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祭りへの誘い
しおりを挟む森の国ガイダル。前世持ちや獣人など、多種多様な種族が暮らすこの国でも珍しいかたつむり獣人の僕こと、リュリュ・ノートンはにこやかに、書類を受け取った。
「お疲れ様です!」
童顔で可愛いポニーテールの似合う騎士団間配送担当のルルナお姉さんに手を降る。
(いいなーっ。お姉さん……でも、すでにお手付きか。別の獣人の臭いつき、はあ、残念。僕も素敵な恋人欲しいな~)
頭からひょろりと付きだした一対の細い触覚は、お姉さんから漂う獣人の匂いを敏感にキャッチした。
美味しそうな上向きヒップに後ろ髪引かれつつも、ガイダル騎士団砦の螺旋階段を登る。
段差多くてきついな。頂上の分厚い扉をノックをすると「リュリュです。失礼します」と、丁寧に挨拶して隊長隊長室に入室した。
「硬くお断りいたします!」
「おい!話を最後まで聞いてくれよ!おっ!!リュリュ!ちょうどお前も呼ぼうとしていたんだ。サビーダを止めてくれ!」
団長の机の前で、ガイダル騎士団第2師団カルロス副団長が必死に一人の団員を押し止めていた。
怒りに真っ赤な顔で部屋から出て行こうとしているのは、鍛練後で汗だくの2つ後輩騎士のサビーダだった。
「ザビーダ……そのままじゃあ、風邪引くよ!汗、早く拭きなよ」
僕は首から下げていたタオルでザビーダの顔を拭いてあげた。
「……っ、先輩」
赤い顔で硬直するザビーダ。だけど、そのまま拭かせてくれる。いいこだな。
「まあ、ザビーダ落ち着きなよ……僕の顔に免じて頼むよ。なぁ?」
にっこり笑顔で頭を下げるとザビーダは仏頂面ながらも部屋に留まってくれた。
真面目で堅物なザビーダでも、いつも潜入、僻地調査でパートナーを組む僕のお願いは聞いてくれる。僕は、騎士としての力量は中級クラスだけど、かたつむり獣人は水魔法を使えるから、飲み水確保に重宝される。
本当に……ここまで来るのは長かった~。
一年以上かかったもんな。何度も何度も無視され、すげない塩対応でも堪え忍び、話しかけ続けてきた甲斐があるというもの。日常生活会話に答えてくれた、あの感動は忘れない。
今では僕の話しなら聞いてくれる。一番仲良しの先輩だと自負している!
副団長もザビーダ本人に頼みにくいことは、僕を中継して頼んでくるんだもん。困るよね。
サビーダ・ロックダイン。
森の国ガイダルに古くから存在する剣術一家ロックダイン子爵家の長男にて風魔法使い。剣術の腕前も然ることながら、ガイダル国では貴重な魔法を使えるため、魔法省からもお声がかかった。羨ましい僕は獣人だから呼ばれもしない。まあ、魔法だけじゃなく学も爵位も必要だし。魔法省はエリート中のエリートで、高給取り、待遇もピカ一。
入っただけども凄いモテる……なのに、こいつはお断りしてむさ苦しい騎士団に入団してきた。
まあ、騎士団に入団してからも婦女子に騒がれてる。無理もない。ザビーダは目を見張るような傾国の美人さんだから。性別は男だけど。
シルバーブロンドの髪は艶やかに、瞳は宝石のような深い緑色。彫刻のお手本になりそうな高い鼻に、薄い唇。体型は小柄な僕より高身長。筋肉のある、いい感じな細マッチョ。
抱きたい男から抱かれたい女性までお誘いは常に絶えない。幼い頃に母親が失くなり、後妻に迎えた継母と上手くいかなったらしい。人嫌いの彼は可愛い女の子でも、すべからく塩対応で拒否している。
それなのに、冷たい美貌と対応に痺れる憧れる~っと、逆にファンを増やしている。
解せない……解せないよ。
僕だって黙っていれば儚げ美少女に間違えられる整った容姿なのに!
薄い茶色のサラサラヘアーに同じく茶色の瞳。睫毛もぱっちりで鼻だって低くない。唇だってぷっくりだし、かわいいらしい桃色さっ!
やっぱり雌雄同体のかたつむり獣人だから?
小さいけどさ、男女どちらの性器もあるんだよ。
孕ませも出産もできるよ。どっち役も可能なんだよ!とってもお買い得って思ってくれないかな~?
はあ、騎士団に入団してから何人か付き合ったけど、続かないんだよね。
贈り物だって欠かさないし、褒めることも忘れない。僕なりに大切にしてるんだけど。
みんな口を揃えて、自分じゃあ僕に釣り合わないってもっと相応しい人が居るって言ってさ、結局僕、振られるんだよね。
おおっと、愚痴で話が逸れた。
「……それで副団長。僕も呼ぼうとしてたなんで、もしかして新たな調査ですか?」
「リュリュ話が早いなっ!お前たちに調査を依頼したい。ガイダル国と隣国リンマークの共同中立地区にあるフロリアズ村を知っているか?」
「いえ、知りませんが……その村が今回の調査対象なんですか?」
「ああそうだ……フロリアズ村には変わった祭りがある。それに、ザビーダとペアを組んで参加してほしいんだ」
「変わった祭り?」
「ああ、女装祭りだ」
え?女装って、男性が女の人の洋服を着飾ることだよね?マジですか?
僕は、まあ、半分女性ですから、抵抗はないけど………ザビーダを伺い見ると拳を握り怒りに震えていた。
ああ、だから怒鳴って出て行こうとしてたんだね。
「すまんな二人とも、王命で拒否権はないんだ」
心底申し訳なさそうに副団長は僕たちの顔を見つめた。
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