『双子石』とペンダント 年下だけど年上です2

あべ鈴峰

文字の大きさ
21 / 46

母の記憶

しおりを挟む
 クロエは、やっと 母様が目を覚ました嬉しさの中に、恐れを感じながらも幸せだった。

  一夜が明け、クロエは 体力が戻っていない母様のために、早速プリンを作り届けるところだ。

母の気分を上げようと庭で花も摘んだ。これで完璧だ。久々の穏やかな日常に気持ちが浮き立つ。足取りも弾む。ウキウキした気分で、母様の部屋のドアをノックしようと手を上げたが、中から聞こえて来た父様の大声に手が止まる。
仲がいい二人なのに何かあったのだろうか? 何事かと慌ててドアを開けると、父様が 青ざめ母様の肩を揺さぶっていた。
「キャサリン、本当にそうなのか?」
「 ……… 」
 切羽詰まった父様の顔を母様が悲しそうに見つめている。 喧嘩とも違う。
微妙な空気が流れている。

 クロエはそれを壊すように割って入る。私に気付いた父様が 手を離すと誤魔化すように首の後ろをさする。母様は、父様に背を向けた。
「父様、母様、どうしたの?」
「 ……… 」
「 ……… 」
しかし、二人とも何も言わない。 
理由を探ろうと二人を見るが、二人とも私の視線を避ける。
昨日の めでたい雰囲気が、険悪な雰囲気に急変している。私の知らないうちに、それほど 重大な事件が起きたらしい。もう一度 声をかけようとすると、スッと 父様が立ち上がる。
「私は 仕事があるから」
誰に言っているのか分からない。まるで独り言のように言って、部屋を出て行ってしまった。出ていくまで、誰とも視線を合わせなかった。
そんな、父様を訝しく思いながら見送る。それなら、母様から原因を聞こうと、くるりと振り返ったが 引きつった笑みを返してきた。その笑顔に
今は駄目なようだと察した。

「ああ、クロエ。大丈夫よ。少し……その……」
言いよどむ母様を見て 話題を変えた。
そして、元気付けようと作ったプリンの乗ったトレイをベッドにを置く。
「はい、お母様の大好きなプリンよ。食べて」
「あっ、ありがとう。食べたいと思っていたの」
本当の笑顔でスプーンを手に取る。
クロエは、その顔に安心して花をいけようと花瓶を探す。 嬉しそうに 頬張る母様を見て安心した。
(そこまで深刻ではなさそうだ)



 プリンを完食した母様にお茶を手渡して ベッドに腰かけると、頃合いかと話しを振ってみる。
「母様、父様と何かあったの?」
そう言って、問うように小首をかしげる。それでも、母様が私を盗み見している。言うかどうか悩んでいるようだ。
クロエは母様が手を取ると、話してみてとぎゅっと力を込める。
「話してみて」
「 ……… 」
それでも秘密にしたいのか、俯いたまま語ろうとしない。
母様の気持ちも大事だけど。さっきの父様の態度を見る限り、自然に解決とはいかない気がする。
「母様」
「 ……… 」
催促するように名前を呼ぶ。すると、しばらく黙っていたが、母様は小さくため息をつくと話を始めた。


***

「それじゃあ、なにも覚えてないの?」
信じられないと念を押すが、母様はそうだと頷く。
「ええ、私としては何時もと同じ様に眠りについて 目を覚ましただけだもの」 
「 ……… 」
なるほど、母様が何も知らないと言うから、それで父様が 声を荒げていたのか。父様的には肩透かしを食らって面白くて八つ当たりした。というところかな。
持病もない母様が、自然に昏睡状態になるとは考えにくいから、睡眠薬でも飲まされたと考えたに違いない。
「まさか、そんなに時間が経っているとは思わなかったわ。フィリップに聞いて初めて知ったのよ」
本当に知らないと 首を左右に振る。

 父様からしてみれば、一日も早く犯人に罰したい。 その気持ちは分かる。でも空回ってる。だって母様は 自分が
昏睡状態だったと 知らなかったんだもの。軽々しく口にしちゃダメなのに。 誰かに陥れられたのかもと知ったことてショックを受けて また寝込む
かもしれないのに。まだ体だって、本調子では無いんだから。全く父様は本当にデリカシーが無い。
「あの日、本当にいつもと 違う事はなかったの?」
再度訊ねても母様は首を横に振る。
お茶を飲む母様の横顔を見つめながら、その態度に不信感を持った。自分に睡眠薬を盛った人間が居るかもしれないと、聞かされたのに平然としている。何日も寝たことにも、あれこれと聞いてこない。
( ……… )
そこまで神経が図太い方では無い。犯人を庇っているのか? もしくは睡眠薬を飲まされてない? 

