『双子石』とペンダント 年下だけど年上です2

あべ鈴峰

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クロエはネイサンから母様が 実は双子石の被害者と知らされて ショックを受けたが、私があげたペンダントのお蔭
で最悪の事態を避けられたと分かってホッとした。

そうなると会いたい気持ちが強くなる。もちろん、犯人を見つけたいが、その前に知りたいことがある。
「ネイサン様……母様は、いつ頃目覚めるんですか?」
いくら術を跳ね返したと言っても、何かしらのダメージがあったから 危篤状態になったんだ。だから、危篤を脱したが、今も眠ったままだ。急かしてると分かっているけど、どうしても知りたい。
「早ければ明日にでも目を覚ますかもしれない」
「本当ですか?」
そんなに早く。パッと目の前が開けたようだ。そう喜んだが、次に出た言葉で冷水を浴びせられた。
「しかし、長ければ数か月 近く眠るかもしれない」
「えっ………」
明確な答えを期待していたから、予想外の返事に言葉を失う。
もっと早く目を覚ますと思いこんでいた。唇をかみしめる。
(考えが甘かった……)
「魔法で負った傷は外傷と違って、体の中のことだから正確な判断が難しいんだ」
「そうですか……」
目に見えるものじゃないから、はっきりした事は分からない。頭では分かっていても 落ち込みそうになる。
そんな自分を励ます。
(2、3月だもの。それくらいなら
待てる)
何よりネイサンが約束してくれたんだから大丈夫。他の被害者家族じゃないんだから、必ず終わりが来る。

大きく深呼吸して、そう納得させると、気持ちを切り替えた。やることが山積みなんだから、それを先にやろう。
母様が安心して目を覚ませるように。そう決めた。
しかし、いきなりネイサンが私を引き寄せて、ギュッと強く抱きしめた。
(えっ? 何で? )
戸惑う私に言葉を重ねる。
「だが、何年も眠り続けるような事は無い。それだけは約束する」
(ああ、そうか。 きっと泣きそうな顔をしてたんだ)
「分かりました。気長に待ちます」
私は大丈夫ですからと、ネイサンの背中をトントンと叩く。

すると、ネイサンが腕を伸ばして体を離す。驚いて顔を見ると、さっきより深刻度が増している。
嫌な感じだ。
「クロエ。こんな事を言うのは躊躇われるのだが」
(えっ? このパターン)
躊躇うと言っても言うくせに。
他にも何かあるの?
正直、今日はもう勘弁して欲しい。
ひと息つきたいところだ。
母様が殺人未遂の被害者だと考えるだけでも辛いのに。双子石を使われるなんて悪質すぎる。これ以上聞きたくない。耳を塞ぎたい。
私は十一歳と 逃げ出したい。 そう思ってるのにネイサンは口を閉じない。

「犯人を捕まえないと、夫人が目を覚ましたら、また命を狙われるかもしれない」
「っ」
そうだ。
犯人に母様が目を覚ましたと知られれば、口封じに来るかもしれない。
そんなことさせない。 私の命にかけても絶対、母様を守る。それほど大切な存在だ。決心したと深く頷く私を見てネイサンが微笑む。
問題を先送りには出来ない。でも、どうやって犯人を捕まえよう。今のところ手掛かりらしきものも無いし、犯人像もつかめてない 。それに、ネイサンは土地勘がないし、ここの時世にも疎い。私もたいした力になれない。
エミリアの顔が浮かんだが、追い払った。双子石に関わらせるのは危険すぎる。双子石は 所持しているだけでも死罪だ。累が及ぶかもしれない。

それに双子石を使ったことを知っている人間的は少ない方がいい。
みんなの安全のためにも……。
護衛が欲しいところだ。父様に言って雇って貰おう。
「父様の所へ行きましょう」
そうと決まればと、扉に向かって歩き出した。
しかし、足音が一つ。
(何故 ついてこないの? 犯人を捕まえるんじゃないの?)
振り返るとネイサンが立ち止まったまま。何処か気乗りしないネイサンの態度に眉を顰める。
「ネイサン様。父の所へ行かないのですか?」
「………」
催促してもネイサンは 私の視線を避けて動こうとはしない。

犯人を捕まえないと母様の命が危ないと言い出したのはネイサンなのに……。同行するのを拒むのはどうして? 
「父様に報告しないのですか?」
「………」
ネイサンが首を縦に振る。
それに対してクロエは首を斜めに動かす。どうして、父様には秘密にしたいんだろう。
知られて困ることなどないのに……。
ネイサンの行動の意味が分からない。 答えを探してネイサンの瞳を覗き見るとサッと避けられた。

