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3 ひと皮むけて
仙人かっ!
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8時50分。毎晩きっちりこの時間に愛莉が帰ってくる。9時ごろには、食堂で夕飯をチンする音が聞こえてくるから、これにあわせて、わたしもコーヒーを淹れに食堂に行くことにしている。
生徒たちには、優しくて授業がわかりやすい、と絶大な人気を誇る水谷先生だが、愛莉の指導となると、豹変。鬼になる。
愛莉は、いつも、朝にはケロッとしているけど、遅い夕飯を食べているときの目はときどき真っ赤。シスターとしては見捨てておけない。
その愛莉が、今日はウキウキしている。鬼の水谷に誉められでもしたか。
「今日はとうとう鬼教官に誉められたの?」
「あ、廣瀬先生ただいまですー。いつもどおり、ガミガミ叱られましたよー」
といいながら、鼻歌でも歌い出しそうで、面白い。
「その割に、えらく機嫌がいいじゃない?」
「研究授業終わったら、水谷先生が焼き肉に連れて行ってくださるんです。焼き肉ですよ、焼き肉」
えっ。いつの間にあんたたち、そんな仲?
「寮食って、いつも、すっ。あっ。たいへんおいしいんですけど、焼き肉だけは出ないじゃないですかー。しかも、寮の夏祭りと研修がかぶってて、夏祭り恒例のバーベキューも参加できないんですよ。」
それがどうした。
「だもんで、水谷先生が、研究授業終わったら何か食べたいもの奢ってくれるって言うので、焼き肉をリクエストしたんです」
ん?さては。焼き肉デートではない。純粋に肉食べたいだけ?
「良かったね」
「はい。もう、これであと一週間、頑張れます」
にやついた顔のまま、アジフライを頬張る。これは純粋に肉食いたいんだわ。もしかして、焼き肉デートが持つ意味に気付いてない?
月曜日の朝、わたしは真っ直ぐ鈴木先生の席に向かう。
「おはようございます」
「おはよう、廣瀬先生何か用事?」
「ちょっとよろしいですか」
鈴木先生を廊下に連れ出す。
「あの、研究授業終わったら、焼き肉に4人で行くことになってます?」
「そんなことにはなってないが、ああ。打ち上げな。やってもいいな。」
「里見が、水谷先生と焼き肉に行くって言ってるんですけど、鈴木、平井、水谷、里見の4人で行くんですよね」
「いや。だから決まってたわけじゃないけど。平井が良いならそうしてもいいな」
はー。やっぱり2人で行くつもりだったな、あいつら。
「あの。たぶん、たぶんですけど、水谷先生と里見先生の2人は、男女が2人で焼き肉食べてたら、それってすごく親密な間柄だっていう世の中の常識がないんですよ」
「はははっ。そりゃないだろな。水谷仙人と、あの里見お嬢さんだもんなあ。」
「生徒が見たらなんと思うか。もー」
「廣瀬、そんな怒るな。わかった。俺からそれとなく言っておくし、焼き肉は4人で行くから」
「こないだ、水谷仙人にも怒りって感情あるんだ、って、ちょっと見直したのに、やっぱり仙人は仙人ですね」
「なんだその、水谷仙人が見せた怒りって」
「あ、御存知なかったですか?こないだ、高野先生が平井くんに、いちゃもん付けたことあったじゃないですか」
「ああ、いちゃもん、な」
「あれ、いくらなんでも高野先生言い過ぎだろうって腹立ってたんですけど、鈴木先生が平井ちょっと来いって言って部屋出て行ったあと、水谷先生、高野先生に文句言ってくれたんですよ」
「そんなことがあったのか」
「感情はあっても、やっぱり仙人だから俗世の習わしは知らないんですよ。もー。鈴木先生よろしくお願いしますね」
「はいはい」
『坊っちゃん』の時代なら、黒板に翌朝いたずら書きされる程度で済むだろうけど、SNS拡散の時代。教師は24時間気を抜けない。どこで何をしているのか、やましいことがなかったとしても、疑わしい行為は厳に慎まなければ、痛い目を見る。
水谷先生も、教師としては、尊敬するんだけど、もうちょっと、俗世にも慣れてもらわないと。
生徒たちには、優しくて授業がわかりやすい、と絶大な人気を誇る水谷先生だが、愛莉の指導となると、豹変。鬼になる。
愛莉は、いつも、朝にはケロッとしているけど、遅い夕飯を食べているときの目はときどき真っ赤。シスターとしては見捨てておけない。
その愛莉が、今日はウキウキしている。鬼の水谷に誉められでもしたか。
「今日はとうとう鬼教官に誉められたの?」
「あ、廣瀬先生ただいまですー。いつもどおり、ガミガミ叱られましたよー」
といいながら、鼻歌でも歌い出しそうで、面白い。
「その割に、えらく機嫌がいいじゃない?」
「研究授業終わったら、水谷先生が焼き肉に連れて行ってくださるんです。焼き肉ですよ、焼き肉」
えっ。いつの間にあんたたち、そんな仲?
