『双子石』とペンダント 年下だけど年上です2

あべ鈴峰

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ある予感

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 ネイサンは、物思いに耽るクロエの顔を見て 伯爵との会話を思い出していた。


しばらく滞在することになったし、礼儀として伯爵のもとを訪ねたが、いつのまにかクロエの話題になり、どちらがより突拍子もない目にあったか、競い合うように話していた。
「驚いたのは、あの歳で料理ができることです」
貴族の娘が厨房に立つことはあり得ない。手を切ったり、火傷したりと危険だ。もし顔や手に傷ができれば一生嫁に行けない。
「はっ、はっ、はっ、そうなんだよ。ネイサンも経験したか」
「私は、オムライスが好きです」
卵とトマトケチャップが最高だ。
思い出しただけでよだれが出る。
「私はホットケーキが好きだ」
「ホット……ケーキですか?」
初めて聞く名前だ。全く想像がつかない。 首をひねる。
熱いケーキ? ケーキといえば冷たいのが常識だ。どんなものか食べてみたいものだ。今度クロエに頼もう。
「ホットケーキとはケーキの生地を薄く焼いたものだ」
「ああ」
なるほど、それを出来立てで出すから名前にホットがつくんだ。
「初めて食べた料理だったが、美味しかった」
「ええ、クロエには何時も驚かされます」
そうだろうと、伯爵が小さく何度も頷く。アイデアが、よく思い付くものだ。料理に関しては才能がある。

「クロエは小さい時から賢くて、教えても無いことも上手に出来たんだ。本当に自慢の娘だ」
「そうですか」
クロエの考え方や、行動が大人びているのは昔からなんだ。3年寝たきりだったのに、急に目を覚ましたことを考えると、何か特別な力があるのかもしれない。 嬉しそうに伯爵が目を細める。目に入れても構わないぐらいクロエのことが好きでたまらないんだ。
一人娘だし、当たり前か。つられるように自分も微笑む。

ガチャ

ノックもなしにドアが開く。
誰だろうと二人でドアを注視しているとクロエが入ってきた。
「何の話をしてるんですか?」
「うぐっ」
クロエの登場に伯爵が驚いて紅茶をむせる。その様子にクロエ が何を話していたのか察したようで、追い立てられるように部屋を出された。


「それで、どんな話を聞いたのですか?」
自慢話を聞いていたと答えると顔を赤らめて恥ずかしがる。
「あ~、もう~嫌だ」
その姿は普通の子供だ。
しかし、伯爵から聞いたクロエが生まれたときの話を思いだして、ある可能性が頭に浮かぶ。

 夫人の部屋にチョークの跡は無かった。魔法陣を発動させるためにチョークなどを使って、その場で魔法陣を描く。持ち歩けるし、消すのも簡単だ。
しかし、それがなかったということは、布か何かにあらかじめ書いておいたのを持参したと考えられる。その事に用意周到さが伺える。もしそうならば、犯人が双子石を使うのは今回が初めてではないかも知れない。
だとしたら……。もしかしてクロエの出生の秘密にも関わっているかも知れない。
(人形のように生まれたのは、双子石の影響なのかもしれない)
目の前に座っているクロエを見ながら、ネイサンはその考えを消し去る事が出来なかった。


***

ネイサンは目の前に現れた城に驚く。
田舎だと思っていたが、クロエの伯母
の城も大きく威風堂々としている。

大きなアイアンゲートをくぐると、シンメトリーの花壇が見える。その花壇を挟んで中央に噴水がある。
土地の広さを有効活用している良い庭園だ。一目で由緒ある家だとわかる。本当なら 招かれた事を喜ぶべきなんだろうが、来た目的が、目的なだけに、そうもいかない。
(残念なことだ)

 馬車を降りたネイサンは、クロエに手をかしながら、それとなく周りを観察する。尋ねるまでの二日間で 証拠を処分してしまっているだろう。だが、人間は完璧じゃない。何か残ってるはずだ。その時、目の端に引き抜かれた草
が目にとまる。しなびれ具合から 今日の日のために抜いた物だろう。その中に小さな花のついた草を見つけた。 色は枯れていて不明だが、形は例の草の
それと同じだ。
確かめようと一歩踏み出したが、
「お待ちしておりました」
使用人の声に諦めるしかなかった。



*****

 クロエは 執事のジョンの出迎えに笑顔になる。ジョンは 祖父の代から執事として長く仕えてくれている。
「久しぶりね」
「はい」
ジョンが かすかに頷く。ネイサンが 横に立つと
「どうぞ、こちらです」
と言って先に歩き出した。関心がないような、そっけない態度だけど 全てを見ている。エスパーじゃないかと思ったのも  一度や二度じゃない。

 ネイサンと一緒に アプローチを歩きながら改めて見ますと、手入れが行き届いていないところに目がいく。
お金を捻出するのが大変になったのか、少しずつほころびが出ている。

***

 私たちが案内された応接室は 変わらず豪華で調度品も高価な物ばかり。
流石に此処にある物は売っていないか。否、もしかしたらイミテーションかもしれない。
アレを見た後では全てが偽物では無いか疑ってしまう。

