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新たな風
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「玉手箱はないだろうな」
「竜宮城帰りじゃないんで」
大きな荷物を抱えた清仁を見て、国守にツッコミを入れられる。見送られたのは乙姫ではなく陽気なおじさんだが、確かに宴の帰りではある。
料理を沢山頂いただけでも申し訳なく、土産は散々断ったのに、すでに用意したからとおはぎの服を何着も持たされた。やはり、孫か何かと勘違いしているのではないか。
「ああ、お前の父か」
「父でもないですね」
仙が清麻呂の相手をしたらしいが、国守にも伝わっていたらしい。荷物の理由を察して笑われる。
「その袋は使わず仕舞いか」
「はい。こんなにもらって申し訳ないです」
「いいんじゃないか。本人がしたいことなのだから」
たしかに、清麻呂が望み、清麻呂の自由になる金でしたのなら、こちらが遠慮して返さない方がいいのかもしれない。返したらきっと悲しまれる。それなら、これを有意義に使わせてもらおう。
「それに、すぐに仕立てられるものではないから、和気家の古着だろう。そいつらも、もう一度日の目を見られて喜んでいるのではないか」
「なるほど」
今おはぎが着ている服を見る。実に上等な生地だ。清麻呂の姉か妹か、はたまた子どもが着たのか。よく見ると解れている箇所がある。流れた年月を感じ、大切に着せようと思った。
「よかったな、おはぎ。また会ったら改めてお礼を言おう」
「うん」
すると、おはぎが桶を持ってきた。
「はたけ」
「畑行くの?」
「うん。水やり」
「その恰好で? う~~~~~ん、行こうか」
もらった初日で汚す予感がしたが、親としては子どものやる気を摘み取るべきではない。
清仁はおはぎが歩くたびにすぐ横で手を繋ぎ、桶を一緒に持ち、そうっと水やりをして回った。異常に疲れはしたが、おはぎは泥で服を汚すことなく上手に水やりを終えた。
「おはぎ、えらい」
「えらいぞ~!」
くしゃくしゃ頭を撫でる。喜んだおはぎはその場で飛び跳ね、最後の最後で裾に泥を付けた。
「あちゃ」
「あらら、大丈夫大丈夫。洗おうね」
おはぎの服を脱がせようとしたら、門を叩く音がした。
「はい」
「お久しぶりです」
「え!」
そこには何時ぞや振りの北野が立っていた。
「お久しぶりです。どうしたんです、こんな所まで。市場に行く途中ですか?」
「いえ、ここの近くに引っ越したんです。なのでご挨拶にと思いまして」
「ええッ急ですね」
農民姿の北野がにこやかに報告してくれた。少し離れたところで待っている両親もぺこぺこ頭を下げている。北野の印象は良いので近くに住むのは大歓迎だが、引っ越すという話は聞いていなかった。
「畑は元のままですか?」
「今のところは。畑だけならちょっと歩くだけですし」
徒歩三十分がちょっと歩くだけとはたくましい。
「実は頂いた服と元の家を売ってお金になったので、長岡宮に近いところにしようと思い切って長岡京内に」
「へー、近い方が生活は便利ですもんね」
北野との話が盛り上がり、待たせていたおはぎがやってきて清仁の服を引っ張った。
「ごめん。あ、この子はおはぎです」
「はじめまして、おはぎ様。北野です」
北野がおはぎに挨拶をしていると、両親がものすごい速さでこちらに近づいてきた。
「清仁様、お久しぶりです。これからはお会いすることもあると思いますが、宜しくお願い致します」
「こちらこそ宜しくお願いします」
「して、そちらのお子様はまさか北野との!? 私たちの孫でしょうか!?」
ちらちらおはぎを見ながら父親が声を上ずらせる。母親が父親を叩く。
「いやぁねお父さん、早まっちゃって! でも、実はそうだったりしますか!?」
北野の両親はいつ会ってもいつもの両親だった。
「いや、北野さんは産んでないです。一緒に住んでいて妊娠出産の兆候無かったでしょ」
「あっ……そうでした。産んでなかったわ」
冷静にツッコむと異常に落ち込まれてしまった。こちらが悪い気がしてくる。北野が両親の前に出た。
「清仁様、両親がたびたび申し訳ありません。よく言って聞かせますので。では、本日はこれで失礼致します」