メイドの証言では、お母様が寝る前に飲んだお茶は、本人が自分で淹れている。
(う~ん)
だけど、母様の体から睡眠薬の成分が検出されたんだから、何かしらの方法で摂取したのは確かだ。
(犯人を捕まえるためにも 母様の記憶が頼りだったんだけど……)
 この点が、伯母が犯人だという説のネックになっている。偶然が重なった? いや、そんなものはありはしない。
色々と尋ねても 不安にさせるだけだ。
暫くはそっとしておこう。
後で思い出すこともあるかもしれないし……。


***

 クロエは溜め息と共にネイサンの部屋から出ると閉めたドアに凭れかかる。
何でこんなにタイミングが合わないんだろう。
(母様のことで相談したかったのに……)
会いたい時に会えない。それがこれ程精神的に悪いとは思わなかった。
ストレスが溜まって仕方ない。
朝食の席では 何処かに出かけると言ってなかったから、一日中居ると思っていた。どっかへ行くなら、私を誘ってくれてもいいのに。もしくは、一言言ってくれてもいいのに……。
二人で事件を解決すると思っていたのに、私を置いてきぼりにするのは 私が頼りないからだ。
子供扱いにムッとする。
(本当に何度言っても私を頼ってくれないんだから)
 でも我が家以外に、知り合いもいないのに、何処へ行ったんだろう? ネイサンは一人で何とかしようとするところがあるから、裏で何かしてる可能性はある。
まさか、単独で伯母の所へは行ったりしてないわよね。
「う~ん」
腕組みして首を左右に振りながら、自分がネイサンだったらと、考えてみる。 母様が、その時の記憶はないと知って自力で証拠を探そうと内偵に出かけたのかも。
ネイサンならあり得る。
私も、もう一度伯母の家に 行った方が……。
( ……… )
でも、あれから数日しか経っていないのに、行ったら絶対疑っていることがバレる。
そう言えば見舞いに来ると言っていた。
ちょっと、待って今日は何日? 
まさか、伯母が来る日? 
不味い。母様を護るためには、まだ目を覚ました事を知られる訳には行かない。
父様に口止めしておかないと。
慌てて廊下を駆け出した。


 急ぎ足で書斎に向かっていると、メイドのエバが書斎から出てきた。 それを見て足が止まる。
お茶の時間でもないの、どうして書斎にお茶を運ぶの? エバが頭を下げて私の横を通り過ぎる。その後ろ姿にはっとする。
思い当たる理由がある。
大変だ。伯母が来たのかも。
嫌な予感に体が震える。

 ノックもせずにドアを開けると父様と伯母がお茶を飲んでいた。
二人が私を見た。父様の機嫌は良い。伯母はと見ると、何時もの様に腹立たし気に私を見る。 
(遅かった……)
心臓がドキドキして体から突き破りそうなほど、なっている。その視線を受け止めながら伯母の心の中を探る。
もう父から聞いた? 聞いていない?

次回予告
*死神の微笑

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

魔王城すこや課、本日も無事社畜です!

ハルタカ
ファンタジー
過労で倒れた社畜女子シオンの転生先は、まさかの魔王城。 無邪気に暴虐無人な上司(魔王)のもとで便利屋事務員としてドタバタな日々を過ごすうちに、寡黙な悪魔レヴィアスの思わぬ優しさに惹かれはじめていた。 ある日、突然変異したモンスターの暴走によって魔王城での生活は一変。 ーーそれは変異か、陰謀か。 事態を解明するために、シオンたちは世界各地で奔走する。 直面したことのない危険や恐怖に立ち向かうシオンは、それを支えるレヴィアスの無自覚で一途な愛情に翻弄されて……? 働くことでしか自分を認められないシオンが、魔王城で働く魔物たちの心をほぐしながら自分の価値を見つけていくファンタジーお仕事じれ恋ストーリー。

『魔導書』に転生した俺と、君との日々。

風城国子智
ファンタジー
 異世界転生ファンタジー。  幼馴染みへの恋心に悩む親友の背中を押した日、不運な事故によって命を落としたトールは、何故か、異世界の『本』に転生してしまっていた。異世界で唯一人、トールの思考を読み取ることができる少年サシャを支えることで、トールも、『魔導書』として異世界で生きる意味を見出していく。  ――一人と一冊の武器は、知識と誠実さ、そして小さな勇気。 ※ 小説家になろう、カクヨム、エブリスタ掲載済。

処理中です...