母校に就職したら指導教官が大好きだった先生でした

風花鳴海

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2 新年度スタート

水谷ドM疑惑

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机の上の、生徒から集めたノート、プリントをとにかく上から見て、みましたスタンプを押して、誤字脱字には赤ペン入れて。ズンズン山を切り崩していく。
明日の授業のときに返却する予定だけど、今日は空き時間少ない日だから、ちょっと大変。残業コースかなあ。
隣の水谷先生と廣瀬先生も似たような仕事の真っ最中。さすがに、一つ一つの処理速度が速い。
最後の一冊にスタンプを押して、ノートを閉じたその次に、なにやら別のプリントが出てきた。
締め切りと書かれた日時を過ぎている。研修申し込みの書類で、
「参加してください。承諾ならば、教頭まで」
と上の余白に赤ペンで書き込みがある。
机の上、引き出しの中は整理整頓につとめること。
職員室に席をもらった初日に言われていたのに、このところおろそかに。生徒から集めたノートとかを上に上に積み上げる毎日になっていたせいだ。いつからあったの、これ。締め切り過ぎてるし、どうしよう。
「どうかしましたか?」
何も言わないのに、水谷先生から声がかかる。
「あの、これ、締め切りを過ぎてしまって」
「見せてください」
右手を軽く握ってアゴにあてながら、プリントを読んでいる。どうしよう。叱られる。
「大丈夫です。教頭先生への御返事の締め切りは過ぎていますが、研修申し込み自体はまだ、締め切りまで日にちがあります。研修、行けますか?」
「はい」
「じゃ、ちょっと行って来ます」
すっと席を立ち、教頭先生のところに向かう。
「えっと、わたしが謝ったほうが」
どうしたらいいか、とっさにわからなくなり、廣瀬先生に聞く。
「一緒に来いって言われなかったんなら、いんじゃない?」
そういうもの?
「ま、水谷先生は教頭先生から叱られたい忠犬ポチだから」
「はい?」
水谷先生がすーっと伸びた背筋のまま、かくんと腰を折って、教頭先生に頭をさげている。ホテルマンとか、警察官とかみたい?とにかくキリッとしてて美しい。
「水谷先生て、ときどき教頭先生に自分から叱られに行くんだよね。ちーっちゃいミスとか、生徒がなんか悪さしたとか、もうそんなん、黙ってりゃバレないしバックレときゃいいのに、わざわざごめんなさいしに行くんだもん。絶対年上の女王様に叱られたい願望だよ、と廣瀬はニラんでいる」
クツクツ笑う。たしかに。教頭先生、かなりの美人だし、水谷先生て、えっ。そういうのなのか?それは引く。残念すぎでしょ、それ。
「教頭先生から、OKいただいて来ました。この申込書に必要事項を記入して、先方にFAXすれば申し込み完了ですから」
「あ、はい」
水谷先生ドM説にかなり動揺し、ちょっとボーッとしてしまった。そうか。愛の鞭がご馳走とかそういう人だから、まだ独身なのか?水谷先生が突然残念なイケメンに格下げなんですけど。
「それと、その研修、平井先生も参加されるそうです。同期の親好を深めるチャンスですね」
「なにそれ?泊まりのやつ?」
廣瀬先生が、ガバッと身を乗り出して会話に入ってくる。
「廣瀬先生も行かれたんでしたか?私学協の新人研修です」
「やっぱりそれかー!里見先生。かわいそうだけど、その研修で平井先生とお近付きにはなれない」
「僕は何も平井先生とお近付きになれと言ったわけでは」
なぜか水谷先生が顔を赤くしている。
「鬼みたいに宿題が出て、行く前からヘトヘトなのに、研修でもみーっちり絞られて、もう、汗も涙も枯れ果てるほどしんどくて、研修生同士親睦深めるとかそんな体力どこに残るんだー!ってレベルの超絶スパルタ研修なんだから」
「廣瀬先生、今から参加する人にそんなに脅さないで」
「覚悟してかかるのだよ、妹」
水谷先生の忠告はサクッと無視して、廣瀬先生が手を握ってくる。なにそれこわい。
「それはそうと。里見先生、このところ僕も忙しくて、つい指導がおろそかになって、すみません。これからは、机の片付けはきちんとすること、自分に回ってきた文書は、その日のうちに処理すること、これを徹底してください」
「すみませんでした。気をつけます」
今日のお小言はこれで終わり?みたい。研修中のドS教官は最近すっかり姿を表さない。叱られたい願望のドMが、水谷先生の本当の姿なのかなあ。うそ。マジでそれ勘弁。

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