私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰

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極めるには何事も努力が必要

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ディーンは ロアンヌ様をレグール様から奪い返す手伝いをしろと、クリスに言われて相談に乗っていた。 
しかし、目の前のクリスを見て内心ため息をつく。

見た目もそうだが、仕草も 得意なことも女らしい。
男らしいところといえば 、言葉遣い( 怒った時)と、真っ平らな胸板(服の上から分からない)。
しかしそのどちらも、ロアンヌ様の前では 猫をかぶっているから、絶対見せない。昔、ロアンヌ様が 乱暴な男の子が嫌いだと言っていたと言って、忠実にイメージを守っている。

どうしてクリスは、ロアンヌ様に異性として見られていないことを認めないんだろう。よく考えれば分かりそうなものなのに。年頃の若い男女が二人きりで部屋にいたり、森へ出かけたりするのを 伯爵様が何も言わないのは、クリスが対象外だと言っているようなものなのに。
本人にそう指摘しても信頼だと言いそうだが・・・。

多分、外見より中身で訴えかけた方が ロアンヌ様の気持ちを変えられる。
まずは、クリスに説明だな。
「その細い体は青年と言うより、少年だろ。背だってロアンヌ様と変わらないし」
「くっ」
食べかけのクッキーを落として、痛いところを突かれたとクリスが胸を押さえる。ロアンヌ様に男として意識して
もらうためには 自分を知ることが、その第一歩だ。
「やっぱり妹………弟ポジションなんだよ」
「 ……… 」
俺の意見にクリスが反論もせず俯いて
いる。 これでやっと、自分の言いたいことが伝わったと安心した。

男らしさでのアピールは無理だと、ここでトドメの一言を言っておくか。
「そうでなかったらロアンヌ様が 、他の男のプロポーズを受けたりしないだろう」
「……… 」
「だから、自分の得意、不得意を理解して」
 (あれ? )
クリスがブツブツ言う声がする。 
何を言ってるんだ? 分からない行動に眉をひそめる。

するといきなり テーブルを乗り越えてクリスが 顔を近づけてきた。
「どうやったら、背を高く出来るんだ? 」
「えっ、クリス? 」
「男らしいと言えば……髭か? 髭を生やせばいいのか? 」
「いや、だから」
これは変なスイッチ押してしまったか? どうして人の話を最後まで聞かないんだ。 諭そうと声をかけたら 手を突き出して遮られた。

「待て待て、ここは自力で考える」
そう言うとポスッと腕組みして椅子に座る。 一人で盛り上がってるクリスに 趣旨が違うと言いたいが、 聞いてもらえそうにない、
 悩んでるクリスを見てディーンは、 この後の展開を想像する。面倒くさいことになりそうだと、ため息をつく。 クリスに勝算があるとは思えない。
精神的にでも 自立してれば何とかなっただろうが、ロアンヌ様に守らるのが日常になった今では、どうすることも出来ない。今になって男として見てほしいなどと言うのは虫のいい話だ。

クリスは自分がロアンヌ様に愛されていると信じきっている。だかその愛が、 男としてではなく。家族の愛のようなものだと気付いていない 。
そして俺も、クリスのことを本当の弟のように思っている。
手がかかって、ヘタレで 、泣いてばかりいる。ダメなやつだ。

だけど 、手伝ってやれば喜び、応援すればチャレンジして、慰めれば笑う。可愛いやつでもある。

なにより、ロアンヌ様に対する気持ちは本物だ。本人がその気なら、協力しないわけにはいかない 。意気揚々と計画を練っているクリスはキラキラと輝いていて、悪戯を思いついた子供のようだ。こうなるともう手遅れだ。 
これも腐れ縁なのか、付き合うしかない 。クリスの思いつきを計画にするんだ、時間がかかる。エネルギー補給しようと、残ったクッキーお皿ごと口に運ぶ。

**極めるには何事も努力が必要**

ロアンヌは姿見の前に立たされると、 アンに何の断りもなく今着ているものをむしり取られた。
まさしくその言葉通り、声もかけないし、優しくもなく 勢いよく一気に脱がされた。下着も脱がされるかもと 反射的に胸を隠す。そんな私に向かって アンがドレスを手渡した。 これきろと言うことなのね。

