【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。

豆丸

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最後の戦い② sideベンダル

 
「了解した!」 
「お任せ下さい竜神様!」  

 俺とブランド、お互いの欠けた視野を補うように、左右に分かれ剣を構えた。


「ククク本当に甘いな、猶予を与えると思うのか?くたばれ!!」  
 奴は黒々とした醜い巨大を震わせた。 
 その体から生えた数多の触手が、竜神様を目掛け一直線に飛んでくる。  

「動きが単純だ!」  
 俺は、剣に紫炎を纏わすと一文字に剣を振るい、触手を薙ぎ払う。数十本の触手が燃えながら地面に落ちた。地面に黒い穢れが広がる。 

「醜い触手め!」  
 ブランドが緑竜の力で召喚した葉が刃と化して、後続の触手を切り刻む。 
  
 ボタボタと切り刻まれた触手が広範囲に落ちた。触手は小さく刻まれようが、うねうねと動き、竜神様の足元の近くで、ドロリと溶けた。地面に黒い穢れだけが残った。

 背中越しに竜神様の浄化の光が徐々に強く大きくなるのを感じた。 
 
でも、まだまだだ。 
奴を屠るには力が足らん。 
  
 俺とブランドは矢継ぎ早に繰り出される触手を全て、退け、切り捨てた。    

「凄いです!」
「さすが始まりの竜の力!ですが……俺たちだって負けません!」  
 俺たちに鼓舞され、神官兵が槍を突き立て襲いかかる暗黒兵を屠る。 
  
 暗黒竜の山のような黒い巨体が、俺とブランドに触手を次々に切られた丘ほどに縮小した。 

「ずいぶん、小さくなりましたね」 
「手応えが無さすぎる……油断するなブランド!」
 
 俺が叫んだ瞬間に地面が傾いだ。 
 足元から突如涌き出た触手を切り捨てた。 
 驚き下を見れば、切り捨てた触手で穢れた地面が波打ち新たな触手がどっと溢れた。

「切られた程度で、弱るはずないだろう?」 
 赤い口がにたりと弧を描く。
 
「じ、地面が!黒く!触手が……うわぁ!ひ、ひぃ!」 
 触手は腰を抜かした神官兵を絡めとると、黒い地面に下半身を引き摺り込んだ。 
 神官兵は悲痛な悲鳴をあげると、一瞬でミイラのように干からびた。暗黒竜の糧にされたのだ。 
  
「雑魚兵はうまくないなぁ。大した力にもならない……ああっ。始まりの竜か、竜神を早く喰らいたいなぁ」  
 舌舐めずりをすると、黒い地面に引き摺り込もうとずるりと触手を生やした。 


 穢れた地面から、丘と化した自身から幾千の黒い薔薇のような触手が咲き誇る。  


 次々と……。 
   次々と……。  
       見渡し限り黒一色に染まる。

 絶望的な光景に、ブランドの喉がひゅっと鳴いた。 

「こんな者に、か、勝てるわけがない」 
 兵士の一人がカランと槍を落とし、膝を付いた。

「邪竜め……これが狙いだったのか!勇敢な竜神の
兵よ怯むな!怖れるな!半竜化して上空に待避しろ!ブランド、竜神様に結界を張り護れ!兵士はブランドを守れ!」 
 人型に背中に竜の羽をはためかし半竜化した俺は、上空でブランドに兵士に指示を出した。
 
「既に結界を展開していますベンダル殿」 
 黒一色のうねりの中で、ブランドの緑色の結界に包まれた竜神様は小舟のように揺蕩う。

「ベンダル殿、私は、グレンやレインと違って繊細な力を使う結界は苦手です。長くは持ちませんよ!現状を打破する策はあるのですか?」 
 同じく半竜化したブランドは結界を展開しながら、俺に問うた。 
  
