53 / 66
青年の正体
1
しおりを挟む
言葉の意味が分からない。あやかしの名前だろうか。会ったことのないあやかしなのに名前が付いているとしたら、とんでもない有名人に出会ってしまったのかもしれない。
「白澤って何ですか?」
国守が清仁を見て、一つ息を吐く。
「白澤とは吉兆を司る瑞獣だ。人の言葉を操り、国の統治者の前に現れると言うが……お前がそんなわけはないし」
今度はため息を吐かれた。イラっとしたが、清仁本人も統治者ではないことは重々承知している。
「じゃあ、白澤じゃないんじゃ?」
「いや、絵はともかく、お前の説明を信じるなら白澤以外思いつかない」
「あ、でも、悪いあやかしではないんですよね」
「悪くはない。が、世が何か新しい風を受け入れるために混乱が起こるとも考えられる」
清仁は厄介なモノと出会ったことを理解した。何故清仁の前に現れたのかは知らないが、あれが本物の瑞獣ならば、国全体の問題だ。
「今から天皇の元へ行く。準備しろ」
「俺も!?」
「お前が視たのだから、お前がいなければならん」
本当に厄介なことになった。
──桓武天皇に会うなんて、再進言失敗の日以来だよ。でも、上手く行けば再遷都の道も開けるか?
「国守さん、清麻呂さんも連れて行きます?」
「いらん」
「そですよね」
国守に一蹴され、大人しく後ろを付いていく。今回のことに清麻呂は全く関係無い。国守の判断は正しい。それは分かっている。しかし、清麻呂がいてくれないと清仁にとっては死活問題なのだ。
普段牛車を常備していない国守が、近くに住んでいるという部下に指示して牛車を用意してもらっていた。なんとなく仰々しい気もするが、相手を考えれば当然か。
「服は朝服だな」
「はい」
今回は前回のような無礼はしない。
「おはぎちゃん、俺のナカにいてね」
『ぷ』
物々しい場所に幼女や兎が飛び跳ねていたら、可愛らしいが大変なことになるかもしれない。おはぎは素直に清仁のナカに消えた。
「実に素晴らしい我が子! そう思いません?」
「清仁の式神にしてはイイコだ」
「うううん複雑だけど有難う御座います!」
おはぎが褒められているので自分のことは我慢することにした。
二人で牛車に乗る。運転手付きだ。まるで貴族のような扱いに緊張するが、今は周りから見れば貴族だった。
「お前は清麻呂殿の息子ということだったか?」
「いちおう親戚ってことになってます」
「まあ、どちらでも天皇は気になさらないだろう」
「気にしないのヤバイ」
そうこうしているうちに東院が見えた。前回と違い自分が報告する立場なため、心臓がずっと五月蠅い。飛び出してしまいそうだ。何か癒しが欲しい。おはぎを出して遊ぶことも出来ずもやもやしていると、牛車を降りたところでたまに会う貴族の青年に会った。東院内で。
「神の君!!」
「なんでぇ!?」
「白澤って何ですか?」
国守が清仁を見て、一つ息を吐く。
「白澤とは吉兆を司る瑞獣だ。人の言葉を操り、国の統治者の前に現れると言うが……お前がそんなわけはないし」
今度はため息を吐かれた。イラっとしたが、清仁本人も統治者ではないことは重々承知している。
「じゃあ、白澤じゃないんじゃ?」
「いや、絵はともかく、お前の説明を信じるなら白澤以外思いつかない」
「あ、でも、悪いあやかしではないんですよね」
「悪くはない。が、世が何か新しい風を受け入れるために混乱が起こるとも考えられる」
清仁は厄介なモノと出会ったことを理解した。何故清仁の前に現れたのかは知らないが、あれが本物の瑞獣ならば、国全体の問題だ。
「今から天皇の元へ行く。準備しろ」
「俺も!?」
「お前が視たのだから、お前がいなければならん」
本当に厄介なことになった。
──桓武天皇に会うなんて、再進言失敗の日以来だよ。でも、上手く行けば再遷都の道も開けるか?
「国守さん、清麻呂さんも連れて行きます?」
「いらん」
「そですよね」
国守に一蹴され、大人しく後ろを付いていく。今回のことに清麻呂は全く関係無い。国守の判断は正しい。それは分かっている。しかし、清麻呂がいてくれないと清仁にとっては死活問題なのだ。
普段牛車を常備していない国守が、近くに住んでいるという部下に指示して牛車を用意してもらっていた。なんとなく仰々しい気もするが、相手を考えれば当然か。
「服は朝服だな」
「はい」
今回は前回のような無礼はしない。
「おはぎちゃん、俺のナカにいてね」
『ぷ』
物々しい場所に幼女や兎が飛び跳ねていたら、可愛らしいが大変なことになるかもしれない。おはぎは素直に清仁のナカに消えた。
「実に素晴らしい我が子! そう思いません?」
「清仁の式神にしてはイイコだ」
「うううん複雑だけど有難う御座います!」
おはぎが褒められているので自分のことは我慢することにした。
二人で牛車に乗る。運転手付きだ。まるで貴族のような扱いに緊張するが、今は周りから見れば貴族だった。
「お前は清麻呂殿の息子ということだったか?」
「いちおう親戚ってことになってます」
「まあ、どちらでも天皇は気になさらないだろう」
「気にしないのヤバイ」
そうこうしているうちに東院が見えた。前回と違い自分が報告する立場なため、心臓がずっと五月蠅い。飛び出してしまいそうだ。何か癒しが欲しい。おはぎを出して遊ぶことも出来ずもやもやしていると、牛車を降りたところでたまに会う貴族の青年に会った。東院内で。
「神の君!!」
「なんでぇ!?」
1
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる