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運命の出会いは作られている
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私宛に届いた求婚の書簡は クリスと勘違いしたものだった。
クリスには敵わない。そう、分かりきってること。この世は美しさに支配されているんだから。 いつもの事と割り切ろうとしても、やっぱり気持ちが塞ぐ。そこで、気分転換にと ベリー狩りに出かけたロアンヌは そこで見知らぬセクシーな男の人と出会った。
男の人が私の顎を掴んで、瞳を覗き込んでくる。
私がヒロインだったら、相手の男の人は、この後 私を驚かせるセリフを言うはずだ。期待に胸を膨らませていると
「お前はアルフォード伯爵の娘のロアンヌだろう」
「どっ、どうして分かったんですか?」
予想通り言った。でも、どうして私の事を知っているだろう?
これほど素敵な人なら 一目見ただけでも忘れ無い。
それにいつも、クリスが 伯爵令嬢だと勘違いされるのに、どうして私だと見抜いたんだろう。私の疑問に男の人が 微笑む。
「それは、夏の新緑のように キラキした瞳。秋の良く実った栗のように ツヤツヤに輝いている髪。冬に降る雪のように 白い肌」
「っ」
ロアンヌは生まれて初めての称賛に、
気恥ずかしさを通り越して 穴に潜ってしまいたい気分だ。
褒められることが、こんなにこそばゆいとは思わなかった。
「そして、春に咲く薔薇の花のように」
「もっ、もういいです。気を使わないでください」
ロアンヌは激しく両手を突き出して止めさせた。物語のヒーローは よくヒロインのことをそう表現しているが、読むと言われるとでは大違いだ。
顔が赤くなるのがわかる。
「赤い唇。着ているドレスは上等な物で 靴は特注品だ」
そう言ったのに男の人は 最後まで言いたいようで続ける。でも、自分でも納得できる 現実的な理由を言われて、やっとロアンヌは何時もの自分を取り戻した。
しかし、よくそれだけ つらつらと言えるものだと感心する。
そもそも、自分の事をそんな風に考えたことも無かった。
初めて私と会ったのに、つつかえる事もなく言った事を考えると、 頭の回転が早い人なんだ。
この人はきっと 抜け目なくいろいろと見て判断しているんだろう。お父様が よく言っていた。 『3秒で決断しなくてはいけない』と。
それが出来なければ、仕事で成功しない。
ロアンヌは 男の人を見習って 観察する。年の頃は三十前、ラビリンス色の青い瞳。私より 頭一つ半背が高く。
黒い髪に、大きな黒い馬に乗っている・・。
拳を 口に当てて特徴を何度も繰り返し考えているうちに、答えが導き出された。
「・・レグール様ですか?」
正解ですかと尋ねるように首を傾げて言う。すると、私の答えに 男の人が満足げに頷く。
じゃあ、この人がレグール様本人なんだ。ロアンヌは改めて レグール様に目を向ける。噂で色々聞いていたから、もっと豪胆な人かと思っていたけど 印象が違う。
私の目の前に居るレグール様からは、 大人の男の人の余裕が感じられる。
でもどうして、今日に限ってあったんだろう?
レグール様は、この山の北側を所有している スペンサー伯爵の後継者。
同じ山を所有しているんだから、会うのはそんな不思議なことではないが・・。
レグール様も愛馬も今日まで見かけた事が無かった。だから、自分に舞い込んだ幸運が不思議だった。
・・・そうか!