何故、北野がしっかりした女性に育ったのか分かった気がした。
「竜宮城帰りじゃないんで」
大きな荷物を抱えた清仁を見て、国守にツッコミを入れられる。見送られたのは乙姫ではなく陽気なおじさんだが、確かに宴の帰りではある。
料理を沢山頂いただけでも申し訳なく、土産は散々断ったのに、すでに用意したからとおはぎの服を何着も持たされた。やはり、孫か何かと勘違いしているのではないか。
「ああ、お前の父か」
「父でもないですね」
仙が清麻呂の相手をしたらしいが、国守にも伝わっていたらしい。荷物の理由を察して笑われる。
「その袋は使わず仕舞いか」
「はい。こんなにもらって申し訳ないです」
「いいんじゃないか。本人がしたいことなのだから」
たしかに、清麻呂が望み、清麻呂の自由になる金でしたのなら、こちらが遠慮して返さない方がいいのかもしれない。返したらきっと悲しまれる。それなら、これを有意義に使わせてもらおう。
「それに、すぐに仕立てられるものではないから、和気家の古着だろう。そいつらも、もう一度日の目を見られて喜んでいるのではないか」
「なるほど」
今おはぎが着ている服を見る。実に上等な生地だ。清麻呂の姉か妹か、はたまた子どもが着たのか。よく見ると解れている箇所がある。流れた年月を感じ、大切に着せようと思った。
「よかったな、おはぎ。また会ったら改めてお礼を言おう」
「うん」
すると、おはぎが桶を持ってきた。
「はたけ」
「畑行くの?」
「うん。水やり」
「その恰好で? う~~~~~ん、行こうか」
もらった初日で汚す予感がしたが、親としては子どものやる気を摘み取るべきではない。
清仁はおはぎが歩くたびにすぐ横で手を繋ぎ、桶を一緒に持ち、そうっと水やりをして回った。異常に疲れはしたが、おはぎは泥で服を汚すことなく上手に水やりを終えた。
「おはぎ、えらい」
「えらいぞ~!」
くしゃくしゃ頭を撫でる。喜んだおはぎはその場で飛び跳ね、最後の最後で裾に泥を付けた。
「あちゃ」
「あらら、大丈夫大丈夫。洗おうね」
おはぎの服を脱がせようとしたら、門を叩く音がした。
「はい」
「お久しぶりです」
「え!」
そこには何時ぞや振りの北野が立っていた。
「お久しぶりです。どうしたんです、こんな所まで。市場に行く途中ですか?」
「いえ、ここの近くに引っ越したんです。なのでご挨拶にと思いまして」
「ええッ急ですね」
農民姿の北野がにこやかに報告してくれた。少し離れたところで待っている両親もぺこぺこ頭を下げている。北野の印象は良いので近くに住むのは大歓迎だが、引っ越すという話は聞いていなかった。
「畑は元のままですか?」
「今のところは。畑だけならちょっと歩くだけですし」
徒歩三十分がちょっと歩くだけとはたくましい。
「実は頂いた服と元の家を売ってお金になったので、長岡宮に近いところにしようと思い切って長岡京内に」
「へー、近い方が生活は便利ですもんね」
北野との話が盛り上がり、待たせていたおはぎがやってきて清仁の服を引っ張った。
「ごめん。あ、この子はおはぎです」
「はじめまして、おはぎ様。北野です」
北野がおはぎに挨拶をしていると、両親がものすごい速さでこちらに近づいてきた。
「清仁様、お久しぶりです。これからはお会いすることもあると思いますが、宜しくお願い致します」
「こちらこそ宜しくお願いします」
「して、そちらのお子様はまさか北野との!? 私たちの孫でしょうか!?」
ちらちらおはぎを見ながら父親が声を上ずらせる。母親が父親を叩く。
「いやぁねお父さん、早まっちゃって! でも、実はそうだったりしますか!?」
北野の両親はいつ会ってもいつもの両親だった。
「いや、北野さんは産んでないです。一緒に住んでいて妊娠出産の兆候無かったでしょ」
「あっ……そうでした。産んでなかったわ」
冷静にツッコむと異常に落ち込まれてしまった。こちらが悪い気がしてくる。北野が両親の前に出た。
「清仁様、両親がたびたび申し訳ありません。よく言って聞かせますので。では、本日はこれで失礼致します」
何故、北野がしっかりした女性に育ったのか分かった気がした。
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