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第二報 関と文
さらば関ちゃん(上)
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「ザイちん、差し入れありがとう。いつも悪いね」
「いいって関ちゃん、元々俺もここの住人だし」
とある公園でホームレス二人と話しながらを酒飲みをするザイ。
「以前はこの公園にもたくさんのテントがあってホームレスで賑わってたんだよな」
ザイは、物思いにふける。
「ザイちんがここを出て行ってしばらく経つからね。今はお国の『ホームレス自立支援施策』ってので、テント張ってるとすぐに撤去されるし役人やらNPOやらに付き纏われるからね」と、文が答えた。
「文ちゃんの言う通りだね。この辺も海外からの観光客が増たし、日本の印象を良くしたいから俺達みたいな厄介者は他所に行ってほしいんだよ」
関は、そう言うと紙コップに入った日本酒を飲み干した。
「さすが文さん、元官僚だから頭いいね。俺には法律とかよく分からないよ」
ザイも、紙コップに入った日本酒を一口で飲み干しそう答えた。
「ザイちんも少しは勉強しなよ、一応社会人なんだしさ」
「関ちゃんには言われたくね-よ」
ザイはクスっと笑った。
ザイはよくこの公園に来ては、昔の仲間とこうして懐かしい思い出に花を咲かす。この日もいつものように二人の仲間と一緒に酒を飲みながら、楽しいひと時を過ごしたのだった。
しかし、それから数日後……関は死んだ。
関が死んだ次の日、バチとザイが『事務所』と称する古民家に一同が集まる。玄関を入って三畳ほどある土間の正面には引き戸がある。それを開けた先に六畳和室の部屋がある。実に殺風景な部屋で、あるのはテレビと座卓くらいである。西に吐掃き出し窓があり、西日が強く差し込むため夏場は結構暑い。
その和室で座卓を囲むように、バチとザイそれに加え関の友人である文、さらに黒いスーツを着た男が座る。
「死亡推定時刻は昨日未明。顔面は複数の打撲創で腫れ上がり、顔の形が変わり別人のようでした。さらに体の至るカ所にも打撲創と骨折が見つかっております。死因は頭部への強い打撲による、硬膜下血腫だと断定されました。」
『事務所』で情報を流す黒スーツの男の名は早見誠二、バチとザイに深く関わり合いを持ち、二人に警察内部の情報を横流しする刑事である。
「クソッ、なんで関ちゃんが殺されんだよ」
話を聞いていたザイは、畳を強く殴った。ザイの右の手の平には強く握られすぎて内出血した爪痕がついていた。
「それで早見さん、犯人の目星はついてるんですか?」
対し、バチは至って冷静に話を進める。
「ええ、コレを見てください。公園にある防犯カメラの映像です。今*ビラ待ちで、早くしないと*本店に先越されますよ」
早見はバチにUSBメモリーを渡す。バチは鞄から取り出したノートパソコンを座卓に置くと、防犯カメラの映像を再生した。
再生した映像には暗闇の中、関に対し執拗に暴行を加える一人の男が映っていた。映像を見た全員が言葉を失くすほど、その暴行はひどいものだった。
映像が終わるとザイは「関ちゃんの仇打ちだ」と、息を巻き立ち上がる。
「待て」
バチはザイの前に立ち塞がり制止する。
「なんだよ」
バチの落ち着いた態度にザイは苛つく。
「原告(依頼者)がいない」
「はあ?」
ザイはバチの胸ぐらを掴むと語気を強めた。
「文ちゃんが殺されてるんだぞ! ウダウダ言ってんじゃね-」
バチはザイの手首を強く握り、胸元から強引に引きはがす。
「我々は慈善事業じゃない。『コート』からペナルティーを受けるぞ」
「俺が原告になればいいだろ! 金だって払うし」
「ダメだ」
ザイの申し出をバチはあっさりと断る。
「なんでだよ、ケチケチするなよ!」
「忘れたのか? 俺達は執行官だ。私的な行動はできない」
バチの毅然とした態度に尚もザイは抵抗する。
「お前だって気持ちわかるだろ?あの事件の事忘れたのかよ! お前……」
バチは咄嗟に左手でザイの口元を塞ぐと、もう片方の手でザイの喉仏に強烈な一突きを加えた。
「ガッ、ハッ、だ……何するん……だ」
ザイは痛烈な喉への打撃に苦しみ、首を押さえ片膝をつく。
異常なほど殺気に満ちた表情浮かべ、
「それ以上話すと死ぬぞ」
とバチが一言、場は一瞬にして凍りついたのだった。
慌てて早見が二人の仲裁に入った。
「まあまあ、バチさんとザイさん。話を戻しましょうよ」
「あ?」
