DNAの改修者

kujibiki

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第107話 ナーナルン・バルゼ

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「じゃあシャルルさん、私の部屋に行きましょうか?」

「シャルルと呼んでくれていいよ。僕もナーナルンって呼ぶから…」

「わ、わかりました。ではシャルル…」

「うん、ナーナルン。あれ? ナーナって呼んだほうが呼びやすいかな…」

「シャ…ルル…の呼びやすいように…」

ナーナが顔を真っ赤にして俯いています。



ナーナの部屋に通されると、部屋の中にいたメイドのお姉さんがお辞儀をして立っていました。

「はじめまして、シャルル様。私はナーナルン様に専属でお仕えしていますフィルと申します」

「はじめまして、フィルお姉さん。よろしくね…」
僕が挨拶を返した後でキルシッカお姉ちゃんもナーナとフィルお姉さんに挨拶をしました。

「では、シャルル…、それからキルシッカさん、どうぞこちらへ座ってください」

僕達は部屋の窓際にあるテーブルに案内されます。

フィルお姉さんも僕達に飲み物と果物を用意してから、ナーナの横に座ります。
カプランド領のジェシカのところとは違い、とても気心の知れた良い関係のようです。

「ありがとうナーナ、キルシッカお姉ちゃんも座らせてもらって」

「当然ですわ。お客様ですもの…」
「フィルがお客様でもないのに横に座っているのは気になさらないでください。こういう性格なのです」

「ナーナルン様、ひどいです」

「もちろん気にしないよ。せっかく座る場所があるんだから…。ねぇ、キルシッカお姉ちゃん」

「そ、そうですね。私もシャルル様の横に場所があれば座りたいです」

そんな風に自分で言いながら顔を少し赤くしています。
薄褐色の肌をしていますが、僕には少しの違いも良く分かります。

「シャルル様、なんでも盗賊に襲われたそうで…」

「うん、驚いたよ」
ソファに座ってすぐに、フィルお姉さんが盗賊について聞いてきました。

「盗賊を二人も捕まえられたのですよね…」

「うん、たまたまね」

フィルお姉さんが聞いてくるのはなんだか予想外な感じでが、どうもフィルお姉さんはこういう話を聞くのが好きみたいです。
ナーナは黙ってフィルお姉さんの質問に答える僕の話を聞いています。