「策などない!本体を叩くのみだ!」 
「無茶ですよ」
 
 俺は、ブランドに群がる触手を薙ぎ払うと、急降下し丘と化した本体に、渾身の一撃を打ち付けた。 
丘が半分にぱっくり割れ、中から黒い液体が血のような噴出した。
  
「150年経っても……お前は単純だな」   
 切られてもなお、嘲り笑う暗黒竜は、黒い体液を俺に浴びせかけた。 

「ぐっ!こんなもので」 
 顔にかかった液体を手で拭おうとした。しかし、黒い液体が意思を持ち俺の体に巻き付いた。 
 手首を絡め、太ももを縛る。手から剣が滑り落ち、羽を拘束され俺は蠢く地面に落下した。 
黒い海に落ちた。俺を糧に取り込もうと次々に触手が群がる。 

「ベンダル殿!」 

「ベンダル、大丈夫ですか」 
 竜神様が結界越しに叫んだ。集約した聖なる力が停滞した。 

「駄目だ竜神様!暗黒竜を倒すのだ!俺に構わず浄化の光を集めろ!!必ずや好機を作る!!」 
 俺は叫んだ! 
 ここで、諦めたらアーガストが終わる。生きとし生けるもの全て暗黒竜に喰われてしまう。 
  
「さぁ!俺を取り込め!お前の中でこの紫黒竜ベンダル、全ての力を解放してやろう!ただで喰われると思うなよ!」 
 触手に浸食されながら挑戦的に笑った。  

「ベンダル殿!死ぬ気ですか?」 
「ダメです!ベンダル」 
 泣き崩れる竜神様に、大丈夫だと笑みを浮かべた。俺が死んでもブランドが聖女マナツが居る。
 
「我が愛しき番よ!俺が死んでも、お前の使命を果たせ」  
 
「ベンダル……わたくしもう泣きませんわ!でも、わたくしは我が儘なんですの……アーガストもベンダルも諦めません、わたくしが護ります!」 
 
 竜神様がパァンと結界を内側から破った。 
神々しい神気を纏い眩しいほど金色に輝いた。
 竜神様は祈りの形を崩すと両手を前に差し出した。 

「暗黒竜!貴方を浄化しますわ!!」  
 
 圧倒的な浄化の光が放たれた、眩しくて目を瞑った。俺を浸食していた触手が浄化し消えた。
 
 竜神様の浄化の光は、丘と化した暗黒竜を焼き払い、一面の黒薔薇を浄化していく。 
 体が自由になった俺は竜神様に寄り添った。ブランドも竜神様に寄り添う。 
 
  

 終わった、全て終わったのだ……そう思った。 

しかし……。  

「弱い……弱いな」  
 ブランドの影がごぶりと立ち上がった。 
 
「な、影が」 
ブランドが身構えるより速く、その体を飲み込んだ。 
 
「ブランド!」  
竜神様が消えたブランドに手を伸ばす。 
 
「竜神様離れろ!」 
俺は竜神様を抱き締めると空に飛んだ。 
 
「ベンダル!離して下さい!ブランドが糧にされてしまいます」  

「落ち着け、落ち着くんだ!今駆けつければ、竜神様も喰われるだけだ」 

「どうして……浄化の力が足りなかったの?わたくしが完生体にならなかったから?マナツを食べれば良かったの?」 
 俺の腕の中、小動物のように竜神様が震えた。ポロリと一粒涙を流す。 

「竜神様……」  
 俺は何も言えなかった。ただその肩を抱き締めた。竜神様の震えが止まり、きっと俺を見上げた。 

「いいえ! 
 何度同じ場面になっても、わたくしはマナツを食べる選択をしませんわ。後悔しません! 
 一発で効かないなら何度でもわたくしが尽きるまで浄化の光を放ち続けますわ!」  
 黄色の薔薇のように微笑むと、耳元で囁いた。 
 
「ベンダルは、付き合ってくださいますわよね?」  
「ああ……何度でもな」 
 俺は不敵に笑った。

     
 
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