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ナルヤの研究
しおりを挟む「ここ1ヶ月ぐらいで僕らは入れ替わりが起きているんだ。」
「入れ替わり?」
「そうだ。メリーが倒れた時に、僕が代わりにメリーの身体を動かしていたんだ。
言っても2回しか入れ替わりは起きてないんだけどね。ここ最近は、僕が500年前に使った魔法、転生魔法と入れ替わりの関係を調べていた。今考えてみれば、秘密にすることでも無かったかもしれない。」
メリーは目をぱちくりさせた。
「なんで言ってなかったの?」
「いや、転生魔法について色々調べ終わってから伝えた方がいいと思って…メリーに転生魔法を止められたら何もできないし…」
メリーはブークリと顔を見合わせる。ブークリは呆れたような表情を見せた。
「そんなことないよ。転生魔法に対して、できることならなんでもしたいから!」
「そうか…」
再び付けた焚き火がパチパチと鳴る。
先程の強い風が嘘のように、今は風を殆ど感じない。
「下にいるのは、メリーか!?大丈夫だったか!」
崖の上からメリーの父の声が聞こえてくる。
「メリーの泣いている声が聞こえて来たんだ。」
「お父さん!」
「今助けに行くから待っていてくれ!」
メリーの父は慣れた様子でロープを使いながら崖の下へ降りて行く。
「メリー何もないようで良か…ッ!」
メリーの父はメリーの様子をみて、青ざめる。そして、口を手で押さえた。
「メリー、その姿は…」
「あっ!これね!さっきモンスターが出てきて必死に倒したら付いちゃって…」
メリーの姿はモンスターの返り血で赤く染まっていた。
「!?」
メリーの父はメリーを強く抱きしめた。
「お父さん!汚れちゃうよ…」
「ごめんな。俺がついていながら1人で倒させちゃって。辛かっただろ。」
メリーは顔を上げた。その顔は優しく微笑んでいたが、目には涙が滲んでいた。
「大丈夫だよ。私、助けたい人が出来たの!その人を守る為にも騎士に絶対なるって決めたから!きっと騎士になったら、多くこんな経験をするでしょ?」
「まぁ、そうだが…でも、本当に大丈夫か?」
メリーはコクリと頷く。
「でもね、もう少しだけ、ぎゅーしててもいいのかな。」
メリーの父は、頷いた後もう一度強くメリーを抱きしめた。
森で初めてクエストを受けてから数日経った。
メリーの様子は変わらず、毎日の鍛錬に励んでいる。メリーが操られた様に戦ってから、みるみる剣の技術も上がってきていた。あの時、メリーの動きが変わったのも、いまだに名前が分からないメリーの精霊を呼んでからのことだった。メリーが戦っているのを側から見ているだけで、まるで自分も剣で貫かれたような恐怖を感じた。
「魔導師さん!!」
メリーにずっと話しかけられていたようだった。考え事をしていて気づかなかった。
「どうした?何かあったか?」
メリーは顔を綻ばせる。
「みて!ナルヤさんから私宛に手紙が来てる!」
「そういえば、2週間後に会いに来て欲しいって言ってたな…」
メリーは手紙を持って庭をクルクルと回っている。
「開けてもいいかな?」
僕の方を見て、目をキラキラと輝かせる。
「いいと思うよ。」
メリーは「やったぁ!」と言いながら、封を開けた。
開けてすぐ、静かになったのかと思えば、唸り声を上げ始めた。
「うぅ…」
「どうかしたのか!」
メリーは悔しそうな顔をする。
「字が汚くて、な、なんて書いてあるのかよくわからない…」
「し、失礼しまーす…」
メリーと2週間ぶりに騎士団の本部へ訪れた。2週間前と違うところは、メリーとして訪れていることだ。
手紙には、2週間後になって準備が出来たから、明日来て欲しい。みたいなことが書かれていた。ナルヤは500年前からひどく字が汚かった。あの字に慣れていた僕であっても500年経つと、識別が大変だった。
僕たちが前回訪れていたのは騎士団の仕事の中枢を担う、本部であったらしい。周りは栄えているようで、多くの市場があり、人が多く行き交っている。
他の建物よりも高い位置に建てられている騎士団本部は窓から、街の様子、もしかしたら僕らが暮らしている離れた集落まで見えるかもしれない。
「ナルヤ様はこちらで待っております。」
此処まで案内をした騎士の1人が、深くを礼をした後、扉の前に立った。
「騎士さんは入らないのですか?」
メリーが尋ねると、騎士はゆっくり頷いた。
「メリー様以外入れなくなっていますので。」
前回もこのような会話を聞いた気がする…