これで何着目だろう。 ただの着替えなのに息が上がる。 試着がまさかこんなに体力を使うと思わなかった。 
もう20着は 試したはずだと、 ロアンヌは床に積んであるドレスを見た。右側の山は似合う。左側の山は似合わない。今脱いだばかりのドレスが左側の山に積まれた。
何を基準に決めているのか謎だ。 

それにしても、ドレスにこんなに種類があるなんて……。
生地も色とりどり。この中から一番自分に似合う色とデザインを探さないといけないらしい。ピンク色と一口に言っても ベビーピンクもあれば、ショッキングピンクもある。どう違うの分からないが、ピンク色と ローズ色は違うらしい 。

クリスのブラウスばかり注文してたから、こうして女の子らしい色や衣装を見ると知らないことの方が多い。
今まで自分がいかに、 女の子を怠けていたのかと、はっきりと自覚した。
「次は、こちらになります」
 新しく渡されたドレスを見て眉間に皺を寄せる。
この形この色。前に着た記憶がある。
「このドレス、さっき試着したわ」
そう言って突き返すと、突き返された。
「 いいえ。違います」
「・・・」
どこが?確かにさっき着た。
アンの間違いを正そうとドレスの山に向かって歩き出す。
( 口で言っても分からないなら、百聞は一見しかず)

しかし、途中で腕を掴まれて引き戻される。
「こちらのドレスは胸元のレースが2枚です。先ほどのは3枚でごさいます」
「えっ? ……そっ、 そんな些細な違いなのに試着しないといけないの? 」
アンの理由に愕然とする。
 レースの枚数が1枚違うだけで、似合う似合わないがあるの?
あり得ないと首を横に振る。そんなことを気にしてドレスを注文する人はいない。
「勿論でごさいす。その些細なことが、積み重なって大きな違いになるのですから」
「………」
当たり前だという顔で言われたら、 ロアンヌは頷くしかない。
アンには確信があるのだろうが、おしゃれ初心者の私には難しすぎて理解できない。 

ロアンヌはペチコート姿のまま、手にしているドレスをしげしげと見ながら
さっきのドレスを思い出す。 
確かにレースの枚数が違う。 でも、印象としてはそんなに変わらないと思うけど……。ドレスを見ているとアンが咳払いする。
「コホン。 少々説明した方が理解しやすいですね」
「………」
「そうでございますね……三段のレースが均等の間隔でついているスカートと、 裾の方に三段 間隔を空けずに付いてるスカートを思い浮かべてくださいませ」

ロアンヌは言われた通り、2枚のスカートを頭の中で想像する。
「最初のスカートは子供らしい印象を与えます。では、もう一方のスカートはどう感じられますか?」
「大人っぽい印象だわ」
「そちらでごさいます。同じく三段のレースをつけても、場所や間隔、色に素材で印象が変化 いたします」
「なるほど……」
言われてみれば、その通りだ。 
昔、お母様がクリスとお揃いのドレスを仕立ててくださった事があっが、 全く同じではなかった。それぞれ着る人間に合わせて デザインを変えていたのだ。あの時は全く気付かなかった。

「こう申し上げては何でございますが、 似合うドレスは年齢で定まります。ですから、無理に背伸びをされる必要はございません。 現在のご自分に似合うドレスをお召しになるのが一番です」
「………」
「お洒落で1番重要なのは、デザインでも、 まして値段や貴重性でもごさいません」
「では、何が大事なの?」
きっと今の私に足りないものだ。
ロアンヌは固唾を呑んで、アンの答えを待つ。

「似合うか、似合わないかでございます」
あまりにも、当たり前の答えに肩の力が抜ける。
でも人は、どうしても自分の魅力を上げるためにドレスの力を 求めがちだ。 やれ、高級レースだとか、やれ、有名デザイナーに頼んだとか。

私に家庭教師のようにお洒落を教えるアンは、侍女ではなく、師 なのかもしれない。
改めてお洒落の道は 険しく深いと実感した。簡単には攻略できそうにない。だからこそ挑戦しがいがある。

そう思ってやる気満々だったのに、 わずか2時間で根を上げそうになった。

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