「すごいですねぇ、ナーナルン様」

あれ?
話をもっと追求してくるのかと思えばナーナに話を振りました。
このフィルお姉さんはなかなか侮れない感じです。

「えっ? そうね…」

「ところでナーナとフィルお姉さんは、何属性なの?」
僕は話題を変えるために、ナーナたちの属性を尋ねてみます。

「わ、私達は土属性なの…」

「へぇ~、じゃあナーナは魔法をフィルお姉さんに教えてもらっているんだね」

「でも、まだ全然上手に出来ないの…。ようやく何もないところから小さな【砂球】が作れる程度なのよ」

ナーナはそう言って手のひらに【砂球】を作って見せてくれました。

「すごいよ~。いいなぁ、魔法が使えて…」
「フィルお姉さんは何か作れる?」

「そうですねぇ、これなどは…」

テーブルの上に砂で一瞬に“あくみ”を作ってみせてくれました。

「すご~い! 色が無いだけで本物みたいだよ。割れ目の内部も細かく作られているよ」

「本当ですね~。きのう見た“あくみ”と同じです」

横で見ていたキルシッカお姉ちゃんも驚きの声をあげています。

「“あくみ”を知っておられたのですね。あの果実は日持ちがしないので他領で売られることはないんですよ」

「うん、宿の人に聞いてね。それで見る機会があったんだよ」
「それにしてもフィルお姉さんは想像力がすごいんだね…」

「今朝、偶然厨房で“あくみ”を見たんです。今晩の晩餐会にお出しする予定なのでしょう」

「それでもすごいよ」

「シャルル…、なんだかおいしい“あくみ”が手に入ったそうですから、楽しみにしていてくださいね」

((えっ、まさか…))
僕とキルシッカお姉ちゃんは顔を見合わせるのでした。



「キルシッカさんは何か肌に塗られているのですか?」

フィルお姉さんが突然そんなことを聞いてきました。

「何も付けていませんよ」と、キルシッカお姉ちゃんも答えています。

「実は一目見た時から気になっていたんです。そんなに瑞々しい肌で…羨ましい」

「そうね。この屋敷にもキルシッカさんと同じ肌色の者もいるけれど、そんなに髪が艶々していて、肌も瑞々しい者はいないわね」

「あ、ありがとうございます」

キルシッカお姉ちゃんはそんな事を言われると思っていなかったのかはにかんでいます。

「キルシッカさんはおいくつなんですか?」

「15歳です」

「「15歳!?」」

「どうしたの、二人とも?」

「えっ、私は22歳なのですが、私より女性らしい雰囲気だったので驚いたのです」

「キルシッカさん、誤解しないでね。あなたが老けて見えるってことではないのよ。フィルの言うようにあまりにも女性らしくって、とても10代には…」

「はい…、ありがとうございます」

「でしょう? キルシッカお姉ちゃん」
「二人が言うようにキルシッカお姉ちゃんはとっても綺麗なんだから自信を持ってね!」

「はいっ! シャルル様」



「この赤い果実はなんて言うの?」

話が一旦落ち着いたので、テーブルに出されていた果物をいただくことにしました。

「これは“あかべりー”っていうのよ」

一口で食べられそうなその赤い実にはとても小さな種のような物が表面にツブツブと付いています。

「これはこのまま食べるのよ」と言ってナーナが自分の口に放り込んでいます。

僕もキルシッカお姉ちゃんも真似をして、一つを食べてみました。

「う~、甘酸っぱい~! でも、果汁がいっぱいで食べやすいよね」

「本当に…。こんなに甘酸っぱいっていう感覚は初めてですね」

「バルゼ領の食べ物には驚かされてばかりだよ」

「シャルル様、この甘酸っぱい果実は肌に良いと言われているんですよ」

「へぇ~、そうなんだ、だからフィルお姉さんも肌が綺麗なんだね」

「うっ…、な、なんて…、ありがとうございます…」

「ほら、キルシッカお姉ちゃん。肌に良いんだって…、“あ~ん”!」

僕がキルシッカお姉ちゃんの口元に“あかべりー”を運ぶと躊躇なく「あ~んっ」と言ってパクリと食べてくれました。
もう“あ~ん”の条件反射になっているのかな…。

「お、美味しいです。シャルル様~!」

「「いっ…!?」」

「シャルル…、今のはいったい何なのですか?」

「シャルル様がメイドのキルシッカさんに食べさせるなんて…」

「こうやって食べさせていただくととっても美味しいんです」

「そ、そんな…、同じ物をお出ししているのに…」
「無礼を承知で申し上げますが、どうか私にもその“あ~ん”と言うやつをして下さらないでしょうか」

フィルお姉さんが急に口調を変えてそう頼んできました。

「フィ、フィル、失礼でしょ!!」
「でも…、シャルルさえ良ければ私もお願いしたいです…」

「う~ん、それなら僕が“あ~ん”をしたのは絶対誰にも言っちゃダメだよ。他言無用ってやつだからね。それでいいなら…」

僕はお母さんがブローナのティルマさんに言っていたように二人に伝えました。

「はい。それでかまいません」
「うん、絶対言わないから…」

僕は自分のお皿に載っていた“あかべりー”を一つ手に取って、「あ~ん」と言いながらまずはフィルお姉さんの口元に運ぶと、フィルお姉さんはテーブル上に身体を乗り出し、僕の持っていた“あかべりー”を「あ~んっ」と言いながらパクッと食べました。

「ウグッ……」

フィルお姉さんはまるで毒を食べてしまったように固まってしまいました。

「フィ、フィル、どうしたの?」

「ナーナ、大丈夫だよ、少し固まっただけだよ」

「固まったって…」

「ほら、次はナーナだよ。あ~ん」

そう言いながら、同じように“あかべりー”を手に取りナーナの口元に運ぶと、ナーナもフィルお姉さんと同じようにテーブルの上へ乗り出すと、「あ~ん」と口をあけながらパクリッと食べました。

「うひぃ~~~~、なに、これ? こんな“あかべりー”食べたことがない!」

ナーナは両手を頬に当てて、立ち上がった状態で身体をクネクネとさせています。

ハッ…!?
「何がどうなったの?」
フィルお姉さんが再起動しました。

「とりあえず、僕が“あ~ん”してあげたことは誰にも言っちゃダメだよ。話したら怒るからね!」

「「は…い」」

その後、もう一度とフィルお姉さんから頼まれて二人に“あ~ん”をしてあげるのでした。
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