バチは早見を睨みつける。
「バチさん、落ち着いてください。怖いですって!」
早見がなんとかバチを鎮め、話を戻す。
「要は依頼者がいれば、問題ないのでしょう?」
「ああ、そうだ」と、バチは言う。
「でぼ(も) 誰が……」
少し声を嗄《か》らしたザイが辛うじて聞こえる声で答える。
「文さん、依頼しませんか? バチさんもそのために呼んだんでしょ」
早見の提案に文は首を横に振り「確かに仇は打ちたい。でも私にはお金がないんです。本当に出せて数十円程度しか払う事ができません。」と、答えた。
早見はポンと文の肩を叩いた。
「大丈夫だと思いますよ」
「そう言う事ね、早見」
掃き出し窓の隙間から声がしたかと思うと、一人の女性がその窓を開けズカズカと部屋の中へ入って来た。
嫌そうな顔を浮かべながらザイはボソっと呟く。
「あ゙ あ、ゴイツ苦手なんだよな」
「なんか言った?」
「い゛え、何も」
冷静さを取り戻したバチが文にその女性を紹介する。
窓より現れた茶髪でロングストレートヘアの女性は『華那』。インテリ風の眼鏡をかけ、モデル並みのスタイルを持つその女性はザイとバチが属する組織の『調査官』と言う役職を持つ者であった。もちろん偽名であり本当の名は知らない。
華那はその場であぐらをかいて座ると「文さん、あなたは元官僚よね。それであれば世に出してはいけない秘密の一つや二つあるのでは?」と、文に提案する。
「ミニスカートでそんな座り方するなよ。パンツ見えてるぞ」
「アンタは黙ってなさい」
華那は注意するザイを一蹴する。
「あっ」
文は全てを悟ったように声を出した。
「そう、あなたの情報を買うわ」
ザイはバチに問い質す。
「お前が呼んだんだな。最初から全て計算尽くだった訳だ」
「だから私は「待て」と言った筈だ」
バチは無表情でザイにそう言い返した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
打撲創 その名の通り打撲の跡、腫れやあおあざ場所によっては骨折や神経の損傷を伴う事もある。別名 挫滅創
*ビラ・お札 逮捕状
*本店 警視庁
コート バチとザイの組織名。所属人数は不明
執行官 バチとザイの属する組織の実行部隊(バチとザイの役職、執行人とも言う)
調査官 バチとザイの属する組織の諜報部隊 情報を収集する役割や依頼の請負・斡旋をする役職
「いいって関ちゃん、元々俺もここの住人だし」
とある公園でホームレス二人と話しながらを酒飲みをするザイ。
「以前はこの公園にもたくさんのテントがあってホームレスで賑わってたんだよな」
ザイは、物思いにふける。
「ザイちんがここを出て行ってしばらく経つからね。今はお国の『ホームレス自立支援施策』ってので、テント張ってるとすぐに撤去されるし役人やらNPOやらに付き纏われるからね」と、文が答えた。
「文ちゃんの言う通りだね。この辺も海外からの観光客が増たし、日本の印象を良くしたいから俺達みたいな厄介者は他所に行ってほしいんだよ」
関は、そう言うと紙コップに入った日本酒を飲み干した。
「さすが文さん、元官僚だから頭いいね。俺には法律とかよく分からないよ」
ザイも、紙コップに入った日本酒を一口で飲み干しそう答えた。
「ザイちんも少しは勉強しなよ、一応社会人なんだしさ」
「関ちゃんには言われたくね-よ」
ザイはクスっと笑った。
ザイはよくこの公園に来ては、昔の仲間とこうして懐かしい思い出に花を咲かす。この日もいつものように二人の仲間と一緒に酒を飲みながら、楽しいひと時を過ごしたのだった。
しかし、それから数日後……関は死んだ。
関が死んだ次の日、バチとザイが『事務所』と称する古民家に一同が集まる。玄関を入って三畳ほどある土間の正面には引き戸がある。それを開けた先に六畳和室の部屋がある。実に殺風景な部屋で、あるのはテレビと座卓くらいである。西に吐掃き出し窓があり、西日が強く差し込むため夏場は結構暑い。
その和室で座卓を囲むように、バチとザイそれに加え関の友人である文、さらに黒いスーツを着た男が座る。
「死亡推定時刻は昨日未明。顔面は複数の打撲創で腫れ上がり、顔の形が変わり別人のようでした。さらに体の至るカ所にも打撲創と骨折が見つかっております。死因は頭部への強い打撲による、硬膜下血腫だと断定されました。」
『事務所』で情報を流す黒スーツの男の名は早見誠二、バチとザイに深く関わり合いを持ち、二人に警察内部の情報を横流しする刑事である。
「クソッ、なんで関ちゃんが殺されんだよ」