「寮食って、いつも、すっ。あっ。たいへんおいしいんですけど、焼き肉だけは出ないじゃないですかー。しかも、寮の夏祭りと研修がかぶってて、夏祭り恒例のバーベキューも参加できないんですよ。」
それがどうした。
「だもんで、水谷先生が、研究授業終わったら何か食べたいもの奢ってくれるって言うので、焼き肉をリクエストしたんです」
ん?さては。焼き肉デートではない。純粋に肉食べたいだけ?
「良かったね」
「はい。もう、これであと一週間、頑張れます」
にやついた顔のまま、アジフライを頬張る。これは純粋に肉食いたいんだわ。もしかして、焼き肉デートが持つ意味に気付いてない?
月曜日の朝、わたしは真っ直ぐ鈴木先生の席に向かう。
「おはようございます」
「おはよう、廣瀬先生何か用事?」
「ちょっとよろしいですか」
鈴木先生を廊下に連れ出す。
「あの、研究授業終わったら、焼き肉に4人で行くことになってます?」
「そんなことにはなってないが、ああ。打ち上げな。やってもいいな。」
「里見が、水谷先生と焼き肉に行くって言ってるんですけど、鈴木、平井、水谷、里見の4人で行くんですよね」
「いや。だから決まってたわけじゃないけど。平井が良いならそうしてもいいな」
はー。やっぱり2人で行くつもりだったな、あいつら。
「あの。たぶん、たぶんですけど、水谷先生と里見先生の2人は、男女が2人で焼き肉食べてたら、それってすごく親密な間柄だっていう世の中の常識がないんですよ」
「はははっ。そりゃないだろな。水谷仙人と、あの里見お嬢さんだもんなあ。」
「生徒が見たらなんと思うか。もー」
「廣瀬、そんな怒るな。わかった。俺からそれとなく言っておくし、焼き肉は4人で行くから」
「こないだ、水谷仙人にも怒りって感情あるんだ、って、ちょっと見直したのに、やっぱり仙人は仙人ですね」
「なんだその、水谷仙人が見せた怒りって」
「あ、御存知なかったですか?こないだ、高野先生が平井くんに、いちゃもん付けたことあったじゃないですか」
「ああ、いちゃもん、な」
「あれ、いくらなんでも高野先生言い過ぎだろうって腹立ってたんですけど、鈴木先生が平井ちょっと来いって言って部屋出て行ったあと、水谷先生、高野先生に文句言ってくれたんですよ」
「そんなことがあったのか」
「感情はあっても、やっぱり仙人だから俗世の習わしは知らないんですよ。もー。鈴木先生よろしくお願いしますね」
「はいはい」
『坊っちゃん』の時代なら、黒板に翌朝いたずら書きされる程度で済むだろうけど、SNS拡散の時代。教師は24時間気を抜けない。どこで何をしているのか、やましいことがなかったとしても、疑わしい行為は厳に慎まなければ、痛い目を見る。
水谷先生も、教師としては、尊敬するんだけど、もうちょっと、俗世にも慣れてもらわないと。
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