ここは 愛馬の散歩コースなんだ。
それで、たまたまタイミングがあったんだ。だったら、また会えるかもしれない。後でそれとなく聞いてみよう。
そして、あの馬が名高い『嵐』なんだ。おとなしく草を食んでいる嵐に
目を注ぐ。レグール様と共に いくつもの戦場を駆け回っていた聞く。
私の視線に気づいたらレグール様が、口笛を吹いて嵐を呼ぶ。すると、パカパカとのんびりとした足取りで、こちらへやって来た。
嵐と言う名前や、戦馬だったから、もっと気性が荒いのかと思っていたが、本人おとなしい性格らしい。
「紹介しよう。愛馬の『嵐』だ」
「初めまして」
ロアンヌは嵐の鼻先に手を出す。
すると嵐が私の匂いを嗅いだあと、頭を摺り寄せてきた。こんなに大きいのに子馬のように甘えてくる。
その意外な愛らしさに笑みが零れる。どうやら気に入られたようだ。昔から動物と相性がいい。
ロアンヌは嵐の人懐っこい仕草に、鼻を撫でてあげるとレグール様が驚いたように聞いてくる。
「怖くないのか?」
確かに嵐は普通の馬より体が ふた回りは大きく、色も真っ黒で一見すると怖い感じがするが、よく調教されているか どうかは見分けがつく。
「平気です。それに嵐は有名な馬ですか。 一度、会ってみたいと思ってたんです」
そして、心の中で『あなた』にもと付け加える。
すると、レグール様が 警戒したように私を見る。
「何だか ・・私の事も色々知ってそうだな?」
もちろん知っていると 軽く頷く。
レグール様の逸話は 良い話も悪い話も沢山ある。レグール様が聞いてきたので、ロアンヌは どれだけ知っているか 証明するように、メイドや友達が聞かせてくれた 噂話を立て板に水のごとく羅列した。
「ええ、 たった一騎で敵を全滅させたとか。大酒飲みで一晩で酒樽を空にしたとか」
「うっ」
ロアンヌは喋りながら 、どうして緊張もせずに初対面の男の人と こうも打ち解けられるのか不思議だった。
だから、頭の隅で、これは妄想ではないかと疑っている自分がいる。
だって、妄想なら 何でも自分の思い通りになる。
「ギャンブル好きで、着ていた服まで賭けた末に全裸で家に帰ってきた 。それと、女ったらしで視線で子供を孕ませる事が出来るとか。後は・・」
私が言えば言うほどレグール様の顔がみるみる曇りだす。
「分かった。分かった。もういい。いったいどこかの情報だ」
とうとう降参だと言うように 両手を挙げて止めさせた。 レグール様も自分のことを色々聞かされるのは嫌らしい。 困っているレグール様の姿に、親近感がわく。
「情報源はメイド達です」
「それで、本人に会ってどうだ? 噂通りの人間か?」
レグール様が面白がって訊ねてくる。 私だって、子供じゃない。 噂がすべて本当だと、鵜呑みにしたりしない。
こうして会話をしていれば 、危険な魅力はあるがモラルを守る人だろうと思う。それに口から出る言葉からは嘘も飾りもないと直感的に感じた。
「半分当たってて、残りを外れているよな・・」
「なんだ。煮え切らないな。私は、 どんな人間だと思う?」
そんなこと言われても、どちらかに決めるほどレグール様のことを知らない。それでも、そんな風に言われては 、きちんと答えたい。 そう思って考え込んでいると、 レグール様が 楽しそうに私を見ていた。 その目が 水面に反射する日差しのように、キラキラして見える。
「う~ん。大人の男の人です。でも、皆が言うほど悪い人じゃないと思います」
「どうして、そう言いきれ
るんだ」
そう聞かれると答えに詰る。これは私の一瞬の勘のようなものだ。どう返事をしようかと考えていると、またレグール様の瞳がキラキラする。
それを見て思わず口をついて出てしまった。
「瞳が 輝いてるから」
「はっはっはっ。『瞳が 輝いてる』
など子供の頃に言われ
たきりだな」
レグール様が豪快に笑ったかと思うと、急に黙って私を 観察するような視線に変わる。
「・・・」
「・・・」
急に訪れた沈黙と 重なって居心地が悪い。何か話しかけないと・・ そうだ。
「今日は嵐と散歩ですか?」
もしそうなら、こっそり覗きに来よう。目の保養になる。
「いいや、違う」
「 違う?」
じゃあ、偶然会ったと言うこと?
