そろそろ寿命なはずなのに、世界がじじいを離さない

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新生活

ダイオン

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 まだ封印が解けたばかりなので、今すぐ魔王の勢力がやってくることはないだろう。しかし、人間は違う。パニックを起こしたら何が勃発するか分かったものではない。

「隣国へは私もお供します」
「大変助かります」

 条約を結ぶため、皇帝自ら出向くことになった。

「ダイオンに知らせを出しておいてくれ」
「はッ」

 近くにいた部下に指示を出す。なんでも、魔法で出した鳥に手紙を括りつけて放つらしい。これであれば、遠くの国でも半日もかからず届けられる。

「ダイオンはここから遠いですか?」
「馬で一日半というところです。数人なら転移魔法が使えますが、それ以上となると魔力の関係で難しいのです」

 転移魔法は魔法陣に乗る必要があり、描く際にも転移する際にも魔力を必要とするらしい。一回なら問題ないが、何回もすると魔法士の魔力が尽きたり、最初に転移した者だけでそこにいると危険な場合もある。そのため、五人以上の時は使わないことになっている。

 今回は皇帝が出向くため、護衛が必要だ。四人ではさすがに心許なく、交渉も不利になる可能性があるので却下となった。

「シルアは留守番をしていなさい」
「まだ何も申し上げていないのに!」
「しかし、私が言わなければ希望しただろう」
「しましたけど」

 皇帝はシルアのことをよく理解している。親子関係が良好なようで鉄次郎は微笑ましくなった。

「でも、お父様だけでは大変なのでは」
「アルトを連れていく」
「ああッそうでした。お兄様が今はいるんでした……悔しい……」

 シルアがギリギリ歯軋りをする。今回は皇子が共にするらしい。鉄次郎は初めて聞く名前だった。

「アルト様はお城にいらっしゃらなかったのですか?」
「ええ、修行に出ていて、最近戻っていたのです」
「修行ですか。向上心がおありになって素晴らしいです。いつかお手合わせ願いたいですね」

 鉄次郎が提案すると、皇帝が驚いた様子で謙遜した。

「いえいえ、鉄次郎さんまでのレベルに達するには生半可な修行では難しいですので。しかし、いつかお手合わせしていただければアルトも喜ぶでしょう」
「その日を楽しみにしております」

 隣国ダイオンに知らせを送った翌日返事が着て、両国の話し合いは三日後に決まった。ダイオンで行われるので、二日後の早朝出発となる。

「私も行きたかったなぁ」

 そう独り言ちるシルアだったが、さすがに父の決定は絶対らしく、無理に主張することはなかった。

「鉄さん、お土産よろしくお願いします」
「はい。何か買ってきますね」
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