母校に就職したら指導教官が大好きだった先生でした

風花鳴海

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1 はじまり

赤点の個人面談

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里見愛莉。国語の成績は常に学年トップ。だが、数学だけ壊滅的に出来ない。
高校2年で担任になって2ヶ月。中間テストもやっぱり数学だけ赤点だ。
この学校では、試験で赤点を取った生徒は、担任と個人面談をすることになっている。
基本的に真面目な生徒だ。わたしの国語の授業もいつも真剣に聞いている。数学の橋本先生にも聞いたが、授業態度に問題はなく、宿題もきちんと提出しているとのこと。
「里見さん、放課後個人面談です」
「はい」
終礼後、声をかけると、うつむいて返事をする。この生徒にはどう指導したらよいのか。
個人面談と言っても、ここは女子高。男性教師と生徒が個室で面接することはない。面談室は職員室の中についたてを立てただけのもので、話もある程度筒抜けだ。
セクハラ対策であることは確かだが、生徒のプライバシー対策的にはどうなのだろう。
「教頭先生、少しよろしいですか?寮生の里見愛莉のことなのですが」
里見は、父親の地方転勤に母親がついて行ったため、寮生活をしている。寮の監督者でもある教頭からは、昼休みにリサーチ済みだ。
「里見さんがどうかしましたか?」
「今日の放課後、個人面談なんです。中間テストの数学が赤点だったので」
「まあ。数学苦手とは聞いてました。寮生活は、真面目です。門限を破ったり、違反行為をしたこともない。強いていえば」
「強いていえば?」
「数字が苦手なんじゃないかしら。世界史とか日本史の年号も覚えられない、って言っているのを聞いたことがあります」
「はあ」
たしかに、日本史58点、世界史52点。決して成績が良いとはいえない。
「水谷先生、里見です」
職員室に里見が入ってきていたようだ。
里見とともに、面談室に入る。里見はうつむいていて、目を合わせない。
「数学は苦手ですか。今回は、クラス最低点の12点」
「ごめんなさい」
「1日どれくらい勉強していますか?」
「宿題だけしか出来なくて、2時間くらい?」
「宿題だけしか出来ない、とは?」
「わからないから、時間がかかってしまって。でも、他の教科の宿題もあるので、宿題だけとにかくやってそれで終わりです」
ふうむ。つまり、勉強の仕方が下手なんだ。
「わからないとき、どのくらい考えているんですか?」
「20分くらい?」
「で、そのくらい考えれば、わかるんですか?」
「いえ。わからないので、答えを丸写しにします」
「なるほど。それは実に効率が悪いですね。今日からこうしましょう。数学は、問題を見てわからなかったらすぐに解答を丸写しにするんです」
「え?」
「そのかわり、答え方を暗記する。暗記できるまで何回も書く。答え方が頭に入ったら、別の問題を解いてみて、答え方があってるかどうかを確認する」
まばたきが多い。面食らったのか?な、泣いてる??
「里見さん、先生は怒っているわけではないので、泣かないでください。」
ああ。職員室の目がこちらに向いている気がする。生徒を泣かせるとか、うん、まずいんだ。
「あの。わたし、叱られるって思って来たので、先生、全然叱らないし、なんか勉強法教えてくれるし」
「里見さん。個人面談は、もう赤点を取らないためにはどうすれば良いのかを担任と話し合う場なんですよ。ただ勉強を怠けているだけの生徒なら、お説教が解決策かもしれませんが、里見さんは決して怠けてはいない。そういう場合は、どうしたら成績があがるのかを・・・」
とうとう泣き声をあげはじめた。もうダメだ。どうしたら泣きやむんだ?
「水谷先生、里見さん、どうしましたか?」
「教頭先生、申し訳ありません」
とうとう教頭が来てしまった。立ち上がって教頭に謝る。
「違うでしょう?謝る相手が」
「あっ。里見さん、すみません。先生、なにか気に障ることを言いましたか?」
しゃくりあげていて何も言ってくれない。ああ、マズい。僕が生徒を泣かした構図決定。
「面談中止です。里見さん、寮に帰りなさい」
「ヒクッあ、あの、あの」
頼む。何か言ってくれ。僕が悪いなら理由を。
「先生は、悪くなくて」
「わかったから、もう帰りなさい」
泣きながら、帰り支度をする。なんだろう。やっぱり僕が悪いんだろうなあ。
教頭に背中をさすられながら、里見が帰って行った。なんで、なんで泣かせてしまったんだろう。

「水谷先生って、落ち込むとわかりやすいですね」
隣の席の先生が半笑いだ。
「泣かせるつもりは全くなかったので」
「あれは多分、嬉し泣きですよ」
「は?」
ふふふっと笑って仕事に戻ってしまう。嬉し泣きって何なんだ?
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