 私たちに気付と伯母が此方を向く。クロエは素早く異変は無いかと目を走らせた。顔色も どことなく悪いし、立ちあがるのもゆっくりだ。しかし、どれも病み上がりだと言えばそこまでだ。粗を探そうとしても見つからない。
その抜かりなさに苛立つ。

 挨拶も終わり席に着くと、ジョンがお茶を運んで来た。メイドの仕事なのに、どうして? 
驚いてジョンを二度見する。
もしかして、使用人はジョンだけ?
(メイドの真似事をさせられてプライドは傷つかないんだろうか?)
「大切なお客様だからジョンに任せたのよ」
伯母の声にハッとする。無意識にジョンを凝視していた。
「ごめんなさい。何時もはメリーだから……」
失礼しましたと視線を外す。そのまま伯母へと視線を動かすが、私の疑問に焦った様子は無い。
「お気になさらず」
ジョンがそう言って お茶を出すと頭を下げて部屋を出て行く。その後ろ姿をカップ越しに見送りながら、いったい何人の使用人が残っているんだろうと考えていた。
玄関から此処まで誰ともすれ違わなかったし、気配も感じなかった。余りにも静かすぎる。
前は何かしらの生活の名残があった。でも、何の匂いもない。
物音一つしないなんて有り得ない。

「お噂は、かねがねクロエから聞いています」
ネイサンが話し始めると、伯母が静かな微笑みを浮かべる。
伯母が優雅にカップを置くと足を組んでその上に両手を乗せる。
「うちの姪が ご迷惑を掛けていなければ良いのですが、昔から乱暴で手を焼いていました」
私に蔑むような視線を送るくせに、ネイサンに対しては心配だと小さく首を振る。ネイサンがカップを徐に置くと、私に微笑んでから伯母へと視線を向ける。
「ご心配なく。良く手伝ってくれています」
ネイサンの言葉に気を良くして、ドヤ顔で伯母を見ると鼻で笑われた。ムッとして睨むと素知らぬ顔で、お茶を飲む。本当に嫌な人だ。
「まぁ、少しは大人になって分別が付いたんでしょう」
百戦錬磨の氷の女王。相も変わらず、伯母の口から出る褒め言葉は何時も棘がある。私は信じないけど、ネイサンの顔を立てて反論はしないと言うことね。

 澄ました顔で相手の言葉を悪く受け取る。貴族社会でよくある舌合戦。
エミリアの母親と一緒の席に同席した人々の話しによると、二人は凍えるほどの冷たい言葉の応酬があるらしい。
そこで ハッとした。お互いに相手を 意識しているんだから、エミリアの母親に聞けば 他の人が知らないことも知っているかもしれない。 
(チャンスがあったら聞いてみよう)
その後も私の生活態度の会話が続いたが、何時もの切れが無い。相手が王子だから気を使っているからか 分からないが、嫌味が少ないことに違和感を覚える。
(こんなに甘い人だった?)
「体調を崩したと聞きましたが……」
ネイサンが続きを言わずに伯母の答えを引き出そうと わざと間を作る。

 伯母がカップを置くと固い笑みを浮かべる。 警戒しているのかもしれない。
「お蔭様で。もう良くなりましたわ。こうして起きられますし」
伯母の答えに、墓穴を掘ったと、ほくそ笑む。
「さぞ、心配でしょう」
「えっ? ええ。心配していますわ」
質問の答えを間違えた事に気付いた伯母が 慌てたようにカップを掴むと、話しかけられないように紅茶を飲む。
体調を崩した理由が母様なら、まずは母様の心配を先に言うものだ。
それなのに 一度もそれに触れないで、私の話ばかり。そのうえネイサンの言葉の続きが自分への見舞いだと考えてしまった。つまり、母様の事など気にも留めてないということだ。
冷たい人だと思っていたけど、家族にも 関心がないのかもしれない。

 伯母がお茶をゆっくり飲むとソーサーに戻す。
「まだ、三十前なのに……いったい妹の身に何があったのかと……」
そう言ってハンカチで目頭を押さえる。時間稼ぎしているのが、見え見えだ。伯母の場合。演技云々と言うより話を逸らすのが上手い。
「夜も心配で眠れないんです」
今更取り繕うの? 内心呆れ果てる。
バレたかもと不安にならないんだろうか? 
「クロエ」
伯母の事だ。のらりくらりとネイサンの質問をかわしそうだ。ネイサンは、どうやって犯人だと言う証拠を見つけるんだろう? 双子石を使った犯罪は証拠になる物が少ない。物と限定してしまえば、双子石一組とせいぜいチョークだけだ。だから、捨てられてしまえばそれで終わり。
となると、話の辻褄が合わないところを見つけて、追及する?
(それか……)
「クロエ!」
「はっ、はい」
自分の名前を呼ぶ声にハッとして我に返る。声のする方を見ると伯母が呆れたように溜め息をつく。しまった。
考えるのに夢中になっていた。
「はぁ~。まったく話しの途中なのに、ぼうっとして」
「すみません……」
「クロエ。もう帰ろう」
そう言い出したネイサンに驚く。
伯母が犯人か、そうでないか判断する情報が少しでも欲しい。しかし、確かな手がかりも掴めてないのに、ネイサンが帰ると言い出した。

次回予告
*転生前
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