【急募】バッドエンド

文字の大きさ
3 / 81

会社が癒しだと思う日が来るなんて

しおりを挟む
 結局、あれから一か月過ぎてしまった。新入社員の俺はわりと楽な仕事を与えられていて、当然だが難なくこなせるので毎日定時で帰っている。ただ、由奈の方が忙しいらしい。接客業なのでシフト制だと言っていた。だから、幸か不幸か、デートはこの一か月で二度だけだった。

 喜んでいる場合ではない。これではずるずると続いてしまう。そこではたと気が付いた。

――会えないなら、俺も忙しいことにして、自然消滅を狙うか。

 カップルの別れ方の理由として、自然消滅はよく聞く話だった。お互い忙しくて段々連絡を取らなくなったとか、遠距離で会わなくなってそのままとか。その場合、いつ別れたのか、別れている状態なのか自分にはよく理解できないが、由奈と離れられるのならなんだっていい。これなら暴言を吐いて傷つける必要も無い。精神衛生上とても良い。

――ということで、明日からは積極的に仕事をもらって、残業して帰ろう。

 残業すれば、あちらが早く帰れる日があってもデートしようとはならない。お互いの職場は電車で一時間近く離れているのだ。

 翌日、さっそく俺は実行に移した。

「吉田さん」
「お~堀塚。どうした? 分からないとこあった?」
「いえ、頂いた仕事が終わったので、他にもあったらおっしゃってください」
「マジで? 終わったの、すごいじゃん」

 バシバシ背中を叩かれる。ちょっと痛い。

 吉田さんは俺の二つ上の先輩で、俺の教育係であり、席も隣。まだ研修期間だから、会社にいる時のほとんどは吉田さんと会話することになる。

 体育会系の見た目通り、中身もあっさりしていて、嫌味っぽくなく、そして声がでかくて体もでかい。同じフロアにいさえすれば、吉田さんがどこにいるかすぐ分かるくらいいろいろでかい。

 ただ、残念なことに、二年後に他県へ転勤してしまう。なので、懐かしさもあってわりと今楽しい。吉田さんが転勤する事実を俺しか知らないんだけど。

「無理しなくていいから」
「少しでも新しいこと吸収しておきたくて」
「ッかぁ~~~、良い後輩を持って幸せだよ。今日飲み行く? あ、これも無理だったらいいよ」
「行きます。有難う御座います」

 退社後の飲みも強要してこないところもいい。だからこっちも断らない。つくづく良い先輩に当たったよなぁ。

 定時をやや越えたところで会社を出る。目指す先は駅前の激安チェーン居酒屋。先輩と言っても三年目でこちらは一年目の若造、まだ余裕の無い二人だから毎回数時間いて二千円程度の店を選ぶ。目的は食事というより、ビールを飲みつつわいわい話せる場所なので、ここで十分。

 乾杯をして適当な話に花を咲かせて一時間。まだ十九時台。そして今日は金曜日。できれば二十二時くらいまでは飲んでいたい。

「彼女いるって言ってたけど、遅くなって平気?」
「大丈夫です。一緒に住んでるわけじゃないので」
「そうか。じゃあ、飲もう飲もう」

 良い気分で二時間が経過して、締めにラーメンでもと店を出たところ、目の前に由奈がいた。

 ガードレールにもたれかかり、スマホを弄っている。今日は彼女のシフトが入っていない日だった。下を向いているので、まだ俺に気付いてはいない。

「ゆッ……! ッッ!?!?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

処理中です...