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新生活
強盗
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間違えたことを謝罪した鉄次郎だったが、シルアは謝られたことでさらに自信を無くしたようだった。
「私の認識能力が衰えているだけかもしれません。本当に失礼しました」
「いえ……私、本当に絵が下手で。こちらこそ使えない地図で申し訳ないです」
「とんでもない。字はお上手ですし、絵も字と一緒に把握すれば分かります。有難く頂戴いたします」
恥ずかしそうに手渡したシルアが拳を握って鉄次郎に宣言する。
「私、絵が上手くなるよう練習します。次こそは立派な地図を描き上げますね」
「それはそれは、楽しみにしています」
鉄次郎は両手で地図を大切に持ちながら答えた。
翌日、地図を片手にギルドを目指して歩き出した。今日は一人だ。彼女たちも来たがっていたが、街をふらふら歩いていたらいろいろ問題があるらしい。
「皇女が護衛も付けず歩くわけにはいかないだろう。どれ、ゆっくり行くとするか」
幸か不幸か時間はたっぷりある。肝臓の調子はこの世界に来てからすこぶる良い。今なら一升瓶一気飲みにも挑戦できそうな勢いである。
「そんなことを言ったら、佳代に背負い投げをされそうだ」
妻は随分前に死に別れた。しかし、今でもたまに夢に出てくるくらい妻を想っている。もう一度会えたらと何度考えたことだろう。
「おや」
ふと、前の方で喧騒がした。目を向けると、大柄な男がこちらへ走ってくる。右手にはナイフ、左手には女性物らしい鞄だ。おそらく強盗の類か。鉄次郎の顔が固くなった。
「おいじじい! 邪魔だどけ!」
男が叫んだ。鉄次郎以外の通行人は道の端で震えている。
「なるほど。それはできない相談だ」
命令を聞かなかったため、男が声をさらに荒げた。
「おいぼれが、殺されても文句言うなよ!」
男がナイフを振りかざす。鉄次郎はすかさず男の懐に入り、左腕を突き上げて男の右手首をはじいた。痛みで男がナイフを滑り落とす。丸腰になったところを見逃さず、足払いをして男を道に転ばせる。鉄次郎が腹に足をドンと下ろし、男へ言った。
「これでもまだ向かってくるか?」
「くそ……ッじじいが強いなんて聞いてねぇ」
「言っていないからな」
周りからは歓声が上がった。
「おじいさん素敵!」
「うちの用心棒になってほしい」
鉄次郎はぺこぺこお辞儀をしながら、鞄の持ち主を探す。
「あの、その鞄」
「ああ、お嬢さんのでしたか。どうぞ」
「有難う御座います」
成人したての女性が鞄を受け取り、何度も鉄次郎に礼を言う。
「私の家が近いので、是非お礼をさせてください」
「いえいえ、当たり前のことをしたまでです。礼には及びません」
鉄次郎は女性と別れ、男の首根っこを掴んで歩き始めた。
「私の認識能力が衰えているだけかもしれません。本当に失礼しました」
「いえ……私、本当に絵が下手で。こちらこそ使えない地図で申し訳ないです」
「とんでもない。字はお上手ですし、絵も字と一緒に把握すれば分かります。有難く頂戴いたします」
恥ずかしそうに手渡したシルアが拳を握って鉄次郎に宣言する。
「私、絵が上手くなるよう練習します。次こそは立派な地図を描き上げますね」
「それはそれは、楽しみにしています」
鉄次郎は両手で地図を大切に持ちながら答えた。
翌日、地図を片手にギルドを目指して歩き出した。今日は一人だ。彼女たちも来たがっていたが、街をふらふら歩いていたらいろいろ問題があるらしい。
「皇女が護衛も付けず歩くわけにはいかないだろう。どれ、ゆっくり行くとするか」
幸か不幸か時間はたっぷりある。肝臓の調子はこの世界に来てからすこぶる良い。今なら一升瓶一気飲みにも挑戦できそうな勢いである。
「そんなことを言ったら、佳代に背負い投げをされそうだ」
妻は随分前に死に別れた。しかし、今でもたまに夢に出てくるくらい妻を想っている。もう一度会えたらと何度考えたことだろう。
「おや」
ふと、前の方で喧騒がした。目を向けると、大柄な男がこちらへ走ってくる。右手にはナイフ、左手には女性物らしい鞄だ。おそらく強盗の類か。鉄次郎の顔が固くなった。
「おいじじい! 邪魔だどけ!」
男が叫んだ。鉄次郎以外の通行人は道の端で震えている。
「なるほど。それはできない相談だ」
命令を聞かなかったため、男が声をさらに荒げた。
「おいぼれが、殺されても文句言うなよ!」
男がナイフを振りかざす。鉄次郎はすかさず男の懐に入り、左腕を突き上げて男の右手首をはじいた。痛みで男がナイフを滑り落とす。丸腰になったところを見逃さず、足払いをして男を道に転ばせる。鉄次郎が腹に足をドンと下ろし、男へ言った。
「これでもまだ向かってくるか?」
「くそ……ッじじいが強いなんて聞いてねぇ」
「言っていないからな」
周りからは歓声が上がった。
「おじいさん素敵!」
「うちの用心棒になってほしい」
鉄次郎はぺこぺこお辞儀をしながら、鞄の持ち主を探す。
「あの、その鞄」
「ああ、お嬢さんのでしたか。どうぞ」
「有難う御座います」
成人したての女性が鞄を受け取り、何度も鉄次郎に礼を言う。
「私の家が近いので、是非お礼をさせてください」
「いえいえ、当たり前のことをしたまでです。礼には及びません」
鉄次郎は女性と別れ、男の首根っこを掴んで歩き始めた。
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