もしそうなら、運命の出会いだったりして・・。 そんな想像して楽しんでいたが、それ以上のことが起こった。
「では、何故ここにいらっしゃるんですか?」
「ロアンヌ。君に会いに来た」
「わっ、私ですか?」
クリスには敵わない。そう、分かりきってること。この世は美しさに支配されているんだから。 いつもの事と割り切ろうとしても、やっぱり気持ちが塞ぐ。そこで、気分転換にと ベリー狩りに出かけたロアンヌは そこで見知らぬセクシーな男の人と出会った。
男の人が私の顎を掴んで、瞳を覗き込んでくる。
私がヒロインだったら、相手の男の人は、この後 私を驚かせるセリフを言うはずだ。期待に胸を膨らませていると
「お前はアルフォード伯爵の娘のロアンヌだろう」
「どっ、どうして分かったんですか?」
予想通り言った。でも、どうして私の事を知っているだろう?
これほど素敵な人なら 一目見ただけでも忘れ無い。
それにいつも、クリスが 伯爵令嬢だと勘違いされるのに、どうして私だと見抜いたんだろう。私の疑問に男の人が 微笑む。
「それは、夏の新緑のように キラキした瞳。秋の良く実った栗のように ツヤツヤに輝いている髪。冬に降る雪のように 白い肌」
「っ」
ロアンヌは生まれて初めての称賛に、
気恥ずかしさを通り越して 穴に潜ってしまいたい気分だ。
褒められることが、こんなにこそばゆいとは思わなかった。
「そして、春に咲く薔薇の花のように」
「もっ、もういいです。気を使わないでください」
ロアンヌは激しく両手を突き出して止めさせた。物語のヒーローは よくヒロインのことをそう表現しているが、読むと言われるとでは大違いだ。
顔が赤くなるのがわかる。
「赤い唇。着ているドレスは上等な物で 靴は特注品だ」
そう言ったのに男の人は 最後まで言いたいようで続ける。でも、自分でも納得できる 現実的な理由を言われて、やっとロアンヌは何時もの自分を取り戻した。
しかし、よくそれだけ つらつらと言えるものだと感心する。
そもそも、自分の事をそんな風に考えたことも無かった。
初めて私と会ったのに、つつかえる事もなく言った事を考えると、 頭の回転が早い人なんだ。
この人はきっと 抜け目なくいろいろと見て判断しているんだろう。お父様が よく言っていた。 『3秒で決断しなくてはいけない』と。
それが出来なければ、仕事で成功しない。
ロアンヌは 男の人を見習って 観察する。年の頃は三十前、ラビリンス色の青い瞳。私より 頭一つ半背が高く。
黒い髪に、大きな黒い馬に乗っている・・。
拳を 口に当てて特徴を何度も繰り返し考えているうちに、答えが導き出された。
「・・レグール様ですか?」
正解ですかと尋ねるように首を傾げて言う。すると、私の答えに 男の人が満足げに頷く。
じゃあ、この人がレグール様本人なんだ。ロアンヌは改めて レグール様に目を向ける。噂で色々聞いていたから、もっと豪胆な人かと思っていたけど 印象が違う。
私の目の前に居るレグール様からは、 大人の男の人の余裕が感じられる。
でもどうして、今日に限ってあったんだろう?
レグール様は、この山の北側を所有している スペンサー伯爵の後継者。
同じ山を所有しているんだから、会うのはそんな不思議なことではないが・・。
レグール様も愛馬も今日まで見かけた事が無かった。だから、自分に舞い込んだ幸運が不思議だった。
・・・そうか!
