そろそろ寿命なはずなのに、世界がじじいを離さない

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転移

魔法と科学

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 ひとしきり観察されてから、鉄佳が戻された。大切に毎日手入れをしてきたとはいえ、模造刀を国宝みたいに扱われてしまった。
 鉄佳を見てふと気づく。ゴブリンキングを倒したはずなのに、鉄佳は刃こぼれ一つしていない。新品みたいだ。むしろ、今までより綺麗かもしれない。
 あの時、光を帯びた気もした。もしかして、異世界に飛ばされた際、何かの反動で鉄佳に作用して変化が起きたのだろうか。

「ふむ」

 それであれば、多少の不安は残るものの心強い。見た目は変わっていないし、どんな風になろうと大事な我が子。これからも大切に付き合っていきたい。

「貴重なお品を拝見し、心が浄化されました。有難う御座います」

──模造刀とは言いづらい雰囲気になってしまった。

 シルアには言ってあるし、たいした問題ではないだろう。酒の礼を言うと、キリが去っていった。酒は棚に入れてくれた。冷蔵庫のようなものらしい。

「冷却具という魔法具を中に入れておくと、ずっと冷えてるんですよ」
「なるほど。魔法具。魔法で作った道具、ということかな」
「そうですね。鉄さんの国では魔法は珍しかったですか?」
「というより、魔法を使える者はいなかった」
「なんと!」

 シルアが立ち上がって驚く。それだけ驚かれるということは、この国では魔法が当たり前の日常だということだ。

「しかし、魔法という言葉はあったよ。人々が作り出した創作の中だけだけれども。私の世界では、その代わりに科学があった。人が考え出した知恵で、冷却具みたいな冷蔵庫を作り出したし、空気を冷やしたり暖めたりするエアコンもあった」
「へえ~~~、世界が違うとそんなに違うんだ。科学ってどうやってやるんです?」
「身の回りの道具や植物から、光を作り出す電気や人々を治す薬まで作れるんだよ。ただ、専門分野だから、そういう知識や道具が無いと出来ないけれども」
「その辺は魔法と一緒ですね。魔法は魔法士じゃないと出来ないことが多いです」

 魔法も科学も紙一重なのかもしれない。子どもや孫と楽しんだ魔法アニメを思い出す。まさか魔法に触れ合える機会が来るなんて、是非孫に知らせたい。

「そうだ。手紙を書こう」

 いつ戻れるか、一生戻れないかもしれない。それでも、この世界のことや今の気持ちを書き留めておきたい。

「手紙ですか? 紙なら沢山ありますから渡しますね!」

 シルアが扉を開けて走り出し、ものの一分で紙を手に戻ってきてくれた。廊下で「走らないでください!」と誰かに怒られていたのは目を瞑っておいた。
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