黒魔女さんは炎狼を捕まえたようです。

豆丸

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素直になろう

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 魔女のコレットは一匹のオークと対峙していた。コレットは妖艶で美しかった。 
 
ふわふわのピンクの髪を高い位置でポニーテールし、惜しげもなく豊かな胸を強調したビスチェ、折れそうな腰、ミニスカートから大胆にスラリとした美脚を晒し、メイクもバッチリ魔女と言うより遊び人のようだった。

 ズキッと下腹部に走った傷みに気をとられた一瞬の隙をオークは見逃さなかった。 
コレットの顔面めがけ、巨大な槍を撃ち込んでくる。当たる前に防御壁を張ろうと杖を構えるが間に合わない。 
当たる―――コレットは両手で顔を庇った。 

 ガガ、バキッ! 


 突如、炎の塊が踊り出た、灼熱の炎を纏った狼だった。
 狼はオークの槍をコレットに当たる寸前に吹き飛ばした。 

「コレットてめえ、戦闘中にボーとしてんじゃねえ!」狼はコレットを庇うように前に立つと人型に変化した。 
 
燃えるような赤髪を無造作に一つに結び、男前だが生意気そうな紅い瞳がヤンチャな印象を与える、褐色の肌に鍛え抜かれた肢体。 
火山地帯に住む炎狼族のガイルだった。 
 
「ガイル!」 
「来るぞ!援護しろ!」ガイルは身構えた。 
オークが落ちた槍を拾い再び襲ってきた。
 
「わかった!任せて」 
コレットは杖を構え、ガイルが飛び出した瞬間、オークに向かい氷のやいばを放った。 
刃はオークの足を凍らせ足止めする。 
 
「ぐっがが!」 
オークはバランスを崩し前に倒れこむ、すかさずガイルが鋭い爪と牙でオークを切り刻む。 
 
「ぐぎゃああああー!!」 
身体中から血を噴出させオークは息たえた。 
 
(なんとか、終わって良かった。うう、お腹痛くなってきた。) 
 
 安心したコレットがお腹を擦り擦り、周りをみると、他のオークは仲間達パーティーが倒していて、歓喜の声をあげていた。

 

「最後の一匹終わったね」 
 アマゾネスのリリアカが肩に手を回しバシバシ叩いてきた。 
 
「領主様の依頼でもオーク30匹はキツいわよ」コレットはオークの死体の山にため息をついた、更に依頼達成の証拠に耳を切って帰らないといけないから余計げんなりする。

「まー!その分報酬は良いから我慢だな!早く帰って良い酒飲んで、良い男と寝たいな!」  
リリアカ達アマゾネスは性に積極的で強い男性から子種を搾り、強い子を産むことを良しする種族だった。
 
「またリリアカは、そればっかりねー」 
「おーい!リリアカもオークの耳切手伝え!」リーダーの戦士スバルに呼ばれてリリアカは手を振りコレットから離れていった。  

 
「おい!コレット!今日の戦闘あれはなんだ?」 
呼ばれ振り向けば、ガイルが怒鳴りながら、近づいてくる。 
 
(うわー。めんどくさいのきたわね。) 
 
「うるさいわよ、ガイル。」 
「うるさいとはなんだ!戦闘中にぼーとしてたら死ぬぞ!」 
「死んでないわ!今生きてる」 
「俺のおかげだろうが!俺の!礼の1つも言えねえのか?可愛くない奴!」   
 
(可愛くなくて悪かったわね。私だって素直になりたいわよ) 
下腹部の傷みが徐々に広がりお腹に手を当てる。 
 
「あら、ありがとー。言ったわよ礼!」 
 嫌みたらしく返すとガイルはいつもように怒らず、冷静に返してきた。 
 
「今、腹を擦ってただろう?体調が悪いなら戦闘に参加するな。お前のミスで仲間パーティーが全滅することだってあるんだ。」 
 
(確かにそうだ。ガイルは正しい。私の可愛くない態度はただの八つ当たり。)     
 
「ご、ごめんなさい」 
下を向き消えそうな声でコレットは謝った。








(最悪、最悪。好きな人の子供なんて産めないんだから、月経なんか来なければいいのに!)  
  
