幸運な家族

文字の大きさ
59 / 63
忘れない

三江木の秘密

しおりを挟む
 宮下家が引っ越してくる一年半前、四月十二日。

 三江木町の自治会は三江木公民館でやることが常である。しかし、この日ばかりは違っていた。自治会の議題が「三森神社の今後について」だったからだ。三森が管理する倉の中で里原と三森、そして町民数名が厳しい顔で座り込んでいた。

『勝彦君、三江木の発展のためやき』
『いくら言われても駄目なものは駄目です。というより、無理です』
『けんど、なぁ』

 里原が周りの人間に目配せをする。田中夫妻と小松が顔を見合わせた。

『この倉なんか、変な人らがえらい来るやないですか。ごみもひどいし』
『それはまあ、私も困っているところです』

 それまで黙っていた佐々木がぽつりと呟いた。

『お舟の呪いなんか無い。気のせいながよ』

 皆の視線が佐々木に集まる。それをきっかけに町民が声を上げた。

『そらそうよ。今まで呪いが起きたことがあるか?』
『無い、無い』
『再開発で土地を不動産屋に差し出せば、かなりの金になるろう。三森さんはそれでゆっくり隠居したらえい』

 三森が倉の真ん中に置かれた舟の石を見つめる。

『呪いはある。三森家が抑えてきた。やき、ここで止めたら大変なことになる』
『もしなったら、その時に考えればえい』
『町長!』

 三森が唇を震わせ、里原にそれ以上言わず立ち上がった。里原がそれに続く。

『勝彦君』
『今日のところは帰ってください。これはまた今度に』
『そうもいかん。なあ、みんな』

 ぱらぱら、頷く者が増えていく。三森は右手の拳を強く握りしめて耐えた。

『何かあるがですか』

 強い声色に、里原が苦笑いで頭を掻く。

『実は、昨日不動産屋が来て、話を進めることになったねや』
『話を……? まさか、この土地を再開発する話ですか……?』
『どうしてもと帰ってくれんかったがよ。けんど、勝彦君にしっかり説明をしてからち言うたき、許してくれ』

 神社も倉も三森が管理している。元々三森の土地だ。町の代表者だからといって代わりに頷いていいはずがない。

『無理なもんは無理やき。この倉は絶対に壊しちゃいかん』
『勝彦君、落ち着いて』
『落ち着けるはずなかろう!』

 背を向けて片付けを始める三森を引き留めようと、里原が袴の裾を掴む。そして、佐々木が三森の手にあったお盆を無理に取り上げた。そのため、バランスを崩した三森の体が傾いた。

『──あっ』

 その光景に田中が小さい声を上げた。

 三森はそのまま床に叩きつけられ、運の悪いことに、石を置いていた固い台座が三森の後頭部に当たってしまった。三森は呻くことすらせず、瞳を見開いて天井を見つめていた。慌てた里原が三森を揺する。

『かッ勝彦君!』
『あッあ、た、たまるかッお父さん、三森さんが』

 田中に急かされ、夫が三森を観察する。手首を掴み、絶望の顔で首を振った。

『死んじゅう』
『わぁぁッ』
『誰も出ちゃいかん!』

 外に飛び出そうとした町民を佐々木が静止する。そして里原に声をかけた。

『どうする、事故じゃ済まされん』

 里原が頭を抱え、蹲る。少しの間を置いて、声を絞り出した。

『ああ。……けんど、予定がちっくとばぁ変わっただけやき』

 何年も前から、三森神社とその倉は三江木にとって目の上のたんこぶであった。ただの昔話の石を大事にして、山の再開発にも賛同せず、観光客ではない厄介者ばかり集めてくる。三森を除いた自治会のメンバーでは、いつしか神社の取り壊しから三森の排除に話題が変わっていった。

 何か不祥事を起こさせて神主を引退してもらうか、町から出ていってもらうと計画もしていた。それが今回、予想より少々大げさになってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

1分で読める怖い話短編集

しょくぱん
ホラー
一分で読める怖い話を定期的に投稿しています。 感想などをいただけると嬉しいです。 応援よろしくお願いします。

処理中です...