端、車を置いてしまえば道路から完全に見えなくなる場所に、穴を浅く掘って地蔵を置いた。
すぐ横が家だが、南側にあるので日当たりは良さそうだ。
「これでよし。食べ物などのお供え物は特に要りません。花があれば十分でしょう。それより大事なのは、手を合わせること。地蔵があるというのを忘れないことです」
「分かりました」
由里子がしゃがんで地蔵に手を合わせる。地蔵はにこにこと穏やかな笑みを浮かべていた。横にいる片山を見上げると、彼は山の方を見つめていた。
「すみません、残念ながら」
「そうですよね。なら、なるべく小さいものにしましょう。大きめのリュックサックとゴミ袋はありますか?」
「あります。今持ってきますね」
以前、登山用に購入したリュックサックをクローゼットから取り出して玄関に戻った。一度使用しただけですっかりクローゼットの住人となっていたが、予想外なところで出番がやってきた。
「あら、もうお昼。ごめんなさい、時間がかかってしまって」
「お気になさらずに」
あと十分で十二時を刻もうとする時計を見て由里子が謝る。先に昼食にするか聞かれたが、片山はそれを断り山へと足を踏み入れた。
相変わらず人の気配は無い。引っ越してきた頃は登山の習慣が無いだけかと思っていたが、三森神社と倉のことを知り、誰も入らない理由を理解した。
リュックサックを背負う片山の後ろで由里子が無言のままついていく。片山が振り返った。
「何も怖くないですよ。この山は宮下さんに危険なモノはいません」
「そうですか。石のことがあって、山全体が少し怖くなってしまって……ああ、そう。それと、三森さんの幽霊を見かけたことがあるんです」
由里子が後ろを一瞬振り返って言った。
「それは、家の中ですか?」
「いえ、お庭です。指を差されて、私に何かあるのかと思っていましたが、どうやら家を指していたみたいです。知らせたかったんですね」
「なるほど、家を……」
片山がちらりと目線を横に映す。三森が背中を向けて立っていた。由里子の言う通り、彼は家を見つめていることが多い。しかし、たまに向きを変えることもある。そちらには何があるのか、何も知らない今の状況では片山にも分からない。
「ここですね」
目的の洞穴に着いた。覗くと地蔵たちと目が合った。あれから人の手が加えられた痕跡は無い。
「この辺りなら持てるかな」
いくつか地蔵の体を揺らし、小ぶりなものを選んで両手で手前に転がす。ごろんと地蔵の頭が洞穴から顔を出した。由里子が顔を逸らす。
「いちおう軍手を持ってきたんですけど」
「有難う御座います。使います」
軍手を受け取り、改めて地蔵を持ち上げる。由里子がゴミ袋を広げ、そこへ地蔵を入れた。
「なんだかお地蔵様をゴミ袋に入れるのは気が引けます」
「土がリュックに付いてしまいますから。気持ちの問題なだけですので大丈夫です」
由里子は頷き、二人掛かりでリュックに地蔵を仕舞い込んだ。ファスナーをきっちり閉め、片山がそれを背負った。
「歩けそうですか?」
「平気です。じゃあ、戻りましょう」
すたすた歩き出したので、由里子もそれについていった。途中で木々の間に三森が立っていたが、気付いたのは片山だけだった。
山を下り、宮下家の庭で地蔵をリュックから取り出した。
「置くのはどこでも大丈夫ですか?」
「外から目立たないところでしたら」
「それなら──」
庭の奥側の端、車を置いてしまえば道路から完全に見えなくなる場所に、穴を浅く掘って地蔵を置いた。
すぐ横が家だが、南側にあるので日当たりは良さそうだ。
「これでよし。食べ物などのお供え物は特に要りません。花があれば十分でしょう。それより大事なのは、手を合わせること。地蔵があるというのを忘れないことです」
「分かりました」
由里子がしゃがんで地蔵に手を合わせる。地蔵はにこにこと穏やかな笑みを浮かべていた。横にいる片山を見上げると、彼は山の方を見つめていた。
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