ここは 愛馬の散歩コースなんだ。
それで、たまたまタイミングがあったんだ。だったら、また会えるかもしれない。後でそれとなく聞いてみよう。
そして、あの馬が名高い『嵐』なんだ。おとなしく草を食んでいる嵐に
目を注ぐ。レグール様と共に いくつもの戦場を駆け回っていた聞く。
私の視線に気づいたらレグール様が、口笛を吹いて嵐を呼ぶ。すると、パカパカとのんびりとした足取りで、こちらへやって来た。
嵐と言う名前や、戦馬だったから、もっと気性が荒いのかと思っていたが、本人おとなしい性格らしい。
「紹介しよう。愛馬の『嵐』だ」
「初めまして」
ロアンヌは嵐の鼻先に手を出す。
すると嵐が私の匂いを嗅いだあと、頭を摺り寄せてきた。こんなに大きいのに子馬のように甘えてくる。
その意外な愛らしさに笑みが零れる。どうやら気に入られたようだ。昔から動物と相性がいい。
ロアンヌは嵐の人懐っこい仕草に、鼻を撫でてあげるとレグール様が驚いたように聞いてくる。
「怖くないのか?」
確かに嵐は普通の馬より体が ふた回りは大きく、色も真っ黒で一見すると怖い感じがするが、よく調教されているか どうかは見分けがつく。
「平気です。それに嵐は有名な馬ですか。 一度、会ってみたいと思ってたんです」
そして、心の中で『あなた』にもと付け加える。
すると、レグール様が 警戒したように私を見る。
「何だか ・・私の事も色々知ってそうだな?」
もちろん知っていると 軽く頷く。
レグール様の逸話は 良い話も悪い話も沢山ある。レグール様が聞いてきたので、ロアンヌは どれだけ知っているか 証明するように、メイドや友達が聞かせてくれた 噂話を立て板に水のごとく羅列した。
「ええ、 たった一騎で敵を全滅させたとか。大酒飲みで一晩で酒樽を空にしたとか」
「うっ」
ロアンヌは喋りながら 、どうして緊張もせずに初対面の男の人と こうも打ち解けられるのか不思議だった。
だから、頭の隅で、これは妄想ではないかと疑っている自分がいる。
だって、妄想なら 何でも自分の思い通りになる。
「ギャンブル好きで、着ていた服まで賭けた末に全裸で家に帰ってきた 。それと、女ったらしで視線で子供を孕ませる事が出来るとか。後は・・」
私が言えば言うほどレグール様の顔がみるみる曇りだす。
「分かった。分かった。もういい。いったいどこかの情報だ」
とうとう降参だと言うように 両手を挙げて止めさせた。 レグール様も自分のことを色々聞かされるのは嫌らしい。 困っているレグール様の姿に、親近感がわく。
「情報源はメイド達です」
「それで、本人に会ってどうだ? 噂通りの人間か?」
レグール様が面白がって訊ねてくる。 私だって、子供じゃない。 噂がすべて本当だと、鵜呑みにしたりしない。
こうして会話をしていれば 、危険な魅力はあるがモラルを守る人だろうと思う。それに口から出る言葉からは嘘も飾りもないと直感的に感じた。
「半分当たってて、残りを外れているよな・・」
「なんだ。煮え切らないな。私は、 どんな人間だと思う?」
そんなこと言われても、どちらかに決めるほどレグール様のことを知らない。それでも、そんな風に言われては 、きちんと答えたい。 そう思って考え込んでいると、 レグール様が 楽しそうに私を見ていた。 その目が 水面に反射する日差しのように、キラキラして見える。
「う~ん。大人の男の人です。でも、皆が言うほど悪い人じゃないと思います」
「どうして、そう言いきれ
るんだ」
そう聞かれると答えに詰る。これは私の一瞬の勘のようなものだ。どう返事をしようかと考えていると、またレグール様の瞳がキラキラする。
それを見て思わず口をついて出てしまった。
「瞳が 輝いてるから」
「はっはっはっ。『瞳が 輝いてる』
など子供の頃に言われ
たきりだな」
レグール様が豪快に笑ったかと思うと、急に黙って私を 観察するような視線に変わる。
「・・・」
「・・・」
急に訪れた沈黙と 重なって居心地が悪い。何か話しかけないと・・ そうだ。
「今日は嵐と散歩ですか?」
もしそうなら、こっそり覗きに来よう。目の保養になる。
「いいや、違う」
「 違う?」
じゃあ、偶然会ったと言うこと?
もしそうなら、運命の出会いだったりして・・。 そんな想像して楽しんでいたが、それ以上のことが起こった。
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「わっ、私ですか?」
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