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カジノ
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きらびやかなスロットの前、嬉々としてボタンを押すカスミを少し離れた別の台から、ヨナは見守る。カスミは、いつもの白衣ではなく、ヨナの瞳の色と同系色のマーメイドラインのシンプルなドレスを着ていた。シンプルだからこそメリハリのある体のラインが強調されて美しい。ヨナは、いやいやながらカスミが選んだブルーのタキシードを着て凛々しい。二人とも見目麗しく人目を引く。
最上階の高級フロアの階は金額設定が高額で、入店に身分証とドレスアップが必要だった。
そのため利用者は、豪商、貴族、王族が大多数を絞め、その分治安が良く、護衛の数も多い。
また、貴族の男がカスミに話かけた。男と二、三言話したカスミはヨナを指差し、花のように、にこりと笑う。男は残念そうにカスミから離れ、ギロリとヨナを睨んで「ふん!半獣の分際で!」と、捨て台詞を吐き去っていく。
あからさまな男の嫉妬心が心地よい。仮初めの夫婦だがカスミが当たり前のように、ヨナを選ぶことに、ほの暗い喜びを、感じる。
ヨナは短い半獣人生の中、欲しいモノを願ったとしても、手には入らないとへらり笑い、諦めて手放してきた。仕事に対しても人に対しても女に対してもだ。
ヨナは、半獣だったが遊びたい女たちにそれなりにモテた。もちろん童貞じゃない。何も苦労して半獣と添い遂げたい女はなく、ヨナが少しでも本気を見せると皆引いていく。
(カスミもそうだろうか?聖女の娘で王妹。母親の墓参りと嘘をつき悪魔の穴を目指す女……。
一番手に入らない難儀な女を本気で欲しいと思うなんて……ははっ、俺らしくない。
いつものように手放して諦めてしまえば楽だろうに――)
カスミは、危機感が足りない。今までの護衛騎士と違い襲わないヨナに安心しきっている。 初めて野宿した日からヨナのシュラフに潜り込むようになってしまった。
カスミ曰く『ヨナと一緒だと、怖い夢をみないから!』だそうだ。若い雄のヨナには苦行でしなく、カスミが寝付いてからこっそり処理する……虚しい日々。
カスミの周りが騒しくなった。ヨナは思考を中断しカスミのもとに急ぐ。カスミは、山積みになった金貨の山を両隣に築き上げていた。ヨナは驚き目を丸くする。
(ははっ、姫さん、凄いな~。でも、出し過ぎると目をつけられるから、ほどほどにと忠告したはず)
案の定、カスミは厳つい顔のディーラー達に囲まれていた。
「お客様、イカサマは困ります!別室で話を聞かせて下さい」物腰は他の客の手前丁寧だが、ディーラーはカスミの手首を掴んだ。
「ちょっと、痛いわ。離しなさい!私、イカサマなんてしてないわよ!」
「イカサマするお客様は、皆さん同じような言い訳をなさいます」
「ヨナー!」
腕を男に捻られ痛みにカスミは、悲鳴をあげた。
(俺のに勝手に触んな)
ヨナは、跳躍しながらカスミの横に積み上げられた金貨の箱を蹴り上げた。箱はディーラーたちの方向に倒れ、彼らは野太い声をあげカスミから離れる。怯んだ一瞬の隙をヨナは、見逃さなかった。カスミの手を引くと入り口に向かう。
「逃がすな!追えー!」
ディーラーの男たちの数があっという間に増え、二人は入り口の前の階段で追い込まれてしまう。ヨナは、ズボンのベルトの飾りとして紛れ込ませた鞭を引っ張り出すと近寄る男たちをなぎ払う。
「うわ!武器だ!どこから!」
「受け付けは何をしてたんだ!」
カジノに武器の持ち込みは禁止で、入り口で簡単なボディーチェックもされていた。
「ははっ、あんなの簡単に抜けられる。それよりあんた達、ホウダイ国、王妹聖女の娘カスミ様をイカサマ呼ばわりするんだ、何か証拠があるのか?」
「証拠も何も、あの台は万に一度しか当たりが出ないように調整されてるんだ!!」
「おい!」
「しまった!」若いディーラーは慌てて口を塞ぐももう遅い。
「ははっ、なんだ~証拠はないのか?まさか王族を拷問して無理やり吐かせるつもりだったとかー?」 ヨナは、周りの客に聞かせるようにわざと大きな声で問いかける。
客たちは冤罪か?と、ざわつき始めた。
「うわ、私。万に一度が当たったのねー!凄いわー!」カスミは、ヨナの後ろで手を小さく叩く。
「嘘をつくな!イカサマだろう!!」
若いディーラーは目を血走らせてカスミに近寄る。ヨナは、ディーラーを蹴り飛ばした。
「嘘じゃないわ!イカサマする意味がないわ。私はカジノに散財しにきたんだもの、寧ろ増えたら困るのよ。今までの分は返すから、それでいいでしょう? 折角カジノに来たんだから、揉める時間が勿体ないわよ。もっともっと遊びたいのよー!」
カスミの熱弁にディーラー達が戸惑いを見せたその時―――。
カジノフロアに低い男の声が響き渡った。
「姫様の言う通り、万に一度当たることもある。彼女はこの上なく幸運な女性だ。私の部下たちが失礼した、謝罪させくれ」
カスミとヨナに深々と頭を下げたのは、このカジノの総支配人とロッテトリスクの市長の2つの顔を持つ、バスキューダ・ガロウその人だった。
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