話を聞いていたザイは、畳を強く殴った。ザイの右の手の平には強く握られすぎて内出血した爪痕がついていた。
「それで早見さん、犯人の目星はついてるんですか?」
対し、バチは至って冷静に話を進める。
「ええ、コレを見てください。公園にある防犯カメラの映像です。今*ビラ待ちで、早くしないと*本店に先越されますよ」
早見はバチにUSBメモリーを渡す。バチは鞄から取り出したノートパソコンを座卓に置くと、防犯カメラの映像を再生した。
再生した映像には暗闇の中、関に対し執拗に暴行を加える一人の男が映っていた。映像を見た全員が言葉を失くすほど、その暴行はひどいものだった。
映像が終わるとザイは「関ちゃんの仇打ちだ」と、息を巻き立ち上がる。
「待て」
バチはザイの前に立ち塞がり制止する。
「なんだよ」
バチの落ち着いた態度にザイは苛つく。
「原告(依頼者)がいない」
「はあ?」
ザイはバチの胸ぐらを掴むと語気を強めた。
「文ちゃんが殺されてるんだぞ! ウダウダ言ってんじゃね-」
バチはザイの手首を強く握り、胸元から強引に引きはがす。
「我々は慈善事業じゃない。『コート』からペナルティーを受けるぞ」
「俺が原告になればいいだろ! 金だって払うし」
「ダメだ」
ザイの申し出をバチはあっさりと断る。
「なんでだよ、ケチケチするなよ!」
「忘れたのか? 俺達は執行官だ。私的な行動はできない」
バチの毅然とした態度に尚もザイは抵抗する。
「お前だって気持ちわかるだろ?あの事件の事忘れたのかよ! お前……」
バチは咄嗟に左手でザイの口元を塞ぐと、もう片方の手でザイの喉仏に強烈な一突きを加えた。
「ガッ、ハッ、だ……何するん……だ」
ザイは痛烈な喉への打撃に苦しみ、首を押さえ片膝をつく。
異常なほど殺気に満ちた表情浮かべ、
「それ以上話すと死ぬぞ」
とバチが一言、場は一瞬にして凍りついたのだった。
慌てて早見が二人の仲裁に入った。
「まあまあ、バチさんとザイさん。話を戻しましょうよ」
「あ?」
バチは早見を睨みつける。
「バチさん、落ち着いてください。怖いですって!」
早見がなんとかバチを鎮め、話を戻す。
「要は依頼者がいれば、問題ないのでしょう?」
「ああ、そうだ」と、バチは言う。
「でぼ(も) 誰が……」
少し声を嗄《か》らしたザイが辛うじて聞こえる声で答える。
「文さん、依頼しませんか? バチさんもそのために呼んだんでしょ」
早見の提案に文は首を横に振り「確かに仇は打ちたい。でも私にはお金がないんです。本当に出せて数十円程度しか払う事ができません。」と、答えた。
早見はポンと文の肩を叩いた。
「大丈夫だと思いますよ」
「そう言う事ね、早見」
掃き出し窓の隙間から声がしたかと思うと、一人の女性がその窓を開けズカズカと部屋の中へ入って来た。
嫌そうな顔を浮かべながらザイはボソっと呟く。
「あ゙ あ、ゴイツ苦手なんだよな」
「なんか言った?」
「い゛え、何も」
冷静さを取り戻したバチが文にその女性を紹介する。
窓より現れた茶髪でロングストレートヘアの女性は『華那』。インテリ風の眼鏡をかけ、モデル並みのスタイルを持つその女性はザイとバチが属する組織の『調査官』と言う役職を持つ者であった。もちろん偽名であり本当の名は知らない。
華那はその場であぐらをかいて座ると「文さん、あなたは元官僚よね。それであれば世に出してはいけない秘密の一つや二つあるのでは?」と、文に提案する。
「ミニスカートでそんな座り方するなよ。パンツ見えてるぞ」
「アンタは黙ってなさい」
華那は注意するザイを一蹴する。
「あっ」
文は全てを悟ったように声を出した。
「そう、あなたの情報を買うわ」
ザイはバチに問い質す。
「お前が呼んだんだな。最初から全て計算尽くだった訳だ」
「だから私は「待て」と言った筈だ」
バチは無表情でザイにそう言い返した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
打撲創 その名の通り打撲の跡、腫れやあおあざ場所によっては骨折や神経の損傷を伴う事もある。別名 挫滅創
*ビラ・お札 逮捕状
*本店 警視庁
コート バチとザイの組織名。所属人数は不明
執行官 バチとザイの属する組織の実行部隊(バチとザイの役職、執行人とも言う)
調査官 バチとザイの属する組織の諜報部隊 情報を収集する役割や依頼の請負・斡旋をする役職
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