しかし今回は、前回のようなドラゴンも通れそうな大きな扉より小さい扉だった。その分、装飾が豪華で重要な部屋なのだと分かる。
「し、失礼します!メリーでしゅ!」
メリーが扉を開けると、そこは書斎のような場所だった。ナルヤは茶色の木で出来た椅子に座っている。メリーが入ってきたのを見て、立ち上がった。
メリーはお辞儀をしたまま動かない。
「先生、久しぶり。それ、どういう格好?おもしろいね。」
「お、お褒め預かり光栄です。え、えっと、ほ、本日はおひららも良く…」
「?」
ナルヤは首を傾げて考え込んでしまった。
「先生どうしたの?前と違うね。」
気づいてしまった。前回、メリーと入れ替わっていることを伝え忘れていたのだ。
このままだと、僕がおかしくなったと思われる。
「メリー!僕が言ったことを繰り返してくれないかい?」
メリーは放心状態から意識が戻ったようだった。
メリーは小さく頷いた。
「まず、ナルヤに話しておきたいことがあるんだ。」
メリーは僕の言葉をゆっくり反芻する。
「前回、完全に生まれ変わったわけじゃないって言っただろう?実は僕はメリーという少女の左手に転生したんだ。」
「左手に?」
ナルヤは聞き返した。
「そう。だから、この身体はメリーが動かしているし、今話しているのもメリーが僕の言葉を伝えてくれている。」
そして僕は、今まで僕の身に起きた入れ替わりのことを全て話した。
「そういう事なのか…」
「伝わったかい?」
メリーがそう発すると、ナルヤは首を振った。
「完全には理解できてないよ。入れ替わりなんて今まで聞いたことが無いからね。」
「そう…ですよね…」
メリーは小さく呟いた。その様子をナルヤは見つめる。
「でも、僕が前回会ったのは先生で、今回はリナーヴさんが入っているって言う事で良いんだよね。」
メリーは何回も頷く。
「そっか…先生、転生魔法の話はリナーヴさんにしちゃって良いんだよね?」
僕はメリーに大丈夫と伝える。
「だ、大丈夫らしいです。」
ナルヤは軽く頷き、メリーに椅子を用意する。
「あ、ありがとうございます…」
メリーは背筋を伸ばしながら、椅子に座った。その様子を見てナルヤはニコリと笑う。
「さっそく本題に入るけど、転生魔法について、残念だが二つのことしか分かっていない。
統治下になってから転生魔法等の文献や先生が書いていた書物の多くは没収されてしまったんだ。」
ナルヤはこの500年でどのように研究を続けてきたか、どのような事が分かったかを淡々と説明した。
一つ目は、僕が作った転生魔法は過去と未来のどちらでも行けると言う事。決して、未来に行くと言う事が確定しているわけでは無かったらしい。
二つ目は、僕が転生魔法を作った時に書いていた文献がこの国に残っていると言う事。そこには確か詳しい魔法の式が載っているのだ。
「何か他に説明が欲しいのはあるかい?」
ナルヤはメリーの目をまっすぐ見つめた。
メリーが小さく手を上げる。
「あの、その文献を見たら転生魔法についてよく分かるのではないですか?どこにあるか分からないのですか?」
ナルヤが深く椅子に座る。ギシッという音が木の椅子から鳴る。
「実は何処にあるかも分かっているんだ。」
「そ、それじゃあ!」
メリーは椅子から立ち上がる。
その様子を見てナルヤは気まずそうに頭をかく。
「リべレスター学園って知ってるかい?そこの図書館の禁書庫にあるんだけど…」
「えっ!」
メリーは目を見開いて驚く。
「リベレスター学園ってなんだ?」
僕がそう尋ねると、メリーは小さな声で説明をした。
「リベレスター学園はナルヤさんが理事をしている名門校だよ。」
「えっ。理事までやってるなら禁書庫なんて見せてもらえそうだけどな。」
「た、確かに…」
ナルヤはため息をつく。
「聞こえてるよ…どうせ、僕が理事をやっているのに、どうして見せてもらえないのかを話してるんだろう?」
メリーは「うっ…はい。」と言って固まった。
メリーも大分ナルヤに慣れてきたようだ。
「リベレスター学園は図書館の運営と学園の運営を分けていて、僕から口出しが出来ないんだ。それに、余り図書館長によく思われてないみたいでね。僕は禁書庫の中すら見せてくれないんだ。」
「そうなんだ…何も出来ないんですね…」
メリーはしゅんと肩を落とした。
「そこでね。リナーヴさんと先生にお願いがあって…」
ナルヤは顔に胡散臭い笑顔が戻る。その顔を見ると、なんだか嫌な予感がする。
「リベレスター学園に潜入して、禁書を盗んできて欲しいんだ!」
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