旦那様の浮気の証拠を得るために、夜のお店に潜入します

ラム猫

文字の大きさ
7 / 16

怒りが爆発しました

「ルイーゼ!?」

 フィル様は、翡翠の瞳を大きく見開いた。私は怒りを隠せず、彼から顔を背ける。

「何故貴女がこんなところに来ているのだ! そんな、男に媚びるような服まで着て——」
「ちょ、隊長。余計なことを言わない方が……」

 ジョエル様が慌てたようにフィル様の言葉に口を挟んだが、既に遅かった。

(……ほんとに、フィル様がこんなに酷い人だと思っていませんでした)

 妻がこんな露出の多い服を着ていることが不満なのだろう。それは分かるけど、最初に言うことではないと思う。
 私の怒りに油を注いでいるようなものである。

「貴方が、こんなお店に来ていらっしゃるから! 私は、浮気の証拠を掴むために働いたのです!」
「働いた、だと? 誰かに体を売ったのか?」
「……貴方には関係がないでしょう」

 働いたのは今日一日だけで、料理を運ぶくらいしかしていないが、詳しく説明するのは面倒だった。わざとぼやかして言うと、フィル様は怒った獣のように瞳孔を引き絞って、強い力で私の肩を掴んだ。

「何するのですか、離してください!」
「貴女は俺の妻だ。俺以外がその体を知っていることは、許されざることだ」
「その妻を止めたいと言っているのです。貴方様は、そこのアグネスさんと仲良く暮らしたらいいじゃないですか。私は邪魔にならないよう、屋敷を出ていくので」

 フィル様の手から逃れようと体をねじるが、彼の手はびくとも動かない。それどころか、彼の瞳はどんどんと暗く沈んでいく。

「離婚はしない。この結婚は、俺達だけでどうこうできるものではない」
「……それなら、お金をください」
「金?」

 訝し気に顔を顰めた、私よりも高い位置にあるフィル様の目をまっすぐ見つめながら、私は大きく頷いた。

「そのお金で、私も好きなことをします。貴方様が好きなことをしていらっしゃるように、私も好きなことをするくらい、許していただきたいです」
「金ならいくらでもやるが……俺は、好きなことをしているわけではない」
「では、嫌いなことをしていらっしゃるのですか?」
「ああ、嫌いなことだ。仕事でなければ、こんな店に来ることはない」

(仕事、ですか? そんな言い訳を……)

 私はその言葉を信じられず、確かめるようにジョエル様を見た。彼は苦笑いを浮かべながら、頷く。次にアグネスさんを見た。壁に同化するように立っていた彼女も、苦笑いを浮かべながら、頷いた。

「…………」
「…………俺は浮気などしていないと、言っただろう」

 私は、体から力が抜けてその場に崩れ落ちそうになった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

お飾りの私と怖そうな隣国の王子様

mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。 だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。 その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。 「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」 そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。 いつかこの日が来るとは思っていた。 思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。 思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

【完結】どうか私を思い出さないで

miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。 一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。 ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。 コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。 「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」 それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。 「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」

いつも隣にいる

はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜ ※AI不使用です。

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。