その時、頭の中にとんでもない考えが浮かぶ。まさか、父様を犯人だと思っているの?
そんな事絶対ない。支え合う二人を間近で見て来た私には分かる。
二人は生まれてきた子供が人形だと、周りのから  責められた。それでもお互いに支え合って 乗り越えてきた。
だから、相手を捨てようなどとは考えない。そんな二人の愛を疑うなんて許せない。 カッとなって声を荒げる。
「 父様が最愛の妻を誰かと入れ替えようとするはずないでしょ!」
「いや……だから……」
両親と何度も会って、その人となりを知っているのに。ネイサンに向かってツカツカと近づく。
見損なった。尊敬してたのに。そんなことを裏で考えてたなんて。目の前に立つとその胸を突き飛ばす。
「父様を疑うなんて信じられません!」
「待て、誤解だ」
ネイサンが たたらを踏んで後ずさる。絶対許さないと、そのぶん距離を詰める。
「ネイサン様はいったい、何処を見ていたのですか!」
ネイサンの胸座を掴むと力いっぱい揺さぶる。
「違う。違う。そうじゃない」
ネイサンが両手を焦った様に振る。

私の視線を受け止めたけど、すぐに外した。そのことに苛立つ。何が違うよ!取り繕おうとするネイサンを睨みつける。ネイサンの事を買いかぶっていた。
「だったら、何だって言うんですか!」
クロエはネイサンを突き放すと、拒むように腕組みして睨みつける。
「伯爵が犯人じゃない事は分かっている。だが……」
「だが、何ですか!」
言いよどむネイサンに続きを言えと促す。何を考えているのか、言ってくれなくちゃ何も伝わらない。私の機嫌を伺うように視線を向けてきた。しかし、目が合う前にまた逸らされた。

あまりにもネイサンらしくない。優柔不断な態度に怒りが増す。
「隠さず、思ってることを言ってください」
「犯人は身近に居る……かもしれない

「はっ?」
かも? 曖昧な言い方に余計に腹が立つ。だからそれは、父様のことでしょ!はっきり言えばいいのに。キッと睨みつけたが、ネイサンが今度は目を逸らさなかった。

「だから、今 伯爵に妻にとって代わろうとした犯人が居ると騒がれると逃げられるかもしれないだろう」
「 ……… 」
そう言う事か……。母様が狙われたと知ったら父様の事だ。血眼になって犯人捜しをする。
そのことを犯人が知ったら、隠ぺい工作をする。
そうなれば、事件は迷宮入り。
「でも、どうして身近な人だと断定できるのですか?」
外部から侵入して犯行に及んだとも考えられる。 身内の犯行だと決めつけるのは性急過ぎるのでは?
「確率の問題だ。完全に内部犯行時見つけたわけじゃない」
「 ……… 」
 本当に? 私をなだめるためのリップサービスではないのかと、疑わしくて仕方ない。するとネイサンが指を2本立て解説を始めた。
「双子石の術を成功させるための条件は二つ」
双子石の おおよその事は知っているが、詳しくは知らない。
この際、ちゃんと勉強しよう。
「一つは術を発動させるための魔法陣。そして、一番重要なのは時間だ」
「時間?」
意外な条件に首を捻る。しかし、そうだとネイサンが頷く。
「そうだなぁ……分かり易く言えば、双子石を通して 互いの情報を 取り出した相手に移す時間と言えば分かるかな。 だから入れ替わるのに時間が必要だ」
なるほど、物を盗むわけじゃないから、 犯人は長時間この屋敷に止まらなくてはいけない。
「それで、どれくらい時間が掛かるのでしょうか?」
「前に話した兵士の話を覚えているか?」
「はい。犯人が兵士に双子石を使った事件ですよね」
二人の双子石の売人らしい人物の調査中に拉致されて、気が付いた時はお互いの体が入れ替わっていた。そこで、もう一度双子石を使って事なきを得たと言うものだ。

「そうだ。その時は四時間ほどかかった。確かな記録はないが、捕まえた加害者の証言に多少のずれはあってもそれくらいかかった」
「だから、 犯行現場が母様……寝室だったんだ」
「そうだ。ジッとしている事が重要だから夫人が眠っている時間帯を狙ったんだろう」
クロエはネイサンの説明に、加害者たちが被害者に薬を盛ったり、気絶させたりと色んな方法で気を失わせていたと言う話を思い出した。

そこで、ネイサンの話を元に 犯行時刻を割り出してみることにした。

次回予告
*犯人像
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