 コレットはオーク討伐をギルドに報告する仲間から先に抜け、一人ベッドの中で苦しんでいた。
 月経がきたのだ。 
 半年ぶりにきた月経は重く、出血も多い、石を乗せたような子宮の重さ、キリキリする痛み、子宮も痛いが頭も痛い、コレットは泣きたくなった。  
 
 魔女のコレットにとって一番重要なのは月経が来ると魔力が無くなり、魔法が使えなくなることだった。 
魔女の魔力は月に支配されている。 
 月経周期は他人に漏らしてはいけない、魔法が使えない魔女は只の人間と変わらないので、月経中に襲撃されたらおしまいである。 
  

 コレットはヨロヨロと起き出し、彼女が常宿にしている緑風荘の小さなサイドテーブルの引き出しを開けて、半年前に飲んだ月経痛を柔らかくする薬草を探した。 
 
(あ、あった!でも困ったわ、最後の1つか。この前買えば良かった。) 
コレットは悔やんだか後の祭りだ。 
    
コレットが薬草を煎じて飲んでいると、コンコンと部屋のドアがノックされた。 
  
「おーい!リリアカだ。コレット大丈夫か?入れてくれー。」と元気な声がした。 
 
コレットが鍵を開けるとリリアカが部屋に入ってきた。  
   
「お!その姿半年ぶりだね。やっぱり可愛いよー」  
「可愛くないわよ。こんな地味な見た目、月経でしんどいし、魔力もないし、最悪の気分!」枕を叩くコレットの容姿はすっかり変わっていた。 
全体的に小さくなり、髪の色はふわふわピンクからサラサラ黒髪に、豊かな胸はスレンダーな貧乳に、スラリとした足はより華奢に、顔立ちはそのままだか、濃い化粧をしていないため、幼くあどけなくみえた。 
コレットは、妖艶な美女から清楚な美少女に変貌していた。
 
「魔女って面白いな。魔力で見た目を変えられるなんてなー。」 
  
魔女は強力な魔力により自分の容姿をある程度コントロールできた。 
低い身長を高くしたり貧乳を巨乳にしたり、黒髪をピンクにしたり、つまり魔力のない今の姿がコレットのもとなのだ。 
 
「偉大な魔女ステラは性別も変えられたそうよ。」 
「性別かー。男になって女の子を孕ますのも楽しいだろうな。」 
「呆れた、リリアカには性欲しかないの?」   
「一族繁栄が私の生き甲斐だからな!」 
リリアカは胸を張る。    
 
 
「ねえ、リリアカ好きな人の……リリアカの場合は強い人の赤ちゃんを産むのって幸せ?」
「ああ!幸せだ。一番上はそろそろ成人の儀式を迎える。」 
リリアカは若く見えるが種違いの8人の女の子の母親だった。 
 
「コレットも産めばいい!ガイルを押し倒して子種を搾り取るんだ。」 
「な、なんで!ガイルなのよ!わ、私は違うからね。」コレットの顔は真っ赤だ。 
「照れて可愛いな、コレットは。隠すな私とあんたの仲じゃないか」 
  
 コレットとリリアカの付き合いはコレットが魔女の森から出てきた12歳からで、もう4年。駆け出しの冒険者だったコレットを娘か妹のように可愛いがり、手助けしてきた。 
 
「違うもの!わたし、ガイルの好みじゃないしつがいでもないから。」 
「相手の好みを気にしている時点でバレバレだ。素直になりな、番じゃなくても添い遂げることは出来るさ!」 
 
「無理よ……炎狼は番一筋の種族だし、番じゃないと見向きもされないわよ」コレットは膝を抱えた、欲しくても手に入らない。 
  
「私達アマゾネスには、生涯一人の種で良いなど理解出来ないな!」 
「うふふ。リリアカはそればっかりね」 
「ガイルは兄貴気質だから、今の姿のコレットに甘えられると弱いと思うぞ、素直にぶつかって行け!骨は拾ってやる。」   
コレットはリリアカと話し、少しだけ気分が軽くなり、無くなった薬草の購入とお腹に優しい食料をリリアカにお願いした。
  



  
 ガイルがコレット達の仲間に入ったのは、半年前の月経が終わった後だった。 
リーダーのスバルにガイルを紹介され、コレットは彼に一目惚れしてしまったのだ。 
ガイルは戦闘でも我先に危険に挑み、仲間のピンチには直ぐに駆けつける惚れない理由わけがない。
 
コレットは勇気を振り絞り飲みに誘って、いきなり撃沈した。   
「ガイルは彼女作らないの?」と聞いたコレットに酔ったガイルは言ったのだ、「俺は番を探し求めている。他の奴なんていらない」と…。  
 
ショックだった初恋だった。その場は取り繕い緑風壮の自室に帰ってからやけ酒を煽った。 
  
そして、朝起きられず集合時間に遅れ、ガイルにしこたま怒られた。  
  
素直じゃないコレットは、失恋ショックからか、ガイルに話しかけられても可愛くない態度をとり、二人は言い争いが多かった。 
 

 
 素直にか………ガイルは近いうちに炎狼族に帰るとリーダーのスバルが言ってた、もう会えなくなる。 
告白は出来なくても、今度あったら素直に接してみよう。 
魔力もなくなり取り繕う容姿もなくなったコレットは素直に甘えると決めたのだった。

 
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