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忘れない
三江木の秘密
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宮下家が引っ越してくる一年半前、四月十二日。
三江木町の自治会は三江木公民館でやることが常である。しかし、この日ばかりは違っていた。自治会の議題が「三森神社の今後について」だったからだ。三森が管理する倉の中で里原と三森、そして町民数名が厳しい顔で座り込んでいた。
『勝彦君、三江木の発展のためやき』
『いくら言われても駄目なものは駄目です。というより、無理です』
『けんど、なぁ』
里原が周りの人間に目配せをする。田中夫妻と小松が顔を見合わせた。
『この倉なんか、変な人らがえらい来るやないですか。ごみもひどいし』
『それはまあ、私も困っているところです』
それまで黙っていた佐々木がぽつりと呟いた。
『お舟の呪いなんか無い。気のせいながよ』
皆の視線が佐々木に集まる。それをきっかけに町民が声を上げた。
『そらそうよ。今まで呪いが起きたことがあるか?』
『無い、無い』
『再開発で土地を不動産屋に差し出せば、かなりの金になるろう。三森さんはそれでゆっくり隠居したらえい』
三森が倉の真ん中に置かれた舟の石を見つめる。
『呪いはある。三森家が抑えてきた。やき、ここで止めたら大変なことになる』
『もしなったら、その時に考えればえい』
『町長!』
三森が唇を震わせ、里原にそれ以上言わず立ち上がった。里原がそれに続く。
『勝彦君』
『今日のところは帰ってください。これはまた今度に』
『そうもいかん。なあ、みんな』
ぱらぱら、頷く者が増えていく。三森は右手の拳を強く握りしめて耐えた。
『何かあるがですか』
強い声色に、里原が苦笑いで頭を掻く。
『実は、昨日不動産屋が来て、話を進めることになったねや』
『話を……? まさか、この土地を再開発する話ですか……?』
『どうしてもと帰ってくれんかったがよ。けんど、勝彦君にしっかり説明をしてからち言うたき、許してくれ』
神社も倉も三森が管理している。元々三森の土地だ。町の代表者だからといって代わりに頷いていいはずがない。
『無理なもんは無理やき。この倉は絶対に壊しちゃいかん』
『勝彦君、落ち着いて』
『落ち着けるはずなかろう!』
背を向けて片付けを始める三森を引き留めようと、里原が袴の裾を掴む。そして、佐々木が三森の手にあったお盆を無理に取り上げた。そのため、バランスを崩した三森の体が傾いた。
『──あっ』
その光景に田中が小さい声を上げた。
三森はそのまま床に叩きつけられ、運の悪いことに、石を置いていた固い台座が三森の後頭部に当たってしまった。三森は呻くことすらせず、瞳を見開いて天井を見つめていた。慌てた里原が三森を揺する。
『かッ勝彦君!』
『あッあ、た、たまるかッお父さん、三森さんが』
田中に急かされ、夫が三森を観察する。手首を掴み、絶望の顔で首を振った。
『死んじゅう』
『わぁぁッ』
『誰も出ちゃいかん!』
外に飛び出そうとした町民を佐々木が静止する。そして里原に声をかけた。
『どうする、事故じゃ済まされん』
里原が頭を抱え、蹲る。少しの間を置いて、声を絞り出した。
『ああ。……けんど、予定がちっくとばぁ変わっただけやき』
何年も前から、三森神社とその倉は三江木にとって目の上のたんこぶであった。ただの昔話の石を大事にして、山の再開発にも賛同せず、観光客ではない厄介者ばかり集めてくる。三森を除いた自治会のメンバーでは、いつしか神社の取り壊しから三森の排除に話題が変わっていった。
何か不祥事を起こさせて神主を引退してもらうか、町から出ていってもらうと計画もしていた。それが今回、予想より少々大げさになってしまった。
三江木町の自治会は三江木公民館でやることが常である。しかし、この日ばかりは違っていた。自治会の議題が「三森神社の今後について」だったからだ。三森が管理する倉の中で里原と三森、そして町民数名が厳しい顔で座り込んでいた。
『勝彦君、三江木の発展のためやき』
『いくら言われても駄目なものは駄目です。というより、無理です』
『けんど、なぁ』
里原が周りの人間に目配せをする。田中夫妻と小松が顔を見合わせた。
『この倉なんか、変な人らがえらい来るやないですか。ごみもひどいし』
『それはまあ、私も困っているところです』
それまで黙っていた佐々木がぽつりと呟いた。
『お舟の呪いなんか無い。気のせいながよ』
皆の視線が佐々木に集まる。それをきっかけに町民が声を上げた。
『そらそうよ。今まで呪いが起きたことがあるか?』
『無い、無い』
『再開発で土地を不動産屋に差し出せば、かなりの金になるろう。三森さんはそれでゆっくり隠居したらえい』
三森が倉の真ん中に置かれた舟の石を見つめる。
『呪いはある。三森家が抑えてきた。やき、ここで止めたら大変なことになる』
『もしなったら、その時に考えればえい』
『町長!』
三森が唇を震わせ、里原にそれ以上言わず立ち上がった。里原がそれに続く。
『勝彦君』
『今日のところは帰ってください。これはまた今度に』
『そうもいかん。なあ、みんな』
ぱらぱら、頷く者が増えていく。三森は右手の拳を強く握りしめて耐えた。
『何かあるがですか』
強い声色に、里原が苦笑いで頭を掻く。
『実は、昨日不動産屋が来て、話を進めることになったねや』
『話を……? まさか、この土地を再開発する話ですか……?』
『どうしてもと帰ってくれんかったがよ。けんど、勝彦君にしっかり説明をしてからち言うたき、許してくれ』
神社も倉も三森が管理している。元々三森の土地だ。町の代表者だからといって代わりに頷いていいはずがない。
『無理なもんは無理やき。この倉は絶対に壊しちゃいかん』
『勝彦君、落ち着いて』
『落ち着けるはずなかろう!』
背を向けて片付けを始める三森を引き留めようと、里原が袴の裾を掴む。そして、佐々木が三森の手にあったお盆を無理に取り上げた。そのため、バランスを崩した三森の体が傾いた。
『──あっ』
その光景に田中が小さい声を上げた。
三森はそのまま床に叩きつけられ、運の悪いことに、石を置いていた固い台座が三森の後頭部に当たってしまった。三森は呻くことすらせず、瞳を見開いて天井を見つめていた。慌てた里原が三森を揺する。
『かッ勝彦君!』
『あッあ、た、たまるかッお父さん、三森さんが』
田中に急かされ、夫が三森を観察する。手首を掴み、絶望の顔で首を振った。
『死んじゅう』
『わぁぁッ』
『誰も出ちゃいかん!』
外に飛び出そうとした町民を佐々木が静止する。そして里原に声をかけた。
『どうする、事故じゃ済まされん』
里原が頭を抱え、蹲る。少しの間を置いて、声を絞り出した。
『ああ。……けんど、予定がちっくとばぁ変わっただけやき』
何年も前から、三森神社とその倉は三江木にとって目の上のたんこぶであった。ただの昔話の石を大事にして、山の再開発にも賛同せず、観光客ではない厄介者ばかり集めてくる。三森を除いた自治会のメンバーでは、いつしか神社の取り壊しから三森の排除に話題が変わっていった。
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